オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
いあいあの有名な言葉で知られる彼奴です。
特に強大な邪神として、本作では扱います。邪神と戦い慣れた歴戦の猛者達ですら、苦戦する程の……です。
アトランティスの自宅に帰宅して、わずか数日。
目が覚めたと思ったら、もうその手紙が来た。シュブ=ニグラス相手にブラスターを使った直後だから、全身がだるい。ぼんやりする頭で、手紙を読みながら、スペランカーはどうしたものだろうと思った。
人口三百人ほどの小さな島が、丸ごと滅んだという。
しかも全てが凍り付けになったとか言う事で、即座にフィールド認定。暮らしていた人達は絶望的だと言う事であった。
酷い話だ。
当然、出なければならないだろう。
少しはコットンと一緒にいてあげたいのだが、そうも行かない。いつも以上に体が重いが、ベットから這い出して、すぐに出かける準備をする。
着替えを済まして、部屋を出ると、思わず足を止めていた。
心配そうな顔をして、其処に川背がいたからだ。もっとも信頼出来る戦友であり、自分を慕ってくれる後輩である川背が、今回意識が無いスペランカーを此処まで運んでくれたのだ。
「先輩、すぐに出るつもりですか」
「うん。 こんな酷いことになっているなら、出ないと駄目だよ」
「分かっています。 しかし、今回はM氏が出るようです」
世界最強のフィールド探索者、M。彼は無数の能力を使いこなす圧倒的な実力者であり、並の邪神程度ならまとめて一ひねりにするほどである。今回は被害の規模から言って、彼だけでは無く、上位のフィールド探索者が何名も出馬することになるだろう。場所が、北米大陸に近いという事情もあって、恐らく出陣は迅速に行われること疑いない。
そう川背が言う。
何となく、言いたいことは分かった。スペランカーは頭が悪いが、人の気持ちを何となく感じ取ることは出来る。
「でも、出ないと駄目だよ」
「何故ですか」
「この間の件と、無縁だとは思えないから」
だとすれば、責任の一端は、スペランカーにもある。川背は髪の毛を掻き回すと、天井を仰いで嘆息した。
「そういう所が、先輩の好きな所なんですけど。 本音を言うと、少しは休んで欲しいです」
「大丈夫、これが終わったら、きっと休めるよ」
そんな保証など、どこにも無い。
スペランカーにも、それくらいは分かっていた。どうも世の中が、加速度的におかしくなりつつある今、誰にも未来など保証できないことくらいは。
それに、もう一つ。
どうも嫌な予感がするのだ。
「今のうちに、どうにかして未来を切り開かないと」
「え?」
「この間、ジョーさんに聞いたの。 未来、酷い有様だったって」
文字通りの地獄だったと、ジョーは言っていた。
宇宙にまでどうにか人類は進出することが出来た。だが、フィールド探索者に相当する存在はおらず、圧倒的な暴力で君臨する者に、世界は好きなようにされていた。
未来に残った男達が、世界を変えられたのかは分からない。
だが、大きな異変が起こったのは間違いない。世界中から、フィールド探索者が消えて無くなるほどの、だ。
「きっと、このまま世界が進むと、そんなことが再現される。 そうしたら、きっとコットンだって死んじゃうよ。 このアトランティスだって、無事だとは思えない」
スペランカーは、自分を受け入れてくれたこの小さな大陸が好きだ。自分を慕ってくれる人達には応えたいと思うし、居場所が無い人達を招きたいとも考えている。
きっと自分が母親にさえ存在を望まれず、飢餓地獄の中で生きてきたからだろう。
「先輩……」
「これは、多分私のエゴなんだと思う。 おかしな話だよね。 コットンに幸せになって欲しいから、却って孤独にしてるんだから」
「……っ」
声を詰まらせた川背が、顔を背ける。
「分かりました。 できる限り早く終わらせて、また此処に帰ってきましょう」
川背が、乱暴に涙をぬぐう。
自分のために泣いてくれるこの後輩が、スペランカーにはとても頼もしい相棒だった。
アトランティスを飛行機で発ち、オーストラリアを経由して北に。途中、戦闘機の護衛を受けながら、更に北上。J国にも給油のために一度寄ったが、それだけだ。J国は故国だが、今は家が別にある。
