人の心を持ってしまった魔族・IFストーリー   作:如月SQ

11 / 15
[ヒンメルの浮気疑惑騒動]

 フリーレンとヒンメル、ユーリとアリウムの結婚式から数ヶ月。

 別々の所で互いに穏やかに暮らす四人だったが、アリウムが遊びに来る形で久々に会う事になった。

 雰囲気の良いカフェのテラス席でフリーレンと対面したアリウムは……困惑していた。

 結婚して数ヶ月、元々結婚はしていた自分達とは違い、まだまだ新婚と言える二人は幸せな日々を送っているだろうと思っていた。

 恋心を自覚して日の浅いフリーレンは兎も角、長年の想いが実ったヒンメルがフリーレンに無体を働く訳はないと思っていたからだ。

 

 だが……。

 

「……やぁ、アリウム……久し振り……」

 

 純白のワンピースに白い帽子を被ったフリーレンは、疲れたような笑みを浮かべ、幸せいっぱいだった様子からは考えられない状態だった。

 

「フ、フリーレン……?何か……あった……?」

 

 アリウムは困惑し暫く言葉を失うも、気を取り直して静かに問い掛けた。

 問い掛けられたフリーレンは口を閉じ、への字を作る。

 そして、じわりとその目尻に涙が浮かんだ。

 

「うわぁあん!アリウムー!ヒンメルが浮気してるかもしれないー!」

 

 泣き喚くフリーレン。

 はらはらと涙を流し、眉を下げた様子にアリウムは呆気に取られる。

 

「う、浮気……?あの勇者、ヒンメルが……?」

 

 信じられないとばかりに呟くアリウムだったが、うおーんと泣き続けるフリーレンは変わらない。

 席を立ち、その小さな体を抱き寄せて、宥める事にする。

 真実かどうかはどうでも良くて、今フリーレンが悲しんでいる事は確かなのだから。

 ぐずぐずと鼻を鳴らすフリーレンの背中を優しく撫でる。

 豊満な胸に顔を埋められながらも、フリーレンは泣き続けた。

 そんなフリーレンをアリウムは泣き止み、落ち着くまで優しく宥め続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐす……あのねアリウム……ヒンメル、たまに一人でどっか行くんだ」

 

 涙声のフリーレンは語る。

 

「何処に行くの?私も行くって行ってもやんわり断ってきて……」

 

 不安げな表情で。

 

「夜中に何か書いてる時もあって、見せてもくれないんだ」

 

 落ちつきなく指を擦り合わせて。

 

「ねぇ、やっぱりこれ浮気なのかな……?」

 

 じわ、と一度止まった涙が溢れだす。

 

「私……折角ヒンメルが好きだってわかったのに……」

 

 ポロポロと溢れる涙が頬を伝う。

 

「ヒンメルに、見捨てられ……うぇえええええええん!」

 

 再度泣き出してしまったフリーレンを、アリウムはもう一度優しく抱き締める。

 目を閉じて、体を震わせるフリーレンを優しく宥め続けた。

 それでも泣き続けるフリーレンを抱き締めながら、アリウムはそっと目を開いた。

 その目は鋭く、ここにはいない誰かへの殺意に満ち溢れていた。

 

「勇者ヒンメル……許すまじ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……次は何処を探しにいくべきか」

 

 自室でヒンメルは首を捻っていた。

 今日フリーレンはアリウムと会いに出掛けているし、今のうちに次の目的地を決めようと地図とにらめっこをしていた。

 

コンコン

 

 そんな時、扉がノックされた。

 

「……ん?フリーレンが帰って来たのかな?随分早いな」

 

 まだ日は高く、もう少しゆっくりしていても構わないのになぁ、とくすりと笑い、手早く地図を片付ける。

 地図を見られた程度でわかるとは思えないが、万が一にもこれをフリーレンに知られる訳にはいかない。

 それはそれとして、帰宅したらハグ、そういう約束だ。

 最高の仲間から最愛の妻になってくれたフリーレン。

 そんな彼女に対して愛を示す行動は、いくらしてもいい。

 

ドンドン

 

「はーい」

 

 もう一度、今度は強く響くノックの音に、ヒンメルは少し慌てて立ち上がる。

 随分忙しないな。

 扉の向こうで少しムクれているだろうフリーレンの姿を幻視して苦笑し……。

 

ドゴォッ!

