人の心を持ってしまった魔族・IFストーリー   作:如月SQ

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【大魔族と魔族】

 勇者ヒンメルの死から27年後――

 

 アリウムという魔族の女がいる。

 グラナト伯爵領に程よく近い所にある孤児院に派遣された、教会にシスターとして認められた魔族。

 その情報は隠蔽され、周知される事はなく、アリウムも自らの正体については気を付けていた。

 

 しかし、ある時気付かれてしまった。

 よりにもよって、グラナト伯爵領を狙う魔族の一派……。

 七崩賢『断頭台のアウラ』に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間達の中でいい地位を得てるみたいじゃない。丁度良いから協力して頂戴」

 

 天秤を掲げる、少女にも見える魔族。

 だが、彼女が人間ではないのは、側頭部から付き出している、立派な角から見てとれた。

 

「っ……!」

 

 アリウムは背後に孤児の子供達を庇うように立ち塞がりながら、表情を歪ませていた。

 アウラだけでもその魔力から放たれる圧で冷や汗が止まらないというのに、その側には三人もの魔族が此方を見つめていた。

 その誰もがアリウム以上の魔力を持った魔族……。

 アリウムにはこの場を切り抜ける方法が思いつかなかった。

 

「?返事が聞こえないわね。同じ魔族でしょ?

 そんな人間のような真似事さっさとやめて、頷いてればいいのよ」

 

 此方の意図が心底わからないといった様子のアウラは、少しだけ不愉快そうに眉をひそめた。

 たったそれだけで、空気が重くなったように感じ、アリウムは、切り抜ける事を諦めた。

 

「……わかり、ました」

 

 アリウムはここは頷くしかないと判断した。

 この孤児院に、いや近くの街や村からかき集めても、これ程の魔族達に抗う戦力等集まる筈もなかったからだ。

 

 背後で心配する子供達や同僚の声がするが、アリウムは顔を俯かせながら、アウラのほうへと足を進めた。

 

「歓迎するわ。教会に認められてるなんて、すごいじゃない。

 上手く使っていけば、もっと沢山人を殺せるわ」

 

「……ありがとう、ございます」

 

 そんな事で褒められても嬉しくない、と内心毒づきつつも、アリウムはアウラへ頭を下げる。

 けれど、次の言葉に驚愕し、勢い良く頭を上げた。

 

「リュグナー。後は皆、殺しちゃっていいわ」

 

「なっ……やめて下さい!私は貴女に従いますから!」

 

「?ん?ああ、そうか。貴女が育てたのだもの、自分でやりたかったかしら?」

 

 首を傾げるアウラは、本気でそう思っている。

 アリウムはそれに対して、反射的にアウラへと足を踏み出した。

 やっぱり、ダメだ魔族は!話が通じない……!

 わかっていた事だけれど、改めてそれを認識した。

 アリウムはそのまま、一か八か、アウラへと掴みかかろうとして……足が既に動かない事に気付いた。

 ふと、見下ろせば赤い何かに足が固定されてしまっていた。

 

「なっ、くっ……!」

 

 ならばと不可視の右腕をアウラへと伸ばす。

 見えないこれならば、と一縷の望みを託すも。

 

「っふ。見えないけどなんかある」

 

 アウラの傍らにいた、少女のような魔族がいつの間にか手にしていたハルバードで妨げられる。

 それに歯噛みしたアリウムを、少年のような魔族が睨み付けて手を伸ばした。

 

「いい加減にしろ」

 

キュッ!

 

「かっ……っひゅ……!」

 

 途端にアリウムの首に何かが巻き付き、締め上げた。

 

「野良魔族ごときが、いつまでも不愉快だ」

 

ギリ……!

