人の心を持ってしまった魔族・IFストーリー   作:如月SQ

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『魔法使いと魔族』魔族の旅立ち

 思い返すのは、過去の記憶。

 幸せだった過ぎ去った日々。

 ユーリとの、いつまでも続くと思ってた……私が愚かなせいで失った、かけがえのない日々。

 ニコライの本質にさえ気付いて……いや、何か行動に移していれば何か変わったかもしれないのに。

 今でも思い出すだけで辛くて、涙が出そうになる。

 

 リリィの事も辛かった……本当に辛かった。

 あの子は折角幸せを掴んだのに、戦争なんかに巻き込まれて、フェルンを遺して二人とも死んでしまった。

 結婚と、フェルンの出産の後、それぞれあの子の夫と共に私に会いにきてくれて、本当に幸せそうで、心底安心していたのに……。

 ハイター様が身投げ直前のフェルンを見つけて下さらなければ、きっとフェルンも……。

 ハイター様には元々恩があったのに、とても返しきれない恩が出来てしまった。

 身の回りのお世話を、その最期の時までし続ける事、その程度しか私に出来る事はなかった。

 ハイター様はそれを申し訳なさそうにしていたけれど、私にとっては役得な面もあったから、最後まで私は幸せだった。

 

 ただ、フェルンの魔法の修行をフリーレンがつけるようになったのだけは気に食わなかった。

 私が出来る訳でも、ツテがある訳でもないけれど、フリーレンが私の孫娘に指導している姿が本当に不愉快だった。

 あのデリカシー皆無のクソボケエルフが。

 

 こほん。

 

 けれど魔法使いとしては間違いなく最上級……ハイター様もフリーレンにフェルンを預ける気でいたので、仕方なく、仕方なく!

 ハイター様を共に見届けた後、旅立つ二人を見送った。

 ただ、本当に心配だった……。

 ハイター様が亡くなる前に暫く共にいたけれど、フリーレンの普段の生活においてのポンコツぶりは異常だったから。

 

『あと……5時間……』

 

 寝坊はするし、寝相は悪い。

 

『……それで、迷宮の隠し宝箱を見つけたんです。

 あれは驚きましたね……攻略済みの迷宮でしたからね』

 

『お婆様は運が良いのでございますね』

 

『ちょっと用事思い出した』

 

 フェルンに昔の話を聞かせていたら、フリーレンがそんな風に言ってフラリと姿を消した事がある。

 

『ただいま……縦ロールになっちゃった……』

 

『『なんで?』』

 

 後に、フリーレンは以前自分達が攻略した迷宮に潜り、まんまとミミックに引っ掛かっていた事が判明する。

 更には、雰囲気だけでもと近くの攻略済みの迷宮に日帰りで潜った時なんて、ミミックだと分かりきっていたのに食われていた。

 

『暗いよー!怖いよー!』

 

『…………ちっ』

 

『あっ、あっ、閉じるのやめて、食い込んで痛い』

 

『流石に可哀想ですお婆様……』

 

 ……そんな本当に情けないポンコツなフリーレンだけど。

 死の間際、寿命が僅かになり、フェルンを遠ざけようとしたハイター様を諭す様子を見て、彼女も変わっていってるのだと思えた。

 勇者ヒンメルを亡くして、失ってから、崩れ落ちる姿は見るに耐えなかったけれど、彼女はそれから変わっていったのだろう。

 

 それが、フェルンとの旅でどれ程変わったのか……全ては流石にまだわからない。

 けれど、モーナからの嫌がらせに口を尖らせなくなっていたし、私を気遣う様子を見せた。

 私はお世辞にも強い訳ではないのに、厳しくなるだろう旅路に誘うのは……私を気遣ってのものだろう。

 私が、いくつも大切な人を失っているから。

 ハイター様が見ていれば、きっと感動で号泣していただろう。

 シュタルク、という男の子も、フェルンも、フリーレンを慕っている様子が見てとれた。

 ……きっといい大人をしているのだろう。

 私も彼女の見方を変えなければいけないのかもしれない。

 

