オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
J国では数少ない、未攻略フィールド。それが、今影の前にそびえ立つ蠱毒城だ。
場所はY県の山奥。文字通り鳥でも近づけない深奥であり、地元の人間でさえ行くことは無い秘境だ。
だが、それでも通常なら、フィールドである以上は攻略される。
此処が残されているのは、ある理由からだ。
城の周囲には堀があり、時代がかった石垣で守られている。城壁には狙撃用の穴が無数に空いているだけではなく、城の中には人の気配もあった。
否、それは人では無い。
巨大な天守閣が城の中枢にはそびえ立ち、瓦は黒光りして、雨の中存在感を主張している。時々走る稲光が、威圧的な天守閣の姿を、闇の中に浮き上がらせるのだった。
周囲には、忍びを遠ざける仕掛けがいくつもある。下手な場所を踏めば、その場で命がなくなると、覚悟しなければならない。
城門に廻る。
かって此処は、影の先祖が攻略したフィールドだ。だが、その特異性が災いして、今でも存在を続けている。
城門の前に立つと、吊り橋が降りてきた。入ってこいと言うのだろう。
足を進める。
吊り橋を踏むとき、かなり大きな音がした。木が朽ちているようだ。だがそもそも、この城そのものが現の存在では無い。木が朽ちていようと、釣り天井があろうと、不思議では無かった。
城の中に入ると、ひんやりした空気が出迎える。
さっきまであった人の気配は、無い。代わりに、足音が近づいてくる。人のものとは思えない、とても重苦しいものだ。
姿を見せる。
木の床を踏み抜きそうな巨体である。それは丸みを帯びて、黒光りしている、巨大な亀だった。形状からすると、現実に存在するどんな亀にも似ていない。足回りはゾウガメに似ているが、首はさほど長くないようで、全体的に球体の中の一部分という印象を受ける。
「影だな。 ボスがお待ちだ」
「貴様は」
「クカカカカ、鉄の盾、メットとは俺のことだ」
此奴も、著名な存在だ。ノコノコに比べて動きが鈍重だが、更にそれを超える防御能力を誇るという、Kの側近の一人。
やはり亀に似た姿を普段からしていて、本当はどのような存在なのか、誰も知らないのだという。
メットについて、城の中を歩く。小さな階段でも、メットは器用に登っていたが、時々天井に頭をぶつけているのがほほえましい。
「ちっ。 芸術的な出来だってのは俺も認めるが、この国の建物は狭苦しくていけねえや」
「お前が大きすぎるのだろう」
「あん? ……ああ、まあそうかもしんねえな。 じゃあしょうがねえ」
メットはすんなり受け入れる。根は素直で気のいい奴なのかも知れない。ただ、この男はフィールド探索者殺しとして知られ、全世界で賞金を掛けられている、筋金入りの危険な存在だ。
最上階まで上がると、闇がひときわ濃い部屋があった。
其処では、腕組みした女が見張っていた。女の周囲には、鉄さびのような不可思議な臭いがある。
そして、ずるずると、何かを引きずるような音。
植物の蔓だ。それが、床も壁も這いずり回っている。
「パックンフラワー、様子は?」
「その名前で呼ぶの、止めて」
女はまだ高校生くらいだろうか。二つ名で呼ばれることを、一番恥ずかしがる年頃だ。Kの部下も、いずれもが本名ではなく、通り名を使っていると聞く。この女も、父か母か、或いは別の家族からか、通り名を受け継いだのだろう。
人間の姿をさらしているという事は、戦闘形態を取るのも恥ずかしいのかも知れない。見ると、硬質な雰囲気の、気むずかしそうな女だ。スーツを着て眼鏡でも掛ければ、似合うかも知れない。
「まだ侵入者は無し。 ノコノコ先輩は三十分ほど戦った後、引き分けたみたい。 そろそろ戻ってくるかな」
「ふん、あの野郎、相変わらずだな。 敵は一撃必殺で確実にぶっ殺せって何度も言ってるのによ……」
また別の声が割り込んでくる。
