お菓子を選び、帰路についた時、外はほんのりと暗くなっていた。
もうすぐ孤児院を出て、店長の用意してくれた就職先に勤める事になっている女の子に世話を任せているけど……少し心配。
子供達は沢山いて、皆腕白だからね。
「早く帰らなきゃ」
そう呟いて歩み始めた時、だった。
建物の影から突然人が飛び出してきて。
ゴッ
私の膨らんだお腹に、強い衝撃が走って。
「あっ……ぎっ……」
ごちゅ、ごり
激痛と共に息が詰まって、私のお腹の中が、壊れていって。
ゴッ!
間髪入れずに更に強く、深くお腹に走る衝撃と、体の芯に響く激痛。
「かっ……」
あまりの痛みに膝が折れ、お腹の奥からどくどくと何かが流れて。
痛みで飛ぶ意識の中、お菓子が地面に落ちて、そして。
ぶちゅ
私の中で何かが潰れた。
何か、大事なものが、潰れた。
そして、何かを喪失した感覚のまま、私の意識は闇に包まれていく。
「あか……ちゃん……」
気を失う直前に感じたのは、再度お腹に走る強い衝撃と、激痛だった。
決定的に、何かが壊れる。
知らず、私の目からは涙が流れていった。
ドゴッ!
「潰しました」
「ご苦労さん。
後は医者に頼んで、二度とくだらない事が言えないようにして貰わないとね。
よくもまぁ、誰のかわからない子供なんて産もうと思うもんだよ」
「手配しておきます」
「まったく……気色悪い子だよ」
闇の中、泣き声が聞こえる。
ずっと、ずっと、耳の奥にこびりついている、私が食べた赤ちゃんの、泣き声。
どこをみても姿はなくて、ただただ泣き続ける赤ちゃんの声。
けれど、ふと、目の前にピンクの布に包まれた何かがあって。
そこから泣き声が響いていて。
それが私の赤ちゃんだと、反射的にわかった。
私は手を伸ばす、抱き締めようと、泣き止ませようと。
二度と同じ過ちは繰り返さない、今度こそ、赤ちゃんを、私の赤ちゃん。
ぶちゅ
ピチャッ
それ、が目の前で突然ひしゃげた。
何かに押し潰されたように潰れたそれから、赤い液体が私の、頬に―――
「あぁああああああ!」
バサッ
その瞬間目を覚ました。
体にかかっていた布を弾き飛ばして、体を起こしていた。
「はぁっ!はぁっ……!はぁっ……!」
ひどい絶望感と恐怖に襲われている体を震わせ、息が荒くなる。
どうにか、どうにか気持ちを落ち着けようと、無意識にお腹に手を当てて……。
「……え」
ぺたりと、へこんだお腹に手が、触れた。
ぺた、ぺた
触れるとお腹の奥がジンジンと痛む。
でもそんな事はどうでも良かった。
温もりがない、鼓動がまるで聞こえない。
赤ちゃんが……いない。
頭に浮かぶのは、気を失う直前の……何かが壊れ、潰れる感覚……。
「あ……あぁ……そんな……そんな……!」
何度も、何度もお腹に触れる。
それでも現実は変わらず、そこには何もない。
また、私は、失った。
「うぁあああああああああぁあああああああ!!!」
その後……私は体を包む温もりに気付いた。
店長が、私を抱き締めている事に漸く気付き、心配そうに顔を歪める店長に小さく頭を下げた。
話を聞けば、私は道で、血を流して倒れていたらしい。
お腹にひどい殴打の跡と、股関からの夥しい出血にすぐに医者に見せたけど……。
赤ちゃんは、既に手遅れだったらしい。
改めて言葉にされて、言葉もなく涙を流す私に、店長は戸惑いながらも、悲しげに顔を歪め、告げた。
「それと……もう、あんたの胎は……もう、子を産めないだろう、って……。
ぐちゃぐちゃになっちまって、もう、治せないって……」
ガン、と頭を強く叩かれたかのような衝撃が走った。
もう、子供が産めない。
私の赤ちゃんは、もう、出てこない。
「……あんたみたいな身重に暴力奮うなんて、ひどい輩もいたもんだよ。
犯人はわからないけど、とりあえずここで暫く休んどきな。
孤児院には人をやっといたから、安心おし。
……発見が遅くなって、悪かったね……」
あまりのショックに言葉が出てこない……。
でも、店長が私を気遣ってくれてるのはわかった。
せめて、と頭を下げて、首を振った。
「……良い子だねあんたは。それじゃ、ゆっくりおやすみ」
店長は小さく笑みを浮かべると、私が寝ていた部屋を後にする。
その間も私の目からは涙が溢れ続けて、止まる様子もなかった。
ああ、辛い、悲しい、苦しい……。
折角、折角私なんかの所に産まれようとしてくれたのに、私のせいで。
私には赤ちゃんを抱く資格なんてないって事なんだろうか?