 

 息が止まり、もがくもアリウムの動きは赤い何かに止められ、苦し紛れに伸ばす手も全て少女に防がれ。

 

「っ……!」

 

 首を絞める何かによって、意識が消えかけていく。

 そんなアリウムを、アウラは心底理解出来ないとばかりに、呆れた表情を隠しもせずに鼻で笑う。

 

「反抗的ねぇ……なら、仕方ないわね。『服従させる魔法(アゼリューゼ)』」

 

 その魔法の発動と共に、アリウムとアウラ、両者の胸から炎のようなものがふわりと浮かぶ。

 そしてそれぞれがアウラの持つ天秤に乗って……即座に片側に傾いた。

 

ガシャン

 

キィイイイン

 

 身動き出来ないながらも、抵抗を続けていたアリウムの動きが止まる。

 その瞳は異常な程に空虚で、何も映していなかった。

 

「リュグナー、リーニエ、ドラート。もう良いわよ」

 

 それを見届け、三人の魔族はそれぞれ構えをとく。

 そして、自由となったアリウムは先程の抵抗や、苦み走った顔が嘘のように、身動き一つせず無表情でそこに佇んでいた。

 

 アウラは、アリウムへと問い掛ける、

 

「さて……貴女の名前はなんだったかしら?」

 

「アリウム……」

 

「そう、アリウム。私の配下になって初めての仕事よ。

 この孤児院の人間を全て殺しなさい。やり方は任せるわ」

 

 そう告げたアウラの表情は、特に何の感慨も浮かんではいなかった。

 ただ、当然の事を告げたような、部屋の片付けをしろと言うような、そんな程度の言葉であった。

 

「……わかりました」

 

 アリウムは静かな声で返すと、くるりと踵を返した。

 見据える先には、先程まで背中で守ろうとしていた子供達。

 小さい頃から面倒を見ていた同僚のシスター。

 アリウムの、生きる意味。

 心配げに見てくる視線を受け、アリウムは左手を上に掲げる。

 そして、それを、躊躇いなく、振り下ろした。

 

ぶちゅり

 

 不可視の、巨大な手に押し潰された子供達は、一瞬で物言わぬ肉塊と成り果てた。

 悲鳴すら聞こえず、押し潰された肉体から溢れた血が飛び散り、アリウムの体を濡らした。

 その弾みで帽子がアリウムの頭からずれて、ビチャ、と血の海の中に落ちる。

 それを目で追っていたアリウムの瞳は酷く空虚だった。

 

「やるじゃない。戦力としては期待してなかったけど……想像以上に良い拾い物かもしれないわね」

 

 微笑むアウラは、アリウムへと歩み寄る。

 不可視なうえに、その気になれば一瞬で人間をミンチに変える魔法は、なかなかに有用だ。

 おまけに、何故か人間に信用されるような地位にいる。

 アウラにとって何から何まで、本当に都合の良い駒だった。

 

「これから貴女はリュグナーの妻として、グラナト伯爵領に一緒に行って貰うわ。

 教会のシスターとしての立場を有効活用して……ん?泣いてる?」

 

 アリウムの頬についた血が、瞳から流れる滴で流されていく。

 誰のものかもわからない血で染まったアリウムは、ただただ涙を流す。

 その様子を、アウラは不思議そうに見上げていた。

 

「涙、ねぇ。魔族も泣くのね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……魔族が教会のシスター……?」

 

「はい。孤児院を任されていたようでしたが、魔物の襲撃にあったようで……アリウム以外は殺されていました。

 そこを私が助け、こうして妻となってくれているのですよ」

 

「リュグナー様には、感謝してもしきれません」

 

「いや、私がもう少し早く辿り着ければ、子供達も間に合っただろうに……すまないな」

 

「いえ、もしもはもう言いっこなしですよ、リュグナー様」

 

「……確かに正式なシスターだったよう、ですね。

 それにしても、まるで物語のような馴れ初めですね」

 

「よく、言われますよ」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お婆様!?」

 

「フェルン……久し振りですね」

 

「どうしてここに……いえ、確かにお近くにいる事は知ってましたが」

 

「私は今、魔族との和平交渉の場に魔族側として参加しているんです」

 

「え……」

 

「あ、紹介しましょう、リュグナー様です。私を助けて下さったのですよ。

 恩返しも兼ねて、リュグナー様の妻として、支えていこうと……」

 

「アリウム」

 

「……?どうしました、フリーレン様」

 

「それ、本気で言ってるの?」

 

