オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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この時点で察しがついているかも知れませんが、この作品はマッピーランドと同時に、ある高名なホラー小説をモチーフにさせていただいております。


1、聖域と呼ばれる島

アトランティスで過ごしていたスペランカーに、仕事の依頼が来た。丁度仕事の依頼が来たとき、外で遊び疲れた被保護者であるコットンが布団で眠りについたところだったので、スペランカーはちょっとやきもきした。どうやら親心というのが、強くなり始めているらしい。ずっと一緒にいてあげたいくらいなのだが、子供の自立のためにもそれは良くないし、悩む日も多い。仕事でフィールドに出て、攻略して帰った後は、最初に見たいのはコットンの顔、という事も増えていた。

 

だが、コットンと一緒にいられるのも、アトランティスの人たちのために頑張って、更に言えばフィールド探索者として実績を上げているからだ。ましてや、コットンの周囲には、世話をしてくれるアトランティスの民も大勢いる。恵まれていると思って、これからも頑張らなければならない。

 

見かけは十代半ばでも、実際には結構年も行っているのだ。体を覆う呪いで不老不死になっているから若く見えるが。逆に言えば、だから母性も強くなるのかも知れなかった。

 

寝室から外に出ると、かって邪神に作られ、今ではアトランティスの民として暮らしている一人である骸骨の戦士が書状を捧げ持っていた。彼に悪意はないし、仕事をきちんとしただけである。彼らはスペランカーの言うとおり、ちゃんと一線を引いた対応をしてくれているのだから、これ以上の要求は酷だ。

 

手紙の封を解いて、中を見る。

 

国連軍からだった。

 

最近、スペランカーは所属しているフィールド探索社よりも、直接国連軍から仕事を受けることが増え始めた。これは邪神を数体倒した実績と、何より歴戦の猛者でも手こずっていた難関フィールド、クレイジーランドを潰したことが大きな理由となっている。一流どころとして認められ、それだけ仕事の難易度が上がってきたという事なのだ。

 

居間に出て、手紙を見る。

 

今度の仕事場は、N島。大西洋の孤島だという。何処かで聞き覚えがあると思って、地図を広げてみると、案の定である。

 

「ニャームコ島……」

 

知識が乏しいスペランカーでも聞いたことがある。世界にいくつかある極めて特殊なフィールドの一つ。それがこの島だ。

 

ロボット工学の権威であるニャームコ博士は、己の財産を使って、無人島を買った。そして其処に引きこもっているという。

 

ニャームコ島では、世界よりもずっと進んだロボットの技術が使われているとか、或いは犯罪組織に乗っ取られ、盗賊団のアジトになっているとか、様々な怪情報が飛び交っている。はっきりしているのは、軽度のフィールド扱いされている、という事だ。

 

しかも、そのフィールドの中にニャームコ博士が住んでいて、立ち入りやフィールドの撃破を拒否している。

 

世界には、こういった特殊な事情を抱えたフィールドがいくつかある。たとえば紛争地域の真ん中にあるフィールドなどがそうだ。対立する武装組織の中間地点に出来てしまったため、丁度良い緩衝地帯になっており、わざと放置されている、というようなものである。

 

ニャームコ島は持ち主が世界的なロボット工学の権威で、膨大な特許を有しており、リアルタイムで世界の最先端を行くAIを開発して発表している、という事情が大きい。そのニャームコ博士の私有地の上に立ち入りを拒否していて、しかも住んでいるのは博士の関係者だけという事情もあって、今まで立ち入りは出来なかったのだが。

 

しかし、手紙には、今回ニャームコ博士を説得し、どうしてもフィールドを潰す必要性が生じたのだと書かれている。

 

いずれにしても、詳しい事情は、実際に説明を聞かなければ分からないだろう。一緒に一流のフィールド探索者が探索を行うとあり、それからも今回は一線級(スペランカーに関しては気恥ずかしい話だが)を二人も投入する大形の案件だと言う事が見て取れる。それだけ危険性が高いのだろう。

 

そろそろ夜中で悪いのだが、神殿の奥に行く。この案件は、最速で片付けなければならないだろう。

 

スペランカーはアトランティスでは様々な理由から象徴的な存在とされており、長老達にも良くして貰っている。特に、原住民の長であった半魚人の長老は、何か重要な決定がある場合は必ずスペランカーに話を持ってくる。スペランカーが決済すれば、アトランティスの誰もが納得すると知っているからだ。したたかな行動にも見えるが、此処を統治した邪神がいなくなった今、誰かが精神的な支柱にならなければならないのである。

