オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
ねずみのお巡りさんが邪魔をする猫の悪役をかいくぐって愛を貫く話なんですが。
実はこの作品色々と裏話が面白くて、ロボット開発やゲームAI関連ではかなり重要なタイトルだったりします。
それもあるので、今回はクトゥルフ神話におけるかなり重要な神格であるクトゥグアさんにも登場して頂き、話を狂気的に彩っていただきました。
楽しんでいただければ何よりです。
序、孤島の実験場
聞こえない。叫んでいるのが分かるのに、具体的に何を言っているのかは分からない。だから、聞き返す。
kldsfhiodhfaiofdhとは何だ。
返答は無い。
今日も、ワタシはそれを探して徘徊する。邪魔をする無数の影。振り切って、ひたすらに走る。
体にはもうがたが来ている。
だが、それでもやらなければならない。kldsfhiodhfaiofdhを満たすために、生まれてきたのだから。
見えてきた。
kldsfhiodhfaiofdhを捧げる対象が。
手を伸ばす。だが、愛を捧げるべきものは、ワタシに見向きもしなかった。
嗚呼。嘆きが漏れる。
いろいろな感情を理解してきた。言われるままに、様々な仕事もこなしてきた。その過程で、心については分かってきた気もする。
それなのに、どうしてだろう。
kldsfhiodhfaiofdhだけは、理解できない。
そのためだけに、作られたのに。
ふがいなくて、只ひたすらに悲しい。只ひたすらに、口惜しい。
だが、それでも。
理解できない。
その島は、大西洋のほぼ中央に存在している。ノーベル工学賞の受賞者である、とある博士の所有物である。
一応はE国の植民島だが、ほぼ独立国家に等しい。停泊している国連軍の巡洋艦の甲板からも、その不可解な有様が一瞥できた。
手をかざして、様子を見る。
孤島というと、森が覆っている印象があったのだが。甲板から見る限り、荒れ地ばかりである。それに、やたら古めかしい建物が多数建造されている。洋館だったり、教会だったり、それに蒸気機関車まであるようだ。
あの孤島こそが、今回スペランカーが派遣された攻略対象である。
「スペランカーどの」
近づいてきた足音に振り返る。
小柄なスペランカーから見れば、見上げるほどの大男である。何度となく、戦いを共にして来たE国最強のフィールド探索者、サー・ロードアーサー。古めかしい騎士鎧に身を包んだ、ひげ面の大男だ。恐ろしげな風貌だが、よく見ると愛嬌のある顔をしており、時代錯誤的な格好が代表しているようにひょうきんな部分もある。
何度も地獄の戦場を共にして来た戦友であり、もっとも信頼出来る戦士でもある男だ。
ただし、今回は本来、共に戦うべき存在では無い。
そもそも、戦わないために、ここに来たのだから。
「アーサーさん、状況はどうなっていますか」
「難しいな。 ドクター・Nはあの島での調査を拒否した。 これから我が輩達が直に説得しに向かわねばならん」
「……やはり、後ろめたい事があるんでしょうか」
「きな臭い噂は腐るほどある。 あの島が盗賊団の隠れ家になっているなどというものも含めてな。 だが我が輩は、あの男をそんな大悪党だとは思えぬのだ」
ドクター・N。
世界の裏側で暗躍する者達とも関わりがあるという、超大物工学博士である。アメリカのマサチューセッツ工科大学を主席で卒業し、ある研究でノーベル賞を受賞。特許料を得てこの島を購入し、今では引きこもりとも言われる生活を続けている。
島は元々無人島だったのだが、今ではN博士の護衛や家族を含め、百名弱が住んでいるという事だ。
しかししばらく前にフィールド認定されてから、中がどうなっているかは不明である。何しろ権利関係が複雑な上に、ドクター・Nの研究は、様々な分野に影響力を持つ貴重なものだ。