背中にロケットブースターを背負ったパンクファッションの男だ。面白い事に、触れてもいないのに、複数の物体が周囲に浮いている。非常に長身なので、まるでイカみたいに見える。
「ゲッソー、おめえいつもやり過ぎて、ボスに怒鳴られるじゃねーか」
「うるせ。 戦闘の経過自体で怒られたことはねーよ」
「そろそろ、そのボスの所に案内して貰えるか?」
不毛なやりとりを続けるKの部下に、影は咳払いした。
最初に我に返ったのはパックンフラワーである。来るように促すと、てくてくと歩いて行く。
元々小柄な女だが、色気の見せ方とかを分かっていないらしい。歩き方は子供みたいであった。
そういえば、少し前に仕事を一緒にしたスペランカーも、こんな様子だったか。もったいないことだと、影は思った。
「何よ、私の背中に何か付いてる?」
「別に。 仕事を終えたらすぐにでも帰るから、急いで欲しいのだが」
「ふん」
此方に好意を抱いていないのは明白である。女は影を見ようとさえしなかった。
彼女ら幹部が控えていた部屋の奥は湿気が強く、床が破れていたり、天井からしずくが伝っていた。
妖怪がいつ出てもおかしく無さそうな雰囲気である。
この城には、かって無数の妖怪や、人外の存在達が住んでいた。今では、ある理由から定期的に駆除が続けられ、沸く度に潰されている。
今、此処に住み着いているKとその配下達も、その作業を続けていることだろう。つまり、彼らには、造作もないという事だ。
元々Kは社会の裏側にいるとは言え、能力者。
つまり、フィールド探索者と、根本的には同じなのである。
勿論、社会の裏側にいる大物の中には、非能力者もいる。Dr、Wなどが典型例だろう。だが、KはあのMさえ一目置くほどの戦士として、フィールド探索者の間では、知らぬ者などいない存在でもあるのだ。Mには及ばないだろうと、本人も認めてはいるが。
そのため、KはMと戦うときは、必ず知恵を働かせるようにしている、らしい。
「妖怪だったら、ボスが定期的に潰して廻ってるよ」
「それで、今は休憩中か」
「いや、食事中」
一番奥、障子で区切られた部屋。小さな茶室であるらしい。中からは、むしゃむしゃと凄い音がした。
他の部下達同様、Kも姿を変えるタイプの能力者だ。普段は葉巻を咥えた、いかにも裏社会の帝王という風情の中年男性である。実際、此方が真の姿なのだろう。Kも能力者だが、重異形化フィールドで生まれ育ったとは聞いたことが無いからだ。
だが、戦闘形態になると、Kはその身を一変させる。
障子を開けると、その凄まじい姿が、露わになった。
全体の姿は、ドラゴンに近い、だろうか。否、背中の巨大な棘だらけの甲羅が、違うことを告げている。
強いて言うならば、巨大な肉食の亀。
そして彼が喰らっているのは、今仕留めたらしい妖怪だった。このフィールドに跋扈していた、異形の者達を、頭からかじっているのだ。
「なんだ、影か。 例のブツは」
「此処にある」
懐から出したのは、デジタルデータが納まったUSBメモリである。
中身は、ある場所に侵入し、小型のデジカメで撮影してきた書類の内容だ。書類自体は、既に元の場所に戻してある。
Kは巨大な鱗だらけの手で、メモリを受け取る。
すぐに解析するように、側に控えていたパックンフラワーに渡す。不平が多そうな年頃の彼女も、Kの言うことには、素直に従うようだった。
「少し待っていろ。 中身を確認する」
「悠長にしていていいのか」
「どういう意味だ」
「俺の追っ手は、あのじゃじゃ丸だった。 撃退には成功したかも知れないが、奴ほどの手練れが来ている以上、此処も割れているとみた方がいいだろう」
つまり、時間を掛けると、あのMが来る。
Mにとって見れば、Kは最大のライバルであると同時に、必ず滅ぼすと心に決めている存在でもあるはずだ。
書類の内容は、知っている。
今、Kにとって最も大事な情報であると同時に、Mにとっても重要なものだ。だが、それについては触れない。
