オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
それは食物連鎖と生物濃縮が関わった、悪夢のような土地なのです。
フィールドに入ってみて、早速違和感を感じた。
体が軽いのである。やたらに。
それだけではない。
辺りに生えている植物も、まるで化け物のようにでかい。此処は巨人の世界で、小人である自分たちが間違えて迷い込んでしまったのでは無いか。そんな錯覚さえ感じるほどであった。
「恐竜があれほど巨大になったのは、現在よりも地球の重力が弱かったからじゃ無いかって説があるそうですが……」
「それにしても、凄いね。 まさかこんなになってるなんて」
段差が酷い。川背が時々手を貸してくれる。
文字通り泥だらけになりながら、山を登る。息が切れたので、ミネラルウォーターを飲み干した。
今のところ、巨大な生物や、怪物の類は見かけない。
此処がフィールド認定されたのは、中に長くいると体がおかしくなることもあるが、それ以上に二種族の争いに巻き込まれることも多いからだ。何より排他的な豚人も狼人も、迂闊な侵入者を生かしては帰さなかった。
今は、少し事情が違う。
だが、いつ矢が飛んできてもおかしくない。川背は出来るだけ音を出さないようにと、何度か注意してきた。
「川背ちゃん、やっぱりおかしいね」
「邪神の気配を感じるんですか?」
「ううん、全然」
この間、クトゥグアなる強力な邪神と交戦した。その時には、接触の直前まで、全く相手の気配を感じることが出来なかった。つまり強力な邪神になれば、気配を消すことくらいは可能だと言う事だ。彼らは滅多にやらないが。
だから、この力も絶対では無い。
問題は、その先だ。
いきなり、目の前の木に矢が突き刺さった。かなりの強弓で、木の幹に深々突き刺さり、細かく振動している。
顔を上げると、いた。豚人族だ。
どうやら女性らしく、非常にふくよかな胸をしている。体はプーリャンと同じく、かなり小柄で、しかし手足は筋肉質だが。
「人間がこんな所に来たって事は、あれか。 噂に聞くフィールド探索者か」
「はい。 私はスペランカー。 此方の子は川背です」
「どうでもいいね」
やはり小柄な豚人は、相当に目つきが悪い。雰囲気も厳しくて、針のむしろに座っているかのようだった。
それに手にしている弓は非常に大きい。全身よりも更に大きいくらいで、狩に使うとしたら、相当な大物狙いは確実だ。ぎりぎりと、張っている弦が凄い音を立てている。下手なことをすれば、確実に射抜きに来るだろう。
この人は、戦士だ。
「今、大変なことになっていてね。 さっさと帰らないと、頭打ち抜くよ」
「狼人に、お子さんが誘拐された、ですか」
「ああ、うちの宿六が余計なことを言ったわけかい。 まさか、手助けに来たとでも、言うんじゃ無いだろうねえ」
スペランカーが、露骨に嫌そうな顔をしたのに気付いたからだろうか。
豚人の女性戦士は、嘆息した。
「くだらないことを言うなってツラだね」
「戦争に正義なんてありません。 どっちにも荷担する気は無いです」
「じゃあ何しに来た」
「もっと大きな災いが起こる可能性があります。 まず、戦争をどうにかして止めて貰わないと」
いつの間にか、川背が側にいない。
それに、豚人の女性が気付いた途端、その弓が川背の投げたゴム紐に絡め取られていた。更に、一気に引きずり倒される。
気配を消して、背後に回り込んでいたのだ。倒れたところに、弓を踏みつける。ルアーをぶら下げたまま、川背が豚人の女性を見下ろした。
「しばらく、おとなしくして貰えますか?」
「く……」
「先輩、この先です。 彼女に案内して貰いましょう」
「何も其処までしなくても」
川背は時々、スペランカーのために吃驚するほどに尽くしてくれることがある。
