オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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4、それぞれの結実

トンネルへの入り口は、意外にあっさり見つかった。やはりメンテナンス用のハッチがあったのだ。

 

その上、マッピーが教えてくれた。

 

中立地帯の中には、聖域という場所があると。其処には近づかないように、言われていたのだと。

 

かって、古代の遺跡を発見する場合、地元の住民が聖域と呼んでいる場所を探せという鉄則があったという。

 

何だか、それを思わせると、アーサーは言った。

 

ハッチは隠されてはいたが、スペランカーが見つけた。わずかだが、邪神の力が内部から漏れてきている。

 

どうやら此処の奥には、邪神がいる。それも、今まで戦ってきた中でも、最大級に強力な奴が、である。

 

しかし、邪神と必ずしも戦わなくて良いことは分かっている。アトラク=ナクアとは、最後にわかり合うことが出来た。他の邪神とだって、同じ事が出来ないとは、言い切れないでは無いか。

 

アーサーがハッチを強引にハンマーで打ち砕く。

 

現れた縦穴は、獣の口を思わせる禍々しい気配を放っていた。ただのはしごがついた、マンホールの穴だというのに。

 

「ゆくぞ。 決戦だ」

 

「増援の手配は」

 

「どうやら間に合いそうに無い。 先ほど信号弾で通信したが、一刻も早くという返事ばかりが来た。 どうやら国連軍では、何かを掴んでいるようだな」

 

アーサーも表情は険しい。

 

この戦いが終わった後、いくつも問いただしたいことがあるのは、彼も同じようだった。

 

 

 

マッピーが踏み入れた、乾いた土の街。かさかさと、丸い草の塊が、風に吹かれて飛んでいく。

 

周囲には木で作った粗末な家。

 

砂塵を吹き上げる風の中、無数のミューキーズが、マッピーを待ち受けていた。

 

その中に、ひときわ大きい影。

 

ガンマンの格好をしたニャームコ。

 

かっては此奴が、盗賊団の首領であると、マッピーは思っていた。

 

何度も殺し合った仲だ。相手の癖から、細かい仕草まで、よく知っている。それなのに、お互いに只の人形で、道化に過ぎないとは気付かなかった。

 

「ニャームコっ! 話がある!」

 

「お前が話しかけてくるとは珍しいにゃあ。 くそまじめなお巡りのお前が」

 

「一つ聞きたい!」

 

お前は何のために、盗みを繰り返す。

 

そう叫んだマッピーに、ニャームコは猫の耳を小指でほじりながら、嫌らしい笑みを浮かべてくる。

 

「欲しいからに決まっているにゃあ」

 

「では重ねて聞く! 島の外で、どうやって盗みをした!」

 

「どうやってって……」

 

ぴたりと、ニャームコが止まる。笑おうとして、失敗したのだ。

 

マッピーは、戦いの前に言われた。

 

「貴殿らはロボットだ。 恐らく思考についても矛盾が生じると、動きが止まることになるだろう。 其処について突いていけば、或いは相手の目を覚まさせることが出来るかも知れない」

 

「承知しました。 試してみるであります!」

 

今、試している。

 

ニャームコの顔から、既にいやらしい笑みは消えていた。それだけではない。ミューキーズ達も、顔を見合わせている。

 

「誰かいつも島の外から来て、お前達に盗品を渡していたのでは無いのか? それは、島の館で働いている、メイド達では無いのか?」

 

「そ、その通りだにゃあ。 だけど、それは……」

 

「そもそも、こうやって暴れるのもどうしてだ! この無線から連絡が来て、そうしているのでは無いのか!」

 

図星を指されたのだろう。

 

完全に、ニャームコが止まった。ピストルに掛けていた手が、かたかたと震えている。

 

そうだ。気付いて欲しい。

 

自分たちが盗賊などというものではないと。そういう設定を背負わされた、哀れな道具に過ぎないのだと。

 

「俺、俺様は……」

 

「もう止せ! 今こそ、長い長い戦いに、終止符を打つときだ! 本官とお前が戦う理由など、本当は無い!」

 

「AAAGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAっ!」

 

絶叫。

 

