人の心を持ってしまった魔族・IFストーリー   作:如月SQ

8 / 15
「人間と魔族」人形劇の終幕

 町長始め、兵士や冒険者、恐らくはこの町の実力者達を捕まえた。

 それによって、私の思いつきを実行に移す事が出来そうだと、身動ぎ一つ取れない人間達を眺めて思った。

 この人間達も別に悪人ではないだろう。

 町に潜む魔族を排除しようとするのは至極当然の事だし……。

 けれど、町長と、その横にいる黒い服の男は少し話が違うかもしれない。

 

「貴方が、私の子供達を、売ってた人?」

 

 黒服の男に近付いて、静かに訊ねる。

 周りの人達は一切の身動きが取れず、朝日が差し込む清涼で静寂な支配する空気の中、男の喉が鳴った。

 

「なんで喋らない?もう話せる筈」

 

 他の人間達は五月蝿いから完全に塞いでいるけど、この男は話せる。

 

「早く答えて欲しいな、間違ってその頭潰しそう」

 

ぎりぎりぎりぎり

 

「あがぁがががぁ!」

 

 頭を押さえる手を強めていくと、男は声をあげて苦しみ始める。

 

「そ、そうです!そうです!私が孤児院のガキ共を斡旋してましたぁ!」

 

「……そう」

 

 答えてくれたから締め付ける手を離してやる。

 男が顔をしかめるのを見つめながら、隣で顔を青くしている町長へと声をかける。

 

「町長?体を動かせるようにしてあげるから、町の人を昼までに出来るだけ集めて」

 

 そう言って、町長の体を押さえつける腕を減らす。

 突然体が自由になった町長はキョロキョロと周囲を見渡し、自分の体をまじまじと見つめ出した。

 ……何か良くない事を考えてるね。

 

「勘違いしないて欲しいんだけど」

 

きゅっ

 

「かっ……!」

 

 そんな町長の首を一瞬締め付けた。

 首を押さえて私を怯えた様子で見返す町長に、私は続ける。

 

「いつでも貴方なんてどうにでも出来る。

 変な事を考えてもいいし、何か企んでもいいけど……。

 その時に貴方の首が無事かどうかは保証しない」

 

「ひ、ひぃいいいい!」

 

 町長は顔色を蒼白にして、悲鳴をあげながらこの場を去って行った。

 ……さて、ちゃんと言うこと聞いてくれるといいけど。

 

「それまでは貴方達で少し練習させて貰う」

 

 くるりと振り返り、私の周りを取り囲んだままの人間達を眺める。

 その顔は一様に悪くて、可哀想だった。

 少しでも安心出来るように、私は笑顔を浮かべて、人間達に話しかけた。

 

「安心して欲しい。貴方達を殺す事はない。

 貴方達はただ使われてるだけの人間だったのでしょ?

 自分の意思で悪を成そうとしてる人間はいないでしょ?

 ならいいよ、この町ではこれから、人間は平穏に生きる事が出来るようになる」

 

 私は左手を広げて、満面の笑みを浮かべる。

 

「豊かではないかもしれないけど、平穏で、虐げられる事なく、静かに、生きていけるようになる。

 いい町にしよう?そういう町にしていこう?

 貴方達も、それに、協力、してね?」

 

 『不可視の多腕を操る魔法(トランツーリヒ)』の精度はまだまだ悪い。

 この先、この町を子供達が何の不自由なく、安心して生きていけるように。

 子供達の未来の為に。

 今まで犠牲にされた子供達の為に。

 ……お前達人間は、礎になれ。

 

バキボキポキポキバギバキバキバキ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、朝から雲ひとつない晴天だった、とある日の事だった。

 あまりいい噂のない町長が、朝から駆けずり回り、時計塔前の広場に集まるように、と叫び続けていた。

 顔色は悪く、何かに追い立てられるように、必死な形相だった。

 嫌々ながら、仕方なく、と言った表情で町の人々は広場へと集まる。

 