それとも、ニコライを、魔族とはいえ我が子を殺した報いなのだろうか?
そうだとしても……こんな仕打ち、あんまりだ……。
私のお腹を、赤ちゃんを殺したのは恐らく人間。
どんな理由があったのかはわからないけれど……。
私のお腹を、執拗に狙って、赤ちゃんを殺した……。
「にん、げん……」
涙で何も見えない。
どうしようもない喪失感と虚無感に包まれて、私の体は震え続けていた。
本当に虚無感?
その後、店長からは暫く休む事なんかも勧められたけれど……医者から何から迷惑かけた身で、これ以上負担をかける事は出来なかった。
私は今日だけは孤児院で過ごすとして、店長に改めて礼を告げ、明日からまた……と帰路についた。
孤児院に着いて、店長が派遣してくれていた人と交代する形になった。
「本当に、ありがとうございました」
「別にいいですよぉ。困った時はお互い様ですからぁ」
ぽやぽやと笑った女性はそう言って、お礼も受け取らず去って行った。
本当に……良い人ばかりだ。
「せんせーおかえりー!」
「おかえりなさいー!」
「せんせーあのねー!」
わいわいと私に集まってくれる子供達……。
可愛くて、暖かくて……冷えきった心に火が灯るような感覚だった。
私はたまらず、一人の女の子をぎゅうと抱き締め、その頬にキスを落とした。
「きゃぁ。んふー!おかえし!」
その子は嬉しそうに笑うと、私の頬にキスを返してくれる。
「あー。ずるーい!」
「ぼくもー!」
「わたしもー!」
ああ、ああ……暖かいなぁ、この子達は。
私は……もう自分の赤ちゃんを抱くことはない。
なら、せめて皆は幸せにしなきゃいけない。
絶対に幸せにする。
きっと、それが私がしなきゃいけない事なんだ。
私は子供達を順番に抱き締めて、その頬にキスを落としていく。
嬉しそうな子供達の笑顔が、とても眩しかった。
その夜は、子供達と一緒に、その温もりを感じながら眠りについた。
赤ちゃんの泣き声は……聞こえなかった……。
それから、男に抱かれても吐く事はなくなっていた。
「アリウムさん、僕と結婚してくれませんか?」
……困った事になった。
私に対して真剣な表情を浮かべてそう言ってくれたのは、この町の町長の息子。
何度も私を抱く為に娼館に足繁く通ってくれた、お得意様だ。
必死な形相で腰を打ち付ける人だなぁ、と強く印象に残っていたのだけど、そのような思いを持ってるとは思ってなかった。
私を思う存分抱いた後、そんな事を言い出してきた。
「……私は娼婦で、片腕もありませんし……」
「構いません!貴女が僕の物になるなら、それでいいです!
