オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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2、密林の死闘

歩いていると、ようやく機関車の先頭が見えてきた。正確には、最後尾という所だろうか。

 

何度かミューキーズの襲撃があった。だが、その全てを、とりあえずは退けることが出来た。猫なら夜からが本番だろうかと思い、日が暮れ始めたのを見て少し不安になったのだが。マッピーは、ミューキーズは子供だから夜にはおねむだとか言い出した。事実、日が暮れてから、あのピンクの猫たちは姿を見せなくなった。

 

ただ、スペランカーにも分かる。

 

一戦ごとに、猫たちの動きが速く、的確になってきている。

 

特に三回目の襲撃からは、スペランカーを避けて動くようになっていた。ただし、アーサーの死角に必ずスペランカーは入って、攻撃を防ぐようにしていたが。しかも、アーサーの剣を避ける個体まで現れ始めていて、動き自体も早くなってきている。

 

一度、無数の魔界を通り抜けたアーサーの首筋に、猫の爪が届きかけたくらいである。その時はスペランカーが体当たりして、どうにかほんの一瞬だけ時間を稼ぐことが出来たが。

 

マッピーはというと、随分不思議な戦い方をしていた。ちょっと形容しがたく、スペランカー自身も、まだ見たものを整理し切れていなかった。

 

「それにしても、騎士どの。 スペランカーどののあの力は、何なのでありましょう」

 

「スペランカー殿は、ある邪神から不死の呪いを受けておる。 それの特性は不老不死でな。 死んでも自動的に欠損部分を周囲から補填して復活する」

 

「それは、不思議な話であります。 血を浴びたミューキーズが倒れたのも、スペランカーどのが蘇生したのも、それが理由でありますか」

 

スペランカーは、気付く。

 

アーサーが、重要な説明を省いたという事を。

 

邪神の祝福とも言える、スペランカーの体を覆っている呪いには、もう一つ大きな特性がある。

 

それは何かしらの悪意ある攻撃により死を迎えた場合、攻撃者から損失部分を補填する、というものだ。

 

だが、さっきの猫たちには、それが通用しなかった。直に血が掛かった場合のみ、相手は倒れていた様子だ。

 

無理も無い話である。

 

何しろ、倒れている猫たちは、いずれもが。

 

素人であるスペランカーでさえ、理由は分かった。

 

それに蘇生はノーリスクでは無い。復活時、電気ショックのような痛みが走る。着衣までは完全に再生しない。

 

だから激しい攻撃を受けると、全裸になってしまうこともあった。スペランカーは体型がとても貧弱なので、とても恥ずかしい話である。

 

「アーサーどのは、本官が見たところ、次々にどこからともなく武器を出していたようですが」

 

「あれは我が輩の能力、ウェポンクリエイトだ。 我が輩の体重以下の武器であれば、体力と引き替えにいくらでも作り出すことが出来る」

 

「なんと不思議な」

 

「いや、マッピー殿の能力も中々に面白い。 使い勝手がありそうではないか」

 

非常に身軽に機関車に乗った能力。あれが、やはりマッピーが持っている特殊な力であるらしい。

 

まだ正体についてはよく分からないが、それでも結構使い出がありそうだ。高々と飛び上がることが出来るだけでも、結構役に立つものなのである。ましてやマッピーは、あれだけ全方位からの攻撃を受けていながら、一度も被弾していないのである。

 

機関車の最後尾に到着。

 

積み木で作った駅のようになっていた。ホームはかなり長いが、路線は一つしか無い。はしごを下りると、其処には髭を蓄えた、奇妙な駅員がいた。その丸顔、何処かで見覚えがある。というよりも、ついさっき見たばかりの顔だ。

 

ニャームコ博士。

 

背丈は最初会ったときに比べて、若干小さい。それでも百四十センチくらいはあるだろうか。

 

蓄えている髭は時代錯誤的な武将髭で、着込んでいる黒を基調とした駅員の制服も、おなかがぱんぱんにはち切れそうである。

 

アーサーは剣を抜かない。武器も作り出さない。

 

改札で無表情に立っている猫に対して、マッピーは無言で近づいていき、切符を三枚出した。

 

「三人だ。 通して欲しい」

 

妙に堅い動作で、ニャームコ博士らしき者は後ろを向く。

 

マッピーが手招きしてきた。

 

「通ってください。 本官が此処は切符代を都合します」

 

「スペランカー殿、お言葉に甘えよう」

 

「はい。 ……そうですね」

 