途中、空港で、国連軍からの中間報告をメールで何度か受けた。
「やはり、M氏が来るようですね」
「頼もしいよ」
「あの人と共闘するのは初めてです。 見かけ通りの荒々しい人だと聞きましたが」
「ううん、そうだね。 ティランノサウルスみたいな人かな」
ずばりその通りの指摘をすると、川背はくすくすと笑った。
実際、Mは雰囲気からして人間離れしている。圧倒的な戦闘力よりもまずその雰囲気に、圧倒されるものだ。
北米大陸に到着。まずはA国に入ったが、更に北上して、C国に。其処の小さな街にある軍ベースが、第一の集結地点となった。今回はほぼ間違いなく異星の邪神、それも相当に強力な存在である事は確実であることから、かなり距離を取って準備をするというのだ。
飛行機が基地に着陸。
外は真っ白で、何もかもが雪化粧されている。ひんやりと寒い空気が、飛行機を包み込んでいるのが分かった。
今乗っているのはセスナだが、それでも雪の深さが、翼の上から見通せないほどである。これは雪に埋もれたら、春まで出てこられないかも知れない。ちょっといやだなあと、スペランカーは思いながら、川背と一緒に提供された毛皮のコートを着込んだ。
タラップを降りながら、セスナを出る。
寒いと言うよりも、まず痛い。空気を思い切り吸い込むと、ロシアなどでは肺が凍るという話だが、嘘では無いと実感できる。
雪は降っていないのに、この寒さだ。吹雪になったときの体感温度の凄まじさは、想像も出来ない。
なれていない人間は、瞬く間に凍死してしまうのでは無いか。
「寒いね……」
「先輩、寒いの苦手ですか?」
「川背ちゃんは平気なの?」
「僕は修業時代、散々ひもじい思いをしましたから。 流石にこんなに寒いところで野宿はしたことありませんが」
まつげが凍るから、もっと毛皮のコートを深く被った方が良いとアドバイスされる。確かに、いくら最悪の場合がスペランカーには無いとは言っても、嫌な事態は出来るだけ避けたい。
軍のベースは色々見てきたが、今回のは急造では無く、ずっと前からあるものらしい。滑走路にはかっこいい戦闘機が何機も止まっているし、輸送用らしい幌がついたトラックもかなりの数を見かける。ミサイルを積んでいるらしい車も、彼方此方に止まっているのが見えた。
C国は北米大陸の国家としては、A国に次ぐ大きさを持ち、一応白人系の先進国として知られている。
だが流石に圧倒的な力を持つA国には対抗できず、国民は随分と反感を抱いているという話だ。
基地の中に入ると、流石に少し暖かい。それでも、毛皮のコートを脱ぎたくは無い。外の寒さが、却って際立ってしまうかのようだ。コンクリの建物だからか、外の音が、まるで吹雪のように聞こえて、思わず首をすくめた。
川背はと言うと、なれたもので、もうコートを脱いでいる。
普段は短パンで出歩くことが多い彼女だが、流石に此処ではジーパンをはいて、足下までしっかりガードしている。ただ、ダメージ付きのジーパンなのは、機動力を最重視する彼女にとって、パツパツなのは却って邪魔になるからだろうか。
元々スペランカーは運動神経も鈍いし何よりとろいので、あまり動きについては気にしなくて良い。
いざというとき、必要なだけ動ければ、それでいい。
途中で、エレベーターに乗って、地下に。
護衛についていた国連軍の軍人さん達も、やっと毛皮のコートをやらフードやらを取り始めた。厳つい大男が多いが、中に目が覚めるくらい綺麗な女性の軍人さんがいた。モデルでもやれそうな美貌である。ただし、ちょっと背が高すぎるかも知れない。
「あら、キュートな戦士さんね」
「ありがとうございます」
「先輩」
素直に喜んでいるところを、川背に袖を引かれる。
馬鹿にされているのだと、J国語で言われて、ちょっと驚く。キュートというのは、動物に対する愛情表現らしい。つまり、子犬のようなかわいらしさとか、そんなニュアンスなのだとか。
確かにそう言われると、大人の女性に対する褒め言葉では無い。猿とか言われるのと、あまり差はない。実際問題、アジア人を人間と見なしていない白人は多いと聞いているが、その延長線上の、罪の意識さえ無い差別なのだろう。