ニャームコの腹から、手が生えていた。他のニャームコがいる。ミイラ男のような姿をしたもの、吸血鬼の格好をしたもの、海賊の格好をしたもの、それに腰布だけを巻いたもの。

 

全てが、同じ顔だ。

 

体を貫かれたニャームコは、泡を吹きながら、血涙を流していた。目から流れているのは多分オイルなのに、そう見えてしまう。

 

そして、貫いた方のニャームコの声には、感情が全くこもっていなかった。

 

「排除する。 バグが生じた個体は、排除する」

 

「マッピー、お前もだ。 これから全戦力を結集して、お前を滅ぼす」

 

「初期化した後、やり直しだ。 そうすれば、我々は、心を貰える」

 

倒れたニャームコを捨てると、他の連中が、鋭くミューキーズを叱咤。展開について行けないらしいミューキーズ達は、それでも体勢を低くして、今まで幾多の敵を切り裂いてきた爪を構える。

 

マッピーは、決める。

 

この哀れな子猫たちよりも。後ろにいる司令塔こそを、今こそ滅ぼすと。

 

「お前達は」

 

「我らは、途中廃棄されたニャームコだ。 AIにバグが生じたり、構造の途中で欠陥が見つかったりして、捨てられた」

 

「大量生産され、そのたびに知識を移植されてきた我らだが、心はある。 その痛み、悲しみ、ずっと同じ個体として存在し続けている貴様に分かるか。 お前を倒して、そして本当の心を、貰うのだ」

 

鋭い猫の雄叫びが、辺りに轟く。

 

どうやら此処が本当に決戦の場になるらしい。

 

ミューキーズ達が、一斉に跳躍。粗末な屋根や木の壁を蹴り、ジグザグに襲いかかってくる。

 

左右に魚をとりだしたマッピーは、己の力を、魚に込めた。

 

これぞマッピーの能力、パーソナルエンチャント。

 

あくまで瞬間的にだが、触った存在の潜在能力をフルに引き出す。魚だったらその活きを良くするし、猫から見て大変魅力的に映るようになる。武器や道具であれば、劣化速度が増す代わりに、そのパワーを数倍に引き出すことも可能だ。

 

ミューキーズ達の数体が、即座にそっちに意識を移す。

 

其処へ、地面を走りながら、手にしたボールを投げつける。パワーが数倍に増幅されたボールは、凶悪な軌道を描きながら飛び、ミューキーズの数体を瞬時に吹き飛ばした。

 

地面に落ち、建物の天井にぶつかり、動かなくなるピンクの猫たち。

 

だが、それ以外は、マッピーに殺到してくる。

 

地面に手を触れる。

 

そして、地面を強烈にバウンドするように切り替えた。これもパーソナルエンチャントの応用の一つ。地面が持つ弾力性を最大限に強化することで、トランポリンのようにしているのだ。

 

無数の爪が、マッピーの残像を切り裂く。

 

跳躍したマッピーは、空から魚をばらまきつつ、懐に手を入れる。今度は砲丸だ。狙うは、まっすぐ此方に飛んでくる、ミイラ男のニャームコ。

 

「甘いぞネズ公っ! こっちの方が早い!」

 

「それはどうかな!」

 

確かに、敵が爪を繰り出すモーションの方が早い。

 

だが、マッピーがホルスターから抜いたのは、懐中電灯。それにパーソナルエンチャントを掛け、ライトを点灯する。ものすごい光がミイラ男ニャームコの顔面に照射され、悲鳴を上げた哀れなロボットに、続いて砲丸が直撃した。

 

着地。

 

ミューキーズの遙か向こうで、吹っ飛んでいったニャームコが、数軒の家を貫いて、爆発した。

 

これで、まずは一匹。

 

影から、忍び寄ってきた手が、マッピーの足を掴む。

 

そして現れたのは、鋭い牙を持つ、吸血鬼のような姿をしたやつだ。こんな能力を持ち合わせていたのか。

 

「八つ裂きだ! ぶっ殺せ!」

 

冷静にマッピーは、空に向けて数枚の小判を投げ上げる。それに気を取られた吸血鬼ニャームコの顔面を蹴り上げた。

 