何不自由ない生活を約束します!これでもちゃんと稼いでますから!」
そう主張する彼だけど……色々と、本当に困った。
何度も何度も私の中に注ぎ込んだ彼だけど、私は既に妊娠出来ない身……。
結婚と子作りはほぼセットのようなもの……。
それに私は子供を4人も妊娠したのに、一人としてまともに育てられなかった。
罪にまみれた私のような魔族は、彼に相応しくないだろう。
「それに……私には孤児院がありますから……」
「なら、僕も資金援助します!」
「その申し出はありがたいですけど……」
苦笑する私は、ふと自分の左手に嵌めている指輪が視界に入った。
……うん、まぁ、こんな事してる時点でおかしいかもしれないけれど……。
「……私は、亡くした夫以外の夫を持つ気は、ないんです……ごめんなさい」
私は、ユーリ以外を夫にする気は、まったくなかったから。
彼にそう告げると、口を閉ざした彼は、深く俯いた。
「……そう、ですか。わかりました」
「ごめんなさい……。
でも、ここにはずっといますから、これからも……」
「っ……!」
彼は私の言葉の途中で立ち上がる。
そしてそのまま、部屋から走り去ってしまった。
……悪いことをしてしまったかも、しれない。
でも、きっと彼のように若い子なら、こんな私みたいなのよりも、いい人が見つかる筈。
私のようなのに惚れる事なんて、きっと一時の気の迷い……いずれ、もっと良い人が出来るだろう。
それまでは彼がここに来るのなら、その性欲を、この体で受け止めてあげよう。
……私に出来るのは、それだけだ。
彼に素敵な出会いがありますように。
彼が出ていった扉を見つめ、私はそう祈り……ベタつく体を洗う為にベッドから立ち上がるのだった。
「……僕の物にならない?そんなの許される訳がない
孤児院が心残りなら、前の夫が心残りなら。
全部、壊してやる。いいだろ?店長。金は払う」
「はいよ、金の成る木を手放すのは惜しいけど、坊っちゃんのお願いなら仕方ないね。
金さえ積んで貰えれば、あたしらはなんでもするさ。ねぇボスさん」
「ええ、ええ。あの子が育てた子供は良い子ばかりで、いい値がつくので残念ではありますが。
うちに入った新入りも良く働いてくれて、ねぇ。
まぁ、それも貴方のお願いを断る程じゃない」
「なら、頼むぞ」
「あの孤児院を焼き払え」
今日は良いお肉があったから、奮発して買っちゃった。
香草焼きにして、子供達に振る舞う事にしよう。
「……もう、ここにきて10年、か」
世話をしてた子達も引き取り手や就職先が見つかって……。
最初に保護していた子達も、既に皆巣立って行って……。
「皆、元気かな」
あの子達と過ごした日々は……大変な事もいっぱいあったけど、その中でも幸せだった。
すくすくと健康に育っていく様子を見守る事が出来て……本当に良かった。
育てた子供達が私にくれた、色んな思い出の品。
お花、綺麗な石、木の実、絵や、泥団子……。
どれもずっととっておきたいくらい、大事なものだけど……流石に保存出来るものに限定して、自室に大切に保管している。
見る度に心が温まる、大切な思い出。
いつしかあの孤児院は、私にとってなくてはならない、大事な、帰る場所となっていたんだ。
ゴォオオオオオオ!
そんな孤児院が、燃えていた。
ドサドサッ
手に持っていた荷物を思わず取り落とし、私は動揺しながらも駆け出していた。
「皆ぁ!」
燃え盛る孤児院からは、微かに泣いてるような声がしてる気がする。
なんで燃えてるのか、そんな事はどうでもいい!
早く、子供達を助けないと!
その思いで燃え盛る孤児院に飛び込もうとした。
けれど、突然私は肩を掴まれ、地面に引き倒されてしまった。
ドタンッ!
「あぐっ!」
うつぶせに倒れた私は痛みに呻き、直ぐに体を起こそうと左肘を立てる。
けれど誰かの、肩に乗せられた手によって地面に押し付けられ、起きる事が出来なかった。
ゴォオオオオオオ!パチッパチ
えぇえええええええん!
その間も孤児院は燃え盛り、私の耳は、子供が泣き声叫ぶ声をとらえてしまった。
やっぱり、やっぱり、取り残されてる子がいる!
「離、せっ!子供達を、助けないとっ……!」
どうにか、体を起こそうとするも、私を押さえる手をはね除ける事は出来なかった。
足掻いていると、突然手首を掴まれ、地面に押し付けられる。
そして、不意に横から伸びてきた手が、するりと私の薬指に嵌まっていた、ユーリの指輪を抜き取ってしまった。
「っ!あっ!」
思わず声を上げて、指輪を抜き取った人物を見上げると……。
あの、お得意様の、町長の息子である彼だった。
彼は私の指輪を手の平に乗せると、転がしてまじまじと見つめていた。
「…………安物か、くだらない」
そう吐き捨てると、私をじろりと見下ろしてきた。
「か、返して……!返して下さい!それは、私の、大事な……!」
「……」
彼は私の言葉に顔をしかめると指輪を握りこみ……。
止める間も無く、燃え盛る炎の中に投げ込んでしまった。
「あっ、うぁああああ!」
咄嗟に不可視の右腕を伸ばしたけれど……間に合わなかった。
炎の中に飛び込んでいった指輪を、呆然と眺めるしか、出来なかった。
ひどい、なんで……なんで!