これは多分、先輩として慕ってくれている、というだけが理由では無いだろう。噂に聞いたところに寄ると、川背は元々非常に孤独で、友人と呼べる人がいなかったらしい。対等に接してくれる相手もいなかったと言うことだから、はじめて親しくした存在が、スペランカーだったのかも知れない。
手際よく女性を縛り上げると、川背は先に歩くように言う。
抵抗しなかった女性だが、弓を傷つけないようにと、文句はしっかり言った。
「それはあたしらにとって生命線なんだ」
「分かっています」
狩人にとっては、商売道具。川背の包丁と同じだ。
これなら、奇襲も防げる。川背の判断は合理的だが、それ以上に恐らく、スペランカーに矢を向けた事を怒っていたのだろう。
しばらく斜面を上がったあと、不意に崖に出る。
此処が、最前線なのだと、一目でわかった。
他の所もそうだが、此処はとても体が軽い。崖に生えている木までもが、非常に大きく成長している。飛び降りても死なないのでは無いかと、スペランカーは思ってしまった。
崖の底には小川が流れていて、その辺りに、人影が見える。
恐らくアレが、狼人族だ。
手をかざして、のぞき込む。
「飛び降りても大丈夫?」
「降りるなら、風船を使いな」
「え?」
「水素入りの風船だよ。 よそじゃ駄目らしいけど、此処だったらそれで降りられるし、崖下からは水素を多めに入れれば浮かべる」
つくづく、凄い場所もあったものである。
崖の中途には、無数のゴンドラがあって、豚人が弓矢を持って構えているようだ。更にゴンドラの上には巻き手がいて、主に子供がそれを担っているようである。
この崖は、ずっと二種族の争いの最前線になってきた場所だと、女戦士は言う。
「間近で戦っても勝てないからね。 此処を豚人族は防衛線にすることを選んだのさ」
「よく狼人族がそれに乗りましたね」
「彼奴らは勇気を最重要視する種族でね。 此処を制圧されることも今までに何度かあったけど、どうしてか先に進んでこようとしない。 捕虜に聞いてみたら、刈りつくしたら獲物がいなくなるから、てね。 巫山戯た奴らだ」
なるほど、それがずっと戦争が続いている理由でもあったわけだ。
でも、その均衡も崩れはじめていると、女戦士は言う。
「あたしらがちょっと増えすぎてね、この崖を死守するどころか、狼人の本拠地に攻めこむって話が出始めてるんだよ」
「え?」
「ほら、少し後ろの方」
崖のゴンドラではない。
その近くに、幾つか森がある。その中に、豚人達の部隊が潜んでいる。彼らはそれぞれが、突撃銃を手にしているようだった。
背筋が寒くなる。川背が、淡々と言う。
「カラシニコフですね。 貧困国でもっとも大量に出回っている強力な殺傷力を持つ突撃銃です」
「外貨をあれに換えてたんですか」
「そうさ。 昔気質の戦士はみんないやがってるけど、とにかく強いんだからしようがない。 狼人共が子供を奪ったのも、その突入作戦を阻止するためだったって説もあるくらいでね」
何でそんなことを話してくれるのか、と思ったが、愚問だった。
この戦士、捕まったあと露骨に抵抗もしないで、罠にも掛けようとしなかった。勿論川背に隙が無かったという事もある。
だが、おそらくは。
現状に反発しているのだ。
宿六と言っていた相手が村長だとすると、彼女は多分豚人族でも一二を争う戦士だろう。それに、戦闘に関する心構えなどが、極めて真面目だ。
それでは、村長のやり口が気に入らないのも当然だろう。戦士のあり方を否定されているも同然だからだ。
「川背ちゃん、縄をほどいてくれる」
「はい」
「どういうつもりか」
「前にも言いましたが、戦いを止めることが目的です。 どっちにも荷担する気は……」
爆発音。
崖が揺れるほどの衝撃が来た。
ワイヤーが切れる音。すっころんだスペランカーは、その場で即死。蘇生して立ち上がりつつ、見る。