 彼女達の旅に同行し、魂の眠る地(オレオール)にて、死人達と出会う……。

 私のような魔族がそこにたどり着いたとして、入れるのか、はたまた会えるのか、そもそも私が会いたい人達がそこにいるかもわからない。

 けれど……少しでも可能性があるなら……。

 ……会いたい。

 またあの温もりを、とまでは言わない。

 せめてあの暖かな声を、慈しみの溢れる瞳を、もう一度私に向けて貰いたい……。

 我が儘を言うなら、謝りたい。

 そして……褒めてもらいたい。

 それだけで私は、この命尽きるその時まで、私の時間を、私自身を、子供達に捧げ続ける事が出来ると思う。

 

 だから私は、彼女達の旅に同行する事を決めた。

 ここの孤児院の子供達には悪いけれど……モーナに後はお願いする事になる。

 教会にも後で、文をしたためないといけないね……。

 

「という訳で、よろしくお願いしますね、シュタルク様」

 

「あ、はい……それで、その、寝てるフリーレンをどうするんですかね……」

 

「いくら揺すっても起きないので、高いところに干しておきます」

 

「ひぇ……」

 

 不可視の右腕で掴んで浮かせている、寝間着姿のフリーレンは、すぴー、と呑気な寝息をたてている。

 今日は天気が良いから、布団と一緒に天日干しして差し上げましょう。

 まったく……寝坊すけなのは変わりないのか……。

 感心してたらこれだもんね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寒いよー!高いよー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 震えるフリーレンが暖炉に当たってショボショボしている間に、私は孤児院で事を済ましてしまう事にする。

 まずは子供達への挨拶……皆私をよく慕ってくれてる良い子達ばかり。

 だからこそ……皆私が旅立ってしまう事に涙してくれる。

 子供達には悪いけれど、少し嬉しく思ってしまう。

 

「私がいなくても、モーナ先生の言うことをよく聞いて、良い子にしてるんですよ?」

 

「……ぐすっ、せんせー、いつかえってくるの……?」

 

「そう、ですね……どんなに遅くなっても、皆が大人になる頃には、皆に会いに来ますよ」

 

 正直、皆が大人になるまでに帰れるかはわからない。

 今と状況は違うとはいえ、勇者パーティが10年かかった旅路だ。

 帰ってきた時にこの子達が寿命を迎えてる、までにはならないと思うけれど……。

 

「うぅうううう!」

 

「せんせー!」

 

「いっちゃやだぁあああ」

 

 この子達が、私を忘れるには充分な時間はかかるかもしれない。

 

「ちゃんと、また会いに来ます。約束です」

 

 それでも、旅を終えたらまた会いに来よう。

 この子達が、どんな大人になっているのか、今から楽しみだ。

 

「ぜったいだからね!やくそくだよ!」

 

「はい、約束です」

 

 にこりと笑い、私は私に群がる子供達を順々に撫でていく。

 涙を溢れさせる子供、泣くまいと耐えて口を引き結ぶ子供、大泣きする子供。

 皆、私との別れを惜しんでくれている。

 私も瞳を潤ませて、それでも努めて笑顔を浮かべて、子供達を最後にそれぞれ抱き締めた。

 ああ、どうかこの子達の未来に、幸多からん事を。

 幸せな未来を、幸福な将来を……。

 私は、心の中で祈り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モーナ、それではこの文を教会のほうに、お願いします」

 

「わかりました、先生」

 

 ニコリと微笑むモーナに、手紙を預ける。

 教会に任せられた仕事場を放棄するのだがら、最低限の礼儀は通さなければならない。

 本来なら直接行って頭を下げなければいけないのだけど……そこまでの時間はない。

 

 元々、ハイター様の紹介とはいえ、私は魔族。

 教会としてもそのような存在認められなかったとは思うのだけど、ハイター様に教わった女神の魔法、それを私が使えたせいで、一時騒然となっていた。

 有難い事に特例として許されはしたし、私の身の上に同情してくれた人も多かった。

 けれどやはり、私のような魔族がいるという事実は、人間にとって毒となり得る。

 私の存在は隠蔽される事になり、魔族特有の兆しがあれば、即座に処理される事が決まっていた。

 シスターに正式になれれば、孤児院へとの援助金もいっぱい出る。

 ハイター様は複雑な顔をしていたけれど、私が魔族な事を考えれば、破格の対応だと思う。

 

 そんな特例な私だから、勝手をすればその後どうなるかわからない。

 しかも、魔族が潜んでいる可能性の高い場所に行くなんて、どう思われるか。

 朧気にそう思いながらも、私はもう会いたいという気持ちを止められなかった。

 