 昨晩、町の外れの孤児院で火事があったらしい、と現場を見に行った人達もいたが、昼になっても誰も帰ってきてはいなかった。

 あの孤児院は大層な美人が院長をしているから、下心全開で片付けの手伝いでもしてるんだろう。

 仲間の一人が火事場に向かった男は、そう言って笑っていた。

 

 そうして、お昼の鐘の音が鳴り響いた時、広場の高台、そこに町長の姿があった。

 首をしきりに気にしている様子で、そわそわと落ち着きがなかった。

 その隣には、見目麗しい女が、微笑みを浮かべて佇んでいた。

 薄紫色の長髪を靡かせ、女はゆっくりと広場に集まる人々の前へと躍り出る。

 ニコリと浮かべた笑みに見惚れる男が多数いるなか、何人かの人々はその笑顔に空虚な物を感じ、寒気を感じていた。

 

「こんにちは、人間の皆さん」

 

 髪が靡き、そのこめかみに生えた角が露となった。

 

「え、角……?」

 

「魔族……?」

 

「あれ、孤児院の院長さん?」

 

 ざわめく人々。

 口々に懐疑的な言葉を発する人々を表情を変えずに眺め、透明な手が音をたてた。

 

ッパン!

 

 広場に拍手の音が響き、思わず人々は口をつぐむ。

 

「私は、アリウム」

 

 静かに紡がれる魔族の女、アリウムの言葉に、自然と人々は耳を傾けていく。

 

「これからこの町に、新たなルールを追加する」

 

 広場に響く、ハキハキとした美しい声色に、小さなざわめきはあれど、人々は静かに聞き続ける。

 

 

 

「……ん?」

 

「どうした?」

 

「いや、なんか背中を触られたような……」

 

 

 

「ルールは単純。悪い事をしない事。

 人のをものを奪ったり、無為に傷付けたりしない……。

 そんな人として当たり前の事を守って、過ごして欲しい。

 私が求めるのはそれだけ……破った人、破ってた人は……」

 

 そこで言葉を切ると、アリウムは人々の上空を見上げる。

 釣られて人々が顔を上げ……そこに人が浮かんでいる事に気付いてしまった。

 

「人……?」

 

 黒い服に身を包んでいる男は顔面蒼白で目を見開き、アリウムを見下ろしている。

 まるで磔になっているかのように、両手を横に伸ばして足を揃えている男は、何故か身動ぎ一つ出来ていなかった。

 

「あっ……あの人」

 

 人々の中で何人かが、その男の正体に気付く。

 この町の裏で暴力によって支配していた組織、そのボス。

 人身売買を中心に、阿漕な商売をしているとの噂がいくつもたっていて、けして逆らってはいけない危険人物だった。

 そんな人物が、何かに異常な程に恐怖していた。

 

「彼は私の孤児院の子供達を売り払い、不幸にした。

 私利私欲の為に、私腹を肥やす為だけに。

 ……そんな悪人は、この町にはいらない」

 

ベキ!

 

 男の右腕が突然折れ曲がった。

 関節とは真逆に曲がった腕は痛々しく、人々はざわめき、一部は咄嗟に目を反らした。

 

「……!」

 

 痛みに脂汗を浮かべる男は、それでも何の言葉を発する事も出来ない。

 アリウムはただ微笑みを浮かべて、怯えの色を浮かべ始めた人々を見回す。

 

「これから、この町では悪意ある行動を慎むように、ね。さもなければ……ああなる」

 

ぎりぎりぎりぎり

 

バキ!

 

バキバキベキ!

