オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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5、結実の夕日

アーサーが出現させた無数の槍が、灼熱の大気を切り裂き、クトゥグアに襲いかかる。いずれもが、いぶし銀の輝きを持ち、当然破魔の力も秘めているだろう。だが、その全てが、中途で蒸発してしまう。

 

氷を熱したフライパンに乗せるより、遙かに激烈な反応だ。

 

スペランカーは灼熱の中、どうにか近づこうとするが、クトゥグアは的確に距離を取り、スペランカーにもしっかり対応している。そしてアーサーが投擲するありとあらゆる武器を、中途で溶かしてしまう。

 

「熱は力だ。 分子が如何に激しく運動しているかを示す指標である熱は、最強にしてもっともシンプルな力。 これを突破できる存在など、この世には無い」

 

「果たして、それはどうかな!」

 

アーサーが出現させたのは、等身大の巨大な十字架である。

 

それを地面に突き立てると、アーサーは鋭く印を切る。十字架から発せられる光が、クトゥグアの熱を押し返す。

 

だが、それも長くは続かない。

 

赤熱した十字架が、溶けて蒸発していく。流石に、アーサーもその凄まじさに、うめき声を上げた

 

地面が、彼方此方で燃えさかっている。

 

如何にとんでもない相手なのか、それだけでも充分に分かる。

 

「ならば、純粋なエネルギーであればどうか!」

 

アーサが出現させたのは、巨大な騎士剣である。振りかぶり、術式を発動。一気に光の塊として、クトゥグアに照射する。

 

その強烈な熱量は、大地を切り裂き、空気を吹き飛ばし、不遜なる熱の大王に迫る。だが、それさえも。

 

クトゥグアが展開した熱のバリアの前には、そよ風のように吹き散らされてしまう。

 

何度、倒れて、起き上がっただろう。

 

スペランカーは、止まらない汗をぬぐいながら、必死に敵との距離を詰めようとする。分かってはいたが、相性最悪の相手だ。勝手に放出している熱で、かってにスペランカーが死んでいるだけだから、悪意ある攻撃に該当しない。

 

つまり、体を覆う呪いが、カウンター攻撃手段として機能していないのだ。

 

せめて、己の命と相手の命を等価に消し去るスペランカーの切り札、ブラスターをたたき込めれば。

 

だがこれは、射程距離が十メートルほどしか無い。

 

乱暴にアーサーが汗をぬぐっているのが分かった。

 

クトゥグアは反撃に出る。

 

空に出現する、無数の炎の塊。それの全てが意思を持つ、強烈な熱量の塊であるらしかった。

 

「いけ、我が僕共!」

 

とっさに巨大な盾を出すアーサー。

 

だが、彼さえもが吹き飛ばされるのが、スペランカーには見えた。自身も何度となく吹き飛ばされ、焼き尽くされ、はじき飛ばされる。そのたびに死んで蘇生するが、そもそもクトゥグアは己の力を殆ど消費しているようにさえ見えなかった。

 

島が、燃えているのが分かる。

 

こんな化け物が、己の存在をフルに発動しているのだから当然だ。

 

立ち上がる。

 

全身が瞬時に焼けただれ、死ぬ。だが、それでも立つ。

 

「ほう……」

 

まばゆい光の塊を、見据える。

 

一歩、また一歩。だが、そのたびに、クトゥグアは中空を余裕を持って離れる。その横面に、飛来した巨大な槍が突き刺さる。クトゥグアを貫通する槍。だが、即座に溶けて消えてしまった。

 

アーサーだ。

 

肩で息をついている。金色の鎧も、そろそろ光が衰えはじめていた。

 

此奴は、とんでもない。今まで、スペランカーが見た異星の神で、間違いなく最強だ。アーサーの攻撃でもびくともしなかったアトランティスの支配者神ザヴィーラを、数段上回っている。

 

「やはり無敵では無いようだな」

 

「余に一撃を与えたか。 分身の雑魚どもならともかく、流石にこの星の強者は桁が違う、たいしたものだ。 お前でこれなら、Mとやらと戦えばさぞ面白そうだな」

 

「次は貴様を滅ぼすぞ、熱の神!」

 

「不遜ッ! 調子に乗るでないぞ、短き寿命の小さき者どもよ!」

 

動きを、止めて欲しい。

 

少しで良いから。

 

スペランカーは、残る力を振り絞り、また巨大な剣を作り出すアーサーを見た。

 

クトゥグアは、先の数百倍に達する数の火球を、頭上に出現させる。これは、原爆よりも火力が桁違いに高いのでは無いか。

 

「吹き飛べ、騎士とやら!」

 

「これを、待っていたっ!」

 

アーサーが、汗を飛ばし、詠唱の最後の一節を終える。

 

黄金の鎧が、今までに無いほど強い光を放った。それは、クトゥグアの熱さえ、一時的に押し返す。

 

まさに、聖なる剣の、神なる光だ。

 

「吠えろ、我が先祖の至宝、エクス、カリバーッ!」

 

