呪いは廻り、神秘は透き通る   作:ソックス

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最終章は浩介が関わる最低限だけ書きます


第8章 あまねく奇跡と呪いの始発点
98 憎悪に狂い落ちる薔薇


 とあるゲマトリアの拠点。俺は今そこにいる。理由はベアトリーチェの処遇の件だ。念の為に彼女には見えない箇所にスタンバイしている。

 

 かつかつ、と音を立てて一人また一人と大人達が会議場に入っていく。椅子はなく赤く発光していかにも目に悪そうで趣味の悪い部屋だ。各メンバーは円形のテーブルの自分の所定の位置につく。

 

 黒服、マエストロ、デカルコマニー、ゴルコンダ、ベアトリーチェ……錚々たる顔ぶれだ。どいつもこいつもきな臭い。

 

「マダム、お久しぶりです。お元気でしたか?」

「貴様……!よくもまあそんなことをほざいていられますね!」

 

 所定の位置について最初に言葉を発したのは黒服だった。お元気でしたか?、とは煽りと受け取られてもおかしくない。まあ、俺を始末するために巻き添えにされたのだからこの程度で済むのはかなり優しい。

 ベアトリーチェは怒りを露わにしつつも、決して手を出そうとはしなかった。俺につけられた火傷痕は痛々しく彼女の凋落ぶりを表しているかのようだ。

 

「まあまあマダム。早く議題に取り掛かりましょう」

「そうだ。ここに小競り合いをしに来たのではないだろう?」

 

 ゴルコンダとマエストロは火の如く荒ぶるベアトリーチェを宥めようとしたのか、会議の進行を急かす。揃って表情筋の無い人達だが雰囲気は明らかに塩対応だ。

 

「では、始めましょうか」

 

 これ以上の小競り合いは無用。そう判断したのか黒服はそうそうに会議を進行し始める。

 

「少々前の事ですが"無名の司祭"の遺物が観測されました」

 

 無名の司祭の遺物……アリスさんとケイさんのことか?それとも二人が出す予定の"何か"のことか?時期的にはこの二択で合ってるはず。

 

「不勉強で申し訳ないのですが……無名の司祭とは具体的に何を意味するのでしょうか? 私はベアトリーチェが所有するロイヤルブラッドを保護した技術、古聖堂を襲った巡航ミサイル──これらが無名の司祭の技術によるものだと解釈しております」

 

 こいつら敵側と思われる奴らの技術をパクってるのか。まあ大事な事ではあるけども。その使い方の例が極端すぎやしないか。

 ロイヤルブラッドを保護つまりアリウスの秤さんを守る何かしらの技術はまだいい。人命を守っているからな。ただし巡航ミサイル、テメーはダメだ。

 

「そうだな……彼等は端的に言うならキヴォトス以前に存在していた"この世界の主"のことだ」

 

 なんかマエストロがサラッとやばいこと言ってる。この感じだと太古の時代に栄えた勢力ということだろうか?それにキヴォトス以前、という表現も気になる。この言い方だと今のこの世界をキヴォトスと言うようになった、という解釈が産まれる。

 

「"名もなき神"とそれを崇拝する無名の司祭──、彼等はキヴォトスの神秘の下に堆積し、痕跡だけが残るはずだった存在とも言えます」

 

 更に補足するように黒服の発言が出るがこれもまた気になるものだ。マエストロの言ったことと合わせて推測すれば、司祭と神秘で生存競争のようなものがあって負けたのが司祭ということにならないか?

 

「名もなき神……それは大地、海、天災といった所謂神秘や恐怖とでも申しましょうか。彼らは自然を模った形で顕現するとされております。尤も今はそれと比較すれば不出来で悪辣なものが蔓延っていますが……これは浩介さんにお任せすることにしましょう」

 

 名もなき神……まるで俺の世界でもあった人の信仰や畏れから生まれた神の概念に近い。確かにそういうのと比較したら呪霊は弱い方だろう。あくまで比較して、だけども。

 

「呪霊はライブラリーオブロアと似通った性質ですが、都市伝説を元に新たな崇高になったロアとは違ってあくまで普遍的恐怖の集合体のようなものと認識しております。 人々の負の感情がある限り無限に出てきてしまうので我々としても困ったものです」

「クク、ゴルコンダ……それを解消しようとすればそれこそ箱を使ってリテクストしなくては。神秘があれば恐怖もあります。解消のためにそれらからの脱却あるいは浩介さんのように最適化もとい術師化しなくてはなりませんので」

 

 なんかすごい専門用語の飛び交いだな。ライブラリーオブロア、箱によるリテクスト?前者はともかく後者はなんだ。馬鹿正直に解釈したら世界改変になるんだが。あくまで人による怨嗟を相手にしてるだけの俺からすれば雲の上どころか成層圏すら飛び越えるやべー山じゃん。

 

「おっと話がそれましたね。失礼」

 

 しかしまあ、司祭達は巡航ミサイルや名もなき神々の王女なる存在まで作ってるあたり、今のヘイロー持ちとは友好的ではなかったんだな。殺意みっしりだし、夏油さんもびっくりするレベルだろ。

 

「……今回はそんなレベルではありません。何しろ観測されたのが"箱舟"です。それも一瞬でしたが」

 

 ゴルコンダが黒服が話題を切ったのを見て本題の方へさり気なく戻す。箱舟……多分アリスさんとケイさんが出そうとしたものだろう。司祭の遺物である二人によって危うく顕現するはずだった箱舟と呼ばれるもの。こいつらが騒ぐってことはあの戦いは本当にヤバかったらしい。俺の実力で止めるのに貢献出来たのは物凄い戦果のようだ。

 

「観測だと?箱舟は実在するのか?」

「興味深い意見ですね。私は箱舟は実際に存在するものと思っていたのですがどうやらそうではないようです。カイザーに探らせていましたが……全て無駄骨でした」

 

 実在しない?概念のようなものか?カイザーに探らせた……アビドス砂漠の事か?