この島は、一体何だ。

 

スペランカーの中で、ある嫌な予感が、加速度的に膨らみつつあった。

 

アーサーは、ニャームコらしい存在に見向きもしない。一瞬だけスペランカーは振り向いたが、その時にはニャームコ博士らしい者は、汽車に向き直っていた。そして、その顔には、表情どころか、感情の残滓さえ無かった。

 

駅の改札を抜けると、路どころか、草ぼうぼうの野原が続いている。

 

既に夜と言う事もあるが、明かりも無いので、どこに何があるか、全く分からない。野宿自体は慣れっこだが、ちょっと不安がよぎる。

 

この駅は、一体何の目的で作られた施設だ。

 

機関車の末尾に、ただぽつんとあるだけの駅。駅の改札を出てしまうと、街がある訳でも無く、無人の原野が広がっている。

 

リラックスしている様子のマッピーに聞くと、更に不可解な言葉が返ってきた。

 

「マッピーさん、この辺りは安全なの?」

 

「安全であります。 この辺りは中立地帯なので、時々海岸にいる方々も、果物を取りにきたりしているのでありますよ」

 

「あの猫さん達は盗賊団なんでしょ? 襲われないの?」

 

「中立地帯は絶対であります。 ミューキーズも、中立地帯で誰かを襲うことは無いのであります」

 

アーサーが咳払いした。

 

そのまま、キャンプの準備に取りかかる。手慣れた動作でアーサーがリュックを降ろし、天幕を張り始めた。

 

一度街に戻る余裕は無い。仮眠を取ったら、すぐに奥へ行かなければならない。歴戦のアーサーは、当然マッピーも信用はしていないだろう。和気藹々と応じてはいるが、いざとなれば交戦も辞さない覚悟に違いない。

 

交代で、仮眠を取ると言うと、マッピーは不思議そうに言った。

 

「本官は睡眠など必要ないであります」

 

「そうか、疲れたら言って欲しい」

 

「了解であります! ゆっくり休んでくださって構わないのであります」

 

マッピーは敬礼すると、側の木に寄り添い、空を見上げた。

 

スペランカーは何度か彼とアーサーを見比べた後、声を落としていった。

 

「アーサーさん」

 

「とうに気付いているだろうが、あのミューキーズと言うものども、戦闘用のロボットであるな」

 

「やっぱり、そうですよね」

 

アーサーが斬った後の切り口が、異常だった。

 

機械が露出していた、というのとは違う。だが内蔵がはみ出しているわけでは無く、白い液体が大量に流れ出ていた。斬られた跡も、肉が見えるのでは無く、皮と、白い液体にまみれたよく分からないものが見えるばかりだった。

 

アレは恐らく、人工血液という奴だ。

 

「我が輩は世界最強のロボットと言われるRと同じ会社にいるから色々聞かされているのだが、今のロボットというものは、全てを機械部品にするのではなく、生体部品を組み合わせて柔軟な運用をするのが主体だそうだ」

 

「マッピーさんも、そうなんでしょうか」

 

「此処は軽度のフィールドだ。 何があってもおかしくは無い。 それにあの不自然な言動、やはりプログラムを組み込まれたロボットの可能性があるな。 貴殿に言っても釈迦に説法かとも思うが、努々油断為されるな」

 

「……」

 

見張りをするから寝るようにと言われて、スペランカーは言葉に甘えることにした。

 

しばらくして、交代する。マッピーはまだ動かず空を見ていたので、後ろから歩み寄った。振り返ったマッピーは、鼠の顔をくしゃくしゃにして笑った。

 

「どうなさいましたか、スペランカー殿」

 

「マッピーさんは、ずっとおまわりさんをしているの?」

 

「そうであります。 本官はこの島で生まれてから、ずっと法と正義の味方なのでありますよ」

 

誇らしげに、マッピーは言う。

 

以前は、此処では無く、別の「屋敷」がミューキーズとの主戦場であったという。其処ではミューキーズが盗んだ様々なものを取り返しながら、その首領であるニャームコと何度も激しい戦いをしたのだそうだ。

 

「本官との長い戦いの末に、奴らは本拠を放置して撤退。 その後はしばらくは平和が続いたのであります」

 

「……」

 

この島が、盗賊団のアジトになっている可能性が高い。それが、今回島を覆うフィールドを潰すべく、スペランカーが呼ばれた理由だ。

 

だが、この子は雰囲気的にフィールド探索者に近い。

 