 

だからスペランカーも、逆に重要なことは、皆に話すようにしている。それが信頼に対する返礼だからだ。

 

恐らく国連軍から手紙が来たことは伝わっていたのか。長老格の住民達は、皆集まっていた。今到着したばかりの者もいるようだ。

 

「スペランカー様、国連軍からの仕事だと聞きましたが」

 

「はい。 今度はまたちょっと厄介そうな場所です。 ただ、危険性はいつもに比べれば、小さいかとも思います」

 

「我ら戦士一同、いつでもスペランカー様の為に命を捨てる所存にございます。 是非ご同行させていただきたい」

 

そう雄々しく言うのは、ミイラ男達のリーダーをしている人物だ。アトランティスでは、半魚人と彼ら、それに骸骨になった戦士達が主な住民となっている。ミイラ男と言う事で、既に死んでいる事もあってか、とても勇敢だ。フィールド探索者としても、通用する実力を持つ戦士も多い。

 

だが、スペランカーは首を横に振る。

 

「私は大丈夫です。 アトランティスはまだ発展していない場所も多いですから、そちらのために力を使ってください」

 

「スペランカー様がそう言われるのであれば。 しかし、お呼びいただければ、いつでもご同行させていただきます!」

 

血の気が多い戦士達の代表が座ると、半魚人の長老が咳払いした。そして、資料を出してくる。

 

彼なりにニャームコの事を調べてくれたのである。ロボット工学の権威と言う事だが、実際には駆動系ではなく、AIの構築について相当な実績がある人物らしい。詳しいことは知らなかったので、勉強になった。

 

若い頃の写真もあった。お世辞にも美男子とは言えない人物で、むしろ異相というのが正しいだろう。コットンが見たら、子供らしく、遠慮無く変な顔とか言うかも知れない。

 

「それにしても、今まで野放しにしていた相手を、どうして国連軍は不意に摘発する気になったのでしょうな」

 

「さあね。 何か無視し得ないものが見つかったか、それともとんでもない事の引き金になりかねないか。 此処で議論しても仕方が無いだろう」

 

長老の頭の上で、手のひら大の黒い蜘蛛が、足を二本上げてそう口をきいた。

 

彼女はアトラク=ナクア。少し前に南極近くの島で、スペランカーが激戦の末、フィールドを破壊した邪神である。妄執から解放された邪神は力を失ったが、今ではアトランティスの民達のアドバイザーとして、神殿に来る者に助言を与えているのだ。

 

いずれにしても、出るほかに無いと結論。翌朝には、アトランティスを発つ事となった。

 

翌朝には、準備をして空港に。コットンはぐずることも無く、手を振って見送ってくれる。

 

悲しいだろうに、よい子に育っている。本当に嬉しい。

 

少しだけ良い気分になったが、飛行機の中ですぐに気合いを入れ直した。

 

自分が死ぬ事は構わないが、油断していると同道者に迷惑を掛ける。

 

 

 

オーストラリアを経て、ジャンボジェットに乗り換え。丸一日以上飛行機を乗り継いで、S国に到着した。

 

かって海の覇者となり、陽が沈む事なき大国などと言われたこの地も、今ではヨーロッパの一小領に過ぎない。経済的にも発展しているとは言えず、独立運動をしている連中まで内部に抱えて、政情は決して安定しているとは評しがたい。

 

それらの情報は飛行機の中で見たが、実際ついてみると、空港ですぐに国連軍の人が出迎えに来ていて、車に乗せられた。車はロケットランチャーの直撃まで防ぐ仕様であり、危ない目に遭う以前の問題だった。

 

すぐに港に向かい、国連軍の巡洋艦アイランズに乗せられる。大量のトマホークミサイルを搭載している強力な最新鋭艦で、乗った時点で嫌な予感がした。そこで、ようやく今回の編制について聞かされた。

 

会議室で編制を見て、スペランカーは思わず素っ頓狂な声を上げていたくらいである。

 

「え? アーサーさんですか!?」

 

「そうです。 今回はかなり危険なミッションになる可能性が高いとお考えください」

 

度肝を抜かれた。

 

アーサーは超一流のフィールド探索者で、彼が出張ると言う事は、よほど危険な事態になっているという証拠である。一流と聞いていたが、実際は更に上だった、という事だ。

 

その割に、会議室で示された情報は極めて限定的で、アーサーも「かっての親友を説得するため」出てくる、というものだった。

 