あくまで影は忍びだ。忍びの仕事は、影働きであるからだ。
「だが、お前は残れ。 Mをお前が呼び寄せた可能性もある」
「ふん、分かった。 好きにしろ」
「好きにするさ」
人間のような手を、Kが食いちぎり、咀嚼して飲み込む。
妖怪を喰らっていると分かっていても、あまりにも凄惨な光景である。あの娘、ひょっとしてこれを見たくなくて、逃げ出したのかも知れない。
ほどなくKは満腹したらしく、腹をさすりながら向き直る。
口の中に並んだ無数の牙は、訳が分からない血で濡れていた。舌なめずりするKだが、その舌そのものが、人間の頭ほどもある。
影は、怖いと思ったことは無い。何度か死を間近に感じたことはあるが、それでも恐怖は無かった。
「お前は、思ったよりは面白そうな奴だな」
「それで?」
「待っていろ。 彼奴らはあれでもスペシャリストだ。 すぐに情報を持って来るだろうよ」
Kの言葉通り、三十分も経たないうちに、女が戻ってくる。
恭しく彼女が書類を差し出した頃には、Kは既に食事を終え、人間の姿に戻っていた。人間の姿でも、充分な威厳と迫力がある。
血だらけの茶室の中、座布団を引いて、胡座を掻いたKが、書類に目を通していく。
その間、ずっと女は傅いたままだ。現在のJ国で育っただろうこの女が、此処までしつけられているという事は。Kの組織がそれだけ恐ろしいという事なのだろう。普通だったら、此処までは出来ないはずである。
「此処まで汚染が進んでいたか。 予想はしていたが、酷い有様だな」
「如何なさいますか」
「Wに至急連絡を取れ。 不快だが、奴に渡を付けて貰おう。 これは、俺とMが争っている場合では無くなってきたぞ」
「それが、ほんの少し前から、通信が出来なくなっています。 ジャミングかと」
舌打ちすると、Kは立ち上がった。
影も伴われて、城の最上階に出る。其処からは、フィールドの端までを、無駄なく見回すことが出来るのだ。
影が呻いたのは、予想していたMやフィールド探索者がいたから、ではない。
空を覆うようにして、あまりにもおぞましい存在が、無数に現れ始めていたから、である。
同時に、このフィールドの温度が、急激に低下し始めた様子だった。
「どうやら、おいでなすったようだな。 ノコノコは戻っているか!」
「はい、此処に」
後ろに、傅く気配。
そこにいたのは、若いようにも年老いているようにも見える、不思議な雰囲気の男性だった。灰色の髪をオールバックになでつけた、背の低い痩せた男である。
此奴が、ノコノコの正体か。
「迎撃の準備だ。 この俺を舐めて掛かっているようだからな。 ぶっ潰す」
「分かりました。 直ちに。 しかしあれは異星の神と思われます。 いざというときに備え、脱出の準備はなさってください」
慎重なノコノコの言葉に、Kは頷く。古くからの側近であるからか、傲岸なKでさえ、この部下の言葉は良く聞くようだった。
いつの間にか書いたのか、Kが手渡してくる。
書類。それも、手書きの封筒である。
「これを、Wに届けろ。 報酬は、Wが払うようにしたためてある」
「問題ないか」
「奴とは、長いつきあいだ。 まさかこの程度の報酬を渋るようなことは無いから、安心しろ」
激しい衝撃音。
空から舞い降り始めた、無数の異形達が、城にとりつき始めたのである。
怪物達の中央には、巨大な影が見えた。それは蟹のようにも見えたが、触手が無数に生えている事が違っていた。
あれが、首魁か。
見る間に、フィールドが、重異形化フィールドに書き換えられていくのが分かる。
地面が凍り、風が吹き始めた。辺りの温度が、秒刻みで下がっていく。とんでもなく高性能なクーラーが、空間全体を冷やしているかのような雰囲気だ。
「もたもたしていると、脱出できなくなる。 急げよ」
Kに頷くと、影は階下に身を躍らせる。
既に下では、Kの部下と怪物達の死闘が、始まっているようだった。