「勿論ですよ、人と魔族の和平、素晴らしい事です。

 一魔族として、そしてこの人の妻として、是非とも実現したいですね」

 

「そう……ところで、孤児院はどうしたの?任されてた筈でしょ?」

 

「ああ……魔物に襲われて皆死んでしまいました。

 でもその時リュグナー様に助けて頂いたのですよ。

 悲しいですけど、今は和平を実現する事で、より多くの」

 

「わかった、もういい」

 

「……そうですか?フリーレン様もフェルンも、どうか協力して下さいね」

 

「リュグナー……って言ったか。覚えときなよ」

 

「……?何か怒らせるような事をしてしまいましたかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリウム、食べさせて」

 

「はい、リーニエ。あーんです」

 

「あーあむ(しゃりしゃり」

 

「美味しいですか?」

 

「うん。でも、本当はアップルパイが食べたい」

 

「ここでは無理ですから、また後で……」

 

「おい、ドラートの姿が見えないが?」

 

「邪魔者を消してくるって……あーん」

 

「はい」

 

「んむ(しゃりしゃり」

 

「……勝手な真似を。魔力探知はしているだろうな?

 アリウムの膝の上で油断し過ぎて、探知を怠るなよ?」

 

「当然……アリウム、次うさぎがいい」

 

「はい、リーニエ」

 

「…………まぁいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドラートの能無しめ。全部台無しだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アウラ様か……アリウム、お前はアウラ様の元へ行け」

 

「わかりました」

 

「っ!お婆様!お待ち下さいっ……!」

 

「……」

 

「お婆様?アリウムは魔族だ。小娘、貴様は人間。

 決して相容れる事はない。そんな事もフリーレンは教えていないのか?」

 

「っ……!どの口が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……」

 

 シュタルクの斧が、必殺の一撃がリーニエの肩口に叩き込まれた。

 両断された体はみるみるうちにボロボロと崩れていく。

 塵と化していくなか、リーニエは呆然と自分を殺した、シュタルクを見つめる。

 

「あぁ……死ぬんだ……」

 

 そう呟いた後、何の感情も浮かんでいなかった表情がくしゃりと歪んだ。

 

「アリウムの、アップルパイ……食べたかった」

 

 そんな、人間のような言葉を残し、最後に涙すら溢して、リーニエは塵となった。

 シュタルクは、それを呆然と眺めて、ボロボロの体で、痛みからではなく、顔をしかめた。

 

「なん……だよそれ……」

 

 斧を支えになんとか立ちながらも、シュタルクの内心は荒れ狂っていた。

 

「魔族は、獣、人の言葉を話すだけの獣……」

 

 自分に言い聞かせるも、リーニエの最期の言葉と表情は、シュタルクから見ても嘘だとは思えなかった。

 

「信じていいんだよな、フリーレン……!」

 

 それでも、フリーレンの言う事にすがる事しか、今のシュタルクには出来なかった。

 殺さなければ、殺されていた。

 けれど、殺した相手が心があったかもしれないという事実は。

 

「ぐっ……ぅ……」

 

 まだシュタルクには重すぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「卑怯者め……お前達は、魔法使いの風上にも置けない……」

 

「卑怯は、貴女たちのほうです。アリウムお婆様に、何をしたんですか……!」

 

「……アリウムか……我々に逆らったから、アウラ様が魔法を使い、服従させただけの事。

 だが……もしフリーレンがアウラ様に勝てたなら……アリウムは解放されるだろうな」

 

「……何故、そんな事を素直に伝えるのですか」

 

「どうせこの後わかる事だろう」

 

 リュグナーの体が塵と化していく。

 

「トドメを刺すがいい……。

 貴様達のような卑怯者に負けて死ぬとはな……無念だ」

 

「っ……!!!」

 

 フェルンはリュグナーに杖を突き付ける。

 そして、先端の魔法陣が光を放った。

 放たれた光線はリュグナーを消し飛ばし、夜を微かに照らす。

 

「…………フリーレン様、お婆様っ!」

 

 リュグナーが完全に消滅したのを見届け、フェルンは駆け出す。

 師匠と、祖母の元へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アウラ、お前の前にいるのは、千年以上生きた魔法使いだ」

 

ガシャン!