煙が上がっている。
戦いが、始まってしまったらしい。
「先輩」
「ん……」
既に女戦士は、前線に駆けだしていく所だった。
何が起こったのか。少なくとも、平和の祭典では無い事だけは確かだった。
狼人族の村に辿り着いた影は、あまりにも人が少ないので驚いた。しかも老人ばかりである。狼がそのまま立ち上がったような連中だが、それでも毛並みはぼろぼろで、肌もしわだらけであり、牙も抜け落ちている様子が目だった。
忍び込もうと思ったのだが、これではその意味さえも無い。戦士は全員が出払っている、という事だろうか。
此処は最大派閥の根拠地の筈なのだが。
村の作りは、一種の竪穴式住居である。穴に住む狼と同一なのだろうか。斜面に穴を掘り、簡単な屋根を付けて生活しているようだ。外から家は丸見えだが、恐らく交尾や日常生活を覗かれても気にしない習性なのだろう。
しかも、である。今まで豚人族に攻めこまれたことが無かったのか、防御施設は大変にお粗末で、柵も無ければ櫓も無い。周囲を警戒もしていない。狼人族は狼ほど鼻が利かないとは聞いていたのだが、それでもこの有様はどういうことなのか。
いらだちさえも覚えた影は、説教してやろうかと思ったが、止める。一通り村をみて回った後、結論。子供などとらえられていない。もしもとらえられているとしたら、此処では無い別の場所だ。
勿論影は本職の人間だから、最初からプーリャンの言葉など信じてはいない。もっとも、あの場にいた人間の中で、真面目に信じているのは司令官くらいだったようだが。あのスペランカーという女、抜けているようで結構出来る。
話を聞いておこうと思い、影は堂々と長老格と思われる狼人の前に姿を現す。穴の前に座っていた彼は、影を見て度肝を抜かれたようだった。
「な、なんじゃね……」
「話を聞きたい。 俺は影。 フィールド探索者だ」
「ああ、あんたがカモルの言っていた……」
何だ何だと、緊張感が無い狼人族が集まってくる。
剽悍な戦闘民族かと思っていたのだが、随分とのんきな連中の集まりだ。年老いて呆けているのかと思ったが、若い者も幾らかいる。
これは、どういうことか。
「豚人族から聞いた。 あなた方が、豚人族の族長の息子を誘拐したそうだな」
「なんじゃそれは。 どこから聞いた」
「長のプーリャンだが」
「あの腹黒豚か」
忌々しそうに、長老がいう。
ハリーは言っていた。狼人族は、無数の群れから構成されている種族で、群れごとに順位があり、それで様々な事を決めていると。
だが、戦闘力で判断されるべき地位が、明らかにひ弱な老人に握られているのは、どういうことか。
それらを順番に説明していくと、長老狼はにやりと笑う。何処か、悪魔的な笑みだった。
「ほう、そんなことを」
「カモルといったか、あの商人から聞き出した話だそうだが、事実とは随分違うように思えるのだが」
「違わんよ。 確かに儂が今、我らグール族で最強の戦士だからなあ」
狼人ではなく、グールというのか。
だが、最強というのは、どういうことなのだろうか。そう思ってみていると、最強であるが所以を見せてくれた。
長老が、側にあった肉の塊を口に入れる。犬の仲間は肉をぺろりと飲み込んでしまうが、この老狼男も同じである。
途端、見る間にその体がふくれあがっていく。筋肉が盛り上がり、牙も新に生えていった。
やがて、立ち上がった長老は、さっきまでの腰が曲がった老人では無かった。
凶猛な戦士としての姿を、露わにしていたのである。全身は美しい銀毛で覆われ、腕も足もたくましい筋肉で守り、さながら伝承に残るウェアウルフそのものの姿である。怪物と言っても、通じるほどの猛々しさだ。
「見ての通りじゃて。 儂らは普段、年齢相応の姿をしているが、こうして短時間なら全盛期の力を出せるんじゃよ。 「獲物」の肉を喰らうことでな」
