人の心を持ってしまった魔族・IFストーリー   作:如月SQ

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[ユーリとの幸せな日々]勇者達への祝福

[魔法使いとの対面]

 

 それは本当に偶然だった。

 ヒンメルがユーリとアリウムの旅路に同行してる事で、何かが変わった。

 フリーレンは、魔族と同行しているヒンメルという、実に理解し難い光景を目撃する事となる。

 

 即座に呆れたように杖を構えるフリーレンに対して、ヒンメルは直ぐに弁明。

 怪訝な表情でアリウムを見つめるフリーレンは恐ろしく、アリウムはユーリの背後に隠れた。

 

 ヒンメルが魔王を討伐し、10年が経った頃の事だった。

 

「あのねぇ、ヒンメル……以前魔族を見逃してどうなったか、忘れちゃったの?」

 

「忘れてなんかいないよ。でもこの子は違うんだ。

 どうか僕の顔を立てると思って……さ。ハイターとアイゼンのお墨付きもあるし」

 

「はぁ……。んー……」

 

 ため息を吐き、頭をかきむしるフリーレン。

 彼女からすれば、目の前で魔族が生きてる事自体が受け入れ辛い事だった。

 ……しかし、ヒンメルだけならまだしも、既にハイターやアイゼンも見逃してるとなれば……。

 再度深くため息をつき、渋々ではあるが、フリーレンは折れる事にした。

 

「はぁ~……。仕方ない、わかったよ」

 

「ありがとうフリーレン!」

 

「ただし!暫く私も一緒に行動させて貰うよ」

 

 じろ、とアリウムを不満そうに顔を歪めたフリーレンが睨み付ける。

 ビクリと体を跳ねさせたアリウムは、恐る恐ると言った様子で、フリーレンを見つめ返していた。

 

「アンタ、アリウムって言ったっけ。怪しい真似したら、すぐに殺すからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フリーレン、朝……」

 

ゆさゆさ

 

「んー……後……5時間……」

 

「……起きて……ご飯冷めちゃう……」

 

ゆさゆさ

 

「ん……ご飯、なに……」

 

「勇者ヒンメルが採ってきた、蜂蜜たっぷりのパンケーキ」

 

「んー……仕方ない……」

 

「髪ボサボサ……整えるから、体起こして……」

 

「んんー……早くしてよー……早く食べたいよ」

 

「…………」

 

あみあみあみあみ

 

「無言で三つ編みにし始めるのやめてよぉ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この宝箱は……魔法で確認する限りミミックだね」

 

「んー、僕が調べる限り確かにミミックだ」

 

「……なんで二人ともそう言いながら開けようとしてる?」

 

「知らないのアリウム、それでもお宝が入ってる事はあるんだよ。

 私にはわかる、この中にはお宝がざくざくだよ」

 

「そうだね、アリー、宝箱はロマンなんだ。中には夢が詰まってる!

 例えどれだけ外から見てミミックでも、罠でも、お宝の可能性が1%でも残ってるなら開けるものさ!」

 

「ユーリはわかってるね」

 

「勇者ヒンメル……」

 

 助けを求めるような視線と声に、ヒンメルはいつもの微笑を浮かべたまま、ゆっくりと首を横に振った。

 

「……好きにしたら……」

 

「「いざ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暗いよー!怖いよー!」

 

「フ、フリーレーン!」

 

「はぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、今日は甘いのが食べたかったのに」

 

「我が儘言わないでフリーレン。はい、干し肉」

 

「じゃあアリウムのその果物でいいよ」

 

「……あのね、私、硬いのは食べられ」

 

「ありがとう(しゃりしゃり」

 

「……このクソボケエルフ、食事係に逆らったらどうなるか思い知らせてやる!」(ボカッ

 

「痛っ!いきなりぶつ事ないでしょ!私も怒るよ!」

 

「フリーレンに怒る権利ない!こっのクソボケエルフ!」

 

「あーっ!また言ったね!アリウムのバカ!」(ボカッ

 

「いたい!もー怒った!」(むにー

 

「いひゃい!やふぇりょぉ!」(むにー

 

「んぎぎぎぎぎぎ!」

 

「うぐぐぐぐぐぐ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[魔族の妊娠]

 

