オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
敵を片端から薙ぎ払いつつ、ビルとランスがバイクを疾走させる。所々巨大な穴で抉られている道路も、ホバーバイクの前には意味をなさない。
時速は八十キロを超えていた。
だが、カワセは悠々とビルに着いてくる。むしろ、時々速度を調整しているのがうかがえた。
地面にゴム紐を投げ、その伸縮力を使って加速しているらしい。
勿論、生半可な身体能力で出来ることでは無い。
まもなく、ハイウェイの入り口が見えてきた。辺りは敵が群衆のようにひしめき、四方八方上下左右から現れては銃撃してくる。崩れたビルからも、マンホールからも這いだしてくるエイリアンの群れ。無数の射撃線が、自身とランス、それにカワセに集中しているのをビルは感じる。そして、細かくホバーバイクを起動させることにより射撃を交わしつつ、即応の反撃で敵を仕留めていく。
膨大な弾丸が、ばらまかれる。ランスが弾倉を変えている間はビルが、ビルが弾倉を変えているときはランスがフォローに入る。二人が射撃に手一杯になったときは、カワセが躍り出て、敵中に突っ込み、片っ端から敵を千切っては投げ千切っては投げた。あのゴム紐の速度と遠心力は侮れない。本人の身体能力もたいしたものだが、それ以上にその展開能力が凄まじい。
何本も持っているようだが、多分フィールド探索者が大勢いた時代のものだし、何かしらの特殊素材で作られているのかも知れない。現在でも、あんな強力なゴムは開発されていない。
四方八方に突撃銃を乱射しながら、ビルが叫ぶ。
「見えてきたぞ、地獄の入り口だ!」
「ヒャッホー!」
雄叫びを上げたランスが、目の前に出てきた敵装甲車に、グレネードを叩き込む。更にビルが徹甲弾を乱射して、瞬く間に装甲車が吹き飛んだ。炎を突っ切り、進む。炎を纏ったまま敵を貫くビルをみて、流石にカワセが呆れたようだった。
カワセは、多分デリケートな調整を必要とするからだろう。大きく炎を飛び越えて一度減速したが、すぐに追いついてきた。
「不死身ですか、貴方たち」
「よく言われる」
「何しろ俺たちは、魂斗羅だからな!」
魂斗羅。
軍特殊部隊の中でも、先天的なゲリラ戦の才能と、熱き戦士の魂を持つ者にだけ許される、名誉の称号だ。
歴史が長い地球駐屯軍海兵隊の中でも、今までこの称号を許された者は十人程度しかいない。しかも同時代に二人が現役というのは、前例が無い。実際、二人は給与だけなら名誉将官に匹敵するほど貰っているのだ。
もっとも、給与の使い道は、ほぼ決まってしまっているのだが。
ジョーが追いついてきた。
ヘリからチェーンガンの猛射が行われ、ハイウェイ上にいた敵戦力が薙ぎ払われる。其処へ、無言でビルは突っ込んだ。
蹴散らし、踏みにじり、叩き潰す。
勿論、敵も黙ってはいない。
何重にも何重にも防御陣を積み重ね、此方の姿が見えるやいなや猛射を浴びせてくる。射撃の精度は高く、何度もホバーバイクや肌をかすめた。ホバーバイクの部品がすっ飛び、至近の地面が次々吹き飛ぶ。肌をかすめても、メディカルスプレーでナノマシンを活性化させている暇も無い。
視界を埋め尽くすほどの弾丸が、常時迫ってくる。
だが、次の瞬間には、敵は吹き飛んでいる。
反応速度がナノマシンのおかげで、ロボットやサイボーグ以上になっているから出来る芸当だ。元々超一流の戦士であるビルとランスは、ナノマシンの強化によって超人と化しているのだ。色々と代償も多いが、今の時点ではこの能力こそ、地球を救う切り札となる。