 

「っ……!!!」

 

 男の首が少しずつ回っていく。

 その間も腕や足が折れ曲がり、骨が折れていくような音が響き続ける。

 まるで、子供が人形で遊ぶかのように、その手足を適当に折り曲げるかのように、ぐねぐねと曲がる腕や足。

 その姿はとても、人間とは思えない姿だった。

 

 人々のざわめきが強くなる。

 思わず目を背け、自分の、あるいは自らの子の目を塞ぎ、耳を塞ぐ。

 その場から逃げだそうとする者も出てくる。

 中には正義感が強いのか、やめろ!という言葉も聞こえてくる。

 だけど、人々は気付く、その場から離れようとする事、それだけは出来なくなっている事に。

 足に纏わりつくような、何かに握られているような、そんな感触を覚える。

 ……勘の良いものは顔色を蒼白に染めていた。

 

「っ!」

 

ゴキンッ!

 

「きゃぁあああ!」

 

 やがて悲鳴もなく、上空の男の首が一周回った。

 目を見開き、涙を流し続けていたその瞳が、ぐるりと白目を剥く。

 様々な方向に折れた四肢がぶらりと力なく垂れ下がり、その男が息絶えた事を伝えていた。

 

「わかって貰えた?悪人はこの町にいらない。

 私が求めるのは、善良な人達が平穏に、平和に暮らしていける町。

 誰も、悪意ある人間に食い潰される事なく……生きていける。

 そんな、当たり前な町になって欲しい……簡単な事、でしょ?」

 

 人々は静まり返った。

 当然だ、今目の前で平然と行われた殺人、それを行ったであろう人物が平和を語るのだ。

 この先自分達はどうなるのだろう、不安が頭を過り、言葉に詰まっていた。

 その時。

 

「アリウムちゃん……」

 

 そんな呟きが、静寂な広場に響いた。

 身動きが取れない人々の視線がその声を発した人物へと集まる。

 そこにいたのは、町でパン屋を営む夫婦だった。

 声を発したのは旦那のほうだが、二人とも心配そうに顔を歪め、アリウムを見つめていた。

 

「一体、君に何があったんだい?こんな事をするような子じゃないだろう……もしかして、子供達に何か」

 

 そのパン屋は、アリウムとは町に来てからずっと付き合いがあった。

 魔族だとは知らなかったが、子供達の為に奮闘する良い子だと思っていた。

 時にパンの耳を、時に代金以上のパンを忍ばせ、子供達を喜ばせていた。

 アリウムはそれによく感謝していた……だからこそ素直に言葉にする。

 そんな子供達の……末路を。

 

「子供達は皆、焼け死んだ」

 

 無表情のまま、淡々と告げる。

 

「私の目の前で苦しんで、焼け死んだ。私を求めた……町長の息子の手で」

 

 つぅ、とアリウムの瞳から滴が流れ……その滴を見たパン屋の旦那は息を飲んだ。

 ざわり、周囲が少しざわめいた。

 

「私なんかのせいで子供達が死んだ……。

 それに知ってた?孤児院を出た子供達も、売られていたんだって。

 私はずっと、子供達を地獄に送る手伝いをしてたんだ……。

 そんな私が、許せない……」

 

 そこまで言ってアリウムは一度言葉を切る。

 空を見上げて目を瞑り、滴がポタポタと垂れていく。

 

「そんな、そんなの、アリウムちゃんのせいじゃ……」

 

「それ以上に!」

 

「ひっ」

 

 カッと目を見開いたアリウムの瞳は、真っ赤に染まっていた。

 瞳から流れる涙……血の涙を流しながら、アリウムは叫ぶ。

 

「子供達を悪意を持って地獄に叩き落とした、こいつみたいな人間が!」

 

グシャ!

 

「こいつみたいな、こいつみたいな!」

 

グシャ!グシャ!

 

「悪人が平気な顔をして蔓延っている現実が、許せない!」

 

ぐちゃ!