J国に足を踏み入れるのは、久しぶりだった。
フィールド探索者であるスペランカーは、国連軍の要請で、住処としているアトランティスから来て、すぐに軍用のトラックに乗せられた。空港から道路を行くこと数時間。少なくとも、強力なフィールドが出現した事による混乱は感じられなかった。
この国は経済的にも軍事的にも安定している。クーデターが起こることもないし、内乱が発生することも無い。物資が豊かで、誰も内乱を起こさなければならないほど困っていないからだ。
近年は貧困国で、フィールドでの戦闘を繰り返していたからか。J国の平和が、身にしみてよく分かる。
今回は、現地近くで集合だ。護衛が付くことも無いという事が、この国の現状をよく示していた。
ハイウェイから降りて、通常道路に移ったのが分かった。
道は驚くほど安定していて、トラックは殆ど揺れない。今回、トラックにはスペランカーだけが乗っていたので、雑談する相手もおらず、少し暇だった。暇なので、装備を確認しておく。
アトランティスで持たされた装備類は、しっかり持っている。
服も靴も、出る前にきちんとならした。服は駄目になってしまう可能性も高いので、少しばかりもったいないが、それは仕方が無い事だ。
缶詰類は、J国に来てから買い込んだ。かに缶があるのがとても嬉しい。最近は仕事の料金がうなぎ登りに上がっていて、かに缶をたくさん買い込めるのもまた、スペランカーにはささやかな幸せになっていた。
リュックに装備をしまい直すと、トラックが山道に入るのが分かった。
しばらく揺られて、やがて到着する。
自衛隊のキャンプには、既に何台かのトラックが到着していた。今回の件に対応するため、集められたフィールド探索者達だろう。
今回、スペランカーが最も頼りにしている盟友、川背は他で仕事が入ってしまっているため、出られない。その代わり、同じくらい頼りにしている勇者が、顔を見せてくれていた。
E国最強のフィールド探索者、騎士アーサーである。
時代錯誤的なプレートメイルを着込んだひげ面の騎士は、スペランカーを見つけると、満面の笑みで歩み寄ってきた。相変わらず豪放という言葉がそのまま人間になったような雰囲気であった。
「おお、スペランカーどの! 息災無いか」
「大丈夫です。 アーサーさんは」
「我が輩もすこぶる元気だ」
わははははと、豪快に笑うアーサー。そして握手をシェイクされる。いつも磊落すぎて困ることもあるのだが、戦闘ではこれ以上頼れる人もそうそうはいない。
他にも何名か、見知った顔がある。
今回は、異星の邪神がらみである事が、ほぼ確定だ。それもあって、世界でも上位に入るフィールド探索者であるアーサーを主力に、かなりの腕利きが集められている。だが、Mの姿は無い。
手を振って近づいてくる、巫女装束の女の子。確か、サヤであったか。軽く挨拶を交わすと、アーサーに言われて、近くのプレハブに入る。すぐに会議を行うようだった。
ここに来るまでに資料は一応渡されている。
六名のフィールド探索者が会議室に入ると、プロジェクターで、フィールドの説明が始められる。
説明をしているのは、師団長か、それに準ずる地位の人らしい。かなり年配の、強面の男性だった。自衛隊の制服を、計算しているのか、妙に威圧的に着込んでいる。
「今回、重異形化フィールドと化したのは、この蠱毒城。 百七十年前に発生したフィールドである」
しゃべり方もかなり偉そうだ。フィールド探索者に何か対抗意識のようなものがあるのかも知れない。珍しくも無い事だ。軍人にとって、自分たちがどうにも出来ないフィールドを撃破する能力を持つフィールド探索者は、壁も同然だと、スペランカーは聞いたことがある。
彼の説明によると、蠱毒城は、ある理由から攻略を放置されていたという。その理由とは、新人フィールド探索者の訓練と、フィールドそのものが持つ特性、だそうだ。