実力も充分だ。中堅どころ以上の力は、確実に持っている。それなのに、ずっと戦いは続いているというのか。

 

「今も、えっと、ミューキーズと戦っているの?」

 

「ええと、ちょっと恥ずかしいのでありますが」

 

頬を赤らめながら、マッピーは言う。

 

今は婚約者がいて、彼女に送るプレゼントを集めているのだそうだ。ミューキーズはその邪魔をするべく、毎度現れるのだという。

 

一警官の邪魔をするべく毎度ちょっかいを出してくる盗賊団かと、スペランカーは心中で呟いていた。

 

「婚約者も、鼠さんなの?」

 

「はい。 マピコというのですが、とても綺麗で、本官にはもったいない女性なのであります」

 

ただ理想がとても高く、きちんとしたプレゼントを持っていかないと、満足してくれないのだそうだ。

 

少し前までは、高級なチーズ類の詰め合わせを求めていた。今は結婚のために、指輪を得ようと必死なのだという。

 

「でも、本官の安月給だと、なかなか」

 

「……」

 

よほど強欲な女性ならともかく、本当に好きあっているのなら。婚約者が危険を冒し続けるよりも、側にいてくれる方が嬉しいのでは無いのか。

 

スペランカーも、若い頃に発育が止まってしまっているとは言え、女だからある程度は分かる。惚れた弱みという奴なのだろうか、それとも。

 

やはり、何かがおかしいのか。

 

アーサーが起き出してきた。

 

ニャームコのいる所に、心当たりがあると、マッピーはいう。

 

指さした先には。巨大な木々が生い茂る、密林があった。

 

 

 

密林の中は案外過ごしやすい。暑さの割には湿度が低いからだろう。

 

ただし、かなりの頻度でスコールが来るそうで、その時は木の下に逃げ込むしか無いそうだ。傘など差しても無駄だと、マッピーは言う。

 

「この辺りから、またミューキーズの縄張りになります」

 

「ミューキーズか。 奴らはどれくらいいるのだ」

 

「本官が知る限り、襲撃をかけてきているのでだいたい全部のはずでありますが」

 

「……」

 

そうなると、アーサーが斬った分だけ増えているのか、それとも再生しているのか。

 

機関車があっという間に再生するのを間近で見たのである。この島のフィールドによる特性かも知れない。いずれにしても、何が起きても不思議では無い。

 

巨大なシュロの木。椰子の木もある。

 

足下はそれほどブッシュもひどくなく、歩き回るにはそれほど苦労しなかった。ただし木の根が地面を這い回っていて、ちょっと油断すると転んでしまう。

 

転ぶ度に死ぬ事になるので、難儀な話だ。服も汚れてしまうし。消耗品とはいえ、服が汚くなるのは悲しいのだ。

 

「来たな」

 

アーサーが手元に大きな騎乗槍を出現させる。

 

同時に、四方八方から、ミューキーズが襲いかかってきた。猫の鳴き声がやかましい。この狭いところで槍かと思ったが、アーサーの武力を信頼しているので、何も言わない。

 

案の定アーサーは、揺るがない。

 

槍を次から次へと出現させては、木の間を縫うようにして投擲。そのたびに猫の体が串刺しにされ、吹っ飛ぶ。木々が林立しているからこそに、猫は避けられない。

 

マッピーが、高々と跳躍。

 

そして、木々の間を飛び回り、敵の頭上を取った。

 

墜ちてきた椰子が、猫の頭を直撃、木っ端みじんに粉砕する。椰子の実の破壊力では無い。

 

着地したマッピーに、四匹の猫が同時に躍りかかる。

 

マッピーが旋回しつつ、地面を撫でた。

 

飛び上がったように見えた何か。草か。草が猫たちの動きを止める。蔓が絡みついたのでは無く、猫が草に飛びつき、しがみついたのだ。

 

「猫じゃらしの効果はてきめんであります!」

 

動きを止めた猫。マッピーの背後に、大きな影。

 

ニャームコ博士。いや、腰蓑を巻いた原住民のような姿だが、やはり最初見た時と背丈が違う。

 

パワーは猫たちとは桁違いのようで、繰り出した蹴りがクレーターを穿った。猫じゃらしとやらにじゃれていたミューキーズもろとも、マッピーが吹き飛ばされるが、とんぼを切って着地。

 

その間スペランカーは、アーサーの死角に廻ろうとしていたミューキーズに飛びつく。小さい相手だから、それで動きは止められた。振り切られるが、アーサーに時間を作ることは充分に出来る。

 

