オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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4、見えてくる現実

 

走る。川背は、滅茶苦茶に破壊されたハイウェイを疾走する。

 

たまに、敵の武装兵がいる。ルアー付きゴム紐を投擲して、敵に、或いは敵前に引っかけ、ドロップキックを浴びせる。空中で既に次の手を打ち、一瞬たりとも止まらない。敵が放つ銃の射線には、絶対に入らない。

 

無数の射線をかいくぐりながら、一人ずつ、だが最小限の速度で仕留めていく。蹴りが主体だが、大形兵器の場合はリュックを使う。相手が半生体兵器である事も手伝って、むしろ効率よく片付けることが出来た。

 

だが、それでも敵の数が数だ。さっき戦艦を落としていなかったら、とても正面突破は出来なかっただろう。

 

呼吸が乱れてきている。一発でも直撃弾を貰ったら死ぬ事も、疲弊に拍車を掛けてきている。

 

だが、あまり時間を掛けると、敵が防衛網を再構築してしまうだろう。そうなると川背よりも、ジョーが乗っているヘリが危なくなる。

 

既に、かすり傷は五十を超えている。中にはかなり深く腕を抉っているものもある。

 

激しい戦いを繰り広げている現在は、脳内物質が痛みを和らげているが、当然後からつらくなってくるだろう。

 

汗を乱暴にぬぐうと、走る。

 

周囲の町並みは完全に崩壊状態だ。所々から視線を感じるのは狙撃兵だろう。ああいうのもいるから、動きを止めるのは危険すぎる。ビルディングなどは、狙撃をするには絶好過ぎるほどの存在なのだ。

 

ヘリが、上空を通り過ぎる。

 

どうやら、作戦を開始したらしい。

 

川背も、そろそろ敵の足下が見えてくる頃だ。速度を上げて、更に加速。

 

ゴム紐の伸縮を利用して加速すると同時に、地面を蹴って更に速度を上げる。殆ど同時に、後方のハイウェイが吹っ飛んだ。

 

巨大ロボットからの砲撃だろう。

 

舌なめずりすると、川背は走る。前に、重武装の戦車が出てくるのが見えた。ジョーが行きがけの駄賃とばかりにチェーンガンを浴びせて、瞬時に爆砕。そのまま高度を上げて、飛び去っていった。

 

 

 

ビルは、ライフルの狙撃スコープをのぞき込む。

 

現在でも、1キロ離れた的に当てるスナイパーは達人と言われている。だが、今なら、ビルは二キロ先の的に百発百中させる自信があった。

 

全身の血潮が沸き立っている。

 

ビルは、時々孤独を感じることがあった。相棒のランスがいるとはいえ、魂斗羅の称号を持つと言うことは、それだけ孤高になると言うことでもある。

 

一般人とは、あまりにも卓絶した武。一人で一個師団のエイリアンを葬る戦闘技能。いずれもが、平穏な時代には、恐怖の対象となる。

 

だから、いずれは。

 

軍務から引退したら、ランスと一緒に辺境の星にでも行って、酒場でもやろうかと思っていたのだ。

 

少なくとも、このまま華やかな栄光を受け続けると言うことはあり得ない。いずれ自分たちは恐怖の的となる。

 

かといって、人間を殺して廻るのはごめん被る。

 

それが故に、圧倒的な力を持っていた過去の世界の達人達を、羨ましいと思うことはあった。周囲に理解者も多かっただろうし、社会が受け入れる仕組みを作っていたというからだ。

 

今では、ビルもランスも、本名を名乗ることさえ禁じられている。

 

だが、圧倒的な力を持つ者達が過去に実在して、話してみると普通に面白い奴だった。それだけで、ビルは何か救われた気がした。

 

いつの間にか鉄の心にも、ほころびが生じていたような気がしたのだ。だが、今は。今ならば。

 

巨大ロボットから、二キロ。

 

