人の心を持ってしまった魔族・IFストーリー   作:如月SQ

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「人間と魔族」

「お金がない……」

 

「まぁー?」

 

「なんでもない。よしよし」

 

「きゃぁー」

 

 腕の中で私を見上げる孤児の男の子を、優しく撫でる。

 きゃらきゃらと笑う男の子の笑顔に癒されるけれど……。

 

「……むぅ」

 

 ちら、と財布にしている布袋を見れば、完全に萎みきっていた。

 拠点を構え、子供達に笑顔が浮かび始めた所だったのだけれど……私の持つ資金は底をついていた。

 私物も全て売り払った。

 ユーリと使っていた夜営道具や、ユーリに貰ったアクセサリーも。

 ……仕方ない事だけど、大したお金にもならなくてショックだった。

 残ったのはユーリに貰った婚約指輪だけ……これだけは流石に手放せなかった。

 

 子供達は笑顔を見せているとはいえ、まだまだ健康とは言い難い。

 つい先日まで身寄りもなく、飢えや寒さに震えていた頃に比べればマシとはいえ……ここで食べる物がなくなるのは困る。

 私が飢えるのもあまり思わしくないし……この子達の身の安全の為に。

 

 そう思って袋を見つめていると、水を汲んできて欲しいと頼んだ子供達が帰ってきた。

 

「おかあさん、お水くんできました」

 

「ありがとう、お疲れ様」

 

 桶に水を汲んできた子供達を労る。

 今私が世話してるのは腕の中の一際幼い子供と、今桶を重そうに置いた四人の子供達。

 もうこの生活を始めて一ヶ月程だけど……皆私を信用しつつあると思う。

 その証拠に、この子なんかは私を母と呼んで慕ってくれる。

 ……嬉しくはあるけど、少し複雑だった。

 

 他の子達は少しまだ一線を引いてはいるようだけど……それは当然だろう。

 身寄りのない子供なんて、悪い大人にとっては格好のカモだ。

 警戒して当然……私はただ誠実に接する事しか出来ない。

 水を汲んできてくれた子供達の頭を順番に撫でて……はにかむ子供達に笑みを浮かべた。

 

 ただ、兎に角お金がない。

 あまり時間がかかるような労働は出来ないし……何よりあまり街中で長く過ごすのも難しい。

 どうしたものか……。

 

 最後の資金で野菜屑や型崩れしたパン、パンの耳を格安で買い、とうとう空になった財布を見てため息を吐いた。

 

 そんな時だった。

 

「ちょいとそこの姉ちゃん」

 

 なんというか、厳つい男だった。

 剣のようなものを携帯している事から、恐らくは冒険者なのだろう。

 

「……なに?」

 

 そんな男が私に何の用だろうか?

 角を隠すための帽子を深く被り直し、私は対応する事にする。

 

「いやね、なんか袋見てため息ついてるし、持ってるのもなんかパンの耳とかだから、金欠なのかなって思ってよ」

 

「そうだけど……何?お金でもくれるの……?」

 

 怪訝に思いながら、ダメ元で言ってみるも、男は首を振る。

 まぁ、当然だろう。

 何処にただ金を出すような酔狂な奴がいるというのか。

 

「タダじゃやれねえが、姉ちゃんいい身体してるじゃねぇか。

 一晩抱かせてくれりゃ、金払ってもいいぜ」

 

 私を舐めるように上から下まで見る男の目は血走っていた。

 厭らしく歪められた瞳は、私を値踏みしているようで……背筋に寒気が走る。

 けれど、そうか……その手があった、か。

 この世には娼婦という、抱かせるかわりに男達に金を貰う職がある。

 しかもその働く時間は基本的には夜になる……丁度良いかもしれない。

 

 私は自分の体を見下ろす。

 自分が見ても大きいと思う胸に、細い腰つき……。

 魔族は見目麗しい者が多いけれど、私もその例に漏れないという事だろう。

 ……自分で言うのもどうかと思うけれど。

 

 兎に角、人間から見て魅力的であるのならば、私の体は……金になる。

 それなら、もう迷う必要はない。

 私がこの男に抱かれれば、子供達が生きていけるなら。

 