全身は既に血まみれだ。少し後ろで機動支援をしているカワセも、かなり傷を受け始めている。
だが、此処で引くわけにはいかない。
後方では、味方の残存勢力が突破作戦の支援をしてくれている。軌道衛星上の戦力や、宇宙艦隊がどうして駆けつけてこないのかは分からない。エイリアン、レッドファルコンの大規模な攻撃を受けているのかも知れない。
だから、今は。
己の戦闘本能と魂にて、敵を屠るのだ。
敵が、分厚いバリケードを作っているのが見えた。
ヘリから、小型のミサイルが撃ち込まれる。装甲ヘリも、応射を結構浴びているのだが、それでも致命打はいずれも外している。
ジョーという男、流石にたいした操縦技術だ。時々オートで操縦を任せて、自身もヘリのドアから顔を出しては射撃を行っているようだ。
バリケードが、小型ミサイルの直撃で吹っ飛んだ。その間に、強引にホバーバイクを乗り込ませると、左右から殺到してくる敵を掃射で薙ぎ払う。十三個目の弾倉を放り捨てた瞬間、真上から三メートルはありそうなエイリアンが躍りかかってきた。
対応が、間に合わない。
だが、そのエイリアンの体に、ゴム紐が巻き付く。
そして、左に大きく引っ張られた。カワセがハイウェイから身を躍らせ、軌道をずらしたのだ。
「おおらああっ!」
ランスが対応、猛射を浴びせた。弾倉を変えたビルも、ホバーバイクを走らせながら、エイリアンを真下から蜂の巣にする。
吹っ飛んだ巨体。
酸の体液が雨のように降り注ぎ、辺りを穴だらけにした。ビルも少し浴びてしまった。全身がしびれるように痛い。
「ランス! 生きてるか!」
「相棒、俺は無事だっ! へへ、だがそろそろきついな!」
「今ルシアをみたが、既にそれぞれ千を超える敵を潰している! 敵も必死になるくらい、打撃がでかいって事だ! このまま突破……」
轟音が、空から響いてくる。
何か、とんでもなくでかい奴が降りてきた。
宇宙艦隊の巡洋艦かと思ったが、どうやら違うらしい。形状は似ているが、長細く、外壁には生体部品が散見される。あれは、流石に危険だ。
無言でホバーバイクを起動し、最大まで加速。正面に廻ると、多分一瞬で蜂の巣にされる。
かといって、巡洋艦は大気圏内でも相当に小回りがきく。さて、どうしたものか。
カワセが追いついてきた。
「ビルさん、ランスさん」
「何だ」
「あの戦艦は、僕が潰します。 先に行ってください」
カワセが、返事を待たず、ハイウェイの端にルアーを投げた。
そしてハイウェイから身を躍らせる。落下のスピードと遠心力で、回転するようにして加速し、一気に敵艦へと身を躍らせた。
敵の宇宙戦艦みたいのが、無数のミサイルを放ってくる。
ビルが下から射撃して、幾らかを迎撃しているのが見えた。川背は自身もルアーを投擲し、一つを中途で爆砕、もう一つは至近に来たところでかわし、蹴って更に加速する踏み台にした。
爆発。
破片が、何カ所から体をかすめた。
既に、かなりの傷が全身を覆っている。致命打は無いが、かなり痛い。
川背の高速機動戦スタイルは、とにかくデリケートな調整を必要とする。痛みは、大敵だ。
だが、今はやらなければならない。
最初に転移したエイリアンの基地で、川背はジョーと一緒にみた。
エイリアンが、多くのとらえた人間に、自分たちの卵を植え付けるおぞましい光景を。それにより、人間は物言わぬ戦闘生物兵器に改造されてしまうのだ。そうされなかった人間も、エイリアンの餌にされてしまうようだった。
基地で大暴れして、逃がせるだけの人間は逃がした。進んだ技術についてもある程度はみて覚えたし、ジョーも敵の優秀な武具を入手できて満足そうだった。爆撃機も奪いたかったのだが、自爆されてしまい、脱出が精一杯だった。