アーサーが、巨大な剣を振り抜く。エクスカリバーというと、あの伝承の剣か。随分大きいが、以前持っていた剣とは別のものなのかも知れない。

 

咆哮する、剣そのものの形をした無数の光が、一斉に飛ぶ。空中に出現した数も知れない火球を、まとめて貫き、薙ぎ払い、爆発させる。爆圧に翻弄されて、地面にたたきつけられ、バウンドした。酷い巻き込まれようだが、しかし好機。近づけないか。

 

駄目だ。

 

クトゥグアは、一つ目を細めて、この凶悪な熱の爆風を、むしろ楽しんでいる。

 

シールドが、その配下を消し飛ばしたエネルギーの奔流を、全てはじき返したのを、スペランカーは何度も途切れる意識の中、見た。

 

完全な怪物だ。

 

震えが来る。

 

これほど暑いのに。

 

だが、それでも。負けるわけにはいかない。いかないのだ。

 

帰らなければ、またコットンが一人になってしまう。スペランカーを恐れ多くも慕ってくれるアトランティスの民は、どうすれば良いのか。

 

アーサーが、ペンダントらしいものを出現させる。

 

知っている、あれはアーサーの、真の切り札。だが、アレをぶつけても、勝てるとはとても思えない。

 

「だけど、これが最後の……!」

 

「ならば本官が!」

 

陽炎に揺らぐ中、見える。

 

アーサーに足を引きずりながら、近づく小さな影。

 

マッピーだ。

 

後ろの方に見えているのは、何故だろう。ニャームコ博士に似た、猫のロボット。やり遂げた表情で、果てているのが分かった。

 

立ち尽くすアーサーに、マッピーが手を伸ばす。そして、首飾りに触った。

 

「本官の最後の力、託させていただくのであります!」

 

「確かに! 戦士の魂、受け取った!」

 

二人が、光り輝く熱の塊を見上げる。

 

唇を噛むと、スペランカーは、もう一度立ち上がった。

 

二人なら。

 

やってくれる。

 

 

 

「おお……!」

 

クトゥグアは見た。

 

光が、ふくれあがっていくのを。

 

アーサーとか言う騎士が放った攻撃は、いずれもはじき返してやる程度の威力しか無かった。

 

だが、マッピーの力。

 

クトゥグアが戯れに、ニャームコ博士に概念を提供し、再現させたパーソナルエンチャントが合わさって、しかも今までに無いほどの稼働率を示して。

 

その結果の、この光だ。

 

スパコンは、筐体が溶けていたが、まだ稼働自体はしていた。しかし多分地下で熱暴走していることだろう。クトゥグアが熱を吸収するのを止めたからである。

 

まるで、優しく手のひらで包まれるように。巨大な光の奔流が、クトゥグアを押さえ込む。辺りの熱は消えないが、その光は、どうやっても打ち消せない。逃げることは、出来なくも無い。この体を切り離して、異次元にでも転移すれば良いのだ。

 

だが。

 

見た。

 

熱量によって足止めしていた、スペランカーとか言う邪神の巫女が、真下にまで来ている。

 

灼熱の中、どれだけ焼き尽くされても、歩き続けてきたか。再生を繰り返し、既に全裸だが、その威厳は全く衰えていない。

 

そしてその手にしているのは。オモチャの銃が如き道具は。

 

見覚えがある。そして気配も分かる。

 

クトゥルフが気配を断った時に、使われた異具。死の鏡。

 

そうか、あれが切り札か。それならば、有象無象ばかりとは言え、邪神達に打ち勝つことが出来たというわけだ。

 

あまりにも、興味深い。

 

数万の、それ以上の死に耐える精神は、恐らく幼い頃に培われたもの。それはもはや強靱を通り越して、人外の領域にまで到達している。

 

神に対する必殺の牙と、その精神力だけで。あまりにも脆弱な体を補い、勝ち上がってきた。それは、敬意を表すべき相手なのでは無いのか。

 

「クトゥグアさん。 ごめんなさい。 貴方を、討ちます」

 

「良い。 余を破るには、それなりの理由があると言う事よ。 それに余全てが滅ぶわけでも無い。 さあ! この余を破った人間として、それを未来永劫誇りにせよ! 偉大なる異星の戦士よ!」

 

撃ち放たれる光が、クトゥグアに突き刺さる。

 

そして、全てが漂白された。

 

 

 

肩を貸して、焼け果てた城まで歩いた。

 

全裸のまま意識を失っているスペランカーは、後から白々しく到着した救護班に任せた。体が熱で考えられないほどの数焼き尽くされたというのに、無言で歩き続け、そしてクトゥグアの至近下にまで到達。ブラスターを叩き込み、あの強大な神格を倒したのだ。

 

アーサーも力を使い果たした。

 

だが、まだやらなければならないことは、残っていた。

 

ニャームコ島は、クトゥグアが放った熱によって、全域が程度の差こそあれ焼き払われた。ニャームコはまだ地下のトンネルにいると救護班に教えて、みて回る。密林も城も街も、何もかもが山火事に遭ったように黒焦げだった。城も、例外では無かった。そればかりか、戦闘の余波を受けたのか、ばらばらに崩れていた。