 それはフリーレンが同行するようになって一年程過ぎた頃。

 なんだかんだとアリウムがフリーレンの世話を焼く事が多くなり、自然とフリーレンが絆され始めて、二人が時折喧嘩なんかもするようなった、仲間となり始めていた頃の事だった。

 

「ん……これ、妊娠してるかも」

 

 野宿の朝食の後、顔を青くしたアリウムがボソリと呟いた。

 それにユーリは狂喜乱舞。

 アリウムを優しく抱き上げ、褒めて、撫でて、頬にキスを落とした。

 

「めでたいね……おめでとう、アリウム」

 

 優しげな表情で祝うヒンメルの隣で、フリーレンは目を瞬かせていた。

 

「……アリウムがわかるものなんだ」

 

「え、うん……なんとなくだけど」

 

「へぇー。じゃあいつ頃コウノトリがやってくるのかもわかるの?」

 

 そのフリーレンの発言に、その場は静まり返った。

 フリーレンを信じられないもの見るように、ユーリとアリウムは見つめ、ヒンメルは今まで見たこともない程に顔を歪めていた。

 

「……?何?男と女がキスしたらコウノトリがキャベツ畑に赤ちゃん運んで来るんでしょ?

 フランメにちゃんと教えて貰ったから、そのくらい知ってるよ」

 

 むふーと自慢気に語るフリーレンに、ヒンメルとユーリは言葉をかけられなかった。

 いや、なんと言えば良いのか、どう伝えればいいのか……。

 

「……フリーレン、あのね」

 

 ユーリの腕の中から抜けたアリウムは、フリーレンに身を寄せる。

 そして、チラ、とユーリとヒンメルを振り返り……フリーレンを連れて木々の間に消えていった。

 

 それを見届けたユーリとヒンメルは顔を見合せ、苦笑いを浮かべた。

 

「ヒンメルも苦労するね……お相手がああじゃ」

 

「まぁ……それもフリーレンの魅力さ」

 

 

 

「こしょこしょこしょこしょ」

 

「え。え。えぇーーーっ!!!」

 

 

 

 帰ってきたフリーレンは耳まで真っ赤に染め、恥ずかしそうに俯いていた。

 その珍しい姿にヒンメルは不覚ながら暫し目を奪われ……。

 

「……えっち」

 

 上目遣いで放たれた、フリーレンの言葉に撃沈した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[魔族の子供]

 

 時は過ぎ、無事に産まれた子供、ニコライと名付けられた赤子は、角が生えた魔族だった。

 それにショックを受けるアリウムの手を握り、必死に励ますユーリ。

 産まれた子供を見たヒンメルとフリーレンも、表情を歪ませていた。

 

「アリウム……気を確かに持って」

 

 ポロポロと涙を流すアリウムの頭を撫で、フリーレンが眉を下げた。

 しがみついて涙を流すアリウムを、フリーレンは優しくその背を叩いて宥める。

 

「……ヒンメル、どうすればいい」

 

 真剣な表情で、すがるように見つめるユーリに対して、ヒンメルは難しい顔で腕を組んだ。

 

「……暫くは、見守るしかないだろう。アリウムのように人の心がある事を祈って……」

 

 そう言ったは良いものの、ヒンメルは此方を見る赤子の瞳に既にうすら寒いものを感じていた。

 自分の勘は、殺せと叫んでいる。

 それに無理矢理蓋をして、ヒンメルは努めて明るく笑った。

 

「大丈夫、なんとかなるさ!僕達でこの子を導いて行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺に任せてくれないか?」

 

 ある程度育ったニコライだったが、やはりアリウムのように人の心は芽生えず、悲しい事に「普通の魔族」でしかなかった。

 悩むフリーレンと、それでも諦めきれず毎日熱心に教育を施すアリウムだったが、そこで、訪ねてきたアイゼンの一声があった。

 

「アイゼンに?」

 

「ああ……お前達はなんだかんだと甘やかしてるだろう?