 

「ノックしてもしもぉーしっ!」

 

「へぶっ!」

 

 突然吹き飛んできた扉に反応できず、顔面を強打したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『不可視の多腕を操る魔法(トランツーリヒ)』……ヒンメル、言葉は慎重に選ぶ。さもなくば、刺し違えてでもそのチ◯◯(ピー)は潰す」

 

 アリウムは手早くヒンメルの四肢を押さえ込み、冷たく見下ろす。

 ここからでもヒンメルならきっと自分を殺せるだろうから、せめてフリーレンを泣かせる原因であろう、男の象徴だけならいつでも潰せるようにしながら。

 

「な……アリウム……!?君何を……お、女の子がそんな事言うもんじゃないよ!」

 

 焦るヒンメルに、アリウムは動じない。

 四肢を押さえる不可視の腕の力を強めながら、股間に不可視の拳を構えた。

 

「もう女の子って歳じゃない。……それが貴方のチ◯◯(ピー)との別れの言葉でいい?」

 

「待った待った!待ってお願い!事情を!事情を説明してくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて股間に圧力がかかり、うおーんと本気で泣き始めたヒンメルに流石に同情し、渋々解放する事にした。

 壊した扉を適当に壁に立て掛け、部屋にあった唯一の椅子を自分の所へと持ってきて、どかりと座る。

 

「あっ、この部屋椅子一脚しかなくて」

 

「床」

 

「いや、あの」

 

「座って」

 

「はい……」

 

 有無を言わせぬアリウムの迫力に、ヒンメルは恐々と床に座る。

 自然とその座りかたは膝を折り畳んで座る、SEIZAとなっていて、その背筋はアリウムの放つ圧からかピンと伸びていた。

 

「……ヒンメル、私は貴方にはいくつも恩がある。

 貴方のおかげで今の私の幸せはあると言ってもいい」

 

「それは……何よりだし、そう言ってもらえるのは嬉し」

 

「でも!」

 

ビクッ

 

 突然の大声に、ヒンメルの肩が揺れる。

 

「フリーレンを泣かせた貴方を許せない!」

 

「な、泣かせた……?フリーレンを、この、僕が……?」

 

 そのまるで他人事のような物言いに、アリウムは視線を鋭くする。

 睨み付けてくるアリウムの本気の感情を受け、ヒンメルはタラリと冷や汗を流した。

 何せヒンメルにはまるで心当たりがない。

 

「フリーレンは言ってた。貴方がよく何処かに行くと。

 何か隠し事をしてると……浮気してるんじゃないかと」

 

「う、浮気!?そんなバカな、僕はフリーレン一筋で!」

 

 思わず腰を浮かすヒンメルだが、即座に肩に圧力がかかり無理矢理座らせられる。

 前を見れば、アリウムが絶対零度の瞳でヒンメルを見下ろしていた。

 

「……そう、やっぱりそこはフリーレンの勘違い」

 

 温度のない瞳を閉じ、少しだけ雰囲気を和らげるアリウム。

 その様子に、ヒンメルも安心したように笑みを浮かべた。

 

「わ、わかってくれるかい」

 

「でもフリーレンを泣かせたのは事実。私はそれが許せない」

 

 だが、再度開いた瞳は絶対零度のまま。

 ヒンメルの表情は凍り付き、背筋に寒気が走った。

 

「せめて事情を話して。納得出来なかったら……」

 

メリ

 

 ヒンメルの股間に圧力がかかり、それを感じ取ったヒンメルは顔を青ざめさせた。

 

「は、話す話す!話すから!でも誓って浮気はしてない!それだけは先に言っておく!」

 

 真剣な表情でアリウムを真っ直ぐ見つめて言い放つヒンメル。

 その瞳は透き通っていて、嘘をついてる様子は見受けられなかった。

 

 不自然に股間が凹んでいるのが、少しだけ間抜けではあった。

 

「……そう。信じるよ」

 

 そこで漸くアリウムも『不可視の多腕を操る魔法(トランツーリヒ)』を解除し、雰囲気を和らげた。

 股間の圧力と殺気が霧散していくのを感じて、ヒンメルはホッと安堵の息を吐いた。

 

「はぁーやれやれ……驚い」

 