 

キィイイイン

 

 アウラの持つ天秤が傾く。

 フリーレンの魂を乗せたほうへと。

 

「“アウラ、自害しろ”」

 

 自分の魔法によりフリーレンに服従する事となったアウラは、その言葉により、自身の首に自ら剣の刃を当てる事になる。

 今まで、自分がしてきた事が、自分の番となった、それだけの話だった。

 

「……ありえない……」

 

 呆然と呟くアウラの首に、刃が食い込み始めた。

 そんな時だった。

 

「アウラ様、リュグナー様から此方へ向かうように、と」

 

 アウラはその声に、自分にまだ服従してる筈の魔族の姿に喜色を浮かべた。

 リュグナーを褒め称えたい気分だった、良い判断だ、と。

 

「アリウム!今すぐ私を助けなさい!」

 

 ぷつりと肌が裂け始めた時、アウラの必死な叫びが響く。

 

「助け……わかりました」

 

 そのアリウムの返答に、アウラが冷や汗を流しながらも、安堵の表情を浮かべた。

 これで、助かる、こいつを駒にしていて良かった。

 安心感がアウラの胸を埋める。

 瞬間、アウラの首を圧迫感が襲った。

 

「っ……!?」

 

 アリウムはアウラを真っ直ぐ見つめ、その手を伸ばしている。

 だが、それはアウラの思う助けとは真逆、凄まじい力で喉が圧迫されている。

 アウラは、言葉も発せなくなっていた。

 

「魔族の、救いは、死、のみです」

 

 ぺたぺたと顔中に触れられるような感触を感じ、アウラの喜色の浮かんでいた顔色は、青へと逆戻りしていった。

 アウラを襲う感情は絶望。

 一度希望を感じてしまったアウラの瞳から、絶望の涙がこぼれ落ちた。

 

「っ……!っ!!」

 

 アウラは最期の言葉すら残せず、首を刃が通り抜けた。

 そして、体から離れた頭が、間髪いれずにぐしゃりと潰れる。

 頭を喪った体は崩れ落ち、やがて塵と化していった。

 

 同時にアウラの支配下にあった、首のない鎧達がその場に崩れ落ちていく。

 

ガシャンガシャンガシャン!

 

 音を立てて崩れ落ちていくいく鎧の中、帽子のない修道服を着た、こめかみの角を隠していないアリウムだけが立って佇んでいた。

 その表情は、先刻と違い、微笑みを浮かべていた。

 

「……フリーレン様、ありがとうございます」

 

「アリウム、正気に戻ったんだね」

 

「はい……フリーレン様のおかげです」

 

 微笑んだままのアリウムは、塵と化したアウラのいた所に、視線を向けた。

 

「ご迷惑を、おかけしましたね……」

 

「別に。アリウムが加わってもきっと私は負けなかったよ。

 後でフェルンにしっかりと謝って……」

 

「フリーレン様」

 

 あえて他愛のない言葉を続けるフリーレンに、アリウムは笑みを浮かべたまま告げる。

 

「私を殺してください」

 

 その言葉に、フリーレンは視線を反らす。

 嫌なことから目を反らす、子供のような反応だった。

 

「……なんでそんな事しなければいけないのさ。

 服従の魔法は解けただろう?」

 

「いいえ、私はここで貴女に殺されなければいけません。

 どんな理由があろうと……七崩賢アウラに協力し、魔族を招き入れた私は……結局魔族だったと、処理されなければならない。

 わかっているでしょう?元々私のいる位置は綱渡りだった。

 けれど今回の事件で、私が正気だったかどうか、証明する術はない。

 私が今回の事件を起こす為にずっと潜入していた可能性を、考えなければいけない。

 正気じゃなかったなら仕方ない、なんて前例を作ってもいけない……それに」

 

 アリウムは、その瞳から涙を溢れさせた。

 思い返すのは、悲鳴すらあげれずに、潰して殺した子供達。

 体に付着した血の生暖かさが、甦る。

 