 俺がしごいてやる。徹底的に厳しく、な。

 それに、健全な精神は健全な肉体に宿るという。

 それでもダメなら……俺が始末をつけよう。どうだ?」

 

 その申し出に、アリウムは悩んだ。

 悩みに悩み、一晩一睡もせずに悩んだ。

 そして……目の下に隈を作りフラつくアリウムを、ニコライが少しだけ表情を歪めて見上げているのを見て……決心した。

 

「戦士アイゼン……お願い、する……。

 でも、もしダメだった時は……私が、片をつける」

 

「ああ、わかった。任せろ。この子の性根は俺が叩き直す」

 

 アイゼンはドン、と自らの胸を叩き、深く頷いた。

 

 そうして、ニコライはアイゼンに引き取られる事となる。

 そして……それは結果的に正解だった。

 ニコライは何度も死の縁を経験する事で生に執着心が芽生え、

それが良い具合に人間を害そうとする本能を打ち消し始めていた。

 次に再会するのは数年先であるが……見た目は細くとも鋼のような肉体となったニコライにはいつしか健全な精神が宿っていた。

 そして、再会の喜びのままユーリを抱き締め、何本か骨をへし折る事となる。

 

「父さん久し振り!」

 

「おお!ニコライ大きくなっぐふぅ」(ばきばきばき

 

「ユーリぃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[魔法使いの芽生え]

 

「フリーレン、ヒンメルと何か進展あった?」

 

 アリウムとフリーレンは、二人で町を散策していた。

 出店で買ったジュースを飲みながら、アリウムは問い掛ける。

 ヒンメルはどう見てもフリーレンに惚れている……旅の中でも何度かアピールをしているようにも見えた。

 

 けれど、フリーレンはその質問の意図がわからず、首を傾げている。

 

「進展……?質問の意図がよくわからないよ。

 私とヒンメルは旅の仲間……それ以上でも以下でもないでしょ?」

 

「……はぁ。相変わらずフリーレンはお子様」

 

「む」

 

「ヒンメルはどう見ても貴女が好き。気付いてるでしょ?」

 

「……そうなの?」

 

「えっ」

 

「……え?」

 

 気まずい空気が流れる。

 フリーレンはきょとんとした顔でアリウムを見返していて、アリウムも呆然とフリーレンの顔を見つめていた。

 暫しお互いに無言で見つめあった後、アリウムはフリーレンの肩を掴み、真剣な表情で言葉を紡ぐ。

 

「……フリーレンも、ヒンメルの事好きでしょ?」

 

「……好きか。よくわからないんだよね、そういう感情。

 私達エルフは、そういう欲求が希薄だし……。

 それにまあ、いつかは……」

 

「フリーレン」

 

 ずいと、至近距離で少し怒ったようにアリウムは言葉を遮った。

 

「よーく考えて、胸に手を当てて」

 

 アリウムはフリーレンの手を取り、その薄い胸に押し当てる。

 んぐ、と小さく呻くフリーレンに構わず、アリウムは言葉を続ける。

 

「ヒンメルを思い浮かべて。その笑顔を、姿を、声を」

 

「…………」

 

 言われた通りにフリーレンは目を瞑り、瞼の裏にその姿を映し出す。

 

「魔物を、魔族を、貴女に背中を預けて、貴女の前で薙ぎ倒し、貴女に振り返り、笑みを浮かべているヒンメルを」

 

……とくん

 

「いつもの日常で、貴女に笑いかけ、他愛ない話をして、貴女の魔法を見て心から喜んではしゃぐヒンメルを」

 

とくん、とくん

 

「……どう、フリーレン。胸が鳴ってるでしょ?きゅう、と苦しいでしょ?

 ヒンメルと、今すぐにでも会いたく、ない?」

 

 フリーレンは自分の感情に戸惑うように口元を抑え、ふるふると震えていた。

 その目は落ち着きなく揺れて、ほんのりと頬が染まっていく。

 

「うん……なんだか、すごく、会いたいよ。

 おかしいな、さっきまで一緒にいたのに……」

 

「それが、好き、だよ」

 

 フリーレンは胸を抑えて、落ち着きなく、視線をさ迷わせる。

 アリウムはその様子を見て優しい微笑みを浮かべると、フリーレンを正面から抱き締めた。

 

「フリーレン……私達は人間達とは寿命が違う。

 きっと……ヒンメル達が老いても、私達は容姿すら変わっていない……。

 人間なんて、直ぐ死んじゃうんだよ?老いたらこうやって旅も出来ない。

 ……ヒンメルが好きなら、ヒンメルと結ばれたいなら。

 貴女は今すぐにでもその想いを告げなきゃいけない」

 