「獲物というのは、豚人の事か」
「そうとも。 御前さん達が言う「豚人」はひょっとして、我らグールを対等の相手とでも思っていたのか?」
馬鹿な話だと、すっかり筋肉質の大狼になった長老が一笑する。
他の狼人達も、同じなのだろうか。いや、おそらくは同じだろう。しかし、違う部分も多い。
「三百年も戦闘が続いているのは、我らが定期的に狩を行っているからであって、一進一退だからではない。 その気になれば、一晩で「豚人」、いや我らは生き肉と呼んでいる彼奴らを滅ぼすことなんぞ容易じゃわい」
「今、連中がカラシニコフに代表される近代兵器で武装しはじめているとしてもか」
「何」
「どうも見えない部分があったが、何となく分かってきたな。 狩のつもりかも知れんが、すぐに前線から兵隊を引き上げさせろ。 身体能力が上がろうと、特殊な力でも無い限り、近代兵器には勝てん」
長老が青ざめる。
これは、急がないと手遅れになる可能性が高い。
そしてそうなった場合、とてつもない事態が発生する可能性さえある。
爆発音。
森が揺れるほどの衝撃が、此処まで届く。顎を落とした長老に、言う。
「遅かったようだな」
「いかん、引き上げの狼煙を上げろ!」
叫びは、爆発音にかき消された。
爆発音がして、吹き飛んだのは向こう側の崖。
スペランカーが駆け寄ると、もうもうと火が上がり始めていた。崖下に点々と見えるのは、ぐちゃぐちゃに吹き飛んだ狼の死体。
見えた。
豚人達の一部が、RPG7を狼人に叩き込んでいる。爆発の度に、吹き飛んだ肉塊が散らばっているのが見えた。
勿論、狼人達も黙っていない。
遠吠えのような声が上がると、どこに潜んでいたのか、凄い数の狼たちがばらばらと崖下に現れた。半数ほどは風船を掴んで跳躍。崖に張り付いて、崖を蹴りながら上がっていく。
風船による浮力が、崖を駆け上がる作業を著しく簡単にしている様子だ。
下を見ると、どうしてか、爆破されたゴンドラが幾つか見える。
さっきのワイヤーが切れる音は、これか。
がさがさと茂みをかき分けて現れたのは。葉巻たばこをくわえた、プーリャンだった。手にしているのはカラシニコフか。
「なんだあんさん達、もう来てたのか」
「プーリャンさん……」
「見ての通り、復讐の時だよ」
登ってくる狼は、片っ端から矢に辺り、打ち落とされていく。それならばまだいい。墜ちた狼は痛がってはいるが、自分で矢を抜いて、後ろに下がろうとしているからだ。
問題はカラシニコフだ。
崖上から斉射されるカラシニコフの弾丸の雨を浴びた狼は、見る間に襤褸ぞうきんのように切り裂かれ、落下していく。あれではひとたまりも無いだろう。
ゴンドラの一つ。
さっきの女戦士が、必死に矢を放っているのが見えた。
「今まで儂らは、狼人どもの侵攻の度に同胞を失ってた。 なすすべが無かった。 見ての通り、儂らの矢じゃ彼奴ら、狼人、いやグールどもを殺せない」
「どういう、ことですか」
「儂らを作った神さんの意向でな。 グール共は狩る側、儂らは抵抗する側。 その関係のまま、互いの力を練り上げろ。 そういう話らしい」
また爆発音。
ゴンドラが一つ、火を噴いて木っ端みじんになった。
明らかに狼人の仕業では無い。ゴンドラに何かが飛んでいった様子も無かった。爆弾が、事前に仕掛けられていたのだろうか。思わず耳を塞いだのは、ゴンドラに乗っていた豚人の断末魔が聞こえたような気がしたからだ。
「巫山戯た話だとおもわんか。 儂らはどこまで行っても、餌。 彼奴らはどこまで行っても、捕食者。 しかもその結果が、神さんの手足として便利な生体兵器の生成っていうんだから、巫山戯た事だ」
「……だから、味方まで粛正するっていうんですか」
「そうだ。 納得出来ないっていうんでな。 今までの関係が良いって言う奴はどうしてもいるんだよ。 武人の誇りだかなんだか知らんがな。 儂は下っ端だった頃から三十年掛けて周りを説得したが、それでも駄目でな」