だが、それではっきり分かったことがある。
この時代に、フィールド探索者はいない。理由はよく分からないが、とにかく存在していないのだ。
そればかりか、エイリアンに対する抵抗勢力さえいないことも覚悟していた。戦ってみて分かったが、エイリアンは軍に対してはそれなりに威力を発揮できそうだが、フィールド探索者なら十分に対応できる実力である。勿論数の暴力には対応に工夫が必要とされるだろうが。
だから、ビルとランスに出会えたときは嬉しかった。
あの二人の戦闘力は、上位のフィールド探索者並みだ。これで、過去への干渉を食い止められる可能性も高い。
未来に向かうとき、魔術師ワドナーには言われたものだ。
未来の物品を、過去に持ち帰ることは出来ないと。
だが、記憶は持ち帰ることが出来る。27世紀にエイリアンが地球に攻め込んでくることや、どうしてかフィールド探索者がいないこと。どちらも、持ち帰らなければならない情報だ。
だからこそに。
勝たなければならない。ある程度時間が経つと、強制的に戻される仕組みになっているらしい。中途で投げ出すわけにはいかない。もう一度この世界に来ることは出来ないらしいので、絶対に中途では終わらせない。少なくとも、このエイリアンの部隊は、必ず壊滅させる。
敵戦艦と、同じ高度まで到達。飛来するミサイルにルアーを引っかけ、至近まで接近してから、蹴って方向転換。他のミサイルを何度か蹴って、ジグザグに跳ぶ。時々ルアーも活用し、敵の対空砲火を避ける。まさか人間が生身で跳んでくることなど想定していなかったのだろう。対空砲火は動きが鈍く、充分に回避が可能だった。敵戦艦に着地。バリアの類は張っていないようだ。
凄い風だ。川背の身体能力で無ければ、はじき落とされていただろう。
砲塔がせり出してきたので、リュックを外す。
そして走りながら、リュックを外壁に擦らせた。空間転送。川背が持っている能力の一つ。それによって、外壁の強度を関係なくむしり取る。抉られた外壁が、悲鳴を上げるような音を立てながら砕け、ばらまかれていく。
後方で爆発。
砲塔の上を駆け抜けながら、リュックで削り取った。爆発。二度、三度と連鎖する。条件が色々と必要になる能力なのだが、どうもこの戦艦には生体部品が多く使われているらしく、能力発動には何ら問題が無い。
たまりかねたか、敵がハッチを開けて出てくる。思うつぼだ。
ルアーを飛ばして、先頭の兵士の頭に引っかけつつ、跳ぶ。
敵が上を見たときには、川背の靴底が、敵をまとめて戦艦の中に押し込んでいた。
内部はかなり狭いが、それでも機動戦を仕掛けるだけの広さはある。前後左右から、敵が殺到してくる。
まずは、コクピットか、それが無ければエンジンを探す。
冗談抜きに川背が敵の巡洋艦に乗り込んだのをみて、ビルは口笛を吹いた。
火力は貧弱だが、やる。これはこっちも負けてはいられない。しかも、巡洋艦の上で大暴れしているようで、爆発が連鎖しているのが見えた。
「やるなあ! 流石先輩だぜ! マニュアルに載ってるだけのことはあるな!」
「援護するぞ」
エアーバイクに跨がったまま、何度か銃のポンプ部分をスライドさせて、機能を変える。
27世紀現在の銃は、ナノマシンによる構造変更技術を取り入れており、弾種を入れ替えるだけでは無く、即座に形状そのものを変える。ただし、それでも十数秒は隙が出来るから、その間はランスに補助して貰う。
後ろからも、敵が追いすがってくる。前はバリケードだらけだ。