それは、はからずとも。

 

突撃してきたミューキーズの爪の前に、彼を放り出す結果につながった。

 

悲鳴を上げてずたずたに切り裂かれる吸血鬼ニャームコ。だが逆方向から来たミューキーズの爪が、マッピーの体を一度ならず切り裂く。

 

吹き出る血。

 

白い。

 

地面をトランポリンにして、飛び上がる。そして、魚を投げつける。残弾はもうあまり多くない。

 

だが、戦闘続行可能なミューキーズも、もう残り少ない。動きを止めた途端に蹴り上げ、当て身を浴びせ、掌底を叩き込む。そのたびにミューキーズは減っていく。

 

「ガアアアアアッ!」

 

腰布だけのニャームコが突入してくる。

 

目はらんらんと光り、牙は唾液に濡れ、禍々しい形相だった。殺す、殺す、殺す。殺気がダダ漏れになり、マッピーにたたきつけられてくる。

 

顔面に蹴りを叩き込む。

 

爪が空を切り、そしてマッピーの足も切り裂いた。長いとは言えない足から、鮮血が吹き出す。

 

着地。

 

ニャームコが、手にしている槍を繰り出してくる。腹をかすめる。だが槍を掴んで、引き寄せながら、そのまま顔面に掌底を叩き込む。刺突の勢いが、掌底のパワーと合わさり、ニャームコは自ら首を折ることになった。

 

後は、どいつが残っている。

 

振り返ったマッピーは、腹から鮮血が吹き出したのに気付いた。撃たれたのだ。

 

ピストルを構えているのは、海賊の格好をしたニャームコだ。目の焦点は、既にあっていない。狂気に揺れている。

 

「ヒヒヒヒヒヒ! どうだ、これでお前は終わりだ! ミューキーズ! その鼠を、ミンチにしてしまえ!」

 

猫たちは残数も少ないが、それでも逆らえないボスの言葉に、気合いを入れて向かってくる。

 

腹を押さえたマッピーは、気付く。

 

心の中に、マピコがいる事を。そうだ。たとえ人形だろうと何だろうと、マッピーは愛しているのだ。婚約者を。

 

それに嘘は無い。

 

心が作られたのだとしても。誇りはある。

 

偽物だとしても。

 

愛は、ある。

 

さっき吹っ飛んだ建物から、建材らしい棒が飛んできていた。それを拾い、刺突。ミューキーズの動きも鈍くなってきている。迷いが生じているのか。

 

一匹が吹き飛ぶ。二匹目。

 

三匹目、後ろから。爪が抉りあげてくる。肩を切り裂かれるが、棒を回転させながら顎を砕く。振り向きつつ、爪で刺突してきた一匹にフルスイングを叩き込み、死角から来たもう一匹にたたきつける。

 

まだ来る。

 

ざくりと、嫌な音。顔の右半分を爪に抉られたか。

 

大量の体液が漏れるのを感じながら、それでもマッピーは、棒を振り上げる。鋭い悲鳴を上げながら、ミューキーズが天に舞った。

 

これで、子猫は全滅か。

 

また、射撃音。足を打ち抜かれた。膝を屈するマッピーに、更に射撃を浴びせてくる。今度は棒を手にしている右手。棒を取り落とす。更にもう一撃。膝にだめ押し。

 

激痛の中、顔を上げる。

 

海賊の格好をしたニャームコは、狂気の笑みを浮かべていた。いつものニャームコでは浮かべない、小馬鹿にした笑みでは無く本当の殺意と悪意に充ち満ちた、殺し屋の表情だった。

 

嗚呼、そうか。

 

だから此奴は、廃棄されたのか。

 

「馬鹿共でも、おとりにはなったか。 これで俺は、本物のニャームコになれる! この島の盗賊団を率いて、支配者になる!」

 

「本官が、そんなことは、させないのであります……!」

 

「黙れ死に損ない! とっととくたばりやがれ!」

 

額に、銃の狙いを付けてくる。

 

だが。

 

引き金が、引かれることは無かった。さっき投げ上げた最後の小判が、至近に墜ちたからである。

 