立ち上がったマッピーが、仇敵に対して吠えた。

 

「ニャームコッ!」

 

返事は無い。

 

拳法家のような構えを取るニャームコに対し、マッピーが楕円形の何かを投げつける。露骨にそれを見るニャームコ。

 

掃討を終えていたアーサーが、即座に首をはね飛ばした。

 

墜ちていたのは、楕円形をした黄金の物体。どうやら、小判らしい。しかしどう見ても黄金では無く、細工物だろう。

 

マッピーが、嘆息する。

 

その背後から、生き残ったミューキーズが仕掛けてくる。鋭い爪が、対応しきれないマッピーに殺到。

 

だが、スペランカーがマッピーを突き飛ばして、間に入った。

 

全身が八つ裂きにされたのが分かった。

 

蘇生したときには、もう戦いは終わっていた。マッピーも手傷をかなり受けていたが。

 

警官の服は、緩慢に再生しつつある。体の傷も同様のようだ。

 

それに対して、死んだ猫たちやニャームコの亡骸は、溶けて地面にしみこんでいく。その有様はおぞましくもあり、どうしてか不思議に滑稽でもあった。

 

「助かりました、スペランカーどの。 アレを受けていたら、本官は耐えきれなかったでありましょう」

 

「うん。 みんな、溶けちゃったね」

 

「少し休むだけであります。 またすぐに出てくる事でありましょう」

 

「ええと、疑問があるんだけど」

 

スペランカーは、咳払いをして、ぼろぼろになりつつある服をつまんだり伸ばしたりして、出来るだけ肌色の露出が少ないように整えながら言った。

 

「マッピーさんは、悪い人たちを逮捕したりしないの? 攻撃にかなり躊躇が無かったようだけれど」

 

「貴方が言う逮捕とは、なんでありますか? ミューキーズはああやって戦って、いつも休ませているのであります。 ニャームコもそれは同じでありますが。 それが本官にとっての逮捕であります」

 

絶句する。

 

だが、アーサーは首を横に振る。

 

「やはりな。 マッピーどの、貴殿の警官としての定義は、我らの知るものとは大きく違うようだ」

 

「……え?」

 

「とりあえず、此処を抜けてから話そう。 此処は見晴らしも悪く、奇襲を受けると面白くない地形であるからな」

 

アーサーの表情は、既に戦士としてのものだった。

 

 

 

川にさしかかる。

 

小さな島とは思えないほど、幅が広い川だ。マッピーは蔦を渡っていけると言ったが、騎士鎧を着ているアーサーはそうも行かない。アーサーはしばらく思案した末に、木を何本か切り倒し、それで手際よく筏を作った。

 

川の中は巨大な魚がうようよしている。ピラニアとか、デンキウナギとか、そんなのがいてもおかしくない。

 

下手に踏み込めば、瞬く間に彼らの餌にされてしまうだろう。そんなリスクは、出来るだけ避けたい。

 

「本官は、先に向こう岸に渡るであります」

 

「うむ、渡河の直後には気をつけられよ」

 

「了解であります」

 

蔦を伝って、ひょいひょいと飛んでいくマッピー。

 

少し分かってきた。彼が触った蔦は、まるで生き物のようにたわんでいる。あれが恐らく、彼の能力だ。

 

スペランカーも不器用ながら、筏の作成を手伝う。リュックから縄を出して、それで木々を縛ったアーサーが強力を発揮して、丸太を成形していく。やがて、五本の丸太を連ねた筏が出来た。

 

川に手を入れて、流れの速さを測る。

 

川幅は広いが、流れ自体はさほど早くない。アーサーは川の様子を腰をかがめて見つめた。

 

「最悪の場合、我が輩は鎧を脱いで、切り札を使う。 スペランカー殿は、その場合どうする」

 

「浮き上がるのに時間が掛かるかも知れませんが、どうにかします」

 

「そうか。 武運を祈る」

 

筏を出す。

 

渡河は上陸直後が一番危ないと、アーサーは言う。向こうでマッピーが待っているが、あの様子からすると、大丈夫だろうかと思った直後。

 

とてつもなく嫌な気配を、スペランカーは感じた。

 

「邪魔をするな……」

 

どこからか、重苦しい声が聞こえてくる。

 

耳鳴りがした。川の中には、これといって危険な気配は無い。危ないのは、向こう岸の、もっとずっと向こうだ。

 