「旅路の無事を、祈っております」

 

 モーナも厳しい立場に置かれるかもしれない。

 一応、私の監視の為に派遣されているシスターの一人なのだから。

 とはいえ、私と彼女が親しい事は教会もわかっている筈。

 故に恐らくは形だけのもの……私を多少は信頼しての事。

 その信頼を裏切る形になる……申し訳なさで胸が痛んだ。

 

「大丈夫です。些事は私にお任せ下さい。

 アリウム先生は、無事に帰ってきてくれるだけでいいんです。

 先生が帰る場所は、私が必ず守りきります」

 

 真っ直ぐ私を見て言い切るモーナの姿は、とても心強かった。

 

「ありがとう、モーナ。行ってきます」

 

「はい、行ってらっしゃいませ」

 

 私は笑みを浮かべて、モーナに心からの礼を告げた。

 帰る場所がある……その安心感が心地好かった。

 子供達に群がられながら、私はその温もりと安心感に笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おはようございます!」

 

 暫くして、私の部屋で眠っていたフェルンが慌てて起きてきた。

 深夜に目が覚めたのか、私の部屋に来て甘えてきたフェルンを可愛がりすぎたのが行けなかったのかもしれない。

 彼女には珍しく、今日はかなりゆっくりと眠っていたようだった。

 起き抜けのようで、服は乱れ、髪もボサボサだ。

 

「フェルン、こっちに来なさい」

 

「あっあのっ、お婆様何処へ」

 

 流石にはしたない。

 同じパーティメンバーとはいえ、あの部屋には殿方もいる。

 私の部屋に戻り、整えてあげる事にした。

 

「あ、えと……」

 

「折角可愛いのですから、ちゃんとしないといけませんよ」

 

 ボサボサになってしまっている髪を、櫛で丁寧に梳かしていく。

 うん、すぐに直るね。

 若いからか髪質が素直だね……。

 

「そうですフェルン、私も貴女達の旅に同行する事を決めましたよ」

 

「本当ですか!」

 

「前を見てなさい」

 

 ぐりん、と笑みを浮かべて振り返ったフェルンの頭を、元に戻す。

 鏡の前で座らせて整えているから、此方を向かれるとやり辛い。

 

「お婆様と旅が出来るなんて、嬉しいです」

 

「これから宜しくお願いしますね、フェルン」

 

「はい、此方こそです。お婆様」

 

 鼻唄でも歌い出しそうな程にご機嫌となってくれる孫娘に、私は暖かい気持ちになっていた。

 梳かし終えた髪を結いながら、他愛のない話をする私達。

 話の内容は自然と、目的地である魂の眠る地(オレオール)で会う人物の話になっていった。

 

「お婆様はどなたに御会いしたいのですか?」

 

「そうですね……ハイター様は勿論、ヒンメル様にも改めて御会いしたいですが、リリィ達にも、会いたいですね」

 

「……お父さんとお母さんも、いるんでしょうか……」

 

 少しだけ心配そうに顔を暗くするフェルンに、私は努めて明るく答える。

 

「当然です。フェルンの為に最後まで頑張った二人が、今天国で贅沢三昧してないなんて、有り得ませんよ。

 フェルンがこんなに可愛く綺麗に、立派になったと伝えないといけませんね」

 

「ふふ……そうですね」

 

 穏やかに笑うフェルンに、私も笑みを浮かべる。

 ……本当に、大きく、立派になった。

 フリーレンと旅立つのを見送った時点で、戦闘力としては私を遥かに上回っていたけれど……まだフリーレンより小さかった。

 なのに今では私より一回り小さいくらいで、おっぱいも私やリリィに似て大きくなった。

 

「本当に、立派になりましたね、フェルン」

 

 穏やかに告げたその言葉に、フェルンは花が咲いたような笑みを浮かべた。

 ……こんなに可愛いのだから、これはもう引く手あまた……この子の将来は明るいね。

 思わず優しく頭を撫でて、私達は元の皆がいる部屋に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シュタルク!せんせーのことまかせた!」

 

「せんせーにけがさせんなよシュタルク!」

 

「任せときな」

 