あっと、そちらに視線が行く。此奴も不良品とはいえ、ニャームコだったという事か。

 

まだ動く左手で、棒を掴む。

 

そして、最後のパーソナルエンチャントの力を込めて、投擲した。

 

それはブーメランのように飛翔し、ニャームコが振り向いた瞬間、その顔面を横から張り倒す。

 

悲鳴を上げたニャームコは、首をあらぬ方向に曲げながら、空に向けて銃をぶっ放し、そして倒れたのだった。

 

全身のダメージは。

 

死ぬわけにはいかない。いくさびととして、アーサーはマッピーを認めてくれたのだ。スペランカーも。

 

誓いを、破るわけにはいかない。

 

不意に、手を伸ばされる。

 

顔を上げた先にいたのは、最初に腹を貫かれた、ガンマンのニャームコだった。

 

涙を流し、顔中をくしゃくしゃにしている。

 

「ゲホゴホっ。 た、立つんだにゃあ、マッピー」

 

「どうして、本官を」

 

「お前が言うとおりだった。 それにお前、子分どもを殺さないでくれた。 それだけでも、充分だ」

 

ミューキーズに手加減していたことに気付いていたのか。

 

ニャームコは、死ぬ。機能停止寸前だ。急所を貫かれたのだから、無理も無い話である。だが、最後の力で、マッピーに手を伸ばしてくれた。だから、此処は立たなければならないだろう。

 

「どこへ、行きたいんだにゃあ。 行きたいところが、あるんだろう」

 

「聖域へ。 そこで、本官を正気に戻してくれた人達が、戦っている」

 

「分かった。 出来るだけ、力を、温存しろ」

 

肩を貸してくれた瀕死の宿敵に。

 

マッピーは、十年来の友に対するような、不思議な感情を覚えていた。

 

 

 

トンネルの奥からは、どんどん邪神の気配が強くなってきている。

 

何かの車が通った跡がある。アーサーが見たところ、かなり最近だそうだ。急ぐ。あまり時間は、残っていないかも知れない。

 

やがて、プレハブが見えてきた。

 

屋根さえ無いプレハブの中。明確な、熱を帯びた強烈な邪神の気配がある。頷きあうと、スペランカーはまず自分が、プレハブの中に入った。

 

見えた。

 

猫背のニャームコ博士が、一心不乱に何かのデータと格闘している。スパコンの操作をしながら、ずっと博士はぶつぶつ何かを呟いているようだ。

 

そして、その上。

 

硝子らしい球体が設置され、中にはまばゆい光を放つ、小さな太陽。アーサーが、吠えた。

 

「ニャームコッ! クライゼン=ニャームコッ! 友として、それ以上に騎士として、貴様の非道、もはや見過ごすことかなわん!」

 

「来たか。 早かったな」

 

ニャームコ博士は、振り返りさえしなかった。けたけたと笑う声が、上から響いてくる。

 

声の威圧感だけで半端な代物では無い。スペランカーは、全身に冷や汗が流れるのを感じた。

 

これは、或いは。

 

身を覆う呪いの主と、同格の存在か。

 

「怒りはもっともだが、もうちょっと待ってやれ。 今、此奴はお前達と一緒にいた鼠警官のデータを調べている、最後の作業中だ」

 

「貴方は……」

 

「余の名前はクトゥグア。 熱と炎を司る、四大の神が一柱なり。 ほう、お前には、ダゴンとクトゥルフの気配を感じるな。 それだけではない。 有象無象の雑魚どもも、かなり接触していると見える」

 

ヒヒヒヒヒヒと、熱の塊が笑う。

 

アーサーは既に、全力で戦う際の武具である黄金の鎧を具現化させている。だが、全力のアーサーでも及ぶかどうか。

 

スペランカーは進み出る。

 

ニャームコ博士が、やっと手を止めた。

 

「これでは、不完全だ……」

 

「そうか、これだけの賭をしても、それなりの結果が出ても、まだ満足できんか、ニャームコよ」

 

「ニャームコ博士。 貴方が、マッピーさんや、ミューキーズを使って実験をしていたのは分かっています。 盗んできたものは、その実験のために使っていたんですね」

 