「床」

 

「あ、はい……」

 

 苦笑しながら立ち上がろうとしたヒンメルを、アリウムはピシャリと咎めた。

 ヒンメルは頬を引きつらせ、大人しく再度床に正座したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最初に言っておくけれど、この話は絶対にフリーレンに知られてはいけないからね。

 これは魔王討伐の旅の途中の話……今のフリーレンが一週間程記憶が曖昧だったと思ってる時の話だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話を聞き終えたアリウムは、非常に難しい顔をしていた。

 想像だにしていなかった、遥かに複雑で繊細な話であった。

 

「だから僕は未来のフリーレンの為に、その魔法を見つけ、その石碑に刻まなければいけない。

 これは、僕がやらなければいけない事なんだ。多分……誰かに任せてはいけない」

 

 未来からきたフリーレン、未来に帰る魔法、過去に行く魔法。

 女神の魔法のスケールの大きさに、アリウムは目眩がしそうだった。

 だが、それならフリーレンに話せないのも納得だった。

 未来が変わる事で過去も変わるかもしれないし、今がどうなるのかもわからない。

 何より、未来のフリーレンは充実しているように見えたという。

 ならばヒンメルとしては一択だ、必ずその未来にフリーレンを導く。

 その為に過去に意識を送る魔法を見つけなければならない。

 ヒンメル自身が。

 

「……勇者ヒンメルの勘……。

 うーん、それはもう、私が口出し出来る話じゃない……か。

 事情は理解した。けれどフリーレンが傷付いたのも事実。

 そこは猛省して欲しい」

 

「う……一ヶ月に一日くらいだったんだけどなぁ……」

 

「新婚だし、フリーレンはまだ自分の感情に振り回されてもいる。

 四六時中イチャつくくらいで良いと思う」

 

「そうかな?それは僕にとっても嬉しいけど……」

 

「そもそもフリーレンは種族的に子供も出来辛い。

 貴方がまだ若いうちに妊娠させるべき。

 毎日セックスして子作りに勤しんでいいと思う。

 もっともっとフリーレンを愛してあげて欲しい」

 

 ぐっ、と人差し指と中指の間に親指を挟んだ拳を作り、アリウムは真面目な顔で言い放つ。

 

「……言ってる事は納得出来るけどね、女性の君から言われるこの状況は複雑だなぁ……。

 あとその手はやめなさい」

 

「そう……」

 

 そっと手を下ろしたアリウムは、小さく頷く。

 

「とりあえず、フリーレンを呼んでくる。二人でちゃんと話し合って。

 こんな事で二人が仲違いするなんて、認められない。ちゃんと仲直りしてね」

 

「ああ……折角フリーレンに会いに来たのに、悪かったね、僕の不甲斐なさのせいで」

 

 苦笑するヒンメルに、アリウムは優しく微笑んだ。

 今日で一番、穏やかな笑顔だった。

 

「ううん、貴方も完璧じゃないから、仕方ない。

 私の事はどうでもいいから、フリーレンを、よろしく」

 

 そう平然と返すアリウムに、ヒンメルも笑みを返した。

 

「ああ、勿論だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、足が痺れるっ……!」

 

「格好つかない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、じゃあヒンメルは別に私に愛想浮かした訳じゃないんだよね?」

 

「勿論さ、僕がフリーレンに愛想を尽かすなんて事は未来永劫有り得ないよ」

 

「わ、私毎日ちゃんと起きれなくて、いつも朝ごはん任せちゃっててそれで……」

 

「そんなの気にしないよ。むしろ君の寝顔を拝めるのは役得とすら思ってるよ」

 

「り、料理もたまに失敗しちゃうし……」

 

「フリーレンの愛情が籠ってるから全然食べれるよ」

 

「片付け出来ないし……」

 

「まぁ……それはしたほうがいいかもしれないね。

 僕も手伝うからさ、定期的にやろうね?」

 

「……うん……」

 

「これからもたまに君を置いて出掛ける事はあるし、その内容は話せない。

 でも君を裏切るような行為は絶対にしないよ、約束する。

 僕の好きな人は後にも先にもフリーレン、君だけだ。

 この命尽きるまで君だけを愛すし、死んでも君だけを思い続けるよ」

 

「……うん。ありがと……私も、ヒンメルだけを愛し続けるよ」

 