「……わかった。いいよ、一晩」

 

「マジか!やったね!」

 

 男は嬉しそうに笑うと、私の横に立ち、肩を組んできた。

 首の後ろから回した手が、そのまま無遠慮に私の胸を鷲掴みにする。

 驚いて反応する間も無く、男の手は私の胸を揉みしだき始めた。

 

「おお、でっけぇしやわけぇー。んじゃ、今晩宜しく頼むわ」

 

 ぐにぐにと男の手によって形を変える乳房……。

 男は直ぐに手を離して、ニヤリと笑った。

 痛みに顔を歪めながらも、私は頷いた。

 

「……わかっ、た」

 

 以前は感じなかった強い嫌悪感を隠して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜、日がまだ昇る前。

 私は男が指定した宿から、拠点への帰り道を歩いていた。

 その手には、私にとっての大金。

 子供達五人を養っていたとしても、これだけの金があれば一ヶ月は持つ……。

 

「はぁっ……はぁっ……うっ……」

 

 私を思う存分抱いた男は大層満足したようで、事前に約束していた金額にかなりの色をつけてくれていた。

 ありがたい事だ、お金はいくらあっても困らない……。

 

「はっ……うぷっ……」

 

 そこで私は限界を迎えて、道の端で嘔吐してしまった。

 ビチャビチャと吐瀉物が地面にぶちまけられていく。

 そこに白い粘体が混じってるのが垣間見えた。

 

「えぅ……おぇ……はぁ、はぁ……」

 

 男に抱かれた時、いや、体に触れられた時、強い嫌悪感があった。

 我慢して、私に向かって腰を振る男を受け入れていたけれど、あまりの気持ち悪さに気づけば私は涙を流していた。

 それが、あの男に興奮を与えてしまったようだった。

 私が耐えきれずにどれだけ嫌だと叫んでも、男は私を押さえつけて私の体を犯し尽くした。

 腹の中に未だに残る男のモノが、本当に不快。

 

「はぁ……はぁ……んぐっ……」

 

 辛い、辛くて辛くて仕方なかった。

 気付けば私の目からは涙が流れていた。

 ポタポタと吐瀉物に垂れる涙は、そのまま混じって見えなくなる。

 

「気持ち悪い」

 

 気持ち悪かった。

 私の胸を揉みしだく手も、私の中をえぐる感触も、男の私を見る欲に満ちた目も。

 

「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い」

 

 腹に残る感触も、飲ませてきた白濁液の味も、私の体を撫でる手も。

 

「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い……!」

 

 全部全部気持ち悪かった。

 

『アンタも気持ち良かっただろ?』

 

 ふざけるな。

 

 ふざけるなふざけるな!

 

 あんな行為で気持ち良さなんて感じない!

 

 私は、私はユーリのもの……!

 ユーリ以外に抱かれても気持ち良くなんて――。

 

 瞬間、頭を殴られたかのような衝撃が走った。

 そうか、私の行為は。

 この行為は、ユーリへの裏切り、なのか。

 

 ユーリに、ただ一人に捧げた筈の自分自身を、軽はずみに、名前も知らない男に抱かせた。

 金の為に。

 

 なんて愚かなんだろうか、私は。

 終わってから気付くなんて……。

 強い後悔に苛まれ、あまりの気持ち悪さに、喉から込み上げてきたものをまた吐き出した。

 

「おぇえええ……」

 

ビチャビチャ

 

 胃液だけが吐き出され、私の目からは涙が流れ続ける。

 

「う、ううぅううう……!ごめん、ごめんなさい……」

 

 私のせいで死んだユーリ。

 心から愛していたユーリ。

 愛を教えてくれたユーリ。

 そんなユーリへの仕打ちが、これなのか。

 

 私は自分への呆れと失望を感じて、涙を溢れさせていた。

 

 ……それでも、救いがたい事に、私は体を売り続けようと思ってしまっていた。

 行為は、セックスは気持ち悪いし、ユーリへの裏切りだと自覚してからは胸が張り裂けそうな後悔に苛まれているけれど。

 ……それでも、子供達を養う為に私が出来る事は……これしか、ない。

 