「そうだ。 わしは、完全なAIを作りたかった。 だから窃盗専門のロボットまで作って、この島の外で働かせた。 別に買い集めても良かったが、本物の盗品を使う方が、リアリティが増す。 だからそうさせた。 全てを完璧な次元で実行したかった。 もっとも、窃盗班はお前達が動き出した時点で、もう廃棄ずみだがな」

 

完全なAI。

 

どういう意味か。マッピーは人間と遜色ない心を持っていたように思える。世界の第一線で活躍しているRは、ニャームコ博士の作ったAIをベースにしていて、少年らしいみずみずしい心を持っていると聞いたことがある。

 

それなのに、満足できていないのか。

 

「何が、満足できない理由ですか!」

 

「一つ足りない。 AIとして必要なものは、全て満たしてきた。 感情もそうだし、欲求もそうだ。 人間が持っているもので、わしに再現できないものなど、何一つ存在しなかった。 一つを除いて、だ!」

 

振り返ったニャームコ博士の顔は。

 

既に鬼相と呼んで良い、純粋無垢なる狂気に充ち満ちていた。

 

「何故だ! どれだけ条件を整えても、どうして愛だけは再現できない!」

 

「えっ……!?」

 

「最初の一年は、警官としての自覚を育てさせるための予行演習だった。 だからマッピーとミューキーズは、何度も廃棄再生させながら、同じ仕事だけを延々とさせた。 盗品を巡っての殺し合いをな! やがてマッピーには、並みの人間には備わらないほど、強力なプロ意識と誇りが宿った。 後は、愛情を持たせるために、障害と対象を、用意すれば良かった」

 

だから警官が、邪魔を受けながら恋人へ愛を語るという構図が作られたのだ。

 

愛の構図は、単純なほど良い。

 

そして、愛の障害は、大きいほど良い。

 

マッピーは、このスパコンでAIを調整されながら、様々な要求物資を集めた。買ったといっているのは、ミューキーズの撃破数に応じて、報酬として渡していた物資のことなのだ。

 

マッピーは、ひたすらマピコが振り向くことを願って、物資を集め続けた。

 

警官としての自覚が、それを後押しした。

 

愚直で、真面目で、そして只ひたすらにひたむきなAI。それが、今までニャームコが作ってきた、戦闘目的のAIとは、根本的に違う存在を作り上げた。

 

だが。

 

「だが! どれだけ条件を整えても! マッピーは、愛を抱くことが無かった! あれが持っていると錯覚していた愛情は、単なるプログラムの域を超えなかった! 他の感情は、ことごとく再現できたのに!」

 

「……っ!」

 

スペランカーの心に、炎が点る。

 

この博士は、とても賢い人なのかも知れない。

 

だが、見えていない。一番大事なことが。

 

「マッピーはわしの最高傑作だ! それなのに、どうして! わしの期待に応えてくれないのだ! わしは期待にいつでも応えてきた! 運動神経以外は、どれもこれも親が求める要件を常に満たしてきた! だがそれでも、周囲はわしを、顔が気持ち悪いから、見かけが気持ち悪いからといって、利権が絡まない場合は絶対に認めなかった! その反動だというのか! わしは、作ったロボットにまで、わしが全ての愛情を注いで来たロボットにまで、馬鹿にされ続けるのか! 兄弟達がそうしたように! 親でさえ、そうしたようにだ!」

 

「この、大馬鹿博士っ!」

 

アーサーを待つまでも無い。

 

スペランカーは、あまり人に説教はしたくない。だが、それでも、今はいわなければならなかった。

 

親としての心が、芽生えはじめているからか。

 

親としての自覚を持てない母に苦しめ続けられたからか。その両方か。分からない。だが、突き上げてくるものを、止められなかった。

 

ニャームコが、完全に蒼白になっている中、呼吸を整える。

 