「そ、そんな事言われても……。だ、だって、ヒンメルは仲間で。私、好きとかよくわからないし……。

 そ、それにヒンメルが本当に私を好きかなんて、わからないし……」

 

ずき

 

 自分で言葉にして、胸が痛み、フリーレンは顔を歪める。

 その表情に、アリウムはフリーレンと額を合わせた。

 狼狽えるフリーレンに、微笑みかける。

 

「大丈夫。私が保証する。ヒンメルは貴女が大好き。

 そして、その程度で傷ついてしまう貴女も、ヒンメルが、大好き。

 二人に必要なのは、お互いに必要なのは、自覚と、言葉だけ。

 ……後は、自分でちゃんと言葉にして。ヒンメル」

 

「え……」

 

 突如として出てきた名前に、フリーレンは思わず顔を上げた。

 そして……ばつが悪そうに頬をかくヒンメルの姿を見つけてしまう。

 

「ひ、ヒンメル……!」

 

「……参ったな」

 

 苦笑を浮かべるヒンメルの姿を、フリーレンは直視出来なかった。

 胸が高鳴り、顔が熱い。

 始めての経験に、思わずその場から逃げ出そうとしてしまうも、気付けば背中を見えない手で押さえられて、逃げる事が出来なかった。

 

「あ、アリウムぅ……」

 

 眉を下げて情けない声を出すフリーレンに、左手を握って頑張って!とだけ告げて、その場を立ち去って行った。

 恨みがましくその後ろ姿を見つめるフリーレン。

 その目と鼻の先に、ヒンメルが立った。

 

「フリーレン」

 

「う、うん……なに……?」

 

 ヒンメルはマントをはためかせながら、フリーレンの元に片膝をつく。

 自然と左手を手に取り、フリーレンを見上げたヒンメルは、いつもの微笑みを浮かべて、口を開いた。

 

「ずっと言葉にしてなかったけど……僕は君が好きだ。

 僕と、この命尽きるまで、共に歩んではくれないかい?」

 

 フリーレンは、その言葉に耳まで真っ赤に染めた。

 戸惑い、羞恥を感じ、辺りをキョロキョロと見回して……背後の手が消えてる事に気付く。

 

「(い、一回逃げ――)」

 

『人間なんてすぐ死んじゃうんだよ?』

 

 けれど、その足は途中で止まった。

 アリウムの言葉が頭を過り、自然と視線はヒンメルへと向けられる。

 まだまだ若く、カッコいいけれど、旅をしてきた時と比べれば……肌のハリや髪の艶に僅かに陰りがあった。

 

「(人間の寿命は短い……わかってる。わかってた、つもりだった)」

 

 バクバクと高鳴る胸が五月蝿い。

 ヒンメルのあの瞳を見ると、見つめられると、胸が苦しい。

 

『それが、好き、だよ』

 

 アリウムの言葉が甦る。

 

「……うん、ヒンメル、どうやら私、ヒンメルの事が好きみたい」

 

「ははっ……」

 

「ヒンメルと、一緒に生きる事にするよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[結婚式]

 

リンゴーンリンゴーン

 

 教会の祝福の鐘が鳴る。

 純白の綺麗なドレスに身を包んだ魔法使いフリーレンと、純白の衣装に身を包んだ勇者ヒンメル。

 二人が並んで、司教としての正装をした僧侶ハイターの前で……今、夫婦となる。

 

 それを見守るのは戦士アイゼン、そして人間のユーリと魔族のアリウム、その二人の息子であるニコライだ。

 参列者はそれだけ……世界を救った勇者の結婚式とは思えない規模だが、それが二人の願いだった。

 

 やがて誓いの言葉を交わした二人は見つめ合う。

 

「フリーレン……綺麗だよ」

 

「ヒンメルも、格好いいよ」

 

 ふふ、と小さく笑みを浮かべた二人は、一歩近付く。

 ヒンメルはその小さな肩に手をのせて身を屈め。

 フリーレンは胸の前で手を組んで、ヒンメルを見上げて目を閉じた。

 