 

「ひぃいいいぇえええ!」

 

 既に息絶えていた男……その死体がアリウムの感情のままに、ただの肉塊へと形を変えていった。

 不思議と血は飛び散らず、血の匂いもしないが、目の前で行われた余りにも残酷な行いに、何人もの人々が顔を青くし、嘔吐していた。

 ビチャリと町長の足元に転がった肉塊に、町長は悲鳴をあげて尻餅をついた。

 

「……子供達の未来の為に、私がこの町を管理する。二度と、子供達を犠牲にさせない。

 ……貴方達には昔から世話になった。貴方達のような善良な人間も、平穏に暮らせるようにする。

 これから貴方達は、安心して平穏な日々を過ごせばいい。

 悪に手を染めず、平和に、幸福に暮らしていけばいい。

 ……そうすれば、外敵、悪、この町の平和を脅かす存在を、私が排除する。

 貴方達、善良な人間は、ただそうやって生を謳歌して欲しい!」

 

 左手を広げ、目を見開いて、笑顔を浮かべて、血の涙を流し、血を吐くような苦しげな声で、アリウムは叫ぶ。

 

「私のせいで死んだ子供達の分まで!」

 

 その言葉に、その姿に、人々は思う。

 哀れみを、恐怖を、そして、誇り高さを。

 人々は気付けばその膝を折り、頭を下げていた。

 同情もあるだろう、殺人を容易く実行した事への怯えもあるだろう。

 けれど、彼女ならもしかしたら、本当に平和をもたらすのかもしれない。

 そう思ってしまった人々は、アリウムへと頭を垂れ、彼女に従う事を決めた。

 

 アリウムは満足そうに笑みを浮かべて、血の涙を拭うと、ふわりと浮かび上がった。

 人々はアリウムを見上げる。

 

「私は、貴方達をずっと見守っている。平和に、生きて」

 

 そのまま高く浮かび上がったアリウムは、時計塔の中へと姿を消す。

 その姿を見送った人々は、いつの間にか足が動くようになっていた事に気付き、思い思いに動き出した。

 

 懐疑的に思う者も多いが……一先ず容易く排除出来るような相手ではなさそうで、今は言われた通りにするしかない。

 現状維持……人々は日常へと戻っていく。

 そんな中、パン屋の夫婦は手を握りあい、時計塔を悲しげな表情で暫く見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、町はアリウムの、魔族の管理下に置かれた。

 アリウムは約束通り外敵と悪人を排除し続け……町には平和な日々が流れていた。

 月日は流れ……アリウムが町を支配下に置いて10年後。

 勇者ヒンメルが魔王を討伐して40年後……。

 

 勇者パーティの魔法使いフリーレンと、アリウムは邂逅を果たしていた。

 

 二人は言葉を交わし、互いに相容れない存在であると認識。

 鋭い視線を交わし、アリウムの操る複数の人間、それらがフリーレンへと襲い掛かってきていた。

 それぞれが武器を手に、フリーレンへと振り下ろしていた。

 

『人を守るような事してるって聞いたけど』

 

『……そう、私はこの町から悪人を排除し、善良な人間が生きていける町作りをしている』

 

『……魔族のお前が?大体、そんな事出来る訳ないでしょ』

 

『この町は私の町。貴女にとやかく言われる筋合いはない』

 

『魔族が統治ごっこ?笑わせないで、人の心のない獣が』

 

 フリーレンはその振り下ろしを軽快な動きでかわしていく。

 というより、それらの動きは何処かぎこちなく、そう早いものでも力強いものでもなかった。

 そんな攻撃、フリーレンにとって避ける事は容易く、体勢を整え、杖をアリウムへと向けた。

 

 その時、嫌な予感、そして妙な魔力を探知し、床を蹴った。

 さっきまでいた場所、そこに不自然な空気の揺らぎを感じ、フリーレンは眉をひそめる。

 

「……厄介だね」

 

 小さく呟かれた言葉には、あまり感情は乗っていなかった。

 

『……否定はしない。けど私はこれでも色々な経験を積んできた。

 人と関わり、交わり、子を成した事もある。

 私も一くくりにされるのは心外。町も平和だったでしょう?』

 

『どうせ何か企んでるんでしょ。それに、何?魔族が人と関わったくらいで人の心なんて芽生える筈がないよ。

 それに子を作ったのに今一人でいるって事は、どうせ何処かに捨て置いたんだろう?