そういえば、童顔なスペランカーは、西欧系の国では小学生に間違われることもある。まあ、そんなものだろうか。
川背は怒っているようだが、スペランカーは気にしない。
「貴方はとても綺麗ですね。 やっぱり美貌を維持するのは大変ですか?」
「あら、それはもう。 エクササイズにダイエットに、とても大変よ」
切実なんだろうなあと、スペランカーは思った。
というのも。白人系の女性は、容姿が大人っぽい反面老けるのがとても早い事を知っているからだ。
特にこういう寒いところで暮らしている人は、体の負担が大きいせいか、老ける速度が尋常では無いと言う。スペランカーは、正直な話、羨ましい。老ける事さえ許されない体であるからか、悪い意味でも育つことが出来ないのだ。
川背も笑顔を崩していないし、口調もそのままだ。
だが、やっぱり相当内心は頭に来たままのようだが。
「いいんですか」
「まず怒っても、きっと誤解は解けないよ。 それより戦士だって言ってくれてるんだから、誰にも恥ずかしくない戦いをしてみせれば、認めてくれるんじゃ無いかな」
「先輩……」
「川背ちゃんはきっと凄く分かり易いから、大丈夫だと思う。 問題は私だね」
今回も異星の邪神が相手だとすると、一体何回死ねば良いのだろう。
もしも真っ正面からぶつかり合うと、最低でも一万回という所か。耐えられることは耐えられるが、しんどい。
だが、それでもやらなければならない。
コットンが笑顔で大人になれる世界が欲しい。そのためには、そもそも世界が無くなっては困るのだから。
エレベーターが止まり、長い通路に出る。
地下だからか気温は安定していて、もうエアコンも掛かっていない様子だ。吸排気の音が、何処か他人事のように、ゴーッと聞こえてくる。
「此方です。 転ばないように」
川背が流石にむっとした様子だったが、スペランカーは気にしなかった。動物扱いの次は子供呼ばわりか。だが、それは人間として認めているという事だとも思う。
兵士達は仲間と合流して、何か喋りはじめた。
「行こう」
「はい。 通訳は、しなくても良いですよね」
「うん。 川背ちゃん、もしも怒ることがあるんだったら、この事態そのものにぶつけよう」
「分かっています。 先輩は、そういう所、僕よりずっと大人ですね」
そう言われると嬉しい。
既に、中間合流地点では、何名かのフィールド探索者が姿を見せていた。
最上座には、やはり最強の名も高いMが。
そのほかにも、かなりの使い手が揃っている。しかし、C社のメンツは殆どが顔を見せていない。M氏は基本的にスペランカーには冷たいので、かばってくれるアーサーにはいて欲しかったのだが。
だが、今回は川背がいる。彼女は、アーサーと同じくらい信頼出来る。
「ほう、スペランカーさんは重役出勤ですかな」
「ごめんなさい、飛行機が遅れて」
「ふん、まあすわりなさい」
Mが馬鹿丁寧に言う。
どうもMは以前からスペランカーに妙な対抗意識を持っているらしく、かなり露骨な嫌がらせをしてくることが多い。
この辺り、世界最強の存在にもコンプレックスがあるのだと分かって、ちょっとおかしい。
「それより、今回はC社の人は」
「俺が来ている」
後ろから声。
振り向くと、ジョーだった。以前何度か共同戦線を取ったことがある。能力は貧弱だが、その圧倒的な戦闘経験でワンマンザアーミーの異称を誇る、歴戦の武人だ。スーパージョーと呼ばれるほどの人である。
Mは鼻を鳴らすと姿勢を正し、ジョーに対して敬意を見せる。
あのMでさえ、武人としてのジョーの経験には敬意を払っているのである。それほどの人物だ、という事だ。
「これでだいたい揃ったか」
「此処に集結したのは二十名ですか。 相当な大規模チームですね」
「一流どころとされる奴だけで六人だ。 以前のアトランティス戦以来の陣容だな」
無理も無い。
島一つを瞬時に凍らせるほどの相手である。異星の邪神で無いとしても、本腰を入れないと危険な存在だ。
ここに来ている兵士達にさえ、危険があると言えるかも知れない。