そして、巡洋艦が、徐々に高度を下げてくる。艦の腹が開き、無数のエイリアンが奇声を上げながら飛び降りてきた。
艦の横腹から火を噴いているというのに、元気なことである。
勿論、派手に迎え撃ってやるだけだ。
迫撃砲弾をランスが放ち、中途で撃墜する。ばらばらと落ちてくる肉塊。それに混じり、無事だったエイリアンが、次々と飛びかかってきた。
不意に、視界の隅にジョーの乗るヘリが来る。ヘリは横滑りに移動しながら、敵艦の横っ腹にミサイルを連続して叩き込んだ。爆発が続けて巻き起こり、艦が傾く。
なるほど、爆発が起きている位置からカワセの居場所を予想しての支援砲撃か。
ジョーがいた時代、彼は決して最強の存在では無かったという。むしろ単純な戦闘力では、低い部類に入ったそうだ。
だから、あのような支援中心の戦術で動き回り、それを達人の域までに高めたというわけだ。
心強い。
ぼろぼろのハイウェイに着地した無数の人型、或いはそうでは無いエイリアン達。人間のように見えても顔が崩れてしまっていたり、腕に銃が装着されていたり。或いはムカデのようであったり、蟻地獄のような姿をしていたり。
止まると瞬時に蜂の巣だ。
だから、動き回りつつ、掃射で周囲を薙ぎ払う。耐久力が高い敵が増えてきているが、ランスだけに任せる。
威力を最大限にまで上げた銃器を、空に向ける。ホバーバイクの舵を取り、時々敵を体当たりで踏みにじりながら、それでも狙いを定める。
チャージ終了。
射撃。体が沈み込む。凄まじい衝撃に、一瞬ホバーバイクが着地し、強烈な擦過音を上げた。
荷電粒子砲である。最小限でも、1.7メートルほどのサイズになり、かなり禍々しい外見になる上、扱いが難しい。下手な力の入れ方をすると、発射時に折れてしまうほどだ。その上、狙いを定めるのにも、かなりの熟練がいる。
だが、ビルはそれをやりきった。
第二波を射出しようとしていた格納庫の扉を、荷電粒子砲の閃光が一文字に貫く。
艦の上下に閃光が走り抜け、炎が吹き出した。
カワセは艦首の方で大暴れしているらしく、また一つ爆炎が上がる。
やったぜと呟いた瞬間、至近に巨体が伸び上がるのが見えた。四メートルはありそうな、巨大エイリアンだ。ホッケーのマスクのようなものをかぶり、全身に棘のような鎧を纏っている。
回避が間に合わない。
豪腕に、バイクごとビルは吹き飛ばされていた。
ヘリにも、何発か被弾している。だが、ジョーは気にせず、一気に機首を下に向けた。
見えたからだ。ビルが機動中に敵の攻撃を貰った。吹き飛んだビルはハイウェイにたたきつけられ、巨大なエイリアンがとどめを刺そうと歩み寄っていく。
その巨体をかすめるようにして、機首を敵に向けたまま、チェーンガンの猛射を浴びせ、横滑りに逃れる。
上半身に百発以上の弾丸を喰らったエイリアンは、それでも原形を残していた。
体中から鮮血を吹き上げながらも、なおも怒りの雄叫びを上げる。奴の視線が、ヘリに向いた瞬間、その頭を、後ろからビルの砲撃が貫いていた。炸裂弾だったらしく、頭が吹っ飛び、粉々になる。
今の状態で、冷静に銃をライフルに切り替えたらしい。
バイクを引き起こすビルの側にランスが寄り、回転しながら周囲の敵を掃討。頭から血を流しながらも、ビルは流石にナノマシンの機能を活性化させるらしいスプレーを体に掛けていた。通信機を使って、声を掛ける。最初に、無事を知らせる連絡があった。
「ありがとうよ、戦友!」
「見事だ。 だが、ハイウェイの先を見ろ」
敵の大軍勢に守られたその先には。
まるで、小山のような巨体が立ちはだかっていた。