「……かえ、ろう……」

 

 フラつく足で、私は帰路につく。

 視界の端で私の左手に嵌められている指輪が見えて、思わず顔をしかめた。

 

 今日は……皆に美味しいものを、食べて貰おう。

 今は、それだけが救い。

 全ては、子供達の為に。

 私を擂り潰して、ただ子供達の為に。

 健やかな未来を、平穏な未来を……。

 

 私は、どうでもいい。

 こんな、愚かな私なんて。

 

 朝日が顔を出す中、それから逃げるように、身を隠すように、私は拠点へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのお金で子供達に用意したのは、思い出の品。

 香草焼きと、野菜たっぷりのスープ。

 私の中でご馳走と言えばこれだ。

 記憶を頼りに再現し、ユーリからもお墨付きを貰っていた。

 お肉は狩ったばかりの新鮮なお肉を買い取り、野菜も屑ではなく、ちゃんとした野菜がたっぷりだ。

 デザートに果物まであり、子供達は目をキラキラ輝かせていた。

 じゅるりと涎を垂らした子供達は、料理と私を交互に見つめてくる。

 

「食べていいよ」

 

 その様子がとても微笑ましくかった。

 競うように食べていく子供達は、ニコニコと笑顔を浮かべていた。

 

「美味しい!」

 

「うめぇ!」

 

 口々にうまいうまいと褒める子供達に、私まで笑顔になってしまう。

 やがて嗚咽すら漏らし始めた子供達の背中を擦って、私は心が満たされて行くのを感じていた。

 ……これを毎日、とは言わない。

 それでも、食べたいな、と思った時に食べれるように。

 そんな未来に、この子達を連れていく。

 

 スープを啜りながら、私は改めてそう決意したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから私は体を売り続けた。

 冒険者を中心に、こちらから声をかけて。

 見ず知らずの男に抱かれる嫌悪感は、いつまで経っても慣れる事はなく、行為の後は胃が空になるまで吐いた。

 自己嫌悪で狂いそうになる自分を、子供達の為だと奮い立たせて。

 そんな日々を過ごしていた。

 

 ある日、いつものように見ず知らずの男に抱かれた後の帰り道。

 気持ち悪さを必死に我慢して、帰路に着いていた時の事だった。

 

「待ちな」

 

 私の前に立ち塞がるように、扇情的な衣裳に身を包んだ女が現れた。

 その左右を見るからに屈強な男達が二人固めている。

 女は露出した肩をいからせ、豊満な胸の谷間を見せつけるように腕を組むと、私を睨み付けてきた。

 

「アンタだね?最近ここらで客を取ってるのは」

 

「……客?」

 

「体、売ってるんだろう?困るんだよ。ここいらはあたし達の娼館のシマなんだ、勝手されちゃね」

 

「む……それは……」

 

 娼館……確か、娼婦が集まり、男達に体を売る場所……。

 そんな場所が、あったのか。

 町に長居する事自体がリスクだったから、ちゃんと見て回らなかった事が裏目に出てしまった。

 食料品店や、中央に時計塔がある事しか知らない……。

 

「あんたに好き勝手されるとね、こちとら商売あがったりなんだよ」

 

 そうか、商売、というのだからそれには相場といいものがある。

 見合った値段にしないと、似たような商品が売れなくなってしまう。

 だからそれらには相場が常にあるというのに……失念してしまっていた。

 きっと貰い過ぎていたんだろう、良くない事だ。

 彼女はきっと相場をコントロールする人なんだろう、私にわざわざ忠告をしにきてくれたという事……か。

 

「……ごめんなさい」

 

 それなら素直に謝る他ない。

 頭を下げて謝る私に女性は目を細めて言葉を続ける。

 

「まぁ、あんたも孤児なんざ育てて大変なんだろうからこれまでの事は見逃しといてあげるよ。

 だが、これからはあんた、うちの娼館に入りな。そこで色々と教えてやるよ」

 