 もしくは……殺しでもしたか。魔族なんてそんなものだものね』

 

『は、あ……?』

 

『人に深く関わったって事は、人を知ってしまったって事……人に潜む魔族は必ず大きな災いをもたらす。

 ……見過ごせないね、何を企んでるか知らないけど』

 

『……!貴女に何がわかる!?私の何が!

 知ったような口をきくな!人の心がないのはお前のほうだ!』

 

『ハッ、魔族に言われてもなんとも思わないよ。

 これ以上お前は生かしてはおけない。ここで必ず殺す』

 

 フリーレンが杖を向けると、アリウムは直ぐ様人間の影へと身を潜めた。

 フリーレンが人間を気にしている事を見抜いていたから。

 

 勇者パーティの話は聞いていた。

 勇者ヒンメルは非常にお人好しで、行く先々で人助けをしていたという。

 

 アリウムはその話を聞いて、勇者ヒンメルの影響をフリーレンも受けているのではないかと考えた。

 つまり、アリウムとの戦いにおいて、人間の命を奪わないように立ち回るのではないかと予想していた。

 事前のやり取りでは怪しかったが、直線上に人間がいるだけで攻撃の手を止めるのを見るに、その予想は的中していたようだ。

 

 アリウムが操っている人間は皆、悪意を持って町や町の住人を害そうとした経験のある者達だ。

 それらが死んでも、アリウムにとってはどうでも良い。

 だが、フリーレンにとっては違う。

 アリウムはその差を利用して上手く立ち回り、隙があれば『不可視の多腕を操る魔法(トランツーリヒ)』で直接フリーレンを捕えるつもりであった。

 

 だが、そこは歴戦の魔法使い、未だに手傷の一つも負わせられていなかった。

 見えない筈の腕の間をするするとすり抜けられる様子は、いっそ芸術的であった。

 

「流石……でも、私はまだ死ぬ訳にはいかない」

 

 アリウムがこの町を統治してたったの10年。

 治安は格段に良くなっていたこの町だが、統治者が突然消えればどうなるか……想像に難しくない。

 

『子を産み、育んだ事もないようなお前に、私の気持ちはわからない!

 愛する人を失う悲しみも、全てを失った絶望も、その原因への憤怒も、復讐し終えた虚無も!

 お前なんかに、お前なんかに!』

 

『魔族が一丁前に感情を語るなんてね……くだらない。

 人間ごっこは楽しかった?そうやって何人の人を殺した』

 

『ッ……!私はお前が嫌いだ。大嫌いだ!私の全てを無価値と断ずるお前が!

 殺してやる!殺してやるフリーレン!!!』

 

『奇遇だね、私もお前みたいな魔族は嫌いだよ』

 

 無数の腕と、無数の人間、襲いかかるスピードはドンドン早くなっていく。

 フリーレンは内心で少し、焦りを覚えた。

 先程まではまだまだ余裕だった、もう少し時間をかけて、隙を見て一気に殺すつもりだった。

 けれど、ここにきて、魔法の精度が突如上がり始めていた。

 

 そこで気付いてしまう、アリウムという魔族が実戦経験がほとんどない、という事に。

 特に魔法が顕著であり、何処かぎこちなかった人間の操作が、このたった数分の間に著しく上達している。

 一気にここで経験を積んでしまっている事に、フリーレンは知らず冷や汗を流した。

 

 アリウムとこのまま戦い続けても、アリウムの利となるだけ。

 ならば、とフリーレンは動き続けていた足を止め、杖をアリウムへと向ける。

 当然のように人間の影へと隠れるアリウム……それに対して、フリーレンは内心で覚悟を決めた。

 

 ここでこの魔族を必ず殺す事を。

 