火力の滝を浴びて、流石に被害が凄まじいからか、狼たちは逃げはじめる。
だが、その背中にも、容赦なくカラシニコフの鉄の雨は降り注いだ。勿論一発でも受けてしまえば、その場で身動きが取れなくなる。あとはなぶり殺しだ。
川背がすぐにルアーつきゴム紐を投擲して、木の上に上がる。だが、青ざめた彼女が、首を横に振る。
「駄目です、遠すぎます」
「えっ!?」
「きっと、僕たちの介入も見抜いていたんです。 銃撃部隊との間に崖があって、この低重力で僕のゴム紐使っても、わたれません」
ゴンドラの上でリールを巻いていた子豚たちは、半泣きになっている。
彼らだって、戦争を経験したのは初めてでは無いはずだ。あまりにも今回の作戦が、一方的で、なおかつ徹底的な虐殺だったからだろう。
ゴンドラが上がってくる。
さっきの女戦士だった。
「この宿六っ!」
駆けてきた彼女は、夫の胸ぐらを掴んだ。鬼のような形相だ。
だが、プーリャンは、冷め切った目でその様子を見ていた。
「あんた、村の精鋭達を殺したね!」
「ああ。 彼奴らが、一番聞き分けが無かったからな」
「巫山戯るなっ! 戦士としての誇りを胸に、何十年も村を守ってきた奴らだよ! あんたと意見が違うからって、どうしてこんな!」
「こうしなければ、儂らは永遠に犬共の餌だからだっ!」
プーリャンの怒りが、言葉となって周囲を打ち据えた。
スペランカーには分かる。この怒りは、何十年も蓄積されたものだ。一朝一夕の言葉で、どうにか出来るものではない。
そもそも、豚人族も狼人族も、人間扱いされる存在である。まだ独立国家として認められてはいないが、それに変わりは無い。
つまり、戦闘に介入は出来ない。
本来の目的が、邪神の探索と排除である以上、それはなおさらだ。
「戦いが此処で膠着してるとでも思ったのか? 暗黙の了解で、ずっと連中の狩に、儂らはつきあわされていたんだよ!」
崖の下は、死体の山だ。
グールとプーリャンが呼んだ狼人の戦士達は、確実に壊滅的な打撃を受けたと言える。しかも、近代兵器が通用することが、これで証明されてしまった。完全にパワーバランスは、逆転したのだ。
「戦争を止める気はあっても、どっちかには荷担しないっていったよなあ。 その言葉、信じさせて貰うぜ」
「この外道……」
川背が木から下りてくる。
目が燃え上がるようだった。もしスペランカーが一言言えば、躊躇無くプーリャンを殺しただろう。
だが、それはいけない。
それでは、同じになってしまうからだ。
周囲に無数の豚人が現れる。いずれもカラシニコフを手にしていた。
別に怖くは無い。
しかし、悲しかった。
「あんた達を拘束しないのは、俺にすごくうまい飯を食わせてくれたからだ。 事実を聞かせたのも、その恩からだ」
「プーリャンさん……」
「多分、わからんだろう。 目の前でゴンドラから戦士達が引きずり出されて、彼奴らに連れて行かれる絶望を。 彼奴らが、あの崖から投げてきた石でゴンドラが落とされて、中にいた奴が八つ裂きにされる悲しみを。 儂らは、ずっとずっとそれを見て育ってきたんだ。 それが神さんの意向で、より優れた生物兵器を作るためだあ? 巫山戯るな……巫山戯るなっ!」
拳を固めて、わなわなとプーリャンが震えている。
怒っているように見える。だが本当は、多分泣いているのだろうと、スペランカーは思った。
「これから、儂らはグールどもの村に攻めこむ。 一つ残らずぶっつぶして、皆殺しにしてやる」
そして、スペランカーは見る。
邪神達が湛えていたのに勝るとも劣らない狂気を、プーリャンが宿している光景を。
豚のような姿をしていても、この人は人間と何も変わりない。