見たところ、スペランカーも知っている人物ばかりである。隅っこの方にいる、小柄な二人組は、確かイヌイットのポポとナナか。以前はしっかりもののナナとお調子者のポポという印象を受けたのだが。
どうしたのだろうか。今日は二人とも表情が硬く、無言で顔を強ばらせていた。
咳払い。
司会をはじめたのは、初々しい白と赤の、巫女装束の女性だ。おかっぱに髪を切りそろえている丸顔の彼女は、何度か仕事の時に見たことがある。確か神道系の戦闘スキルを持つ女性で、東洋西洋問わずに妖怪がらみのフィールドを何度となく潰してきているベテランの筈である。噂では一族でこの仕事をしているらしく、その時代で一番の使い手が、同じ名前を名乗っているとか。だから、同じ名前でも、随分と使う技や容姿が違っているのだそうだ。
「ええと、会議を始めてもよろしいでしょうか」
「ああ。 はじめてくれ」
「はい。 それでは、今回のフィールドの状況について」
プロジェクターが降りてくる。
何度も咳払いしている巫女さんは、とてもかわいらしい。最初はベテランかと思ったが、これは違うかも知れない。襲名したばかりなのだろうか。或いはこの戦いが、初陣なのかも知れない。
だとすると、気の毒だ。
生きて帰れるか、かなり微妙なところだからである。だが、フィールド探索者ならそれくらい覚悟しているのは当然で、危険なことは理解していなければならない。スペランカーも気を掛ける事は出来ても、かばう余裕は無いだろう。
「今回氷付けにされたのは、このC国に所属するシオレマイナ島。 六キロ四方ほどの小さな島で、イヌイット系の原住民が六割、白人系三割、混血の住人が一割ほどの、三百人と少しの人が住んでいました」
島の全景が、何度か写真として映し出された。
地形はごく平坦で、山と呼べるようなものもない。写真の殆どは、農業や漁業をしている素朴な人達の、静かな生活を映し出していた。
故に、今回の戦いは急務だ。
こんな平和な島を蹂躙した悲劇を、一刻も早く終わらせなければならない。
「現在、島の気温は-140℃。 全域が吹雪で、海まで凍り付いています。 元々寒い島なのですが、生態系は確実に全滅。 耐寒装備でも長時間は保たない状況が続いています」
「フィールドの拡大縮小は」
「今の時点では安定しています。 ただ、内部からは、考えられないほどの強い力の波動が」
十中八九、異星の邪神でしょうと、巫女さんは締めくくった。
Mが挙手する。
筋肉の塊である腕は、丸太のように太い。一応これだけを見れば人類の範疇ではあるが、この男の場合頭も良いし、何より能力の凄まじさが段違いである。結果、敵を叩き潰すために存在しているような男となっているのだ。
「それで、そいつが何者かは分かっているのか」
「いえ、まだ何とも。 何しろ、異星の邪神は情報が少なく」
もしかして、シュブ=ニグラスと名乗った邪神の、夫では無いだろうかと、スペランカーは口にしようとしたが。
だが、先に挙手した者がいる。
隣にいる川背では無い。挙手していたのは、奥にいるイヌイットの二人の内の女性の方。ナナだった。
「一つよろしいですか」
「何か」
「あの島に、生存者がいる可能性がある、といったら」
「え……?」
流石にそれは、想定していなかった。
どんな素人でも、あの状況で生きている人間がいるわけが無いと思う。何しろ-140℃である。
ビバークの達人だって、どうにもならないだろう。しかも確か、あの温度になってから、既に一週間が経過しているはずだ。
雪山での遭難でも絶望視される状況である。
ましてや今やあの島はフィールド。もしそんなところで生き残ることが出来るとすれば。
「冷気を操作するフィールド探索者?」
「あ、そうか」
川背の言葉に、スペランカーは納得してしまった。
確かに、それならば生き残ることが出来る可能性がある。だが、それにしても食料や水はどうするのか。何より、フィールド化している状態だと、どんな危険な生物がうろついているか、分かったものではない。
たとえば、冷気を完全にシャットアウトできる能力を持ったフィールド探索者がいたとしても。生存率は、あまり高いとは言えない。
だが、もしそんな人がいれば。
地獄と化した島で、住民を何人か、救い出せているかも知れないのだ。