「さぁ、これで心残り、なくなったでしょう?」
「……え」
信じられない程に明るい態度で、彼は私に笑顔を向けてきた。
「前の夫と、孤児院が気になっていたのでしょう?
これで、全部なくなりましたから、心置きなく僕のものになってください!」
「何……言ってる……の……」
彼の言う事が、私は理解出来なかった。
理解が追い付かなかった。
目の前で燃えてる孤児院も、投げ捨てられた指輪も、彼が、私を欲してした事……?
満面の笑みを浮かべて私を見る彼が、私は信じられなかった。
バキバキバキ……!
そんな時、孤児院の、まだ形を保っていた建物の天井が、音をたてて崩れ始めた。
「ぎゃぁあああ!あづいぃいい!」
「いやぁあ!たすけて、たすけてぇええ!」
「せんせー!せっ」
それによってなのか、子供達の悲鳴がより鮮明に聞こえてきた。
血の気が引く思いだった。
子供達は、明らかに中にいて、苦しんでいる!
私を呼んで、助けを求めてっ……!
「わかり、わかりました!貴方の物になりますからっ!
だから、だから、早くあの子達を、助けてください!
あの子達は私の全てなんです、もう失いたくない!
お願いします、お願いしますっ……!」
気付けば私の目からは涙が溢れていた。
私は、地面に頭を擦り付けて、彼に懇願した。
今もあの子達は苦しんでる、早く助けて欲しい、どうか助けて欲しい、と。
……けれど、彼の返答は無情だった。
「嫌です」
「なん……なん、で……」
バキッ!
「あつい!あついよぉ!」
「たすけてぇ!」
孤児院が更に崩れてく、子供達の悲鳴も消えていく。
早くしなきゃ助けられないのに、私は未だに押さえ込まれてしまって身動きが取れない。
そんな切羽詰まった状況なのに、彼は私を見て悲痛に顔を歪めながら言う。
「貴女に断られて、僕はひどく傷付いた……。
だから貴女にも傷付いて貰う。それでおあいこでしょう?」
なんて事ないように告げる彼は、本当に子供達の命をなんとも思っていないんだと理解してしまった。
そんな人間が、いると思いたくなかった。
「おーおー。燃えてるねぇ」
そんな中、聞き覚えのある声がした。
娼館の店長の声……いつも頼りになる店長が、来てる!
私は藁にもすがる思いで、声を張り上げた。
「店長!お願いします!子供達を助け――」
「それじゃこの子は引き渡すよ、坊っちゃん。毎度あり」
「ああ、店長、有り難くいただきます」
けど、店長のその言葉に、彼とのやり取りに、一瞬で血の気が引いた。
毎度、あり……?
まるで、私を彼に売ったような……。
信じられない、信じたくない。
あまりの事に呆然としてしまう私に、店長は言葉を続ける。
「んー?ああ、今までご苦労だったね。
あんたのおかげで、あたしは大儲けさせて貰ったよ。
客はいくら値段釣り上げてもあんたを抱きにくるし、孤児のガキ共も高く売れたし……。
あんたのその偽善者っぷりだけは反吐が出そうだったけどね」
「え……子供、達……売れ……た?そんな、だって!」
「ははは!本気でこのあたしが、まともな引き取り手なんか探してたと思ってたのかい?
そんな面倒な事しなくてもね、後腐れなく子供を使いたい輩なんざいくらでもいるんだよ!」
高笑いする店長の言葉に、目の前が暗く染まっていくようだった。
巣立った後の子達は確かに音沙汰はなかったけれど……でも、きっと何処かで幸せにやっていると信じていた。
良い相手だよって言う店長の言葉を信じて。
けど、けど、それが、嘘だったなら、子供達は今、どう、なって。
「子供を犯すのが趣味の輩とかもいたし、痛め付けるのが趣味の輩もいた。
生きてるかどうかすら怪しいもんだ。生きててもろくな目にはあってないだろうね?」
そんな……。
そんなの、酷すぎる……。
「じゃあ、じゃあ私のしてきた事は……」
子供達を、地獄に叩き込んでいたって事……?