冗談のような大きさだ。千メートルくらいはあるのではないかと思わされる。まるでアニメに出てくる巨大ロボットだ。そのまがまがしさは、言語を絶する。人型であるのに人型では無く、細部は違うと分かるのに、全体では人間に近い形だと分かる。
節くれた機械の巨大な腕。足は無数にあり、どれもが大地を踏みしめて、巨体を誇示するかのように立ち尽くしている。
全身から生えている棒状のものは、それ全てが大砲だろう。
ランスが舌打ちするのが、通信越しに分かった。
「クソッタレ、なんだありゃあ!」
「おまえ達、一体どれだけあのエイリアンに恨みを買っている」
「どういうことだ」
「今までの戦闘で、俺や川背に対しては、どうしても敵の警戒が緩い。 多分エイリアンどもは、おまえ達だけにターゲットを絞っている。 あの戦艦も、おまえ達を殺すためだけに建造したのでは無いのか」
空を舞う戦艦が、徐々に高度を上げようとしている。此方の攻撃から逃れるためだと一目で分かる。コックピッド付近で爆発。かなり大きい。あれは、やったか。
ビルが、バイクに跨がるのが分かった。
「敵を掃討しつつ、少し下がる」
「くそっ、俺たちが下がるのか!」
「そうじゃあない。 ジョー、俺たちを拾ってくれ。 考えがある」
「承知した。 あの戦艦が落ちると同時に、作戦開始だ」
川背ならやってくれるだろう。
もう一つ、戦艦の艦首部分で、爆発が起こった。
戦艦の内部は、まるで生物の体内だった。
機械的な通路もあるのだが、殆どが有機的な物質で作られており、壁も床も粘液が滴っている。彼方此方にエイリアンの卵らしいものが植え付けてあり、近づくだけでサソリのようだったり海老のようだったりするおぞましい生物が姿を見せる。
だが、川背は不思議な違和感を感じていた。
さっき、ビルとランスと一緒に、ハイウェイで高速機動戦をやっていたときに比べて、どうも敵の動きが鈍いのである。此方をみて、まず何かを確認してから、攻撃してきている雰囲気なのである。
常人なら、それでもどうにか出来るだろう。
だが、川背は先輩といろいろなところで経験を積み、邪神とさえ交戦した。一瞬の隙が、勝敗の帰趨を分ける。相手が戦闘態勢を整える前に跳び、遠心力を味方につけて首をへし折り、背骨を砕き、顔面を打ち抜く。
時々、重要そうな機械は、皆リュックをかぶせ、空間転送で切り取って破壊した。機械を破壊するのに、体液らしいものが吹き出すのはちょっと嫌だったが。
エンジンは複数あるらしい。走っていて、前後にかなり長い印象を受けた。総合的にはスペースシャトルのような流線型なのだが、姿勢制御のための安定噴射が、複数箇所、かなり離れたところから発生しているのだ。それからも、エンジンは複数と結論できる。一つずつ潰していても、埒があかないだろう。
川背は機体の微妙な動きを感じ取れる。ルアー付きゴム紐での機動戦をやっていると、どうしても超微細な調整が必要になってくるからだ。
故に、途中でエンジンの破壊は諦めた。やるべきは頭を潰すことだと考え直し、今機首に向かっているのである。
敵の抵抗は激しい。前方に武装兵出現。激しい銃撃を浴びせてくる。ジグザグに走った後、跳躍。壁を蹴って天井に躍り上がり、更に天井を蹴って敵に迫る。
射撃線が追いついてこない中、最初の一人の顔面にドロップキック。
更に着地と同時に奥の壁を蹴って反転し、振り向いた相手に踵落とし。続けて、着地する前にもう一人の首を後ろ回し蹴りでへし折った。
着地と同時に、三人の敵武装兵が倒れる。
通路が狭いからか、大きいのは出てこない。虫っぽいのもかなりいるが、それらも出来るだけ速攻で潰すようにしながら、川背は進んでいた。