今まで黒い噂が絶えなかったのに放置されてきたのは、それが理由である。
「ただし、少人数での到来は歓迎すると言ってくれた」
「貴方の親友、ですものね」
「そうだな。 我が輩の古くからの友だ。 出来れば、穏便に事を済ませたいのだが」
アーサーの表情はほろ苦い。
変わり果てた友を知るが故に。その表情は、苦渋に満ちていた。
アーサーは大人だ。だからひょうきんなだけでは無く、世の苦難も矛盾もよく知っている。だからこそ、スペランカーは頼りにしているのだとも言える。婚約者の尻に敷かれているお茶目なところもあるが。
島の東側に砂浜がある。
かって、この島には小さな集落があったそうだが、大航海時代のおりに海賊に蹂躙され、住民は皆奴隷として拉致されてしまった。それ以来、ドクター・Nが来るまで民は一人も住んでいない。一つには、大陸から遠すぎるという事情もある。
数百年間無人だった故に、ドクター・Nが買い取った頃には、荒れ果てていたそうだが。今も、無人なのでは無いかと思えるほど、桟橋は朽ち果てていた。
家が点々としている。
だが、生気は無い。たまに来る船から物資を受け取り、島のわずかな住民達は生活している様子だ。
それは楽園とはほど遠い。閉ざされた空間の有様だった。
桟橋は、踏む度にぎしぎしと音がした。歩いていて、下にある海に落ちそうな気分に何度もなった。
遠くに停泊している巡洋艦は臨戦態勢である。この島が、フィールド認定されている事実に変わりは無いからだ。
砂浜には、大量のゴミが落ちている。
いずれもが生活廃棄物では無い。フラスコだったり硝子瓶だったり、研究資料だったり。触らない方が良いようなものばかりであった。硝子の残骸は踏むと危ないから、気をつけて歩く。
「大丈夫」とはいえ、痛い思いをするのは、やはり嫌なのだ。
今回、任務に出てきたのはスペランカーとアーサーだけ。
所属している会社も違う、戦闘スタイルにも差がある二人だ。こんな事になったのには、複雑な事情がある。
路は舗装されておらず、車も下ろせなかったので、延々と歩く。赤道近いこともあって、とにかく暑い。何度もハンカチを出して額をぬぐうが、汗は止まらなかった。途中、何度か意識が飛んだ。
そのたびに、死んだ。
スペランカーは、常人が入る事が出来ないフィールドと呼ばれる異境を専門に探索し潰す仕事をしている。いわゆるフィールド探索者である。体が弱く頭が良いわけでも無いスペランカーがこんな仕事を出来るのには、理由がある。
体を覆う、不死の呪い。
それが特殊能力となって、スペランカーを守り、そしてむしばんでいる。恐ろしいフィールドで必ず生還する事から、付けられたあだ名が絶対生還者。今回も、そのあだ名に相応しい行動をスペランカーは期待されている。
アーサに支えられて、再び歩き出す。正直、もうふらふらだった。
「ふえー。 しんどいです」
「相変わらず体が弱いのう」
「こればっかりは……」
「まあ、そうだな。 頑健な貴殿など、想像もできんわ」
げらげらとアーサーが遠慮無く笑う。その笑い声だけで、この陽気だと意識が飛びそうだった。
同じくフィールド探索者であるアーサーは、スペランカーと違って真っ正面から戦うタイプで、戦闘能力も極めて高い。
とても頼りになる盟友だが、豪快すぎて時々ちょっと困る。繊細な心配りが出来る後輩の川背の方が、内心頼りになると思っているスペランカーだった。
まもなく、目的地に着く。
生い茂る林。
陽光が遮られて、若干過ごしやすくなってきた。今日は半袖に半ズボンだが、汗が流れると時々マラリアよけの蚊取りスプレーを体にかけなければならない。林の中を歩くとなると、ヒルにも警戒する必要が生じてくる。
無駄かも知れないが、こういう小さな心配りは、捨てたくないのだ。どういう体質であったとしても。
