オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
人間は、森を食い荒らして生きている。
フィールドの前に張り巡らされたしめ縄と鉄条網。半放棄されたプレハブの事務所。壊され、横転しているブルドーザーにシャベルカー。そして、自衛隊のジープ数両と、帯銃している自衛官。
このJ国は安全な場所だが、フィールドの近辺は違う。今回出現したフィールドは半径二キロと小型だが、内部は既に一般人が入れば生きて帰れない魔境と化している。ぴりぴりした緊張感を感じて、川背は武者震いした。
フィールド近くの事務所には、座禅して印を組む青年の姿。あれが三人目だろう。忍者だという話だが、装束は派手な色で、とても見つけやすい。まあ、実力は確かなようだし、多少の事なら技で補えるのだろう。
それにしても、今回は気が進まない。
事前に展開していたスタッフがスクーターと三輪トラックを牽引して、現場に到着したのを確認しながら、川背はそう思った。
もとより、流しの料理人という難儀な仕事をしている一族の夢を託されている立場である。料理には誰よりも五月蠅いし、その素材に対する視線も厳しい川背だ。だからこそに、分かる。
此処は本来、人間が手を入れてはいけない場所。
そして、守り、慈しんでいかなければならない森なのだ。そうしてこそ、森は人間に素晴らしい食材を恵んでくれる。
それなのに、此処で発見されたというレアメタルを目当てに、国営の大企業が乗り込んできた。森を切り開き、土を掘り返して、利権目当てに森をズタズタにした。
その結果が、フィールドの出現だ。その尻ぬぐいをしなければならないのだから、気が進まないのも仕方がないことだった。
しかし、生きていくためには、仕事をこなさなければならない。
流しの料理人は、兎に角儲からない。父も姉も、大きな料亭からは目を着けられていて、随分苦労した。当然妹である川背も同じだ。どこかの料亭に雇い入れられれば楽な生活が出来るが、金儲けのために妥協したくないと考えた途端、それは選択肢から外すしか無くなる。かって拝金主義を毛嫌いし、様々な料亭に喧嘩を売って回った父と姉の事もあって、それは更に難しくなっている。
父と姉を恨んではいない。その意思を継ぐことだって嫌ではない。
だが現実問題、生きていけないのだ。だから、危険なフィールドに挑んで、お金を稼がなければならない。父からつい最近引き継いだ(それまで、母が保管していてくれたのだ)屋台つきの三輪トラックも、そろそろ限界だ。屋台の部分だけを他に移植するにしても、お金が掛かる。また、良い料理をするには、それなりの道具を維持しなくてもならない。それらも、結構な出費になってくる。
結局、こうやって、荒事で働くしかないのである。
自衛官が敬礼してきた。三佐という話だから、結構えらい人だ。
「準備整いました。 早速、二人には威力偵察任務を。 そして川背様には、例の作戦に移っていただきます」
「分かりました。 準備は整っていますか?」
「此方に」
今回の任務では、川背は切り札とも言える仕事をする必要がある。その内容が料理なのだから、まだましだとも言える。それに、相手は生半可な料理では満足してくれそうにもない。腕の振るいがいがある。
料理に命を賭けてきた一族の末裔としての名を汚さないためにも。川背は常に料理に対して、全力で立ち向かう。頬を叩いて気合いを入れ直すと、仕事場へ歩く。
三輪トラックの所に来ると、準備が整っていた。バケツに入れられているのは、新鮮な鮎、それに泥鰌。後はタニシがいくらかと、それに取れたての山菜が側に摘まれていた。屋台の荷台から下ろしたのは、母と別れる時に譲り受けた、父の形見の一つである銘着きの包丁。使う度に磨がかなければならないほど繊細だが、文句の付けようがない業物である。
鮎を一匹捕りだして、すっと包丁を構えたまま観察する。そうすることで集中力を高める、川背なりのやりかただ。
脂ののりは充分。傷もついていない。大振りで健康的で、実に素晴らしい素材だ。ただし、鮮度を考えると、料理するまでにはそれほど時間を掛けない方が良いだろう。全部の鮎を水からあげて確認するが、いずれも問題はない。これほどの素材が手に入る場所を蹂躙するのは、本当に嘆かわしいことだと思う。