やがて、アーサーが船に乗ってきた。

 

盟友とスペランカーを呼んでくれるアーサーは、騎士そのまんまの格好をした豪快な人物である。だが、今回はどうも様子がおかしいと分かっているらしく、スペランカーが見ていないところでは、むっつりと黙り込んでいた。

 

そして、ニャームコ島についた。

 

島に着くまで、殆ど表面的な情報しか出されなかった。ニャームコ博士が犯罪組織に荷担している可能性が高く、島は軽度のフィールドである事を良いことに、盗賊団のアジトになっている。だから、ニャームコ博士を確保して欲しい、というものだ。

 

それならアーサーだけで充分なはずである。魔界と呼ばれる超難易度のフィールドを今まで何度も潰してきているほどの手練れなのだ。

 

なのに、スペランカーが一緒に出る。

 

これだけで、何かあると言っているようなものである。何度目かの会議で、たまりかねてアーサーが発言した。

 

「そろそろ、本当のことを話して貰おうか」

 

「そう言われましても」

 

気が弱そうな国連軍の事務官は、アーサーの眼光を浴びて露骨に怯えた。アーサーは、地獄をかいくぐってきた戦士である。戦うときには、凄まじい殺気を放つし、その眼光は怪物達をひるませもする。

 

国連軍の事務官はまだ若い男で、多分エリートではあるのだろうが、この仕事を押しつけられたのが見え見えだった。内心同情もしたが、しかし此方としては命にも関わることなのである。

 

「ニャームコは確かに我が盟友だが、たかが盗賊団がいるかも知れない、というくらいで、スペランカーどのが一緒に呼ばれる理由などあるまい。 スペランカー殿の特性については、貴殿らも把握しているはず。 今回の一件、星の海から来た邪神が関わっているのでは無いのか」

 

「ご、ごめんなさい、分からないんです! 僕だって、今回の仕事で初めてで、それなのに貴方たちみたいな大物二人に説明しなくてはならなくて!」

 

泣きそうになるエリートどの。

 

スペランカーが、眉尻を下げて、アーサーの鎧の肘辺りを掴んだ。

 

「アーサーさん」

 

「分かっておる。 こやつは所詮小物。 一体今回の任務の裏には、何があるのやら」

 

半泣きになりながら、エリートは説明を進める。

 

島の見取り図を出す。フィールド化しているのは、その島の半分。上陸地点がある砂浜と、その周辺にある居住区、今の中央ほどにあるニャームコ博士の住戸を除く地点が、だいたい全てフィールドになっているという。

 

遠距離から撮影した写真を見せられる。

 

シックな教会や、何故か機関車、密林地帯などが見て取れる。明らかに手を入れられた環境だ。これらは全てフィールド化しており、動いている何かの影も確認できるという事だ。

 

「で、我が輩は、ニャームコを説得して、出頭させればよいのだな」

 

「お願いします。 スペランカー様は、サポートに徹してください」

 

「……」

 

アーサーはもう一度じろりと事務官をにらむ。

 

結局、島に到着するまで、それ以上の情報は出なかった。

 

 

 

そして、今である。

 

ニャームコ博士が逃げたことを、無線で連絡。既に島のフィールド化していない部分には国連軍の特殊部隊が待機しており、博士が出てきたら即座に逮捕できる態勢が整っている。また、海上には三隻のフリゲート艦が来ており、博士がモーターボートなどで脱出しないよう、見張りをしているそうだ。

 

しかも、海上を飛び回っているのは、対潜ヘリだ。潜水艦を使っても、逃げ切ることは無理という事である。

 

完全に臨戦態勢だ。ニャームコ博士は、一体何をしたのか。実験とは、それほど危険なものなのか。

 

一瞬、星の世界から来た邪神のことを思い浮かべる。だが、思い込みは解決を遅らせる。柔軟に考えなければならない。

 

部屋からのそりと出てきたアーサーは、床は追撃不可能な状態だったと嘆息した。そして一旦洋館を出るように、スペランカーに促す。頷くと、メイドロボットの案内も受けないまま、小走りで洋館を出た。ニャームコ博士は、十中八九、フィールドに逃げ込んだことは間違いない。

 

「スペランカー殿、ニャームコに何か感じたか」

 

「いいえ。 邪神の気配は何も」

 

「そうか」

 

以前の戦いで、スペランカーは体内に邪神ダゴンを取り込んだ。その結果、邪神の気配を感じ取れるようになった。

 