 その言葉は、ありがたかった。

 私を抱いた男達の一部は「これなら娼婦のがマシだ」という言葉を残していたから、私と何が違うのか……少し気になっていたからだ。

 

「あ、えっと、わかった」

 

「……これからウチで働くんなら、言葉遣いも直すんだね。

 そこはわかりました、って言うんだよ」

 

「わ、わかりました。あの、お金、貰い過ぎてて……ごめんなさい」

 

「……ん?そうだね、まぁこれから学んでいきな。色々教えてあげるよ。

 それじゃあ、夜にでもあんたの所にこいつらを迎えにやるからね」

 

 女性はそう言って、左右の男達を指し示した。

 あぁ、まあ、確かに私は娼館の場所なんて知らないから、ありがたい。

 

 そこで、空が微かに白んできたのが見え、私は少し焦りながら口を開いた。

 

「はい……それ、じゃぁ、子供達が起きて、しまうので……」

 

「ああ、また後でね」

 

 初めてニコリと笑った女性に手を振り、私は帰路につく。

 正直今にも吐きそうだったから、足早に。

 

 ああ、それにしても、安く食料を譲ってくれる人といい、この町はいい人が多くてありがたい……。

 男達に抱かれるのは変わらないとしても、何か好転してくれるといいな……。

 そんな事を考えながら、口許を押さえて、私は駆けだして行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貰いすぎて、ねぇ。貰わなすぎなんだよあんたは。

 そんだけ美しくて、あたし達より貰ってないなんてね、こちとら商売あがったりだったよ、本当にね」

 

「これからあの子をどうするんです?」

 

「勿論買い叩くさ。存分に体を売らせて、儲けさせて貰うわ」

 

「容赦ないですね」

 

「けっ、孤児の子供を育てるなんていう酔狂な事やってる、頭お花畑の女にゃ丁度いいだろう?

 あんな面と体してりゃ、いくらでもやりようがあるってのに、わざわざこんな事してる物好きなんだ。

 精々使い潰すさ」

 

「はぁ。あの子も可哀想に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 娼館に雇われてからの日々は、少しだけ環境がマシになったように思うけれど、もらえる金額は今までの半分以下となってしまっていた。

 

「あの……これが普通なの、ですか……?」

 

「ああ、これでもあんたは可愛いし、孤児を育ててるのもある。

 少し色付けてあげたけれど、不満かい?」

 

「あ、い、いえ!ありがとうございます!」

 

「ふん、足りないなら抱かれる頻度を増やすしかないね。斡旋はしてやるから、明日から増やすかい?」

 

「……はい、お願い、します」

 

 毎日、毎日、抱かれ続ける日々。

 一回の金額は減ってしまったけれど、それだけ数をこなせば良い事。

 女性、娼館の店長には男に抱かれる、男に奉仕するテクニック等を時折教えられながら、娼館で毎夜毎夜働き続けた。

 そんなとある日、店長に呼び止められる。

 

「そう言えば、子供達の引き取り手が見つかったよ」

 

「引き取り手……?」

 

 聞きなれない言葉に思わず聞き返した。

 

「孤児院ってのはそもそも、子のいない夫婦なんかに子供を引き取って貰う事なんかがあったんだよ。

 だからあんたの負担を少しでも軽くしてあげたくてね。

 漸くその先が見つかったって訳だ。

 後は、ある程度大きくなった子の就職先なんかも探してあげようと思ってね」

 

「そ、そんな!そこまでしてもらえるなんて……!」

 

「あんたもウチの従業員なんだ、このくらい当然さ」

 

 そう言ってニヤリと笑う店長。

 本当に、この人には頭が上がらない。

 

「本当に……何から何まで……店長には世話にな、ります」

 

「気にするこたないよ、あんたは頑張ってるからね」

 

 私が育ててる子供達は既に10人にまで増えていた。

 そんな中で、店長の申し出は本当にありがたかった。

 引き取られた先で、子供達が平和に暮らせる事を、願うばかりだった。

 涙ながらに手を振って去っていく子供を見送り、私はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「例の子供の分です」