続けて泥鰌だが、此方は素材の質こそ素晴らしいのだが、残念ながら泥を充分に吐ききっていない。もう少し寝かせておく必要があるだろう。最後にタニシ。此方は一週間ほど泥を吐かせないと食べられないのだが、こっちに関しては既に作業が済んでいた。料理の方法はいろいろあるが、今回の食材で考えると、やはりうま煮か。
さっと頭の中で、メニューを考える。組み合わせを作り上げて、屋台を漁る。必要な調味料は揃えてきたが、この山の中で獲った素材が予想以上の格だった事を考慮すると、少し味が足りていないかも知れない。
自衛官に振り返る。遠くでは、国営企業のお偉いさんらしい責任者が、不安そうに川背を見ていた。
「すみません。 塩が足りません」
「手にしているのは、塩ではないんですか?」
「これでは、この素材に釣り合いません。 明石にJという店がありますから、其処から取り寄せていただけませんか? すぐにでも」
すぐに無線で三佐さんが連絡を取り、五分ほどで返事が来た。小売店で取り扱っている場所があるという。ただし、諸々の手続きやヘリの移動などもあり、此処に届けるまでに、七時間ほどかかってしまう。
スペランカーと忍者の人に声を掛けて、事情を説明。一旦探索を中止して貰う。慌てて飛んできたのは、責任者だった。
「ちょ、ちょっと! 君、困るよ! 勝手なことを!」
「勝手なことではありません。 状況に応じて、必要なことをしているだけです」
「ただでさえ工期が遅れに遅れているんだ! たかが塩なんか、君が持ってきているもので充分だろう!」
「今、たかが塩なんか、とおっしゃいましたか?」
川背は全身に殺意が漲るのを感じた。目に見えて責任者がたじろぐ。父が料理をけなされた時、或いは料理を知らない人間に出会った時、見せることがあったと聞いている表情と、母はそっくりだと言っていた。
川背は父ほどこだわりが五月蠅くない。別に料理を知らない相手を軽蔑はしないし、味が分かって無くても笑って流す。しかし、料理の過程に対してけちを付ける人間と、こだわりを否定する輩は許せない。料理そのものに対する誇りは、父にも負けていないつもりだ。だから二足の草鞋を履いている今も、料理に対する優先度だけは絶対に落とさない。
見かねてか、スペランカーが割って入ってくれた。
「川背ちゃん、やめて。 責任者さんも。 こういうのは何ですが、私も、川背ちゃんの意見には賛成です」
「き、君まで、そんな世迷い言をいうのか」
「専門家に任せるべきだって言っているんです。 彼女は中学に入るか入らないかという年の頃から、全国を渡り歩いて板前の本格的な修行をしている、フィールド探索者の世界でも有名な人物です。 彼女の言うことが信頼できないのなら、我々も信用されていないという事ですよね? それなら、我々も仕事を受けることは出来ません」
「同感だ。 俺も、専門家の意見は尊重すべきだと思う」
忍者の彼も、言葉少なく、だがはっきりと言ってくれた。
目頭が熱くなる。親の愛情を知らず、友達も殆どいない川背は、物心つく頃には料理に身を捧げると決めていた。だが、こういう場面では、やはり感じるものもある。
ついに、責任者は折れた。はげ上がった頭をハンカチでなで回しながら、好きなようにしてくれと吐き捨てる。三輪トラックを使うようになる前は、場末の料理屋で賄い仕事をしながら生計を立てていた川背には、ああいう人の苦悩もよく分かる。だが、今は譲れない所だった。だから、譲る訳には行かなかった。
彼処で譲っていたら、料理に殉じる人生を送った父の魂を汚すことになっていただろうから。
自衛官が、塩の手配をしてくれた。一旦バケツを側の潺へ運ぶ。二人も手伝ってくれた。即席のいけすを作り、鮎を放す。泥鰌はもう少し、バケツの中で泥を吐かせたいが、しかし水が新鮮であることに越したことはない。タニシもそれは同じだ。着いてきた自衛官に、そのタイミングを説明。まだ若い自衛官は、時々川背の胸に目をやっていたが、真剣に頷いて任務をやり遂げると言ってくれた。
「凄いなあ、川背ちゃん」
「え? どうしたんですか、スペランカーさん」