だが、それは人間の業を、更に深く目にする結果にもつながっている。

 

邪神に何かしらの形で関わると、碌な末路を迎えない。

 

ただし、スペランカーの父が既にそういう人物だったこともあり、衝撃は少ない。ただ、今は悲劇が出来るだけ拡散しないことを、祈るばかりだ。

 

しかし、人の業は邪神とは関係ない場所でも、その闇を広げる。今回は邪神が関わっていない可能性があるとは言え、悲劇が無いとは言い切れない。

 

アーサーが、ちょっとだけ安心したのを、スペランカーは見上げて分かった。なんだかんだで、まだ友達を助けることを、諦めていないのだ。

 

それでも、何かあったときのために、ブラスターを抜く。

 

林の脇道に入る。洋館の中から、メイドロボットが無表情で、此方を見ていた。もう彼女には用は無いし、邪魔をされても困る。幸い、彼女が攻撃をしてくる様子は無かった。

 

林の中に踏み込むと、落ち葉がうずたかく積もっていて、かなり歩きにくい。洋館の中以外、メイドロボットは一切手入れをしていないらしい。アーサーが腰に付けている剣を抜くと、ブッシュを払う。剣がひらめく度に、枝だが葉が鋭く切り落とされ、飛ばされ、路を作る。

 

そのまま、彼の後をついて歩き始める。

 

林は、外観よりもずっと広かった。内部は入り組んでいて、アーサーは目印も兼ねて、ブッシュを伐採している様子である。だが、意外にもあっさり、林を抜けることになった。

 

多分それは、島の外から見えていた機関車だろう。

 

黒光りする巨体が、まるで食事を終えた大蛇のごとく、ふてぶてしく横たわっている。近づいて見上げるが、非常に頑強そうで、レールさえあれば現役で走れそうだ。まるまるとしたデザインの機関車の上には、古風な煙突と、それに古めかしいが存在感のある大きなベルがついていた。

 

草を踏む気配。

 

振り返ると、其処にはとても面白い姿をした存在がいた。

 

鼠、だろうか。ただしブルーの制服をしっかり着込んで、警察らしい格好をしている。腰のホルスターには拳銃を提げていて、隙無くエンブレムがついた帽子を被っていた。顔はデフォルメされた雰囲気は無く鼠そのもので、長い前歯が見え、お尻には細い尻尾がついている。

 

背丈は百二十センチほどで、スペランカーよりもだいぶ小さい。体自体も丸っこく、機敏そうには見えなかった。

 

様々な異形を見てきたスペランカーには、これくらいは驚きに値しない。相手が綺麗なエスペラントで喋ったとしてもだ。

 

「アナタ方は? ワタシが知る人間ではないようですが」

 

「我が輩は騎士アーサー。 此方はスペランカーどの。 我らはある理由からニャームコ博士を捕らえに此処に来た。 貴殿と戦うつもりは無い」

 

「ニャームコ! 奴がまた何か盗んだのですか!」

 

アーサーが礼儀正しく名乗りを上げると、鼠警官は、尻尾を立てて怒りの表情を見せる。彼は何者だろうか。恐らく、彼であっているはずだ。それにしても、人間にサイズが近いからだろうか。歯を剥いて怒る姿は、愛らしいと言うよりも猛獣を思わせるものである。

 

しかし、何だろう。この違和感は。

 

どうも、さっきからこの鼠に、妙な齟齬を感じるのである。頭が悪いスペランカーには分からないが、アーサーは気付いているかも知れない。

 

アーサーは冷静に鼠警官を見ていた。やがて鼠警官は、非常に綺麗な敬礼をした。

 

「失礼しました、騎士どの、それにレディ。 ワタシ、いえ本官はマッピー。 この島の唯一の警官であります!」

 

「そうか。 ニャームコ博士とは、因縁の仲なのか」

 

「よく知っていると言えば知っている間柄であります。 ただ、奴が博士であったとは知りませんでした。 奴を捕らえるのであれば、協力させていただくのであります」

 

アーサーが目を細めた。その細め方には、スペランカーは見覚えがあった。

 

既にアーサーは若者とは言いがたい。戦場で自分を練り上げてきた、歴戦の武人と言える存在だ。だからこそ、独特の雰囲気がある。その戦士としての雰囲気が、わずかに漏れ出るのを、スペランカーは感じ取った。

 

やはり、怒りか、或いは。

 