「そんな奴に心当たりがあるのか」
「俺たちのじいさまだ」
ポポが、Mにため口を聞いたので、見ているスペランカーの方が心配になった。
Mは平然としているが、本当にそうだろうか。
ナナが、ポポの頭を掴むと、机にたたきつけた。ポポは抵抗しない。きっと、ナナが正しいと思っているからだ。
「すみません。 話を進めても良いですか」
「ああ、好きにしろ」
「私の祖父が、かってはアイスクライマーと呼ばれるフィールド探索者だったことは、ご存じですか」
「ああ、どんな氷壁でも越えるって噂の。 引退したと聞いていたが、そうか、お前達が孫か」
ナナが頷いた。
確か、その名前はスペランカーも聞いたことがある。
寒冷地限定のフィールド攻略をする人物で、相当な凄腕だったという。フィールド探索以外では、遭難者の救助もやっていたそうだ。此方も、伝説的な腕前で知られていたらしい。
「正確には、父方の叔父です。 一族の間では、鼻つまみ者として扱われていて、一人で引退後はこの島にいたんです」
「ほう?」
「世俗に関わるような奴は、一族の恥。 そんな考えが、まだ一部にあったんです。 お爺さまの時代は」
「そうか。 まあ、それは良い。 生存者がいる可能性があるとすると、あまり悠長にも構えてはいられんな」
Mが腰を上げる。
周囲に一気に緊張が走るのが分かった。
「第二陣を待たず、出撃する。 威力偵察を行い、生存者がいるようなら救助」
「戦力が整わない内に出るんですか」
「此処には何しろ神殺しの異名を誇るスペランカーさんがいるからなあ」
Mの笑顔は、まるで魔王か何かが浮かべているも同然で、スペランカーは背筋に寒気が走った。
いずれぶっ殺してやる。そう、笑顔は言っているも同じであったからだ。
だが、Mは非論理的な殺しをしたりはしないはずである。凶暴なところは確かにあるかも知れないが、それは戦士としての一面。実際にMが暴力事件を起こしたりと言った話は、聞いたことが無い。
Mはてきぱきと、人員の配置を決めていった。
「今、何台か北極でも探査に使っている耐寒式のスノーモービルを用意させている。 要救助者がいる場合を考慮して、乗るスペースには空きを作る。 これを運転する者、外で護衛する者、支援をする者に分ける」
「ならば俺が運転を」
「僕も運転します」
ジョーと川背が挙手。川背は免許を持っていたはずだが、スノーモービルなんか運転できるのか。ちょっと凄い。スペランカーはどっちにしても、外に出たらすぐに凍死してしまうだろうから、支援組だ。他にも何名かが挙手した。
外での護衛には、Mが当たる。無数の能力を持つMである。寒さくらい、どうにでもなるのだろう。或いはそのままでも、寒さに耐えきれるのかも知れないが。Mならそれでも不思議では無い。
それから、耐寒用の装備が配られる。
毛皮のコートでは無い。宇宙服のような、耐寒スーツだ。
「-140℃などという環境は、地球上には存在しない。 もしこれを破られた場合、耐寒能力が無い人間は、その場で死ぬと思え」
「思った以上にハードだな」
「動きづらい」
彼方此方から、文句が上がる。
だが、Mはそれをひと睨みだけで黙らせた。
「よし、これから輸送ヘリに乗り込んで、現地に向かう。 到着は六時間後の予定だ」
外にばらばらと向かうと、件の輸送ヘリが待っていた。良く国連軍が使っている、複数のロータリーがついた大きなものだ。
しばらく耐寒スーツの感触を確かめていたスペランカーだが、川背がしっかり着こなしているのを見て、凄いなと思った。
だが、彼女は非常に微細なコントロールを重視して、機動戦を行うタイプの戦闘スタイルだ。こんな重そうな服を着て大丈夫なのだろうか。
不安にはなる。
だが、今はやるしか無い。
輸送ヘリの中で、スノーモービルでの割り振りが決められる。川背が運転するモービルにスペランカーが乗ることになったので、ちょっと安心した。同じスノーモービルには、さっき司会をしていた巫女さんのサヤさんが乗り込んでくる事にもなった。
「よろしくお願いします、スペランカーさん」
「此方こそ、よろしくお願いします」
「ええと、間近で見るとその呪い、もの凄いですね」
