人の心を持ってしまった魔族・IFストーリー   作:如月SQ

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「人間と魔族」人形の

 勇者ヒンメルが魔王を倒し、40年後――

 

 勇者パーティの魔法使い、エルフのフリーレンは気ままな旅を続けていた。

 魔法を求め、適当に気の向くままに続ける旅。

 何処か物足りなさを感じつつも、一人でゆったりとした時間を過ごしていた。

 

 そんな彼女がある時に耳にした噂。

 それが、『平和な町』という噂だった。

 その町では争いや揉め事といった問題は起こらず、犯罪行為は起きず、皆が笑顔で平和に暮らしているといった噂だ。

 

 実際に行ったという行商人は、とても治安が良く、良い町だったと言っていたが、話を聞いた人々は半信半疑。

 当然だ、平和なら人が集まり人が集まればそれは乱れ始める。

 人が多くなれば闇は深くなり、犯罪はより狡猾になる。

 人は偉くなればいずれは腐るか汚くなり、必ず何処かで割りを喰う人間が出てくる。

 それが人の営み。

 平和だろう町にも、問題は必ず残るものだ。

 

 もし本当に平和なのだとしたら、それは……。

 

「……何かの魔法かな。人をそう容易く統一出来るとは思えないし……」

 

 何かがある。

 今までの経験から、人間同士の関係は簡単ではない。

 その商人が見てないだけで問題は起きてるのか、もしくはなんらかの手段で問題が起きないようにされているのか。

 フリーレンはそう考えてその町へと足を進めた。

 何かあれば助ける為とかそんな話ではなく、

 

「その魔法がどんなものなのか、知りたいな……」

 

 そんな私欲を満たすために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辿り着いた町はなんの変哲もない普通の町だった。

 人が行き交い、客引きの声があがっている。

 見る限り平穏な町の姿。

 

 けれどフリーレンはその丸い眉を不愉快げに寄せた。

 

「…………」

 

 その横を子供が複数通りすぎて行く。

 元気にきゃらきゃらと笑って走っていく。

 道行く人々は皆笑顔で、他愛のない話をしている。

 店には人が集まり、活気に溢れているように見える。

 

 ただ、フリーレンはそれら全てに、妙な魔力を感じていた。

 まるで、人々それぞれに何かが張り付いているような。

 

「(なんだか嫌な感じ……)」

 

 拭いきれない違和感を覚えながらも、フリーレンは歩を進める。

 一先ずは腰を落ち着ける宿でも探しに。

 

「そうしたら町を見回ってみようか。何かわかるかもしれない」

 

 ぼそりと呟き、フリーレンは周りを注意深く見回しながら、歩き続けた。

 その間も妙な魔力は感じ続け、その奇妙さにフリーレンの眉間には皺が寄りっぱなしであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってぇなおい!」

 

 そんな最中、そんな怒鳴り声がしてフリーレンは思わず足を止め、視線を向けた。

 視線の先では、尻餅をついた少年をガタイの良い男が見下ろしている光景たった。

 男は顔を歪ませ不機嫌そうにを睨み付け、少年は体を震わせて男を見上げていた。

 その少年の周りには同じくらいの子供がいて、不安げに成り行きを見守っているようだ。

 

「……やれやれ、なんだ。いきなり問題が……」

 

 特に義理もないが、目の前で大人の大人気ない行為を咎めるのも年上の役目か、と止める為に足を踏み出す。

 大方子供達の前方不注意だろうが……その程度で怒る方も怒る方だろう。

 それにしてもやはり、噂は噂だった訳だ。

 いきなり揉め事が起きてる。

 

「結局噂は噂か」

 

 そう呟いた時だった。

 

「おい、クソガキが!謝りやがっ」

 

 怒鳴って、少年へと手を伸ばした男、その動きが突然止まった。

 大人気なくも、少年の胸ぐらでも掴もうとしたのだろう。

 しかしその状態からその伸ばした手は進まず、その男はそれ以降まったく身動きが取れなくなっていた。

 

「な、なんだ…!?」

 

 男は困惑の声を漏らすも、その前に倒れた少年始め、周囲の子供達、そして周りの人々は一様に頭を垂れた。

 その異様な光景に戸惑う間も無く、男の体がふわりと浮いた。

 

「んんっ!?んーっ!!!」

 

 男は目を見開く。

 体や口がピクピクと動いているだけで、言葉を発する事も体は動く事もなく、不自然に浮かび上がっていた。

 

 そのあまりにも不自然な様子に、フリーレンは一瞬どうするか迷った。

 明らかになんらかの魔法的な干渉を受けている男を、どうするべきか。

 だが、フリーレンが悩んだその一瞬で、事態は動く。

 男の体が突然勢い良く空高く舞い上がったのだ。

 

「んーーーーっ!!!」

 

 男の声なき悲鳴だけを残し、男は空へと消えていった。

 見上げてその姿を追うも、家屋の屋根の上を飛んでいく男の姿は、家屋の陰となってすぐに見えなくなってしまった。

 

「……」

 

 その気になれば追う事も出来たが、あまり得策ではないようにも思え、ぐっと我慢する事にした。

 不服な表情を浮かべたフリーレンは、周辺の人々へと目を向ける。

 彼らは何かを呟いて一礼をした後、頭を上げて動き出していた。

 呟いていた言葉は皆、それぞれだったが……。

 

「ありがとうございます……ごめんなさい……許してください……?」

 

 耳に入った言葉を繰り返す。

 一人が全てを言っていた訳ではないが、そんな言葉が多かった。

 表情もまちまち。

 冷や汗を流していたり、笑顔だったり、恍惚としていたり、恐怖に歪んでいたり。

 そして、共通で口にしていた言葉がある。

 恐らくは名前だろう言葉。

 