その特性とは、回帰性、だという。
「回帰性、ですか?」
「再生能力と言っても良い。 このフィールドは、そのものが強い再生能力を備えていて、コアさえ無事なら、どれだけ破壊しても元に戻るのだ」
現在でも、妖怪が現れるらしいのだが、実力はそれほどでもないため、新人フィールド探索者の訓練用に用いられていたという。
しかし、ここ数ヶ月は、どうも様子がおかしかった、というのだ。
「どうもこのフィールドは、Kの一派に占拠されていたらしい。 法的にも問題なく、別にも新人訓練用のフィールドは存在していたから、発覚が遅れたそうだ。 しかも、どういうわけか、此処に異星の邪神が降臨してしまった」
「で、私が呼ばれた、ということだ」
会議室に、のそりと入ってくる巨体。
全身を分厚く筋肉で覆った巨漢。この業界にいなくても、誰でも知っているほどの有名人。
世界最強を誇るフィールド探索者、Mであった。
Mは鷹のような眼光で既に集っている面々を見回す。スペランカーを見た時、威圧的に目を細めたのは。彼が、スペランカーを嫌っているからだろう。
それは知っているが、苦笑いしてしまう。
「Kはいうまでもなく、闇世界の頭領と言っても良い存在だ。 奴が邪神と交戦している理由は分からないが」
「待った。 邪神とKが手を組んでいるのでは無く、交戦しているのか」
「それは確認できている。 フィールドを外から観察した結果、かなりの手練れが、邪神と戦っているようだ。 しかも複数。 Kとその一派以外にあるまい。 話を続けるが、いいか騎士殿」
皮肉たっぷりにアーサーに言うと、Mは説明をしていた士官からマイクをむしり取る。屈辱に顔を歪める士官を追い払うと、傲慢に話を続け始めた。
「今回は、Kと邪神を共に叩き潰すのが目的となる。 Kの方は、私に任せろ。 奴の配下の手練れも何名かいるが、いずれも私が対処する。 騎士殿とそのほかは、邪神とその配下を潰して廻って欲しい」
「フィールドは、どうするんですか?」
「邪神に汚染される可能性もあるからな。 潰してしまうとするか」
サヤの質問に、Mはこともなげに答えた。まるで虫を潰す、とでも言うような口調である。実際Mほどの実力であれば、この規模のフィールドなど、それこそ朝飯を食べ終える前に滅ぼせてしまう存在なのかも知れないが。
スペランカーはしばらく黙って話を聞いていた。
今回は邪神が来てからまだ時間も無いようだし、更にはMもいる。この人数で、迎撃は不可能では無いかも知れない。
サヤが不満そうに唇を噛んでうつむいている。理由は分からないが、このフィールドに何か思い入れがあるのかも知れない。
会議は程なく終わる。
外には、この国の総理大臣が来ているようだった。まさか邪神がこの国のフィールドに出るとは思わなかった、からだろう。しきりに、Mに一刻も早く退治して欲しいと、願っているようだった。
Mは傲岸に頷くと、スペランカーを一瞥だけする。
「邪神の退治は彼女の方が専門家です。 何しろ神殺しの異名を誇るほどですからな」
「そ、そうなのかね。 君、頼むよ」
「できる限りのことはします」
総理大臣の卑屈な態度に、スペランカーは少し困った。だが、アーサーが助け船を出してくれる。
「彼女の力は、周囲の支援により最大となる。 我が輩達が支える故、心配はなさらずに、総理大臣殿」
「そうか、ならば安心できそうだ」
長身で、見るからに強そうなアーサーがそう言ったからか、やっと総理大臣が安心した様子で、護衛達と一緒に下がる。
其処からは、国連軍と自衛隊の装甲車が混ざった状態で、現地へ向かう。装甲車の中は冷房が効いていて、ようやく人心地が付いた。
「有り難うございました、アーサーさん」
「何、安い用だ。 それにしても、国家元首なのだから、もっと堂々としていればよいものを」
やはりさっきの態度には、アーサーも思うところがあったらしい。