アーサーは気付いていない。無言で、ウェポンクリエイトで作り出した櫂を漕いでいる。何でそんなものを出せるのかと聞いたら、かって決闘で使われたから、らしい。J国の昔の話だと聞いて、ちょっと驚いたが。今はそれどころでは無い。

 

耳を押さえたスペランカーに、アーサーは目を細める。

 

川の半ばを超えた辺りで、嫌な気配は消えた。

 

「異星の邪神かな」

 

「はい。 おそらくは間違いないと思います。 あー、頭が痛いです……」

 

「それほど強力な反応だったのか」

 

「ちょっと、その辺りの邪神とは格が違うかも知れないです。 救援を呼んだ方が良いのかなと思いますけれど」

 

既に無線は使えない状態だ。やるとしたら、此処の開けた地形を利用するほか無い。

 

夜になったら、所定の閃光弾を打ち上げれば、増援を手配できる、かも知れない。だが、今回のフィールド探索には、色々ときな臭い部分が多いのだ。

 

これではっきりしたが、国連軍は此処に邪神の存在を察知したから、手練れを二人もぶつけるという行動に出てきた。スペランカーは自身が手練れだとは思っていないが、周囲はそう思っているのだから、此処ではそう前提して話を進める。

 

それなのに、どうして戦力を出し惜しみしているのか。

 

以前、異星の邪神としては小物であるアトラク=ナクアを討伐する際には、大人数のチームが組まれた。

 

今回は、支援のメンバーさえいない。ただ二人となると、手練れとはいえかなり心許ない部分がある。国連軍は別に腐敗した組織では無いが、やはりその裏には巨大な利権が動いているのも事実。

 

一体、この島の影には、何があるのか。

 

対岸に着いた。

 

そして、アーサーが上陸した途端に、周囲に無数の光が出現。そして、不意に筏が流れ出す。慌てて対岸に飛び移ったが、リュックがそのまま流されて行ってしまった。ブラスターだけは手にしているが、これはひどい。

 

さっき死んだはずのニャームコの姿もある。やはり、腰布だけを巻いた格好だ。そして、ミューキーズも、先の襲撃と、ほぼ同数。

 

「休んだ結果」という奴なのか。

 

半円状に包囲されているこの状況、あまり良いとは言いがたい。それに、敵の動きは、一回ごとに的確になってきている。

 

あまり時間は無いと思った方が良いかも知れない。

 

アーサーが、一気に勝負に出た。

 

鎧の周囲に、回転する無数の投げ斧が出現する。

 

「GO! FIRE!」

 

かけ声と共に、猫の群れに大量のトマホークが躍りかかった。それはうなりを上げながら、数匹の猫を巻き込み、白濁した液を周囲にぶちまける。

 

だが、スペランカーは気付いている。

 

毎回、アーサーが違う武器を出現させていることを。投げ斧にしても、この一斉砲撃は、もう次には通じないだろう。

 

半減した猫たちだが、意気は衰えていない。泥濘を踏み越え、跳躍。一斉に空に舞い、中空から躍りかかってきた。

 

アーサーが前に出る。マッピーもそれに続く。

 

マッピーが腰から引き抜いたのは、魚だ。ものすごく生きが良くて、ぴちぴちと跳ねている。

 

さっきまで死んでぐったりしていたのに、である。

 

「喰らうであります!」

 

放り投げた魚に、ミューキーズの何匹かが気を取られる。

 

一直線に、アーサーが駆け抜け、気をそらしたものから斬り伏せられた。だが、猫の動きが速い。対応も。

 

アーサーの鎧が、ついに猫の爪に掛かる。抉りあげるように切り上げたニャームコの一閃が、アーサーの鎧の肩当てを切り裂いた。

 

同時に、アーサーの鎧が吹っ飛んで、パンツ一丁になる。

 

前にも見たことがあるが、衝撃的な光景だ。筋肉質だが、胸毛がぼうぼうで、しかもパンツはイチゴ柄である。

 

ダメージを、鎧をパージすることで殺しているらしいのだが、この瞬間アーサーは完全に無防備になる。

 

だが。無防備になるとは言え、アーサーの攻撃能力が無くなるわけでは無い。

 

瞬時にアーサーが振り下ろした剣が、ニャームコらしきものの頭をたたき割った。だが、全くひるまず、数匹が躍りかかる。

 

泥を蹴って走ったスペランカーが、間に入る。

 

ぴたりと、猫が止まった。其処に、真横からマッピーが投げたらしい何かが直撃、猫が数匹まとめて木っ端みじんに消し飛ぶ。

 

見ると、砲丸のような球体だ。

 