 ニッと男らしい笑みを浮かべたシュタルクは、群がる子供達の頭を順番に撫でた。

 この子も良い子だね……子供達に合わせて遊んでくれるし、子供達も親しみを感じてくれている。

 それでいてフェルンの話では戦士アイゼンの弟子であり、優秀な戦士なのだという。

 先日も魔族を一人で倒したとか……心強い。

 

「それじゃ、行こうか」

 

 先頭を行くフリーレンは既に歩きだしていた。

 うーん、そういう感慨とかを考えないところはあまり変わってないね。

 私としてはもう少し孤児院を眺めていたいけれど……。

 

「お婆様、行きましょう」

 

 フェルンに言われたら仕方ないね……。

 この子はこの子で少し浮かれてて……ふふ、可愛いね。

 私はひらひらと、孤児院の前で見送りをしてくれてる子供達に手を振る。

 皆泣いてて、けれど数人は笑顔で。

 心が満たされていく。

 この子達の未来は、きっと明るい。

 そう信じて、私は笑顔のまま別れを告げる。

 

「いってきますみんな!元気でね!」

 

 モーナの目の端から滴が流れたのを見て、私は踵を返す。

 暖かな気持ちのまま、この旅を始めよう。

 人との旅は、久し振りだ。

 いい旅にしたいね……。

 

 私は無数のカバンを浮かせて、旅の第一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリウムさん」

 

「なんでしょうかシュタルク様?」

 

「そんなに沢山カバン浮かせて、疲れたりしないんすか?」

 

「大丈夫ですよ。重さは感じませんし、魔力もほとんど消費してません。

 それにこのカバンには野宿道具、調理器具、調味料等々、旅を豊かにするグッズがいっぱい入ってますから。

 毎回ご飯は期待して貰って良いですよ」

 

「おお!」

 

「フェルンと共に腕を奮いますから、楽しみにしてて下さいね」

 

「私も、ですか?」

 

「ええ、今後を考えたら料理の腕は鍛えていて損はありませんからね」

 

「え、フェルン料理屋でも開くのか?」

 

「むぅっ」

 

「うふふふふ……」

 

 旅は始まったばかり。

 でもきっと、楽しい旅になる。

 私はそんな予感と期待に、自然と笑みを浮かべていた。

 

「アリウム」

 

「どうしましたフリーレン様?」

 

「……一緒に旅が出来て嬉しいよ。これから、宜しくね」

 

「……!

 うん。私も嬉しいよフリーレン。これから、宜しく」

 

 私達は、どちらからともなく笑って、初めて握手を交わした。

 ……きっとこの時が、本当の意味でフリーレンと友達になれた瞬間だったのだと思う。

 魔族殺しのエルフと、変わり者の魔族。

 一風変わった関係。

 旅と共に、この先も続く関係が始まった瞬間だった。

 

 

 

IFストーリー『魔法使いと魔族』―終―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「ちゅっ」

 

「……何それ」

 

「投げキッスだよ。坊やにはまだ早かったかな」

 

「誰かー。このお子様を連れて帰ってくれー」

 

「えっちすぎる……」

 

「はわわ……」

 

「なんなのこいつら……」

 

「フリーレン様!フリーレン様の魅力はこんな物じゃありませんよ!」

 

「え、でもこれでヒンメルは失神してたよ?」

 

「いいえ、もっと上があります!まずは髪をほどきますよ」

 

「うん」

 

「そして、ザイン様には背中を向けて下さい」

 

「うん」

 

「首を反らしながら振り向いて……そう!その角度!」

 

「……うん」

 

「あ、いいですよ、その半目!流し目でザイン様を見て下さい!」

 

「アリウムの言う通りにするよ」

 

「左手で髪を掻き分けて、そう、少しだけ口元吊り上げて、そう!

 そこで投げキッスです!」

 

「……チュッ」

 

「うぐっ!?ば、バカな、俺が、あんなお子様にっ!?大人の魅力を感じただとぉっ!?(ずきゅーん」

 

「す、すげぇ!さっきので微動だにしなかったザインが!(ボタボタ」

 

「明確に反応していますね、流石はフリーレン様とお婆様です(ボタボタ」

 

「お二人とも鼻血がすごい勢いで……」

 

「ふぅん……凄いねアリウム。ヒンメルに会えたらさっきのやってみるよ(むふー」

 

 ヒンメル(過去)に最大の危機が迫る。

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