後三十分ほどで到着すると言われたので、装備の最終点検を行っておく。リュックを背負い直した後、アーサーと一緒に地図を見る。
フィールドの広さは三キロ四方ほど。非常に狭いものだ。
その中に、蠱毒城と呼ばれる、J国の城そのもののフィールド本体がある。堀と城壁で守られ、天守閣がきちんとある、立派なものだという。
以前に攻略はされたらしいのだが、このフィールドそのもののコアは無事で、それが故に先ほど説明された回帰性で復活。以降は危険度も低いという事で、新人フィールド探索者の訓練用に、残されているのだとか。
「中に出るのは、危険度が低い妖怪ばかりだったという事だが、邪神が侵攻した以上、どうなっているかはわからん。 気を抜かずに掛かろう」
「はい」
話している内に、現地に到着。
装甲車から降りてみると、あまりにも違和感が酷くて、スペランカーは思わず呻いていた。
周囲は夏なのに、いきなり雪が積もっているのである。山深い地域であるからか、その違和感はあまりにも異常だった。何かタチが悪い悪夢でも見ているかのようである。
囂々と、凄い音がする。
どうやら、今度の邪神は。少し前に交戦した双子の神と、同類か、或いは同族であるらしかった。
空には分厚く雲がかかっており、内部は吹雪になっている。城が見えると言うことだったが、それさえ無理だ。天守閣がある立派な城らしいのだが、これでは数十メートル先も、視認は不可能だろう。
幸い、状況を見て、国連軍がスノーモービルを用意してくれている。戦闘を考慮した装甲の分厚いものだ。これが三両。
話し合った結果、一両は予備として牽引。二両に分乗することとなった。Mは一両の上に座り込み、耐冷気のバリアを展開するという。
そういえば、以前もこんな事になった気がする。
少し怖いが、話はしておかなければならないだろう。
「Mさん」
「何でしょうかな」
Mは、スペランカーを徹底的に嫌っている。だから、意図的に敬語で接してくる。それが逆に、威圧感を高める効果をもたらしている。
咳払いして、心を落ち着けてから、言う。
「さっきの会議では戦力を分けるという話でしたが、やっぱりみんなで先に邪神をどうにかした方がいいと思います」
「我が輩も賛成だ」
アーサーが同意してくれる。
実際問題、フィールドを短期間で侵食した邪神の力の凄まじさは、外から見ていてもびりびりと感じる。このフィールド内にいる邪神は強い。基本的に、邪神はどれも強いが、更に図抜けているとみて良い。
「ほう? 神殺しの異名を誇るスペランカーさんでさえ、手に余ると?」
「確実に勝てるとは断言できません」
Mは鼻を鳴らすと、不満そうに視線をそらした。
一応会話の時は、視線を合わせてはくれるのだが。それでも、目の奥にある光は、スペランカーに対する敵意で塗りつぶされている。
他のフィールド探索者達も、おおむね同意してくれる。特に前回一緒に戦ったサヤは、この光景を見て思うところもあるらしい。何度もこくこくかわいらしく頷いていた。ベテランのフィールド探索者である、Mと同じ会社のSも、同意してくれた。
「M、今回は優先順位を変えた方がいいはずだが」
「ちっ……分かった分かった。 そうだな、そうかも知れんな」
Mも本当に渋々だが、同意してくれた。
分かっているはずなのだ。今はKよりも、先に倒すべき相手がいるのだと。確かに社会の裏側で暗躍していた存在で、Mにとって宿敵かも知れない。この世界で、散々悪さをして来た人達なのかも知れない。
だが、邪神は別格だ。放置していたら、この世界そのものが滅ぼされたり、或いは食い尽くされたりしかねないのである。
これで、多少は勝率が上がる。
だが、相手は邪神だ。たとえMがいてくれたとしても、確実に勝てるとは限らない。
気を引き締めて掛からなければ、危ないだろう。
「よし、行こうか」
アーサーに肩を叩かれる。
頷くと、スペランカーは耐寒服を着込み、スノーモービルに乗り込んだのだった。