 そして、諦めた。

 

 アリウムが操る人間達の命を。

 

 向けられた杖から展開される花のような魔法陣から瞬時に放たれた光線は、アリウムの前にいる人間を貫く軌道を描いていた。

 アリウムは目を見開くも、そのまま人間を盾に自身は離脱しようと、した。

 容赦のない女だ、そう内心で吐き捨てながら、人間が盾として機能しないならどう立ち回るか、と考えて。

 

「母さん……」

 

 今にも光線に貫かれそうになっている、人間の言葉に全て吹き飛んだ。

 こいつは悪人で、自分は生きなければいけなくて、殺される訳にはいかなくて。

 

 それでもアリウムは気付けば、その人間を庇ってその光線に貫かれていた。

 

「かふっ……」

 

 口から血が溢れ、痛みから『不可視の多腕を操る魔法(トランツーリヒ)』が解除される。

 操っていた人々が解放されていき……アリウムに庇われた人間は驚愕に目を丸くしていた。

 

ドッ、ドッ

 

 そこで即座にフリーレンから追撃がきて、両足が撃ち抜かれる。

 一瞬視線がフリーレンから離れ……その次に目を向けた時には、同じ魔法陣が目映い光を放っていた所、だった。

 逃げなきゃ、そう思うも手遅れだった。

 

「あ……」

 

「『魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)』」

 

ゴッ!

 

 避ける間もなく、まともに声をあげる事も出来ず、その一瞬でアリウムの身体のほとんどが消し飛ばされてしまった。

 その太い光線は時計塔の壁を撃ち抜き、虚空へと消えていく。

 そして、最早首だけとなったアリウムは、その開いてしまった壁から放り出され、下へと落ちて行った。

 

 塵と化しながら落下する姿。

 自らの終わりを察しながら、アリウムは最期に空を眺めた。

 

「きれいな……そら……」

 

 そう小さく呟いたアリウムは、既に首だけになってしまった体で静かに目を瞑る。

 じわじわと塵と化していくけれど、不思議と怖くはなかった。

 落下していくアリウムの首は、最期に微笑みを浮かべた。

 

「トドメだ」

 

 そこに、容赦なくフリーレンが再度放った光線が、首だけとなったアリウムを消し飛ばした。

 

 塵も残さず、何も残す事なく、アリウムは死んだ。

 

「……呆気ない……変な魔族だった」

 

 フリーレンはそう呟いて杖を消す。

 そして、周囲で蠢くアリウムが使っていた人々を気にする事なく、その場を後にした。

 

 フリーレンにとってアリウムは、所詮何かを企んでいる、ただの、魔族だった。

 成長性は評価したものの、それまで。

 必ず殺さなければならないという決意こそしたけれど、そこまで強い感情があった訳でもなかった。

 精々気に食わない、態度が気になる程度で、フリーレンにとっては数多いた魔族の一人、だった。

 

 そのまま、町を後にしたフリーレンは、その後何があったのかすら、把握する事なく、旅を再開した。

 

 何も変わる事なく、フリーレンは旅を続けていく。

 

 何も、変わらない。

 何も変えられなかった、人の心を持ち、壊れてしまった、魔族の話。

 

IFストーリー「人間と魔族」―終―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリウムせんせいのたんじょうび、おいわいする!」

 

「アリウム先生、誕生日知らないって言ってたからね。今日誕生日にしちゃうってのは、悪くないアイディアだと思うよ」

 

「うんー!いっぱいアリウムせんせいほめてあげる!」

 

「飾り付け飾り付け~」

 

「りょうりりょうりー!」

 

「いつものパン屋さんが特別にケーキ焼いてくれたよー!」

 

「わーいやったー!」

 

「つまみ食いしちゃ、だめだからねっ!」

 

「ふふふ……アリウム先生、喜んでくれるかな?皆、頑張ろうね!」

 

「「「「「はーい!」」」」」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。