「私は、子供達を手にかけました。アウラに服従させられていたとしても、私の手で、直接。

 それ以外にも、人を殺していました。何人も、何人も。

 今にも、気が狂いそうなんです。耐えられそうにありません。

 どうか……貴女の手で、殺してください……」

 

 見ればアリウムの体は小刻みに震えている。

 寒さ……ではないだろう。

 時折胸を押さえるような様子も見せて、顔色もひどく悪かった。

 限界、その言葉がフリーレンの頭を過り、アリウムを見つめる。

 

「……そう……そっか、そう、だね……」

 

 フリーレンは静かに杖を構える。

 星の形をした魔法陣は、目映い光を放ち始めた。

 

「わかったよ……じゃあね、アリウム……」

 

 そう呟いたフリーレンの顔を見たアリウムは、にこりと満面の笑みを浮かべた。

 

「さようなら、フリーレン。……ありがとう」

 

 アリウムの言葉が終わるとほぼ同時に、フリーレンの魔法陣が光り、アリウム目掛けて光線が放たれる。

 

「『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』」

 

 その光線はアリウムの胴体を貫き、その体の殆どを消し飛ばした。

 ぐらり、とその体が揺れた。

 

「お婆様っ!」

 

 フェルンの、悲鳴じみた声が響く。

 体が塵と化し始めたアリウムは、一瞬驚いたように目を開き、直ぐにその目を細めた。

 柔らかく細められた目でフェルンを見つめて、アリウムは最期の言葉を紡ぐ。

 

「フェルン、どうか貴女は幸せに、なって……」

 

 そして、アリウムの体は口まで塵と化す。

 ニコリと笑った瞳が、その全てが塵となるその瞬間まで、フェルンを優しく見つめていた。

 

「あぁ、あぁあああ!待って、待って下さい!」

 

 フェルンがそこに辿り着いた時には、アリウムの姿は既になく、塵となったアリウムだった物が残るだけ。

 手を伸ばして掴むのは、塵と化した祖母だったもの。

 

「なんで、なんで!お婆様ぁっ!」

 

 唯一の肉親のあんまりな最期に、フェルンは泣き叫ぶ。

 心から慕っていた、大好きだった。

 もうすぐ会えると密かに期待していたのに、その期待は裏切られてしまった。

 

 そんなフェルンへ、フリーレンは、静かな声色で言葉を紡ぐ。

 

「……アリウムは、魔族だった。

 人間を油断させる為に潜入していた、魔族だったんだ」

 

「っ……!フリーレン様!なんて事を――」

 

 そんな、薄情な言い方をするフリーレンを、振り向いて睨み付けたフェルンは、その顔を見て言葉に詰まってしまった。

 

ぽた、ぽた……

 

 フリーレンの瞳からは涙が溢れ、噛み締めた唇は裂けて血が垂れていたから。

 目を見開くフェルンに構わず、フリーレンは言葉を続ける。

 

「そういう事にしなきゃいけないんだ。

 大魔族と行動を共にしてこんな事件を起こしてしまった時点で、アリウムはもう……まともに生きられない。

 だから、私はアリウムを殺した。

 そして、アリウムは結局魔族だったと、魔族と人間は相容れないんだと、改めて周知しなきゃいけない……」

 

 フリーレンは顔を歪ませた。

 瞳からは涙が止めどなく溢れて、地面を濡らす。

 

「そうしなきゃ、私がアリウムを殺した意味がなくなっちゃうよ……」

 

 弱々しく呟いたフリーレンに、フェルンは堪えきれずに抱き付いた。

 その体を抱き締め、涙を流し続ける。

 今にも互いに折れそうな心を、抱き締めあって支えていた。

 

「うっ……うぅううう……お婆様ぁ……」

 

 声を押し殺すように泣くフェルンを、フリーレンはその頭を抱き抱えるように手を回した。

 二人は声を圧し殺し泣き続けた。

 

 その傍らに、薄紫の花が一輪揺れていた。

 

 

 

IFストーリー【大魔族と魔族】―終―

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