苦笑いを返す。多分巫女さんと言う事もあって、見えているのだろう。
スペランカーの体を覆う、邪神の凄まじい呪い。神道はどちらかというと、自身の力を使うのでは無く、よそから力を借りてきて行使するタイプの戦闘を行うのだと、サヤさんが説明してくれる。
そのため、見えるのだそうだ。
確かにそれは、巫女さんだからと言うよりも、説得力がある。そんなものなのかと思いながら、ヘリの発進で、がくりと揺さぶられる。
もしも一機落とされても全滅しないように、二機のヘリに分散して搭乗。
フィールド近くの海上で、降りることとなった。
大きな軍用ヘリだからか、動きは非常に緩慢で、だが動き出すと凄い推進力を感じる。これは何度も乗り込んだから、知っている。
隣に座っている川背が、小声で言う。
「先輩、ここのところ、少しおかしな事が続いていると思いませんか」
「うん。 漠然と何がおかしいのかは、はっきり言えないんだけど」
「僕は、ひょっとすると何かおかしな事を企んでいる人達が、国連軍やフィールド探索社に潜り込んでいるんじゃ無いか、そう感じています」
それは、ちょっと酷な話だ。
確かに少し前、南米でシュブ=ニグラスと戦ったとき。影という忍者と組んだが、彼は途中で味方であるはずのハリーと交戦、最後まで結果を見届けずにフィールドを去った。少なくとも、スペランカーに姿を見せることは無かった。それに関して、スペランカーは何か仕方が無い理由があったのだろうとは思っているが、周囲はそう考えないだろう。
実際、彼が何かしらの存在のスパイをしていた、と思う方がしっくり来るのだ。何しろ、諜報活動の専門家なのだから。
それに、その前の戦いでも、おかしな事はいくつもあった。
「でも、それだったら、どうすればいいんだろう」
「背中にも気をつけて行動するしかありません。 先輩は僕が守りますけど、此処で誰かが裏切ったら危ない、という場面で、気をつけていくしか」
「何だか、おっかない話ですね。 私も備えておきます」
サヤさんがお札を取り出すと、その表面を白い指で撫でる。
不意に、周囲の空気が冷えた。
半透明の、着物を着た女性が、虚空に浮き上がる。美しい黒髪を持つ女性だが、雰囲気は冷え冷えとしていた。
「ええと、いわゆる式の、雪女です。 今回、彼女に外で護衛任務に当たって貰います」
本当は、戦闘開始まで出す気は無かったのだがと、サヤさんは言う。
だが、そうも言っていられないだろう。
二機のヘリが、フィールド至近の海上で停泊。
側面を開けると、既にぶわっともの凄い冷気がヘリに流れ込んできた。耐寒スーツは宇宙服のような作りだが、視界の右下隅の温度計が、見る間に氷点下を遙か下回っていくのが分かった。
Mが最初に飛び降りる。
彼は、耐寒スーツさえ着けていない。見ると体の周囲を、赤い何かが跳び回っている。多分能力の一つなのだろう。どういうものなのかは分からないが。
下の海面は既に凍り付いていて、Mが飛び降りても、罅一つはいらなかった。
「ヘリ、着陸しろ。 この様子なら、その方が早い」
「ラジャ」
勿論、完全に着陸してしまう訳では無い。凍った海面すれすれに、ホバリングするのだ。川背に手を貸してもらって、降りる。ジョーは無言で、スノーモービルを海上に下ろす手伝いをしていた。
回収時の話も、Mははじめている。
「氷が溶けるようなら、重巡洋艦を派遣して回収に来い。 フィールドが解除されているなら島まで、そうでないなら、スノーモービルに据え付けてあるゴムボートで脱出する」
「分かりました」
ヘリが遠ざかっていく。
十五名の内、十名が四機のスノーモービルに分乗。既にこの辺りで、温度は-30℃に達しているようだが、外での護衛を担当することになったポポとナナは涼しそうな顔をしている。
だが、流石に内部に入れば、かなり危ないだろう。
「もしも相当に危なそうになったら、私が周囲の温度を緩和する。 全員耐寒スーツを捨てて外に出てこい」
「そんなことが出来るのか」
「短時間ならな」
Mが平然と応え、ジョーが呆れたように、スノーモービルに乗り込む。
あまりにも非常識すぎるMである。何が出来ても、確かに不思議では無かった。