「いやね、私って、結局今でもフィールド探索は生きるためにいやいややってるし、死ぬのだって怖いのだって本当は嫌なんだ。 それなのに、ああいうこだわりのために一歩も引かないって言うのを年下の子がやっているのを見ると、凄いなあって思っちゃうよ」
「俺も、魂に起因する誇りを感じた」
何だか、良い先輩達と一緒に仕事をすることが出来たなと、川背は思った。
ヘリが爆音を立てながら降りてきた。自衛隊が使っている最新鋭の輸送ヘリだ。その巨体を見ると、積載量の凄まじさがよく分かる。
降りてきたヘリから、戦車が一台出てきた。多分噂の次世代戦車TK-Xだろう。それと同時に、ばらばらと自衛官が降りてくる。鋭い声とともに整列した彼らの中には、どうやら査察官が混じっている様子であった。多分、責任者様が、業を煮やして自衛隊を突っついたのだろう。此方が失敗した時に備えて、軍隊を呼んだという訳だ。
無謀な話である。フィールドの恐ろしさが根本的に分かっていない。最新鋭の装備で武装した軍隊でも手に負えないから、専門の能力者達に任されるのだ。
塩が届けられる。川背がそれをひとなめして、問題ないと頷いた。多分、吃驚するほどの高級品なのだろう。
「ようやくこれで戦いに赴くことが出来るな」
忍者の彼が言う。立ち上がってみてスペランカーにも分かったのだが、案外小兵だ。ただ、身体能力はかなり高い様子で、また精神もよく練られている雰囲気がある。頬を掻きながら、スペランカーは聞いてみる。
「ええと、お名前は何でしたっけ」
「じゃじゃ丸だ」
「ああ、貴方が」
「絶対生還のスペランカー、仕事を一緒に出来て光栄だ。 俺が道を開くから、残存兵力の掃討と発見を頼む」
じゃじゃ丸と言えば、現在フィールド探索者として名を知られる忍者の中でも、かなりの古株だ。兎に角確実な仕事をすることで有名で、妖物との戦闘経験も豊富だという。確かに今回の任務ではうってつけかも知れない。
スペランカーの能力についても、知っていると応えた。それならば話が早い。別のフィールド探索者と組んだ場合、スペランカーが死ぬのを見て吃驚する奴は多いのだ。そう言う相手を巻き添えにして死なないためにも、事前知識は必要である。
鉄条網が開けられる。
川背に仕事をして貰うのは最後だ。印を組んだじゃじゃ丸が、精神統一を始めた。
「りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん」
すっと、辺りの空気が変わる。
敵も、此方が臨戦態勢になった事に、気付いたのだろう。
スペランカーはバックパックをちらりと見た。ブラスターを敵の首魁に使うのは最後の手段だ。状況から考えても、存在まで滅ぼすような真似はしたくない。
自らの命と同時に相手の命も消し去るこの武器を、スペランカーは父の形見とはいえ、決して好いてはいなかった。
「先に行く」
「分かった」
言い終えた時には、もうじゃじゃ丸はいなかった。口笛を吹くと、スペランカーは闇の森へ、遅れて足を踏み入れた。
風を切って、夕闇の森をじゃじゃ丸が駆ける。
この名前は代々襲名しているものである。かつて、戦国時代に存在した先祖は有名な兄弟忍者で、特に弟の有能さはずば抜けており、妖怪に囚われた姫君を単身見事救い出したという。江戸時代になってからも、J国のお庭番衆として、主に対妖怪用の特務部隊として「じゃじゃ丸」は活動し続けた。
そして、その能力も受け継ぎ続けている。現在のJ国でも、あまり表には出ないが、フィールド探索者としてじゃじゃ丸は駆け続けている。かつては、この名が格好悪いと思ったこともあった。しかし今では、誇りとともに胸にある。
さながら時雨のように、不意に周囲から沸き上がる気配。
かって、この国には八百万の神々がいた。その中には、闇へ身を落とし、人を喰らうことを何とも思わぬように落ち果てた者がいる。
それらが、じゃじゃ丸の敵。妖怪。
そして、討つことができる相手だ。
既に全身は、九字を組み、印を切ったことで、破邪の気に満ちあふれている。正確には、この気は邪と同じものだ。それの中に、己の闘気を混ぜ込むことで、必殺の技とする。それが、かつて邪の名を二つ重ね合わせ、それを破ることを目的とした先祖が編み出した、必殺の工夫。