やはり、違和感が大きくなっていく。はっきり言って、敵の戦力の割にはもろすぎるのだ。
ハイウェイでの戦いでも、二人に妙に攻撃が集中していたような気がする。エイリアンに恨みを買っているという可能性も考えたが、どうも違うような気がしてならないのである。
そもそも、この怪物達は、本当にエイリアンなのだろうか。
足下に這い寄ってきていた触手を、振り向きもせず踏みつぶす。感覚は大変鋭利になってきている。この間、クレイジーランドと呼ばれるフィールドを攻略してから、川背は一皮むけた。戦士として、一段階上になっている事を自分でも感じるのだ。
だからこそに、分かる。
何かおかしな事が、この戦乱の裏にある事を。
走る。位置関係からして、そろそろコックピッドだ。途中にある機械類は、ことごとく破壊して廻った。
ドアを蹴り砕いて、中に。
広々としたコックピッドは、無人に見えた。或いはこの規模の船だと、艦橋とでも言うのかも知れない。
歩きながら、みて回る。
オペレーターが張り付いていそうなモニタが、多数並んでいる。ただし、席は空だ。最前列にあるのは、指揮シートだろうか。
辺りの機器類を破壊しながら、前に。高度が上がってきているのが分かる。脱出を難しくするつもりだろうが、そうはさせない。
メインシートを壊そうと、リュックを持ち上げようとした瞬間。あるものを、川背は見つけていた。
床に落ちていたそれを拾い上げて、納得する。
なるほど、そういうことだったのか。
全てのピースが、頭の中で合わさった。
いつも組むことが多い先輩は、頭脳労働はあまり得意としない。その精神の強さで支えになってくれるし、いざというときの勝負強さが本当に頼もしい。その一方で、何か考えなければならないときは、川背がどうにかしなければならない。
必然的に、論理的思考が身についていた。だから、結論に到達できたとも言える。
無言でリュックを指揮シート、メインシートと続けてたたきつける。更に、中枢を担っているらしい大型のコンソールも、そのまま破壊した。
一気に制御が消し飛んだのが分かる。
エンジンが動きを止め、戦艦が落ち始めていた。
窓を蹴り割って外に出ると、川背は暴風に髪と服をはためかせながら、ジョーに連絡する。かなりの手傷は負ったが、まだまだ動ける。この程度、邪神ダゴンとの戦いに比べれば、なんと言うことも無い。
「ミッションオーバー。 脱出します。 適当な所を飛んで貰えますか? 高度は百メートルくらいで」
「了解した」
拾ったそれをポケットに入れると、川背は落下しはじめる戦艦の外に出る。
そして、ジョーのヘリの位置を確認すると、何らためらいなく飛び降りた。
まず、ヘリに衝撃が来た。
川背が飛び降りた直後である。ルアーが掛かって、川背の体重が一気にのしかかったのだと、ジョーは分かった。落下しながら、ヘリのレッグ部分にルアーを正確に投擲し、引っかけたのくらいは、川背の実力から言えば朝飯前という所だ。
川背は下でゴム紐にぶら下がったまま、左右に揺れて、遠心力を殺している。
そして、ある程度揺れが納まったところで、ゴムを縮めて上がってきた。戦艦が、落ちていく。炎を吹き上げながら、敵陣の真ん中へ。
敵は、逃げようともせず、団子になったままだった。
それをみて、ジョーは違和感を確信に変えていた。
爆発。
キノコ雲が上がる。
戦艦が落ちた辺りは、クレーターになっている。勿論その周辺の敵は全滅だ。だが、爆発の後ろには、あの超巨大ロボットが無傷のまま控えている。