奴の頭部は花のように開いており、禍々しい姿を此方に向けてきている。眼下のハイウェイでは、カワセが大暴れしているらしく、時々爆発が巻き起こる。先輩に、かっこうわるいところは見せられないな。そう思いつつ、第一射。

 

さっき、ランスと一緒にヘリに乗ったとき、ルシアに解析させた敵の弱点地点にマーカー弾が命中した。

 

情報をリンクして、同時狙撃だけなら今でも出来る。

 

だが、やはりマーカー弾が敵に密着している状態だと、誤爆の確率が著しく減る。

 

敵から、無数のミサイル。ヘリを横滑りに回避させるジョー。凄まじい横風に煽られながらも、ビルは第二射を放った。命中。ランスがその横で、次々ミサイルを叩き落としている。

 

ランスは陽気で阿呆だが、この集中力は本物だ。誰もそこにいないように、淡々と迎撃のミサイルを叩き落としていく。

 

爆煙の中から躍り出るように、ヘリが敵の頭上に出る。四、五、順番に、確実に、マーカー弾を叩き込む。

 

敵が、若干腰をかがめたように見えた。

 

「掴まれ!」

 

ジョーが、全力で煙の中に逃げ込む。無数のエネルギービームとミサイル、それに砲弾の軌跡が、ヘリが一瞬前までいた空間を貫いていた。ランスがミサイルだけは撃ち落とすが、砲弾が次々炸裂し、無数の破片がヘリに降り注ぐ。

 

数発、体をかすめた。

 

フロント硝子を貫いたのもあったようだ。

 

「ジョー!」

 

「慌てるな。 戦闘続行可能!」

 

「上等っ!」

 

タイムリミットまで、もう時間がさほど無い。

 

ロボットが、巨大な腕を振り上げる。全力で横滑りに回避する。だが。その風圧だけでも、凶悪を極めていた。

 

凄まじい爆発的風圧が、回避したヘリの横を通り過ぎ、木の葉のように翻弄する。

 

一瞬ヘリのローターの回転を止め、致命傷を避けたジョー。一回転して後ろに下がったヘリを、神業的な技量でどうにか立て直すが、その鼻先にまで、ミサイルが迫っていた。わずかに、敵の動きが鈍る。

 

どうやら、カワセが敵の足下にまで到達したらしい。

 

だが、あの火力では、千メートル超と思われる巨体を崩すことは難しい。ランスがミサイルを無言で落とし続ける。だが、ロボットが振り上げた手の裏側にも、砲台が多数ついている。

 

ビームの光が収束していく。

 

マーカー弾を次々打ち込みながらも、ビルは駄目かと、一瞬思った。

 

だが。

 

飛来した五十を超えるミサイルが、一斉に敵ロボットの腕を直撃。ロボットは大きく傾き、大量の装甲の破片をまき散らした。

 

戦闘機隊だ。今頃、やっと来てくれたか。

 

「ヒャッホー! 騎兵隊の到着か!」

 

「ルシア、状況を」

 

「近場の部隊が、我々の奮戦をみて、必死の攻撃を掛けてくれています! 時間はあまり稼げないと思いますから、急いで!」

 

ロボットは大きく体勢を崩しながらも、対空砲火を放つ体勢に入っている。花のように開いている顔の中心にある巨大な一つ目が、荷電粒子砲の紫色を帯びるのを、ジョーはみた。

 

「させるかよっ!」

 

ランスが、乱気流の中、ライフルを数十発、連射する。

 

その全てが、敵の荷電粒子砲の制御部分らしい配管を叩ききる。流石の神業。戦闘機隊が逃れるわずかな隙が、それで生じる。

 

空に撃ち放たれた荷電粒子砲は拡散してまるで魔神の爪のように辺りを引き裂いたが、爆沈する戦闘機は出なかった。数機が中破して戦線を離脱に掛かる。それで充分だ。

 

「17,18,19……。 ジョー、少し下に!」

 

至近で爆発。

 