怒りの猫の声。

 

不意に、猫たちが撤退に掛かった。ほんの数秒で、まとめて姿を消してしまう。

 

やはり倒されたミューキーズもニャームコ達も、溶けて泥濘の中に消え去っていった。思えば、汽車の上で倒した連中も、こうやって消えていったのだろうか。

 

「ふう、短い攻防だったが、かなり危なかったな。 絶妙なタイミングでの防御、助かった。 礼を言うぞスペランカーどの」

 

「アーサーさん、その」

 

「おおっと、淑女の前であったな。 すぐに鎧を再構成するから、待たれよ」

 

鎧が戻ってほっとする。

 

マッピーは状況が分かっていないらしく、ひたすら小首をかしげていた。

 

「騎士どの、先ほどから動きが悪くなってきていませんか」

 

「違うよ。 ミューキーズの動きが良くなってきているの」

 

「マッピー殿は感じないのか」

 

「ええと、本官には分かりません。 かれこれ十年は戦っていますが、そのような感覚を味わったことは一度もありませんし」

 

少し休憩したい。

 

川を見れば、既に筏は影も形も無い。リュックにあった食料や物資類は全部パアだ。決戦になればいつも無くしてしまうものだとはいえ、その途上で、となると痛い。

 

ヘルメットを被り直す。

 

少し歩くと、いきなりジャングルが消えた。森が開けて、草原に出たのだ。あまりにも急激過ぎる変化に、思わず振り返ってしまったほどである。

 

代わりに周囲は不意に夜になる。

 

時計を見ると、まだ昼の二時半である。もう滅茶苦茶だ。

 

「此処は中立地帯なのであります」

 

「……ならば、少し休もう。 それとマッピーどの、貴殿には色々と話を聞きたいのだが、良いか」

 

「本官でよろしければ」

 

アーサーに、任せた方が良いだろう。スペランカーでは、上手に話を聞き取る自信が無い。

 

不意に出てしまった常夜の世界で、マッピーはまず火を熾すと、たき火を囲んで座った。

 

「まずは聞かせて貰おう。 そもそも、何故マッピー殿は警官になったのだ」

 

「市民の正義と安全を守るためであります」

 

「市民とは、具体的に誰のことか」

 

「この島に住む全ての人々であります」

 

理想的な応えに思える。実際、これだけのことをしっかり考えている警官が、どれだけいるだろうか。

 

殆どの警官は、こう答えるのでは無いか。

 

お給金を貰うため。生活のため。

 

実際、それが劣った理由では無い。だが、志が伴っているとは言いがたい。

 

立派な志を持っている警官も当然存在している。スペランカーも見たことがあるし、話をした事だってある。もしもマッピーが心の底から今の言葉を言っているのであれば、素晴らしいことだ。

 

だが。妙なずれを、話していて感じるのだ。

 

「マッピー殿は、スペランカーどのが倒されたとき、さほど動揺していなかったな」

 

「動揺するも何も、休めば戻ると思いましたので」

 

「……それはこの島の、全ての住民に共通する事なのか」

 

「はい。 それがどうかしたのですか」

 

やはり、少しずつ、おかしな話が持ち上がりはじめる。

 

常識というものが、狭いコミュニティの中で生じた場合、大変いびつになる事を、スペランカーは知っている。

 

多分マッピーは、自分がおかしなことを言っているとは思っていない。

 

「では、マッピー殿。 貴殿が勤めている警察署は」

 

「警察署とは、何でありましょう。 本官は一人であるが故、常に島の何処かに存在しております。 島の全てが勤め先です」

 

「今まで、ミューキーズと交戦して回収した盗品はどうしたのか」

 

「全て、島の西にある倉庫に集めております」

 

持ち主に返すという発想は無いのかとアーサーが聞くと、島の主が手配をしてくれているはずだと、応えるマッピー。

 

大きくアーサーは嘆息した。

 

「その島の主の名を、知っているか」

 

「いえ、主様としか聞いたことがありません」

 

「島の主の名はニャームコ。 さっきまで交戦していた猫どもの親玉に似ているが、人間のニャームコ博士だ」

 

マッピーが、火に手をかざした態勢のまま、完全に停止した。

 

「スペランカー殿、少し寄り道になるが、良いだろうか」

 

「アーサーさん?」

 

「盗品について、調べてみたいのだ。 我が輩の予想が正しければ、とんでもない事がこの島では進行しているのかも知れぬ。 異星の邪神云々以前の話としてな」

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