ヘリの横扉から、川背が這い上がってきた。かなり手傷を負っているが、まだいけそうだ。すすまみれの顔を、川背がごしごしと手の甲でこする。
「ただいま戻りました」
「お疲れ!」
「ヒュー! やるじゃねえか!」
「痛いです、ランスさん」
ビルとランスが川背を出迎えている。特にランスは、その大きな手で、川背の頭をぐりぐりとやっていた。ちょっとなれなれしいが、彼らしい親愛表現なのだろう。川背も苦笑いで返していた。
勝利のささやかな宴が終わると、川背は真面目な顔になり、何かを見せてくる。
「ジョーさん、これ、中で見つけました」
「やはりな」
一旦敵と距離を取りながら、横目で川背が差し出したものをみる。なるほど、川背は流石だ。しっかりジョーが予想していたものを見つけてきた。
この娘は、あの絶対生還者と良く組んでいるせいか、頭脳労働が最近特に冴えてきている。火力や防備には微妙な点があるが、機動戦の巧みさと良い、将来は補佐としてはフィールド探索者の中でも最高の人材になるかも知れない。
「なんだこれ」
「……」
ランスは不思議そうにしていたが、ビルは一目でその違和感に気づいたようだった。
無線に通信。地上部隊からだ。
「支援の師団が来ました。 しかし、あの巨大な敵人型兵器をみて、接近には二の足を踏んでいます。 周辺の敵掃討には問題が無いようですが」
「ジョー、代われ」
「……」
無言で、無線機を差し出す。
元々大男が三人も乗り込んでかなりせまっくるしいヘリの中が、更にぎゅうぎゅう詰めになる。
「ビルだ。 ミサイル戦闘車両は」
「かなり損害を受けていますが、ミサイルの発射機構そのものは無事です。 ミサイルの残量は、二両合わせて百五十」
「同時に発射できる数は」
「六十と言うところです」
ビルが、ハンドヘルドコンピューターを操作して、何度か頷く。
行けるかと、巨漢は呟いていた。
「今から、マーカーをあのデカブツに叩き込む。 奴の弱点になる場所だ。 合計で六十カ所」
「まさか」
「そのまさかだ。 データリンクして、ミサイルを斉射しろ。 六十発同時に叩き込めば、あのデカブツだろうとひとたまりも無いはずだ」
無茶苦茶なと、川背が呟いた。
だがヘリで支援戦をやりながら、ジョーはこの二人の実力をしっかり見極めた。ナノマシンか何かで身体能力を強化しているようだが、いずれにしても凄まじい。
この二人なら、やれる。
「ジョー、奴の二キロ手前までいけるか」
「あの装備からすると、対空砲火が凄まじい。 同じ箇所には滞空できないぞ。 それにヘリ自身も打撃が大きい。 効率よく廻って、もって十分だ」
「百も承知だし、それだけで充分だ。 ランス、迎撃砲火、頼むぞ」
「応っ!」
ランスが銃をスライドさせ、形状を変える。精密狙撃用のスナイパーライフルらしい。ヘリの左側のドアから、半身を乗り出す。
一方ビルは同じくスナイパーライフルに切り替えると、先に川背を外に出した。
「カワセ、あんたを見込んでもう一働き頼めるか」
「僕に出来ることなら」
「よし、ならばヘリが落とされないように、敵の注意を引きつけて欲しい。 無茶な任務だってのは分かってるが」
「何とかしましょう」
即答すると、川背はヘリから飛び降りる。高さはまだ百メートルくらいはあるが、ハイウェイの残骸を利用して、上手に着地したようだ。そして、敵の残存勢力に向けて、猛然と走り出す。
その後ろ姿を見届けると、ビルは吠えた。
「殺るぞランス! ショータイムだ!」
「おおおっ! 殺ってやろうぜえええええっ!」
ランスがそれに併せて、雄叫びを上げた。
ジョーは無言のまま、操縦桿を倒す。
巨大な敵兵器が、見る間に間近に迫ってきた。