さっきから、このヘリへの対空砲火が集中してきている。戦闘機隊の支援があっても、これは十分持たせるのが精一杯か。さっきジョーが行ったとおりだなと、ビルは苦笑した。

 

またフロント硝子が割れる。膝を、肩を、対空砲火の破片が抉った。少し大きいのが外壁にぶつかり、火花を散らしながらはじきあった。大きく左に傾くが、それさえ利用してジョーはヘリを加速させる。

 

積んでいた最後のミサイルを、ジョーが放つ。

 

対空砲火の一部に着弾。爆発して炎上する。

 

奴の足を、カワセが駆け上がっているのが見えた。近くにある砲は、片っ端からリュックをかぶせて消しているようだ。あのリュック、触ったものを何処かに飛ばすことが出来るらしいが。制約は多いと言うことだが、なかなか強力ではないか。

 

「27、28……29!」

 

今の狙撃は、少し危なかった。既にライフルの有効射程距離を四割ほどオーバーしていた。歴戦の勘で補ったが、当たる確率は三割を切っていた。だが、こんな時に、女神が祝福をくれるものだ。

 

人は死ぬ。あっさり死ぬ。

 

だが、それでも最後まであがくものには、祝福がある。そう信じて、ビルは射撃を続ける。

 

また至近に着弾。

 

二重ローターの一つが吹き飛ぶ。ヘリのダメージが、そろそろ洒落にならなくなってきている。

 

ランスも、今の爆発でかなりの手傷を負った。左腕の傷が深く、鮮血が吹き出し続けていた。

 

だが、闘争心はみじんも衰えていない。

 

戦闘機隊が、再び急降下爆撃を仕掛ける。数機が撃墜されるも、ミサイルと爆弾をありったけ叩き込んで回避に掛かった。ロボットが腕を振り上げ、後尾の一機を掴む。爆発炎上。

 

「GAAAAAAAAAA! OAAAAAAAAAAAAA!」

 

多分、駆動音だろうが。

 

敵ロボットが、雄叫びを上げているかのように聞こえた。

 

負けじと、ビルとランスも吠える。そして猛る。

 

猛々しい冷静さを維持したまま、ビルはマーカー弾を撃ち続ける。

 

カワセが、腹の辺りまで来た。対空砲火を放っている砲台を、高速機動で潰して廻っている。爆発で、流石のカワセもかなり傷を受けているようだが、まだまだ倒れるわけにはいかないと言うことだろう。

 

戦士の魂は、過去の人間も、しっかり持っていたのだ。

 

「ランスッ!」

 

「まだやれるっ!」

 

「48,49、50! よし、後はもう少し左側に回り込んでくれ!」

 

「そろそろ、危ないぞ」

 

ジョーの声に、若干の苦痛が混じっている。やはりフロントを割られたときに、かなり大きめの手傷を受けていたか。ヘリが、高度を維持したまま、左に飛ぶ。時々がくりと来るのは、やはりローターへのダメージが大きいからだろう。

 

戦闘機隊も、かなりの被害を出し始めている。

 

其処へ、地上からの砲撃が来た。戦車部隊も来てくれた、ということか。

 

ヘリに対して高射砲撃をしていたエイリアンの部隊が、根こそぎ火を噴く。ロボットが腹から、巨大な砲をせり出してきた。まさか、あれを撃つつもりか。あんなので撃たれたら、地上部隊は一撃で木っ端みじんだ。

 

「航空部隊、敵の腹に攻撃を集中しろ!」

 

「対空砲火が厳しくて、無理です!」

 

「畜生っ!」

 

まだ、わずかにマーカー弾が足りていない。地上部隊も砲に攻撃を集中しはじめるが、間に合うか。

 

その時、がくんと砲が下に向くのが見えた。

 

カワセが、滝を駆け下りるようにしてロボットの体を降り、その途中で巨大大砲の基部にあるワイヤーを切ったらしい。

 

膝の辺りに引っかかったカワセが、手を振っている。今だとでも言うのだろう。

 