 そして、二人の唇は静かに重なる。

 

「これにて二人は夫婦となります。どうか、この二人の旅路に、女神様の祝福があらん事を!」

 

パチパチパチパチ

 

 少ない参列者の為にまばらな拍手。

 けれど、強い想いの籠った祝福の拍手だった。

 

 やがて唇を離した二人は、参列者に向かい合い、満面の笑みを浮かべた。

 

「おめでとうー!」

 

「こんな日が、来るとはな……」

 

「おめでとうございます!」

 

「おめでとう。フリーレン……ぐすっ」

 

 涙ぐむアリウム。

 そんなアリウムを横目で確認したアイゼンは、ちら、とニコライに目線を向けた。

 コクリと頷いたニコライは、そっとアリウムの後ろに移動すると、ひょいと抱えあげた。

 

「えっ」

 

「母さん、じっとしててね」

 

「よし、行くぞ」

 

 師弟は戸惑うアリウムに構わず、そそくさと式場を後にする。

 

「えっ。えっ!何!?ニコライ!?アイゼン!?」

 

「悪いようにはしない。大人しくしているんだ、アリウム」

 

 その様子を、ヒンメルに寄り添うフリーレンが優しい笑みを浮かべて見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれよあれと言う間に、アリウムは別室で着替えさせられていた。

 姿見の前で呆然と立ち尽くすアリウムのその身に付けているのは、先程フリーレンが着ていたような純白のドレス……。

 何故自分がこれを着ているのか?

 答えは迎えにきた、フリーレンが持っていた。

 さっきに比べると簡素になったドレスに、青い花冠とブーケを持ったフリーレンは、アリウムに笑いかけた。

 

「アリウムとユーリ、結婚式なんてしてなかったでしょ?

 私達が結婚出来たのはアリウムのお陰……。私達からのプレゼントだよ、アリウム」

 

 はい、と手渡されたブーケを言われるがままに受け取り、フリーレンに背を押されて式場へと逆戻り。

 けれど今度は参列者ではなく、主役として。

 

 フリーレンが隣を歩き、ハイターまでの道を進む。

 その先に待つのは純白の衣装に身を包んだ、アリウムの最愛の人、ユーリ。

 フリーレンから、ユーリへとアリウムが渡され、フリーレンは近くで眺めていたヒンメルの隣へと移動して、それに寄り添う。

 そこまで事が進み、漸く実感が沸いたアリウムは、言葉も無く涙を流した。

 

 旅の中、何度か見た、花嫁。

 憧れはあったけれど、自分は魔族だしとユーリがやろうと言っても拒否していた。

 それが、今、こんな綺麗なドレスを身に付けて、親しい者達に祝福されて……。

 感極まり、ポタポタと涙を流すアリウムを、見守る皆の視線は優しかった。

 

「これにて二人は夫婦となります。どうか、この二人の旅路に、女神様の祝福があらん事を!」

 

 同様に誓いのキスを交わした二人……。

 アリウムは未だに涙を流し、けれど笑みを浮かべてユーリにすがり付いた。

 

「……ユーリ……ありがとう、私、幸せ者だ」

 

「ふふ、もっと、もっと幸せにしてみせるよ、アリー」

 

 つられて涙を溢すフリーレン、それを拭うヒンメル。

 ほろりと一滴の涙を流すアイゼン、満面の笑みで祝福するニコライ、優しげな笑みを浮かべたハイター。

 幸せで、平和な光景がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[勇者達への祝福]

 

 勇者ヒンメルが魔王を討伐して、50年後―――。

 

 30年前アリウムとユーリの娘、人間の赤子マリーが産まれ、僧侶としての適性を見出だされてハイターの元で修行し……10年前ハイターを襲って妊娠、リリィという紫髪紫瞳の赤子を出産した。

 30年前ヒンメルとフリーレンの息子、エルフのブレネンが産まれ、マリーにフラれて傷心、旅に出る。

 ニコライがその旅に同行し、北方で魔族を狩る毎日を送っていた。

 

 2年前、ユーリが老衰。

 簡素な葬式を終え、とある村の外れ、いくつかの墓石が並んだ場所に埋葬された。

 

 そして、今。

 

 老衰した勇者ヒンメルの葬式が、行われていた。

 