命からがら逃げ帰ってきたグール達は、皆手酷い怪我をしてきた。五十匹以上が殺されたらしい。更にその倍以上が、戦闘続行不能な怪我をしている状態である。
影は無言で応急処置を手伝った。
どんどんまずい方向へ、事態が転がりはじめている。グール達は影を見て何か言いたそうだったが、長が何も言わないので、黙っている様子だ。
「やられたな……」
「彼奴ら、掟に背きやがった」
どうやら攻撃部隊の長らしい、まだ若い狼人が、肩の怪我を撫でながら言う。話を聞くと、豚人達は突撃銃やRPG7で武装していたらしい。
狼人達も、そういった武器の存在は知っていたそうだ。
近辺の麻薬組織の攻防は激しく、勢力図は日常茶飯事に書き換わる。そんな状態だから、時々新興の組織が、この山にある資源を根こそぎに奪おうと攻めこんでくることがあるらしい。
「そういうときは、どうしている」
「相手は掟によって戦っている生き肉じゃあないからな。 やりようなんぞ、いくらでもある」
当然一人も生かしては返さないと、若い戦士は言った。
確かに、これだけ身体能力が高い上に、深い森、険しい山である。地の利を知り尽くしているという利点は大きく、その上何かしらの切り札があってもおかしくない。
此処は、フィールドなのだ。
軍隊でさえ、入ったら生きて帰ることは叶わない。
「で、どうするつもりだ」
「何が」
「恐らく攻めてくるのではないのか。 完全に力の差が逆転した今、向こうが黙っておとなしくしているとは思えないが」
グール達が愕然としたので、影は呆れた。
此奴らは、恐らく。状況に保護された戦争ごっこを、延々と続けていたということなのだろう。
向こうは餌で、こっちは狩人。
しかし、長年の戦いで、餌は知恵を付けた。
正確には、人間の悪知恵を輸入した、というべきなのかも知れない。
「ど、どうしよう。 こっちには戦士じゃ無い子供もいる」
「迎え撃つにしても、こっちのことを知らない人間じゃ無いぞ。 当然、地形くらいは把握しているはずで、奇襲が通用するとは思えん」
「逃げるにしても、どこに。 周りは麻薬組織の巣ばかりだ」
右往左往しはじめるグール達は、滑稽を通り越して哀れだった。
彼らは、豚人達と違って、外貨獲得を生活向上のためだけに行っていたのだろう。豚人達が、事態の改善を図るために、どんな手でも使おうとしていたのとは、完全に違っている。
おそらくは、これが。
驕った者の末路という奴だ。彼らは狩る立場であるという事に疑問を抱かず、獲物がどんなふうに牙を研いでいるか、考えようともしなかった。ずっと、相手が弱いままだと信じ切っていた。
忍者の間でも、油断は絶対にするなと言う鉄則がある。達人級の忍者が、ちょっとの油断から命を落としたという例はいくらでもあるのだ。
そもそも豚は雑食で、力も見かけ以上にずっと強い。豚を飼っている畜産業者は、時々事故に遭う。豚は人間の弱点を知っている。股を内側から突き上げ、人間を高々跳ね上げる事があるのだ。
頭から墜ちれば、大けがではすまない。
人間に対してさえ、本能的にそういう対抗策を手にしているのである。狼に対して、どうしていつまでも無力でいようか。
「やむを得ん。 神様に助力を頼もう」
「! 神とやらが、いるのか」
「いるさ。 たちが悪い病気がはやったりとか、狩の成果が芳しくないときとかは、お伺いを立てるんだよ」
やはり、藪をつつく結果になったか。
ほくそ笑む。
これは一刻も早く、スペランカーたちと合流しなければならない。ふと、そこで思い当たる。
どうして、事態発覚から一月も放置されていたのか。
これは、影が思う以上に、闇が深い事件なのかも知れなかった。雇い主の勘は当たっていたわけだ。だが、影の目的とは合致している。
此奴らを放っておいて、一度スペランカー側の様子を見る必要がある。
これは思ったよりも早く、影の目的が達成できるのかも知れなかった。