「アリウム様……ね」

 

 先程の異様な光景を引き起こしたと思われる、名前。

 フリーレンは呟き、この町の異様さを改めて感じていた。

 一人の人間がなんらかの力によって連れ去られたというのに、既に通常通りの営みを再開していた。

 なんとも、異様な光景だった。

 

「これが『平和な町』か」

 

 皮肉を口にして、フリーレンは止まっていた足を動かし始める。

 男が飛んで行った方向、町の中心部へと。

 そこに何かがある、そんな予感を感じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「子供に暴力振るおうとするなんて、悪い人」

 

「悪い人は、私の町にはいらない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町を見て周った結果、やはり町に住んでる人々には例外なく魔力が張り付いているのがわかった。

 赤子や老人、町長とただの町人も分け隔てなく。

 傍目には平和で、他の町ではたまにいる浮浪者や孤児がおらず、揉め事も起きない。

 実際フリーレンが目撃したような事は他にはなかったが、揉め事を起こせばああなるのならば、理解してる人間は揉め事等起こさないだろう。

 それはある意味平和であるとは言える。

 実際、犯罪や揉め事を起こさない普通の人間達にとってこの町は住みやすい事だろう。

 だが、そのアリウム様という人物の意思次第で行われるそれは、本当に平和なのだろうか?

 何をしたら駄目なのか、明確な基準もない中で過ごし、生きていく。

 そんな誰かの顔色を伺いながら、なんて生き方、ごめんだ。

 きっと、なんの面白味もない魔法しか生まれないだろう。

 つまらない未来に、フリーレンはその身を震わせた。

 

「……あんまり気が合いそうもないね」

 

 人を恐怖で操っているこの町の歪な形に、フリーレンはそう吐き捨てた。

 

 やがてフリーレンが辿り着いたのは、町を一望出来る程度の高さの時計塔だった。

 先刻感じた魔力、町の人々に張り付いている魔力、それらの大本がここであると、探知結果は示していた。

 

「ここか……さて、どうしようかな」

 

 けれど、時計塔に入る扉は固く閉ざされていて、入れそうもなかった。

 押し引きしても、ビクともしなかった。

 暫しその扉の前で腕を組んで悩む。

 無理矢理開ける手段はいくつかあるけど、そこまでしていいものか。

 

 フリーレンとしては、この町のおかしな様子の原因が魔族だと疑っているが、絶対ではない。

 結局は自分の好奇心のままに動いているだけ。

 まだ確証はない。

 そんな状態で無理を通す事を少し躊躇っていた。

 

ギィイ……

 

 躊躇っている間に、扉が音をたてて開いた。

 一瞬呆気に取られるものの、即座に気を取り直す。

 

「入って来いって事か。じゃあ、遠慮なく」

 

 フリーレンはそのまま時計塔に足を踏み入れる。

 

キィィイイ……バタン

 

 入った瞬間背後で扉が閉まったが、フリーレンは気にする事なく足を進める。

 アリウム様とやらの顔を拝んでやろう、そう意気込んで時計塔の中を歩き出した。

 

 内部の長く続く螺旋階段を見て、一度立ち止まり嫌そうな表情を浮かべたものの、小さくタメ息を吐いてから黙々と登りだしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは」

 

 螺旋階段を登りきった先で待っていたのは、案の定と言うべきか、魔族であった。

 薄紫の長髪を腰まで真っ直ぐに伸ばし、同色の瞳を薄く開いてフリーレンを見つめていた。

 そのこめかみには魔族の証である角が生えていて、上から下まで真っ黒な服に身を包んでいた。

 フリーレンは即座に杖を構えたが、その魔族を幾人もの人間が周りを固めていて、迂闊に手を出す事は出来なかった。

 

「アンタがアリウム様とかいう奴?」

 

 フリーレンがぶっきらぼうに問い掛けると、その魔族はこくりと頷いた。

 魔族特有の光のない瞳を、どろりと濁らせながら、フリーレンを見つめる。

 

「そう、私はアリウム。そういう貴方はフリーレン?

 勇者パーティの魔法使い、フリーレン……歓迎する」

 

 フリーレンは邂逅した、アリウムという名の魔族と。

 人の心を持ち、人に絆され、人を愛した魔族と。

 

「この町は私の町。貴女にとやかく言われる筋合いはない」

 

「魔族が統治ごっこ?笑わせないで。人の心のない獣が」

 

 愛した人を、子供を、明るい未来を。

 全てを失い、それでも歩み続けたアリウム。

 そこで何かが起きて、その心が折れた世界。

 

「貴女に何がわかる!?私の何が!

 知ったような口をきくな!人の心がないのはお前のほうだ!」

 

「ハッ、魔族に言われてもなんとも思わないよ。

 これ以上お前は生かしておけない。ここで必ず殺す」

 

 それでも捨てきれなかった思いが、酷く歪んだ。

 町一つを巻き込んで、一つの形となって、醜く歪んだ。

 アリウムの、辿る可能性の一つ。

 

「私はお前が嫌いだ。大嫌いだ!私の全てを無価値と断ずるお前が!

 殺してやる!殺してやるフリーレン!!!」

 

「奇遇だね、私もお前みたいな魔族は嫌いだよ」

 

 アリウムの咆哮を、フリーレンは涼しげな顔で受け止めた。

 同時に、幾人もの人間が、フリーレンへと襲い掛かっていった。

 

 

 

 

 

 アリウムの傍らには誰もいない。

 独りで、人形のように人間を操り続ける。

 独りじゃないと思い込んで、人形遊びに興じる話。

 

「人間と魔族」人形のアリウム

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