 

「あいよ。ふむ、なかなか悪くない額じゃないの」

 

「希望に満ちた子供でしたから。なかなか好評でしたよ」

 

「そうかい。色んな奴がいるもんだ……そんで?年食ってる奴はあんたん所で引き取るのかい?」

 

「ええ、若手を欲してましてね」

 

「そりゃいいね。いやぁ、あの子は本当に都合が良いねぇ。

 客からの評判も良いし、毎日稼げて稼げて、笑いが止まらないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ほとんど毎日抱かれていた、そんな日々を続けて……恐れていた事が起きてしまった。

 気のせいだと言い訳していたけれど、ぽこりと膨らんだお腹が、現実を訴えていた。

 妊娠、している。

 

「……どう、しよう……」

 

 お腹の奥から感じる鼓動。

 こんなお腹で、こんな状態で、男達に抱かれる事が出来るのか……?

 

 そして、ふと頭に過るのは……私の子供、私が手を掛けた、ニコライの事。

 この子が誰の子なのかなんてのはどうでも良いけれど、もしまた魔族だったら……?

 

 産んだとして、人間だったとして、子供達を面倒見ながら育てられるのか……?

 赤ちゃんをまともに育てた経験はないけれど、夜も昼もない程に大変だと聞く……。

 お金の問題もある、その間まともに働けないだろうに、どうやって子供達を養うというのか。

 今でも子供が増えてきて大変なのに、時々夜にいない事を見抜かれて、子供達に疑惑の目で見られているのに。

 

 そんな風にいろいろと考えていたら、思考がぐちゃぐちゃになって、色んな心配事がグルグルと頭を回り続けて……。

 

「……どう、したらいいか、わからなくなって……」

 

「……そうかい」

 

 私は店長に相談する事にした。

 昼に訪ねてきた事に驚いていた店長だったけれど、しっかりと話を聞いてくれた。

 嬉しく思いながらも、また迷惑をかけてしまう事に申し訳なく思ってしまう。

 

「……そうだね、あんたはどうしたいのさ?」

 

「私……」

 

「結局産むのはあんただよ。あんた自身。あんたの思うままにしな」

 

「いい、んでしょうか……」

 

「好きにしな。不都合な事があったら、あたしが出来るだけ手伝ってやるよ」

 

 そう言って笑う店長は……本当に心強かった。

 

「ありがとう、ございます店長……あの、私!」

 

 私は、心の底にしまっていた本音をぶちまける。

 ずっと、ずっとしまいこんでいた本音。

 ただただ素直な私の気持ち。

 

「私、産みたいです」

 

 お腹に宿った、愛しい命……私の赤ちゃん。

 産んで、育てたかった。

 私の手で、ちゃんと。

 

 そんな私の言葉に、店長は優しく微笑んでくれた。

 

「そうかい。それならあたしがこれ以上言う事はないよ。

 些事はあたしに任せて、あんたは孤児院で安静にしてな」

 

「え、それは……」

 

「身重の女に客なんか取らせられないよ。そっちの世話とかも人を後でやるから。

 まったく、人を見繕うのがこれから大変だよ!

 ほら、さっさと帰った帰った!あたしはこれから忙しくなるんだから!」

 

「っ……店長、ありがとうございます!」

 

 私は涙ぐみながら、店長に深く深く頭を下げた。

 店長は既に私に背中を向けて、手をヒラヒラと振っていた。

 

 店から出るときに再度深く店長に頭を下げて、私は店を後にした。

 

「……いい人ばかりで、本当に、ありがたいね。

 ふふ、元気に産まれてきてね。私の赤ちゃん……」

 

 ぽこりと膨らんだお腹を撫でながら、私は帰路につく。

 私は、恵まれてる。

 微笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩いて帰る事にする。

 折角町に来たのだから、お菓子でも買って帰ろうかな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい」

 

「はい」

 

「アレ、潰しといて」

 

「はい」

 

「念入りにね。ったく。面倒な」

 

「容赦ないですね」

 

「当然。あの子にそんな自由ある訳ないだろ?」

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