 常と違う、黒い衣服に身を包んだフリーレンは、じっと花に囲まれたヒンメルを見つめていた。

 その表情は何の感情も浮かべておらず、とても夫を失った姿には見えなかった。

 

「見てよあれ、自分の夫が亡くなったというのに……」

 

「薄情ね……」

 

 そんな参列者の声が聞こえてくる。

 それでもフリーレンの表情は変わらず、小さく俯いて目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、遺族として、妻として、フリーレンが参列者の前で挨拶をする事となる。

 参列者と向かい合ったフリーレンの表情を見た参列者は、そのあまりの無表情さに、小さくざわめいた。

 けれどそのざわめきを気にする事なく、フリーレンはペコリと一礼をしてから、その口を開いた。

 

「……皆様、私の夫、勇者ヒンメルの葬式に参列していただき、ありがとうございます」

 

 やはりその言葉には一切の感情がなく、参列者のざわめきは大きくなっていく。

 それでも、フリーレンはその調子のまま挨拶を続けていく。

 内容も当たり障りなく無難で、参列者達はなんとも言えない不満を抱えながらもその挨拶を聞き続け、そして。

 

「ヒンメルは――」

 

ポロッ

 

 不意に、そう不意に。

 フリーレンの瞳から涙が溢れた。

 淀みなく続いていた言葉が、そこで突然そこで途切れる。

 

「……」

 

 重い、重い沈黙が流れた。

 ポロリ、ポロリと涙が流れ、フリーレンは一度その口を閉じ、瞳も閉じた。

 先程までフリーレンを悪し様に罵っていた人々も、気まずそうに口をつぐむ。

 

 やがて、フリーレンは目を開き、その重い口を開いた。

 

「……まだ、まだ一緒にいたかった」

 

 それは、聞いた者の胸が締め付けられるくらいの、悲観に染まった声だった。

 

「ずっと一緒にいたかったよ……寂しいよ、ヒンメル……」

 

 肩を震わせ、はらはらと涙を流す姿は、ひどく痛ましかった。

 

「……でも、楽しかった、嬉しかった。こんな私と、最後まで一緒にいてくれて……本当に、幸せだった!」

 

「恋を、愛を教えてくれた。子供が出来た時は、ずっと支えてくれた。

 ブレネンを育てるのに四苦八苦してる私を、何度も、何度も助けてくれて……!

 ずっと、この40年……ずっと幸せだった……!」

 

「ヒンメルと過ごしてきた時間は……一番鮮明で、輝いていた日々だった。

 私が生きてきた1000年、たった20分の1の時間なのに、何よりも幸せな日々だった……!」

 

「ありがとう、ありがとうヒンメル……!」

 

「ゆっくり、休んで……!」

 

「あなたがいた証拠は、私が……私が未来に連れていくからっ!」

 

「うぁああああああん!うぇええええええええええん!」

 

 フリーレンの悲痛な泣き声がこだまする。

 大声で、人の目も憚らず、次々溢れる涙を拭い続けた。

 しゃくりあげ、肩を震わせ、泣き続ける。

 その様子に、誰もが沈痛な面持ちで俯いていた。

 

 その泣き声が響く建物の屋根の上、薄紫の髪の魔族が目を瞑ったまま、はらりと涙を流した。

 魔族、アリウムはヒンメルの死を悼む。

 ヒンメルが死んでから、感情に蓋をしてしまったようなフリーレンの様子を心配していたけれど……その悲痛な泣き声を聞いて安心したように顔を綻ばせた。

 

「……フリーレンは、大丈夫」

 

 感情を発露し、それでも前に進んでいく意思を確認し、そう小さく呟いた。

 左手の薬指に光る、ユーリから貰った指輪に口付けを落とす。

 

「……またね、フリーレン。元気で」

 

 アリウムは最後にそう呟いてその場から姿を消す。

 いずれ出会うその日を願って。

 

 幸せな日々を過ごした二人、最愛を失った二人。

 けれど二人は、それでも生き続ける。

 その幸せな思いを抱いて、心の中で生きてる、最愛の恋人の記憶を未来に連れていく為に。

 

 二人は、未来へと歩き続けていく。

 

IFストーリー[ユーリとの幸せな日々]―終―

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