 耳まで真っ赤にして照れつつも、フリーレンは笑みを浮かべてヒンメルを見上げた。

 それに対してヒンメルはスン、と真顔になると、フリーレンの両肩に手を置いた。

 

「愛してるフリーレン。僕の子を産んでくれ」

 

「ぶっ!な、なにいきなり!?てかアリウムもまだいるのに!」

 

 思わず吹き出し、手をブンブンと振るフリーレン。

 

 そんなフリーレンに、アリウムはすちゃ、と手のひらを立てた。

 

「あ、私そろそろ帰るからお構い無く」

 

 そう言ってアリウムは部屋を後にする。

 

「え、えっ!」

 

 困惑するフリーレンに、ヒンメルは顔を近付けて問い掛ける。

 

「嫌かい?」

 

「ひゅっ」

 

 声なき悲鳴をあげ、わたわたと腕を動かす。

 やがて体をプルプルと震わせながら、胸の前で両手を握る。

 潤んだ瞳でヒンメルを見上げて、フリーレンはか細い声で呟いた。

 

「いやじゃ……ないでひゅ……」

 

 その瞬間ヒンメルはフリーレンの唇を奪い、その場に押し倒したのだった。

 

 水音の響く部屋を後にし、そそくさと二人の家を後にしたアリウムは、玄関から出た後振り返り、微笑んだ。

 

「二人とも、お幸せに」

 

 そして、むずむずする自らの下腹部を撫でた。

 ほんの少しだけだったが、二人の雰囲気に当てられてしまったらしい。

 

「帰ったらユーリにいっぱい抱いて貰う」

 

 そう心に決めて、アリウムは帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 この約一年後、フリーレンとアリウムは元気な赤子を出産したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうしてブレネンは産まれたんだよ」

 

「母さん、なんで今その話するの?両親の生々しいエピソード聞きたくなかったんだけど」

 

「いや、特に理由はないけど?」

 

「ブレネン様、フリーレン様が申し訳ありません……」

 

「?まぁいいや、それにしても愛息と迷宮攻略なんて、楽しすぎて試験中だって事を忘れちゃうな。

 ……あ、宝箱だ」

 

「……母さん、それはミミックだよ」

 

「違うよ、あの中には貴重な魔導書が入ってる筈さ。

 私の魔法使いとしての経験が、そう告げている」

 

「……僕は試験官だから、受験者の行動を咎める気はないけど……」

 

 蒼みがかった銀髪を揺らし、尖った耳を持つエルフの少年は、助けを求めるようにフェルンへと視線を向けた。

 悲しげに首を横に振るフェルンを見て、ブレネンはため息を吐いた。

 

 魔法都市オイサーストで開催されている一級魔法使い試験。

 その第二試験、零落の王墓と呼ばれる迷宮を攻略中のフリーレン一行。

 試験官はなんと、フリーレンの息子であるブレネンであった。

 息子に良い所見せると鼻息荒く、自信満々で迷宮攻略に挑み、先程まで思い出話に花を咲かせていたフリーレン。

 

「暗いよー!怖いよー!」

 

 現在はミミックに上半身を噛みつかれ、悲鳴をあげていた。

 その様子を見て、息子のブレネンと弟子のフェルンは、呆れたようにため息を吐いた。

 そして二人は目を合わせ、苦笑を浮かべたのだった。

 ブレネンはかつての想い人の面影の残るフェルンに、複雑な思いを抱いていたが。

 

 フリーレンを助け出そうとするフェルンを眺めながら、ブレネンは父親譲りの泣きぼくろのある瞳を細めた。

 腰に帯びた剣をカチャリと鳴らし、母親の元気な様子に心底安堵していた。

 二人がこのまま順調に合格する事を願いつつ……一筋縄ではいかないだろうなぁ、とこの迷宮に潜む存在を思い浮かべ、苦笑を浮かべた。

 

「まあ、頑張って母さん。試験官としては何も出来ないけど、個人的には応援してるよ」

 

 ミミックから解放され、上半身が涎でベトベトになった母親に、ブレネンはそう告げる。

 それに対して、フェルンに涎を拭いて貰いながら、フリーレンは不敵な笑みを浮かべた。

 

「ふふん、私の勇姿を特等席で見てるといいよ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。