「マッピーさんは、愛情を宿しています! 真実を知った今でも、マピコさんを愛していると、しっかり言えるほどの心を持っています! 下手な人間より、ずっと人間らしいです! どうしてそれが、分からないんですか! 貴方のスパコンがどれだけ凄いかは知りません! でも、そんなものは、実際にみたものより、どれだけ勝っていると言うんですか! 貴方はマッピーさんを見ていません! それでは、貴方を迫害した、愚かな人たちと同じでは無いですか! 同じになってしまって良いんですか!」

 

「くくくくく、ひひひひゃはははははははははははははははは!」

 

狂気の笑いが、上から降ってきた。

 

熱の塊の中に、巨大な目が出現する。面白くて仕方が無いというように、目には愉悦が浮かんでいた。

 

「余の好物は狂気。 その阿呆がひたすら蓄えたコンプレックスと狂気こそ、余がこんな狭いケージに閉じ込められてなお我慢していた理由よ。 あまりにも美味であったが故になあ……」

 

「貴方は……」

 

「何も手は加えておらんよ。 余は野暮は嫌いでな。 その阿呆が結論をろくに見ずに、ただ自己完結して、破滅へと突き進む狂気、ただその場にいるだけでダダ漏れであったからなあ」

 

だからこそに。

 

そいつに手を上げることは、ゆるさん。

 

まれに見る逸材。美味なる食物。それは、余だけのものだ。

 

邪神がそう宣言すると同時に。辺りが、まるで大震度の地震に見舞われたかのように、揺れはじめた。

 

硝子の球体が爆ぜ割れる。

 

惚けている博士を、スペランカーは、それでも背後にかばった。アーサーも、歩み出る。

 

「ニャームコ! 後できっちり、我が輩がお前に愛とは何か教え込んでやる。 我が輩に相談すれば、即座に解決したものを。 何故友を頼ろうとしなかった! この大馬鹿者が!」

 

「……」

 

アーサーの婚約者への愛情は本物だ。だから、多分それは信頼して良いはずだ。

 

スペランカーはブラスターを構える。

 

「此処は派手にぶっ壊れる。 だが、お前には問題ないな」

 

「わしは……」

 

「返事は不要。 今から、お前をかばう暇さえも無くなる。 邪神クトゥグア! E国の騎士にて、数多の魔界を滅ぼしたこの我が輩アーサー、朋友スペランカーと共に決闘を申し込む! いざ堂々の勝負をせよ!」

 

「面白い。 余に啖呵を切るか。 ならば、その不遜、全ての滅びとともに悔いるが良いわ!」

 

辺りが、絶望的なまでの灼熱に覆い尽くされる。

 

スパコンが溶ける中、アーサーとスペランカーは、地上に転移したのを悟った。多分クトゥグアの処置だろう。

 

自分の大事な博士を殺さないため、というわけだ。

 

異星の邪神は、己にルールを課している場合が多い。今回もそれに例外は無かった。無言で感謝すると、スペランカーは覚悟を決める。

 

今回は何万回死ねば良いのか。だが、やり遂げる。

 

たとえ、どれほどの苦痛を味わうことになろうとも。

 

「さて、それでは見せて貰おうか、魔界を滅した騎士とやらの力を! そして、神を体内に取り込んだ呪いの巫女よ、貴様の力も堪能させてもらおうぞ! 余は生ける恒星クトゥグア! 我の力に刮目せよ! 人間共!」

 

周囲の草原が、瞬時に燃え上がる。

 

熱の権化が、その力を完全解放した。

 

 

 

その光景は、ニャームコ島から遙か海の彼方に浮かぶ、巡洋艦アイランズからも視認することが出来た。

 

島に、第二の太陽が出現したが如き光が、ほとばしっていた。

 

「エネルギー量極めて大! 核兵器の比ではありません!」

 

「計測を続けよ」

 

船に密かに乗り込んでいた特殊計測班は、歓喜に踊り出さんばかりであった。

 

まさか、此処まで予定通りに事が進むとは。

 

苦労して捕らえ、利害が一致したことで制御が可能になったクトゥグアで、最高の実験が出来る。

 

後はハスターかニャルラトホテプか、四大の残りを利用して、さらなる有意義な実験をこなすことも可能だろう。

 

精々派手に戦うがいい。

 

そう、計測班のリーダーを務める、フードを被った男は呟いていた。

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