地上部隊が、更に激しく攻撃を集中。腹の大砲が、更に大きく傾いた。

 

やった。そう思った瞬間、至近に爆発。ヘリの装甲が、大きくえぐれる。テール部分のローターが吹っ飛ぶのが分かった。

 

同時に、ビルは。六十発目のマーカー弾を叩き込んでいた。

 

「よーし、今だ! マーカーに向けて、ミサイル斉射しろ!」

 

 

 

川背は、着地すると同時に、ロボットから全力で離れはじめる。ハイウェイに上がることさえせず、全力で今まで来た道を逆走した。

 

振り仰ぐ。

 

空を、美しい軌跡が一閃する。

 

同時に放たれたミサイル六十発以上だというのは明らかだった。

 

その全てが、対空砲火をかいくぐり、ロボットに着弾する。

 

音が、一瞬かき消えた。

 

ロボットの全身で爆発が巻き起こる。断末魔の悲鳴にも聞こえる轟音の中、ロボットの全身に罅が走っていく。

 

そして、それが頭部に直結した瞬間。

 

ロボットがあった場所に、光の柱が出現していた。

 

戦闘機が全力で回避していくのが分かる。ヘリは。逃げようとしているが、あれだけのダメージだ。間に合わないか。

 

ジョーさんの神業的なテクニックで、どうにかビルの影に逃げ込む。だが、それでも殺戮的な爆風が、ヘリを翻弄する。ヘリの装甲が吹っ飛ぶのが見えた。川背自身も、かなり危険な位置にいる。

 

最高速で逃げつつ、至近に落ちてくる瓦礫をジグザグに跳んでかわす。そして、爆風に追いつかれる寸前、ハイウェイの裂け目から、その下に逃げ込む。

 

着地。

 

耳を塞ぐ。

 

後ろから、全力で風の板に張り倒された。何度か跳躍して威力を殺しつつ、破滅的な風が過ぎ去るのを待つ。

 

ざくりと、嫌な音がした。

 

背中に、大きな瓦礫の破片が突き刺さったのだと分かる。歯を食いしばり、また跳ぶ。また、瓦礫が刺さった。

 

 

 

ヘリが不時着。同時に、最後のローターも折れて吹っ飛んでいった。ずしんと地面に落ちたヘリは、もうヘリの形をしていなかった。こんな状態でも飛ばしていたジョーの技術、語りぐさにしなくてはならないなとビルは思った。過去の人だから、死んだときには地獄なり天国なりにいるだろう。是非この時の話で酒を飲みたいものだ。

 

ビルは、足を引きずりながら降りた。ランスも、かなりやられている。ジョーは。みると、脇腹を押さえていた。かなり出血がひどい。

 

「ジョー!」

 

「ナノマシン入れてないんだよな! メディカルスプレーじゃ駄目か!」

 

「問題ない。 致命傷では無い」

 

それよりカワセが心配だと、ジョーが言う。上半分の服を脱ぐと、刺さっていた破片を引き抜き、止血を開始するジョー。手際は良く、怪我をしなれているのがわかった。どうやら、手を貸さなくても、どうにか出来そうである。

 

地上部隊が接近してくる。

 

さっきのロボットとの交戦で、それなりの打撃は受けていたようだが、まだかなりの人数がいる。今まで何をしていたと怒鳴りつけてやりたい所だったが、来てくれただけで充分だ。

 

誰もが、魂斗羅にはなれないのだ。

 

むしろ、彼らを導ける魂斗羅である事に、今は誇りを持たなければならない。

 

メディカルスプレーを自分の体に掛ける。ハイウェイでの戦闘も含めて、打撃が著しい。これは、今回の出費もかなり高額になるだろう。ランスの傷もひどい。これは、エイリアンの本拠を潰すまで、体が保つかギリギリという所だ。

 

戦車を降りてきた指揮官と敬礼をかわす。

 

「カワセをみなかったか」

 

「ロボットと直に交戦していたあの女戦士か」

 