林の中の路は、寂れた村に比べて、随分人が歩いて踏み固めた形跡があった。しかしその中には、どう見ても人のものではない足跡もかなりの数が残っている。
路の先には、古風な洋館があった。既に来ていたらしい国連軍の事務官が、敬礼してスペランカーとアーサーを出迎えてくれる。
「状況は」
「ドクターNは、アーサー様とスペランカー殿だけを受け入れると。 我々も即刻退去しなければ、攻撃すると言っています」
「分かった。 即座に撤退。 船まで戻って、合図まで待つように」
「イエッサ!」
そそくさと、国連軍の者達が引き上げていく。
眉をひそめたスペランカーは、小声でアーサーに言った。
「大丈夫ですか? アーサーさんの親友って言っても、もう十年も会っていないんでしょう?」
「我が輩とN……ニャームコは、若い頃から馬鹿をした仲だ。 今は落ち着いている我が輩も、学生の頃は随分無茶をしてなあ。 寮長に怒鳴られたり拳骨を貰ったりしたものなのだ」
「え?」
「どうした、何か変なことをいったかな?」
今は落ち着いているという言葉に非常に引っかかりを覚えたが、まあそれは良い。
アーサーが、E国での学生寮などについて教えてくれる。世界的に有名な児童文学などで知られてはいるし、スペランカーも義理の娘であるコットンに読み聞かせて覚えたが、実際に行っていた人に話を聞くととても興味深い。
寄宿舎がついている学校は、E国の縮図なのだという。寮ごとに対抗意識があり、やはり深刻な対立がついて回ることもあるそうだ。名門と呼ばれる学校の場合、子供が大人顔負けの政治闘争を繰り広げ、暗闘を日夜繰り返す場合もあるそうだ。
紳士の国と呼ばれるE国は、実際には暗闘の国というわけだ。
「ニャームコは、とにかく賢かったが、周囲に味方を作る努力をしない男でな。 我が輩はニャームコを常にかばったが、そうでなければ学校から追い出されていたかも知れないほど、周囲は敵だらけだったな」
「どこの国でも、そういうのってあるんですね」
「そうだな。 さて、久方の友との対面だ」
洋館らしい重厚な扉を開ける。
内部は獣の臭いがした。理由はすぐに分かる。
薄暗い屋敷の奥から、無数の目が此方をうかがっている。いずれもが、猫ばかりだ。毛並みは良く、かなり手入れされているようだが、目つきが著しく悪い。
「おお、猫共だ。 よーしよしよし、こいこい。 チチチチチ」
アーサーが手を叩いて猫を招こうとするが、気まぐれな動物らしく、さっと影に隠れてしまう。そうすると、ものすごく残念そうな顔をアーサーがしたので、思わずスペランカーは吹き出しそうになった。
階段を下りてくる人影。
エプロンドレスを身につけた、ゴシックスタイルのメイドだ。黒い髪の毛をセミロングにしており、顔立ちもとても愛らしい。だが、どうも動きが若干堅い。
表情を見て、納得した。おそらくはロボットだろう。
無理からぬ話である。ドクター・ニャームコと言えば、ロボット工学の権威。現在、世界にはかなり優れた技術で作られたロボットがいるが、それらの基礎、特に頭脳部分のベーシックスタイルを作った偉人こそ、ニャームコなのである。
あのC社最強のフィールド探索者、Rでさえ、その技術を受けついているとさえ言われているのだ。現在、感情を持つロボットは世界に複数存在しているが、そのいずれもが、ニャームコ博士の研究を何らかの形で流用しているのである。
それくらいは、頭が良いとはいえず、記憶力は更に絶望的なスペランカーでさえ知っている。
ロボットは綺麗なエスペラントでしゃべり出した。英語でしゃべるアーサーとは違っているので、慌てて翻訳機能がある電子手帳を操作する。今回も、これが会話の要となりそうだ。
「アーサー様、それにスペランカー様ですね」
「うむ。 我が盟友、ニャームコは」
「ご主人様は此方です。 他の方には、お帰り願えましたでしょうか」