じわりと目に涙が浮かぶ。
そんな時、だった。
がら……
「あ……あぁ……あづ……い……」
燃え盛る孤児院から、子供の一人がよたよたとした足取りで、出て来て、くれた。
顔中煤だらけで、身体中に焼けた痕があって黒焦げだったけれど、それでも生きてる、生きてる!
不可視の右腕を伸ばして、早急に治療を!
「ちっ、おい。やっちまいな」
「……はい」
助けようと、私が手を伸ばす前に、誰かが素早くそのこの子前に出ていって。
その手に銀色に煌めく刃が見えて、思わず叫んだ。
「やっ……やめっ――!」
「せん……せ……」
ドスッ
凶刃が煌めき、腹部を刺されたその子の四肢から……力が抜けて、直ぐに動かなくなって、しまった。
刺した人物は……動かなくなったその子を、燃え盛る孤児院に投げ入れて、此方を振り返る。
悲鳴をあげたかった。
けれど、それ以上の衝撃を受けた。
振り返ったその顔には、ひどく、覚えがあったから。
「先生、久しぶり」
黒い衣服に身を包んだ彼は、3年程前に巣立っていった男の子で、就職をした筈の彼は。
血に濡れたナイフを手に持って、自嘲するように私を見つめていた。
「俺、こんな事するような大人になっちゃったよ」
その瞳には涙が浮かんでいて。
「ごめん母さん……ちょっとでも、母さんを疑ってて、ごめん」
そのナイフで首を掻き切って、炎の中に倒れていった。
その時、私の中で何かがプツリと切れた。
「あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
気付けば私は……朝日が差し込む中、燃え尽きた孤児院の中心で立ち尽くしていた。
いくつもの、いくつもの子供達らしき燃えた死体を見つめて、孤児院の前で潰れ、ひしゃげた二人の死体を遠目に見つめて。
また、全てを失ってしまった。
私はただ立ち尽くす。
何が悪かったのだろう?
この子達は、こんな最期を迎えなければいけなかったのだろうか?
ずっと、苦しんで助けを求める声が耳から離れない。
私はただ立ち尽くす。
巣立っていった子達は、幸せになんてなれていなかった。
醜い人間が、子供達を食いつくしていた。
あの子なんかは良心の呵責に耐えかねて、自死を選んでしまった。
私はただ立ち尽くす。
なんでこんな事になったのだろう。
決まってる、私が人を本当に理解出来ていなかったから。
こんな、悪意ばかりの人間がいるとわかっていたのに。
私はただ立ち尽くす。
私の周りを、鎧を纏った兵士や、武装した男女が取り囲む。
町長と名乗る男が、「孤児院に潜む魔族め、町の平和の為に」とかなんとか言ってる。
けど、その目に浮かぶのは……悪意。
きっと、なにかに私を使う予定でもあるのだろう。
誰もかれも悪意、情欲、愉悦……。
こんなのも人間だと思うと嫌気が刺す。
私はただ立ち尽くす。
一斉に襲い掛かってくる彼らを、全員の四肢と首を、掴んだ。
『
狼狽える、町長を名乗る男の首を掴み、圧迫する。
ひくりと鳴った喉。
捕らえた兵士や冒険者が五月蝿いから口を押さえる。
私はただ立ち尽くす。
ああ、本当にくだらない、ほとんどの人間はこんなものなのか?
子供達はあんなに純粋で綺麗で、お爺さんやユーリみたいに最期まで綺麗な人もいるのに。
それでも悪意によって子供達は無為に傷付き、無為に死んでいく。
そんな、悪人の手によって、子供達は虐げられる。
悪人、悪人、悪人悪人悪人悪人悪人!
「全部、悪人がわるい」
そういう事にしよう。
私は別にもうどうでもいい。
私のお腹の子供を殺した分だけは、あの女をぐちゃぐちゃにして返してあげたけれど。
でも、これから先産まれ、生きていく子供達の未来は、明るくなければいけない。
それが当たり前なんだ。
私に全てを救う力はない。
けれど、せめてこの町だけは。
この町の子供達だけは……悪意に晒されずに、健やかに生きて欲しい。
「だから」
「私に」
「従え」
「人間共」