悠郭   作:大正ロマン

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こんばんは
大正ロマンと申します
ちなみにこの話は江戸です。


プロローグ

ガラガラガラガラ。

 

街に夜の闇が十二分に溶け込み、無造作に並んだ無数の店の街灯や照明が辺りを照らし始める。

 

それに乗じて店の外格子が唐突に開かれると、中では見目麗しい着飾った女たちが鎮座していた。

年の瀬こそ偏りがあるものの、彼女らのその美貌に例外はない。

 

続け様に外へと繰り出されたのは妓夫の男たち。

元農民、遊女の子、はたまた没落した良家の子息息女まで、その境遇は様々である。

彼らは外での下準備を適当にこなすと、息つく間もなく縦横無尽に街を駆け巡り淡々と取り立てを執行する。

 

そうこうしているうちに夜も更けてくれば、彼ら妓夫たちの熱心な客引きによって街は徐々に活気で溢れてゆく。

 

 

 

 

 

その地は何処へ訪れようとも女、鉄、そして恐怖の匂いが蔓延していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の大通りの一角。

 

 

今宵、或る店の一番手を飾ったのは二人の男であった。

 

 

「へい、いらっしゃ……あー、…お客さん。ちょーっとこっち来て頂けます?」

 

「何故だ。…金ならここにたんまりとあるぞ。さあ、この店一番の遊女を出してくれ。」

「何をぼさっとしている、早くしろ!」

「はあ…。」

 

 

妓夫の鋭い観察眼が舐め回すかのように無法者を射抜く。

 

 

彼らの身なりはとても遊郭に来れるようなものではなかった。

おまけに鼻緒がほとんど擦り切れている下駄、生地の薄い服、やつれきっている顔などもはや役満であることまで見てとれる。

 

(没落士族…小姓と元お偉いさんってところか。家の財産をほとんど金に換えてどうせなら最後に一発…ってとこだろ。

まずいな。こういう奴らが大事な“商品”を傷つけてくんだ。やけくそで何されるか分かったもんじゃない。)

 

妓夫の苦い胸中などつゆしらず、彼らの睨み合いはしばらく続いた。

 

他愛のない会話を繰り広げ、なんとか打開策を考える妓夫。

だが何も思い浮かばないばかりか、その時間稼ぎすらも刻一刻と余裕がなくなっていた。

 

「…おい、いつまで待たせる気だ!?お前の阿呆らしい世間話は聞き飽きたぞ!」

「へえ、まあそうおっしゃらずに…。」

 

一見無関心なように見える遊女たちも、他の客の相手をする傍ら聞き耳を立てて見守っていた。

別の妓夫や楼主の婆は下手に刺激をしないようにと暖簾の向こうで手をこまねいているのが分かる。

 

 

(…致し方あるまい、客も増えてきたし武力行使だ。多少締め上げても多分お咎めないだろ。)

 

逡巡の後、彼は素早く拳を握ったがすぐにまたその握った手を元へと戻した。

 

(はあ!?何考えてんだあのババア!?)

 

薄情な笑みを浮かべながらのそれは楼御用達の合図”制止”によるものであった。

 

(いや、枕は防げって…そんなん無理に決まってんだろ!)

 

強欲な楼主は彼の様子からそれが伝わったことが分かるや否や、そそくさと奥へ逃げてゆく。

 

(あ!くっそあのババア…。いやそれどころじゃないな今は。…んあああああ「…ああでももう何も思いつかねえよ!」…ハッ!)

 

 

「…何?…何が思いつかないというのだ!?」

 

彼は恐怖と焦り、そして怒り故に思わず胸中を吐露してしまっていた。

だが気づいた時には後の祭りである。

 

まるで喜劇のような失態に爆笑している他の妓夫。そして頭を抱えた楼主や遊女の姿を横目に見ると彼は小さく舌打ちをした。頭を抱えたいのは自分の方だというのに、この理不尽な状況が好転する気配は一向に訪れる素振りも見せない。

 

 

 

「あ、…ええ、ええとそれはでございますね…」(…!やべえ…!)

「……もう良い!中へ入らせてもらうぞ。」

「ああ、ちょっと!………………クソがやってられるかよ、ふざけんな。」

 

決死の抵抗もままならず、彼の失言を皮切りに侍たちは行動を起こした。

彼らは妓夫の制止を意にも介すことなく、ずんずんと入り口へ近づく。

 

成す術もなく引き剥がされた妓夫はもはや自分の今後の処遇を鑑みず、臨戦態勢へと入っていた。

 

 

だが彼らの蛮行は一人の放浪者によって遮られることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

「おーおー。…随分騒がしくなったもんだねえここも。

ねえねえ、そこのお侍さん!そんなに不満なら私の宿に来てくれよ〜。

ほら、うちならそんな薄汚い妓夫もいないし、秘蔵の猫ちゃんたちも今は元気に盛ってるけど…一発どうだい?」

 

 

 

 

そこには侍たちに甘美な提案をする、洋装の男が佇んでいた。

どこかあどけなさを残したその顔は、中性的な顔立ちも相まって遊女と見紛う程の美貌を持っている。

 

だが、気配を気取らせず話しかけられた侍たちに容姿を見る余裕などあるわけもない。

しかも、よりにもよって一か八かの瀬戸際で、だ。

彼らは無意識に帯刀している小刀を両手に滑らせていた。

 

 

 

 

「な、何だいきなり!?」

「落ち着け。……それでは、まず金の内訳を話して頂こうか。“楼主様”?」

 

 

「あら、話が早い男は嫌いじゃなくてよ?こりゃあおもてなしの甲斐がありそうなお客さんだ…。」

「おっとおっと。私たちはあいにく侍だ。くれぐれも扱いは丁重に頼むぞ?」

 

 

(はぁ!?…もう何なんだよ今日は次から次へと!?そんで何気なしに今すごい貶された気がしたけど…でもすげー美人だから許す!!!あと何でもいいから早く助けてくれ〜!!!)

 

一方で、彼の心労の種は留まることを知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の地は駿府。後に廃藩置県によって静岡と呼ばれる場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして吉原に次ぐ、男たちの楽園であった。

 

 

 

 

 

 

 




侍の腰巾着がいい味だしてる。
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