「ああ。 それは心配せずともよい」
古めかしい洋館の階段を上がる。ゆっくり湾曲している階段は、何だか趣味の世界の構造物に思えた。
二階にはいると、長い廊下の左右に、無数の部屋がある。ちらっとだけ中を見たのだが、ロボットが無数に陳列されていて、とても洋館だとは思えない。此処が世界的ロボット学の権威の家なのだと、こういう所で悟らされる。
見ると、見たことの無い形状のパソコン類もあるようだ。多分設計に使っているスパコンだろう。周辺機器は、もうスペランカーの知識を逸脱した存在ばかりだった。薄暗いゴシックな洋館の廊下からつながっている空間の光景だとは、とても思えない。だが、これも事実だ。
廊下の突き当たりの部屋。
メイドがノックすると、中から重苦しい声がした。かなり年老いた男の声に聞こえる。アーサーはまだそれほど年老いていないはずだから、その同級生の声としては少し違和感が強い。
部屋に入る。
あまり広いとは言えない部屋の奥。机に向かって、猫背になっている大きな背中。白衣はすっかり染みだらけになっていて、部屋も異臭がした。床はフローリングだが、壁際はうずたかく本が積み上げられている。
「久しぶりだな、ニャームコ」
「おう、アーサー。 久しぶりだなあ。 サーなんてけったいな称号を付けて呼ばれているそうじゃないか」
電子辞書は国連軍から支給されている最新鋭で、エスペラントに設定しているため、音声を勝手に変換してくれる。その機能によると、なあ、の部分が独特の発音で、ニャアに聞こえた。
それだけではない。
椅子ごと振り返ったその男は、まるで不思議の国のアリスの物語に出てくるチェシャ猫だ。丸顔で、口が巨大。ほおひげは節操なく伸び、笑顔が大変下品である。目はとてつもなく大きくて、らんらんと眼光が輝いていた。
容姿もちょっと人間離れしている。
というより、写真で見たニャームコ博士と比べても、かなり太っている。
この、世界一安全とも言われるフィールド。ニャームコ島の支配者。それこそが、このニャームコ博士なのだ。
「そっちのは噂に聞くスペランカーかなあ」
「ああ。 今や我が輩に匹敵するフィールド探索者だ。 今ではアトランティスの顔役もしている」
「どうもよろしくお願いします。 スペランカーです」
「おうおう、そうかい。 それで、腕利きのフィールド探索者様が、二人も揃って此処に何用だ」
アーサーは咳払いすると、一度だけメイドに視線を送った。
当然あのメイドロボットは、侵入者を実力で排除するだけの機能を有していると見て良いだろう。当然の行動である。
スペランカーも、ちょっと緊張する。
今までロボット系の敵との交戦経験がないのかと言われたら、違う。何度かある。だが、あまり得意な相手とは言えなかった。
スペランカーが得意としているのは、別系統の敵なのだが。今回ばかりは、仕方が無いと言える。
「要件などわかりきっているだろうに。 前から手紙を出しているだろう。 お前は今、かなり危険な立場になっておるのだぞ。 どうして国連軍の招聘に応じない。 そればかりか、更に立場を悪化させるようなマネばかりしおって」
「ふん、馬鹿共が何を言おうと知ったことかなあ」
「子供の頃から変わらんな」
「そういうアーサー、お前こそその年にもなって未だに騎士なんぞを気取って、後ろ指をさされて恥ずかしくないのか」
恥ずかしくないと、アーサーは言い切る。
スペランカーも、それは同感だ。
たとえば、実が伴わない格好だけの「騎士」だったら、現在のドンキホーテも同じ事だろう。
だがアーサーは世界でもトップクラスのフィールド探索者として、魔界と呼ばれる超危険フィールドを一度ならず単独で潰し、魔王と呼ばれる強力な敵をそのたびに葬り去っているのである。そして心は婚約者だけに捧げて、別の異性には必ず一線を引いて対応しつつ、紳士としての態度を崩さない。