警官は意外に身軽な動作で機関車の上にひょいひょいと飛び乗ると、手招きをする。案内をしてくれるというのだろう。

 

あの体で、あんな機敏な動きが出来るとは思えない。何かしらの特殊能力か。

 

「スペランカー殿、不審を感じたか」

 

「はい。 悪い子だとは思えないんですけど」

 

「我が輩は、むしろ悲しい運命を感じるな。 とにかく、今は後を追おう」

 

アーサーが、機関車の側面についているはしごを、手慣れた動作で登りはじめる。運動神経がとても鈍いスペランカーは、ちょっともたつきながら、ついていった。

 

機関車は何両編制なのかよく分からないが、とにかく遙か遠くまで続いている。客車の屋根が延々と連なっている様子は、やはり大蛇の背中を思わせた。黒光りする機関車と、茶色を基調としたシックな客車の組み合わせ自体は、とても美しい。

 

マッピーは周囲をしきりにうかがっている。拳銃に触らないという事は、あれは威圧用の飾りなのかも知れなかった。

 

「この辺りは、既にミューキーズの縄張りであります」

 

「ミューキーズとな。 それは何者か」

 

「え? ニャームコを追っているという事でしたが……」

 

「関係があることなのか」

 

不意に、周囲から無数の猫の鳴き声。

 

そして、機関車の前後左右に、大量の、対の光が現れる。それがピンク色をした、マッピーよりは若干小さい猫だと言う事に、すぐに気付く。というのも、マッピー同様の機動力を駆使して、機関車の背中に飛び上がってきたからである。

 

いずれもが、猫なのに四つ足では無く、二本足で立っていた。それでいながら、若干猫背で、手には剣のように鋭い刃が何本か見て取れる。

 

此処がフィールド認定されているのは、何度か調査官が行方不明になり、ニャームコ博士が追加調査を拒否したことが引き金となっている。調査官というのは、当然普通の警官では無い。戦闘経験がある国連軍の特殊部隊出身の憲兵だ。勿論、軽度のフィールドという扱いだが、しかしこの数は。

 

「こやつらが、ミューキーズか」

 

「そうであります。 おかしいですね、ミューキーズが外で散々悪さを働いていると聞いていたのですが」

 

「アーサーさん!」

 

一斉に、ピンク色の猫たちが、動物とはとても思えないほどの連携で飛びかかってきた。全方位からの一斉攻撃。

 

数十匹が同時に空に舞う姿は、ある意味美しくもあった。

 

鋭い一撃が、スペランカーを袈裟に切り裂く。どうやら、普通の爪では無い。手に何か爪状の強力な刃物を仕込んでいるらしかった。

 

意識が戻ったとき、スペランカーの血を浴びた猫の死骸があった。

 

いや、それは死骸では無い。

 

残骸、だった。

 

辺りは阿鼻叫喚の戦闘中である。アーサーが次々に出現させた斧や剣で猫たちを切り払っているのだが、音が異常だ。まるで鉄の塊でも斬ったかのような、ものすごい音がしている。それだけではない。

 

達人級の武人であるアーサーが斬っているのに、猫はひるまない。一度吹っ飛んだ後、またとんぼを切って立ち上がり、また何度でも何度でも飛びかかってくる。

 

今度は首を飛ばされたらしい。意識が途切れる。

 

蘇生したときには、まだ戦闘が続いていた。

 

少しずつ、辺りに残骸が増えていく。異常に頑丈な理由はよく分かった。だが、それにも限界があるらしかった。

 

頭を振り振り立ち上がる。二十回は殺されたか。

 

アーサーが、手にしていた投げ斧を消す。その目は、鋭く辺りを見据えていた。

 

「スペランカー殿、立てるか」

 

「何とか大丈夫です」

 

「驚きました。 本官は、そのようによみがえる方を見るのは、初めてであります」

 

マッピーの驚きの声を聞いて、スペランカーは確信を得た。

 

立ち上がる。辺りはそれこそ攻撃機の銃撃でも浴びたかのような、ものすごい有様だった。

 

だが、機関車の屋根が、見る間に傷を回復していくのを見て、スペランカーは度肝を抜かれた。

 

「えっ……!?」

 

「この島を作った神様の手による奇跡であります。 ミューキーズが壊そうが、本官が壊そうが、必ず何でも元に戻るのであります」

 

「……」

 

アーサーが、マッピーが見えない位置で、スペランカーに向けて頷いた。

 

少しずつ、異様さの正体が分かりはじめていた。

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