 俺はゲマトリアの正式なメンバーにはならないと言った以上、大事なことを黒服は話すことはない。必要なこと以外は茶々を入れ合うぐらいだ。

 

「消えゆくはずの司祭の兵、シャーレの出現、キヴォトス最大の神秘の確保失敗、アリウス領の剥奪、デカグラマトンの死……何より箱舟の観測。既に我々の計画は大きく逸脱している」

 

 デカグラマトンってやつ以外は心当たりがあるな。司祭の兵は状況から見てヴェリタスと一緒に呪いの類なのか確認したあのロボットのことだろう。他は直接関わっているから言うまでもない。

 

「それだけではない──"色彩"がここを発見してしまった。ベアトリーチェ、貴様が行った儀式のせいでな。やってくれたな」

 

 マエストロは烈火の如く怒りを燃やしながらベアトリーチェを糾弾する。前々から思ってたけどあのババアを嫌いすぎだろ。俺もだけどさ。

 

「あれは力を利用するためのもの。マダムも決して色彩を呼び寄せるつもりはなかったでしょう」

「そういうこった!」

 

 ゴルコンダとデカルコマニーはわざとではないだろうと一応弁護し始める。いやあ……しかし、この後のシナリオを思うと一番狸野郎なのはこいつかもしれない。

 

「ああ、そうだとも!そんな低俗なことのためにアレを──!」

「口の利き方には気をつけなさい、木偶」

 

 宥められて尚、ヒートアップするマエストロを鎮めたのは黒服でもなくベアトリーチェだった。それもドン引きするレベルで直球の悪口だ。あまりの言葉に絶句したのかマエストロも沈黙する。

 

「芸術家は己の作品は偉大である事を願うのに、他者の願望は見下すのですね。嗚呼──そのような傲慢さこそが本質でしょうか?」

「マダム、落ち着いて──」

「ゴルコンダ、あなたもです。その虚像と非在の暗喩、絵画なんかに喋らせていることで表現しているとでも?私から見れば、サーカスにいる道化師と何ら変わらないように見えるのですが」

 

 マジか、こいつ。物凄い速度で同僚に喧嘩を売ってやがる。デカルコマニーも怒ったのかいつものようにそういうこった、と言うが声が大きく荒々しい。

 

「皆さん、大人になりましょう。マダムも意図してやったわけではないのです。まだ色彩が発見したとは限りません。あくまでアレは夢の中での出来事ですので」

「ええ。全てはシャーレの先生が現れてから起こった事。あの存在が全ての元凶であることは皆さんもよくご存知でしょう?やはりあの者は消すべきです。他にもイレギュラーになり得る呪術師もです」

 

 黒服が言いたいことはつまり色彩の対抗策を練ろうって事だと俺でも察したところで、ベアトリーチェの発言にドン引きすることになった。

 待ってくれ、今の流れでなんで先生が原因になるんだ?俺に至っては私怨100%じゃん。

 あまりにもお粗末な発言だったからか、残りのメンバーは白けた目で彼女を見ていた。俺、だんだんコイツらの表情というものがわかってきたような気がする。こればかりは同情するよ。

 

「マダム、ここが学園都市である以上、我々がどうあがいても陵駕されるのは間違いないのです。それを証明したのはマダム、あなたです」

 

 ゴルコンダは呆れたのか淡々としていた。気になるというかかなり爆弾発言のようなものまで言っている。

 先生は役職や能力があるからこそ脅威なのではなかったのか?先生という概念がそもそも強いと言っているようにもみえる。上位の権限そのものだということだろうか。

 

「……チッ。ええ、分かりました。皆さんに解をお見せしましょう。無名の司祭、シャーレ、箱舟の全てを一度に解決することが出来る究極の解を──」

「ふむ……?」

 

 なんかもう嫌な予感しかしない。それら三つ全てを解決するなんてちゃぶ台返し以外無いと思うんだけど。

 

「色彩は既にこちらを発見しています。正確には私が教えました。今向かっている最中です」

「「「!?」」」

 

 

 ……は?……は?

 

 

「……残念です。どうぞ入ってきてください、浩介さん」

 

 黒服は心底残念そうにしており、どこか悲しげだった。嫌ってはいたかもしれないが同僚としては評価していたのだろう。実際に奴等の探究の中で最も大事な神秘の確保もアリウスの領地を支配する事で賄えていた。その手腕と意欲を高く買っていたのかもしれない。

 だが、全ては過去。今のベアトリーチェは黒服が思っていたような人物では無い。そうなってしまった人物にどう対処するのか。その答えを俺は知っている。

 かつての夏油さんのように処理されるだろう。大きく違う点があるとすれば──。

 

「貴様!そうか、私を最初から排除するつもりで……!」

 

 奴の力は夏油さんの足元にも及ばないだろうという事。

 

 

 

「……よお、クソババア。今日は火葬場のご予約が入ってるんだ。誰のだろうな?」

「……このクソガキが!!ええ、いいでしょう!その予約は貴様の名前に書き換えてやりますとも!!」




これ自分がスレ民だったらどんな反応してるんでしょうね
自分は3周年からやったので2周年の当時の反応とかも気になります

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