アーサーには、ひょうきんな部分はある。だがアーサーは、本物の、多分現在生きている中では数少ない騎士なのだ。
世界最強を謳われるあのMでさえ、アーサーの実力は認めている。E国でもアーサーは女王から爵位を貰っており、そういった意味でも正真正銘の騎士だ。だから周囲から敬意を込めて、サーの敬称を付けて呼ばれている。
実際、アーサーは現在には珍しい、騎士としての魂を持つ人物だと、スペランカーは思う。後ろ指をさす人間はいるようだが、そんなのはむしろ逆に現実が見えていない人たちだろうと、スペランカーは考える。実際アーサーと接してみて、まあ確かにたまに滑稽な事はあるし、豪快すぎて時々困ることもあるが。それでも、戦士としてこれほど頼りになる人は、そうそういないというのが素直な感想だ。
「お前のロボット工学と同じだ。 我が輩は、騎士としてのあり方で、現在で充分立脚できる実力と実績を磨き上げた。 それを恥じることなど、天地神明過去の先祖に誓っても、ありはせん!」
「相変わらずだなあ。 まあいい。 それで、此処まで来たという事は、腕ずくでも連れて行くということなのかなあ」
「お前が抵抗するならな。 我が輩はやりたくは無いが」
「ふん……」
しばらく、気まずい空気が流れる。ニャームコ博士は異相だけあり、顔をゆがめるとまるで化け物のような形相になった。
スペランカーはあまり頭が良くないから、折衝とかは苦手だ。だが、誠実に心を込めて話せば、相手がよほどの阿呆でも無い限り、痛い思いをいっぱいすることになっても、最後には分かってくれると信じている。
だが、それは最後の手段だ。
しばらくは、アーサーの行動を見守りたい。
「アーサー。 お前だから話すが、少し待ってくれないか」
「何をだ。 内容次第だな」
「今、わしは研究の大詰めに入っていてなあ。 それさえ終われば、お前が言うとおり、何だか知らんが査問会でも招聘でも応じてやる。 逮捕してもかまわんさ」
「何の研究だ。 別に釈明をしてからでもいいだろう」
釈明をする気は無いと、ニャームコは堂々と言った。腰を浮かせかけたが、ニャームコが言葉を続ける。
「この島が、盗賊団のアジトになってるって話な、あれは半分本当だ。 わしの進めた実験が暴走した結果なんだなあ」
「何……!」
「だが、この実験、どうしても最後まで進めたい。 そのためだったら、お前と戦う事だって厭わない。 それくらい重要な実験なんだよ」
「アーサーさん」
思わず一歩前に出ようとしたアーサーの腕を掴む。
アーサーの目が燃え上がっている。完全に義憤に我を見失っている。それを理解したから、スペランカーは止めた。
アーサーは無言のまま立ち尽くす。ぎりぎりと歯を噛んでいるのが分かった。
「見損なったぞ! お前を、信じていたのだがな、ニャームコ!」
「知っていたさ。 お前を裏切るのだって、散々苦悩した末だ! だが、それでもこの実験は、やらなければならなかったんだよ!」
「墜ちたか、ニャームコ! ならば友として、貴様を止めなければならん!」
「やらせはせん! 騎士だろうが何だろうが、このニャームコ、遅れをとりはせん! この島でならな!」
不意に、ニャームコ博士の姿が消える。
そして、椅子が床に飲み込まれ、ふさがったことに気付いた。
「逃げたか……」
アーサーはメイドロボットに手を伸ばしかけて、止めた。
彼は今時珍しい紳士的な思考の持ち主だ。ロボットとは言え、非戦闘員の女性に手を上げることは彼の紳士的倫理が許さなかったのだろう。スペランカーは頭を振ると、部屋の外に出た。
既に、其処は死地とかしているのが明白なことを、承知の上で。
此処はフィールド。
スペランカーにとって、仕事場であり。普通の人間が入れば、生きて帰ることは叶わない、死の土地である。