 

マピコがいた辺りに、見当を付ける。そしてスコップを少しずつ回復しはじめた力を使って出現させ、瓦礫をどける。かなりの重労働だ。救護班の連中も周囲にいたが、手伝おうとはしなかった。機材もないし、邪魔だからそれで良い。

 

やがてアーサーは、城の残骸の中から、掘り出す。側で力なく蹲っていたマッピーが、顔を上げた。

 

「マピコ……」

 

もはやコンピュータが壊れ、それは本当に只の人形になっていた。しかもすすだらけで、手足も半ばちぎれていた。

 

だが、躊躇無く、己も崩壊寸前にまでダメージを受けているマッピーは、いとおしい婚約者を抱きしめた。

 

慟哭が聞こえる。

 

ずっと振り向いてくれない婚約者に愛を捧げ続けたマッピーは、機械なのに泣いていた。

 

ニャームコは、何が嫌だったのだろう。

 

これほどの愛、捧げられる人間は殆ど存在しない。奴が作ったAIは、並みの人間では届かないほどの心を、この誇り高い警官に与えていた。

 

それなのに。

 

「マッピー……」

 

当人が来た。手錠を填められて、左右をMPに押さえられている。ニャームコはマッピーに走り寄ろうとして、暴れた。取り押さえようとするMPを、アーサーは制止。

 

マッピーの側に、ニャームコはよたよたと走り寄り、崩れ落ちる。

 

「数値だけではわからんだろう。 だが、これが愛だ」

 

「……」

 

「主様。 一つ、お願いがあります」

 

マッピーが、顔を上げた。

 

顔の肉は半分削げ、手足は銃創だらけ。全身は切り裂かれた傷で覆われ、白い人工体液がまだこぼれ落ち続けている。

 

既に機能停止寸前の彼は、それでもニャームコに、恨み言を言わなかった。

 

ロボットだから、という部分はあるだろう。

 

だが、それ以上に、この鼠は誇り高かった。

 

「マピコに、今度こそ、本当の心を与えて欲しいのであります」

 

「……わしの作る心は、まがいものだ」

 

「まがい物では無いっ!」

 

まだ分かっていない友人に、言わなければならなかった。

 

この男は、自信をことごとく潰される環境に育った。周囲からは嫉妬とねたみから否定され続け、血がつながった家族にさえ認められなかった。利権だけは彼を評価したが、彼自身を愛したものは、幼い頃の両親だけだった。

 

だから、歪んだ。

 

しかし、今は。そのゆがみを、克服しなければならない。

 

「マッピー殿を見ろ、ニャームコ! お前がどれだけ周囲から否定されようと、胸を張って見ろっ! お前は、心を、紛れもない愛を作ったのだ。 いびつかも知れないが、確かな心を! 誰も保証してくれないなら、我が輩が保証する! 永遠にお前の友である、この我が輩が! それでは不満かっ!」

 

誰も認めないなら、アーサーが認める。アーサーは、それを此処で、誓ったのだ。

 

ニャームコが、涙を流しはじめる。

 

アーサーも、泣いていた。

 

夕日が、焼け落ちた島の向こうに、沈みゆこうとしていた。

 

 

 

アトランティスに戻って、しばらくした頃。

 

嬉しい出来事があった。

 

クトゥグアほどの神格を撃破した反動で、まる一週間寝ていたスペランカーは、体の不調が中々戻らず、その間大変な戦いをしていたらしい後輩の川背に加勢できなかった。というよりも、加勢する選択肢自体が与えられなかった。

 

申し訳ないことだと思って鬱々としていたので、それは逆に、大変に嬉しいことだった。

 

神殿を訪れたその者は、以前と全く変わらない姿をしていた。しかし、制服も、ホルスターに入れている相手を気絶させるショック銃も、新品の装備である。アトランティスで今後正式採用しようとしている装備類を、使う第一の存在となったのだ。

 

半魚人達に案内されて来たその人は、スペランカーに気付くと、ばっちり決まった敬礼をした。その少し後ろには、ドレスを着込んだ、同じように二足で立ち上がった鼠の女性がいる。

 

「本日付で、アトランティスに赴任しましたマッピーであります! スペランカーどの、お招きいただき、感謝しております! 以降はアトランティスの秩序と平和を守る所存であります!」

 

「ありがとう。 お願いします、マッピーさん」

 

「光栄であります!」

 

あの女性は、しっかり心を貰ったマピコだろう。

 

ロボットの恋人だから、何を出来るというわけでも無い。生物では無いのだから、当然だ。

 

だが、其処に愛は無いと、言い切れるのだろうか。

 

作り物ではある。反射行動ではある。だが、むしろそれが故に、人間の愛よりも気高く誇り高いのかも知れない。

 

柱の陰に隠れて、知らない人をじっと観察しているコットンを招く。

 

きっと、この誇り高く優しい警官は。

 

コットンの、大事な友達になってくれるはずだった。

 

 

 

(続)




AIと愛、心、そして狂気そのものである邪神の物語。

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