妖怪と交わり子をなした事で、その技を身につけた、先祖による呪われた遺伝する宿命だ。
飛び出してきたのは、無数の巨大な蛇。ただし頭部は鳥のようで、全身は大量の鱗に覆われている。いつまてんと呼ばれる妖怪で、本来は合戦場などに姿を見せることが多い存在である。現在では出現頻度が低いが、しかしこの森の特性が故に姿を見せると言うことなのだろう。
「イツマデ! イツマデ!」
しわがれた呻き声を上げながら、いつまてんが躍り掛かってくる。軽く腰を落とすと、その顔面に拳を叩き込んだ。更に跳躍して、空中でとんぼを切り、もう一体の頭上から蹴りを叩き込む。
すっと取り出した手裏剣。妖怪達の全身を覆っていた堅牢な妖気が、じゃじゃ丸の打撃を浴びたことでかき消えていた。
これぞ、妖怪を屠る奥義。投げつけた手裏剣が、やすやすといつまてんの体に潜り込み、冗談のように、さながら破裂した風船がごとくに巨体を消し飛ばした。明らかにひるむ敵へ、間合いを詰める。彼らは落ちた神々。そして、その実は、怨念によって歪んだ土着の精霊神。
怨念によって変質した彼らは、一度無に帰すことによって、再生の路を歩むことが出来る。
数体のいつまてんを打ち砕くと、一旦敵の気配は消えた。後方では、まるで戦闘の気配がない。と思ったら、急に鋭い悲鳴が上がった。スペランカーのものではない。いつまてんのものだ。
ふらふらと空に舞い上がったいつまてんの腹には、大穴が開いていた。やがて、墜落していきながら、はじけ飛ぶいつまてん。
外で待っている待機スタッフに被害が及ばないように、スペランカーが保険になってくれている。その恐ろしい能力もじゃじゃ丸は聞かされていた。出来れば、戦いたくない相手である。面と向かっての戦闘能力は低いかも知れないが、延々と戦えば隙を見せずにはいられない。
そして、実績を上げていると言うことは、諦めずに幾らでも食いついていく性格だという事も示している。確かに並の人間以下の身体能力かも知れないが、ある意味最悪な厄介過ぎる能力の持ち主である。
さて、まだまだ敵将までの道は遠い。闇の中、気配を殺して走るじゃじゃ丸を阻む複数の影。
今度は、ゴリラよりも更に大きな人型。見かけも似ているが、より禍々しく、生物離れしている。毛は逆立ち、目は爛々と輝き、口から伸びた牙が恐ろしい。体重は四百、いや五百キロを超えているだろう。
彼らは猩々と呼ばれる猿の怪物だ。本来は穏やかな存在だが、すっかり凶暴化している。怒り狂うその牙は人間など易々と噛み砕き、爪は重機さえも引き裂く。野生のグリズリーなど問題にもならない凶暴すぎる相手だ。工事現場のブルドーザーを紙細工のように砕いたそのパワーは、報告を受けている。
しかし、妖怪である以上基本的な戦術は変わらない。打撃を叩き込んでから、神職が天津神の加護を練り込んだ手裏剣を打ち込むことで屠り去る。ドラミングをして、牙を剥いて威嚇してくる猩々に突貫。繰りだされた長い腕をかいくぐり、顔面を数度踏みつけるように蹴る。己の異変に気付いた猩々が、空をかきむしるような動作をする中、手裏剣を投げつける。
破裂した。これで、残りは三匹。
周囲を見回す。ふと、真横から殺気。跳躍。足のすぐ下を、太い丸太が通り過ぎる。
とっさに木を引き抜いた猩々が、それを使って殴りつけてきたのだ。
飛び退いたじゃじゃ丸は、もう一匹の猩々が、まるで鞠のように体を膨らませるのを見た。そのまま奴は、泥濘を水鉄砲がごとく吹き付けてくる。更に、縦横無尽に木を振り回して間合いを計ってくる猩々。一匹は、じゃじゃ丸の後ろに回ろうとしていた。
流石に猿の妖怪。知能が高い。かなり高度な連携戦闘を行ってくる。
まずは後ろに回ろうとしている奴からだ。じゃじゃ丸は懐から取り出した閃光弾を前方の一匹に投げつけつつ、木を蹴って高々と飛び上がり、丸太を掴んでいるもう一匹に手裏剣を放る。手裏剣で仲間が倒されているのを見ている猩々は、丸太を振るってそれをたたき落とすが、それは陽動だ。
後ろに回り込んでいた一匹が、ジグザグに頭上から迫ったじゃじゃ丸に気付いた時にはもう遅い。
顔面に、じゃじゃ丸が繰り出した致命的な蹴りが炸裂し、一瞬後には吹き飛んでいた。