「そうだ」

 

「それならば、彼処だ」

 

安心したのは、一瞬だけだ。

 

兵士達の助けを拒み、よろよろと歩いてくる。だが、見た目にもひどい傷だらけだ。倒れそうになって、慌てて兵士達に支えられる。

 

みれば、背中にも二カ所、ひどい傷があるようだった。

 

「女性の兵士はいるか! 手当を手伝ってやってくれ!」

 

「大丈夫、応急措置はしています。 しばらく、休めば、何とか動けます」

 

カワセは、ハイウェイの高架下で、仰向けに倒れているところを発見されたという。その時点では意識が無かったが、ここに来る途中で意識を取り戻したそうだ。

 

「軍用レーションって、やっぱりこの時代でもまずいんですか?」

 

「ああ、クソまずい」

 

「食用の素材はありますか? 僕が料理します。 あ、ちゃんとしたもの食べないと、回復できそうにありませんから」

 

何を言っているのかと一瞬不安に思ったが、ジョーが嘆息した。奴も手当を終えたようだが、しばらくは起き上がらないつもりらしく、横になっている。

 

「好きにさせてやれ」

 

「どういうことだ」

 

「その娘は、結局の所戦士である以上に料理人だ。 料理をしていれば一番楽しいし、それが生き甲斐でもある。 多分、料理の一つでもさせてやった方が、多少は回復が早いだろう」

 

そうなれば、仕方が無いか。

 

ビルは近くにいる兵士達に、指示を出して廻る。

 

「悪いな、スーパーか何かの名残から、材料を集められるか。 適当で良い」

 

 

 

栄養剤を点滴されて、半日ほど川背は眠っていたらしい。

 

起きたらすっかり夜になっていた。

 

少し、体力は回復した。だが傷の方はまだずきずきと痛い。応急処置の後、少し手当をしてくれたらしい。流石に未来の技術だけあって、回復も幾らか過去の医療よりは早いようだった。

 

ジョーが側に座って、見張りをしてくれていた。

 

「敵の本拠はまだ見つかっていない。 寝ていろ」

 

「いえ、もう大丈夫です」

 

「頑固な奴だ。 帰ってからは、しっかり休むんだぞ。 あんな戦いをした後なんだから、しっかり休まないと寿命が縮む」

 

眉尻を下げて、心配してくれているジョーに礼を言う。

 

側に、冷蔵庫らしいものがある。どうやら展開している軍部隊が、用意してくれたようだ。中を見ると、一応の材料があった。機材類も、それなりにあるようだ。

 

ただ、どれもまともとは言いがたい。

 

少し食べてみたが、食材の味が強すぎる。調味料も同じである。

 

料理用の道具類はあるにはあるが、殆どオートメーション化されているようだった。ビルは。探してみるが、いない。

 

「もう、今じゃあ料理は、マニアしかやらないそうだ。 殆どの料理は、完璧な形でレシピが公開されていて、機械が調整できるかららしい。 何でも三つ星のシェフが機械に作った料理に負けて以降、そうなったらしい」

 

「……」

 

将棋やチェスでも、同じようなことがあった。

 

コンピューターが、いずれも達人と呼ばれた人間に勝ってしまったのだ。

 

更に言えば、此処がニュー・ニューヨークだと言っていたが。元々のこの国にも、料理文化というのも、原始的な形でしか残っていなかったはず。ちゃんとした料理を食べる習慣そのものが無く、やるとしてもバーベキュー程度だったと聞いている。勿論料理屋はあるのだろうが、それも庶民が実際に料理をするのとは別問題だ。

 

川背がいたJ国でさえ、近年はレトルト食品の発達によって、自炊が廃れている傾向があったのだ。

 

ましてや六百年も経ったこの時代である。

 

とりあえず、包丁と鍋、フライパンと熱源は確保できた。素材の味は確認したが、どれも自然本来のものとはかけ離れている。合成化学調味料の味が強すぎるのだ。

 

それが悪いとは言わない。

 

養殖物の魚にだって、工夫次第で美味しく食べられるものがあるからだ。

 

試しに、機械に作らせてみた。確かに、それなりのものは出来る。だが、それなりでしかない。

 

人間は手を使わなければ脳が衰えるし、頭を使わなければ思考力が減退する。

 

料理をしなければ、料理だって退化するのだ。

 

ビルが来たので、聞いてみた。

 

「生の魚や肉は入手できませんか」

 

「この星じゃあもう無理だな。 幾つかの入植惑星だと、魚とか家畜とかを生で育ててるらしいが、動物愛護団体とかが五月蠅くて、今は野生の動物を食べるのは御法度なんだ」

 

やはり、そうか。

 

行きすぎた権利行動は、やはり何か衰退を招くのかも知れない。がっかりした川背は、大きくため息をついてしまった。

 

「何となく、料理が無理そうだって事は分かってたよ。 さっきルシアに頼んで21世紀であんた達J国人が食べてた材料を検索したんだが、もう手に入らないものばかりみたいだしな」

 

気を落とすなと、ビルは言ってくれる。

 

周囲を見回すと、ランスはいない。がっかりしている暇は無い。今が言う好機だろう。

 

「さっき、ジョーさんに僕が見せたものを覚えていますか」

 

「ああ。 何となく、最初から見当はついていた」

 

そう。彼処で見つけたのは、あるはずが無いもの。

 

エイリアンにされた人間の所持物だった可能性も、最初は否定できないかと思った。だが、考えて見れば、それもあり得ない。

 

なぜなら、其処にあったのは。

 

「奴らは最初、レッドファルコンって名乗った。 調べてみたが、ずっと昔に滅んだ鳥に、ファルコンってのがいたんだろ? エイリアンが、どうして地球由来の生物の名前を、組織名につけるんだ」

 

「知っていて、知らないふりをしていた、のですね」

 

「そうだ。 ランスの奴がずっと生き生きしてやがったからな。 俺たちも最初は、紛争地帯とかで、人間を相手に制圧戦をやってたんだ。 殺したゲリラには、女子供だってたくさん混じってた。 ランスの奴は、戦争が終わるたびに憔悴しきっててな。 酒を飲みながら泣いてることもあったよ。 また子供を殺しちまった、妊婦を殺っちまった、ってな。 魂斗羅と呼ばれたほどの戦士がだ」

 

ビルはたばこに火をつける。

 

あれだけ批判の的になっていても。まだ、たばこはあるらしかった。

 

「頼みがある。 料理は、やめてくれるか。 ランスに、これ以上ぬか喜びはさせたくないんだ。 あんたがどれだけ腕が良い料理人でも、こんなクソッタレな材料じゃ、まともな料理は作れないだろ」

 

「はい。 これでは、僕の料理人の誇りに相応しい料理は、作れそうにありません。 むしろそれを使うことを想定している機械に入れた方が、美味しく出来るでしょう」

 

「無理を言って済まないな」

 

「代わりに、僕からも、頼みがあります」

 

ビルはたばこをくわえたまま、頷く。

 

「この世界で人類政府を統轄している存在には気をつけてください。 もしもこの戦いを貴方たちが勝ってしまったら、きっと彼らの凶刃は貴方たちに向くはずです」

 

「そう、だな。 地球を侵略してくるエイリアンを倒せるって純粋に喜んでるランスが、現実を知って壊れるのはみたくねえ。 ……俺が、何とかしてみせる」

 

川背は頷くと、凄絶な表情で覚悟を決めるビルに一礼して、横になった。

 

空を見上げる。美しい星空だ。周囲は都市を一から再建しなければならないほどに破壊され尽くしているのに。星空は、あんなにも美しい。

 

エイリアンの本拠地の、大まかな場所は分かっているらしい。

 

今は、その入り口が見つかるまで、ジョーが言うように休もう。そう、川背は決めていた。

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