ある意味切り替わりとして丁度いい話かもしれませんね。
「黒服!」
俺は突き刺さった建材を引き抜き、反転術式で治しながら撃たれた黒服達の元へ向かう。一昔前の自分ならあんな奴らが撃たれてるのを見たら可哀想には思うことはあっても助けようとはしない。なんでこいつらに情が湧くんだか。
「……こんな奴らを庇う為に立つなんてどうかしてる。それもそんな大怪我で」
「ぜぇ……はぁ……そうだな。その通りだ。自分でもどうかしてると思ってるよ」
状況は絶望的。まず勝つには領域を使って焼き殺す以外に方法はない。しかし今回はその手を簡単に使えない。ここは逃げるが勝ちか。
「それに再生……いや反転術式もそう何度も使えないでしょ」
「!!」
なんで"反転術式"って単語を知っているんだ?俺はこの単語を黒服達以外に使った覚えはない。先生にうっかり言ったのだろうか。だとしてもかなり細い線だ。
それにさっきから砂狼さんは的確にこちらの動きに対処している。ぶっちゃけ小鳥遊さんより強いんじゃないか、そう思えるほどの圧を感じる。
「……黒服、そこの倒れた二人は助かりそうか?」
「デカルコマニーは不死身なので最悪何とかなるでしょう。問題はマエストロです。処置を施すためにも確実に運び出したいですね……うぐっ」
疑問は尽きないがまずは黒服達の安全を優先しよう。正直に言うとあまりにも人からかけ離れた見た目をしている連中なので生きているのかどうかの判断も難しい。黒服に聞けばデカルコマニーは不死身だから最悪問題なし、マエストロは処置が必要……と。いや、なんかサラッと不死身とか聞こえたけど気のせいか?
「あなたの弱点は反転術式を使っている時に呪力で身体を強化するのが少し甘くなるうえ術式や結界術の併用は不可能になること。あなたへの最適解は反転術式を使わせてその隙を叩く。呪力の消耗だって術式を使うより激しいはず」
そう言って砂狼さんは自分のARとドローンをこちらに向ける。俺に反撃の糸口を掴ませる気はないらしい。まあ言ってることは正解だ。だけど……。
「そう簡単にいくかな?」
俺は砂狼さんに向かって走りながら拳銃を発砲する。足から炎を出して移動を補助しつつ、連続の焔使用で圧をかける。砂狼さんの狙いだとまず俺に反転術式を使わせるほどのダメージを与えるところから始まる。
術式だって遠慮なく使わせてもらう。砂狼さんから見て炎で俺が見えなくなるように動かせば煙幕を張っているようなものだ。俺の癖を完璧に見抜きでもしないと対処は不可能だ。
「……"焔"に火炎放射、そして自在に動く炎。確かにこれをやられたら並の相手だと黒焦げ。でもね……」
そう、俺の癖を完璧に見抜けば──、
「こっち」
「げ!?」
カウンターは容易い。
ズガガガガガっ!!
「うぐ……がああああっ!!!」
「!?この……治しなさいよっ」
「治さねえよ!!」
それはわかってた。これは必要経費として受け取る。代わりにもっと痛いものをお前に食らわせてやるよ。ありったけの呪力を拳に込めた一撃をな。
打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した瞬間空間は歪み──、
──呪力は黒く光る!
バキィィィッ!!!
「黒閃っ!!」
黒閃をくらった砂狼さんは大きく吹き飛ぶ。流石にダメージがデカいのか口から血を流している。ようやく有効打を与えられた。
このまま仕留めにいきたいが、今は黒服達の安全を優先しよう。手持ち全ての爆弾を取り出して彼女に向けて放り投げた後に黒服達に向かって術式を使って飛んでいく。
「ちっ」
「お互い生きていたらまた会おうぜ」
俺の狙いを悟った砂狼さんは舌打ちする。この様子だと俺が黒服達を連れて飛ぶ方が早いようだ。あのワームホールみたいなのも連発出来ないようだ。
そして数秒後に爆発が起こり、焼けた瓦礫が砂狼さんを襲う。ムカつくぐらい綺麗に回避しているが俺達を追う余裕は無いらしい。これなら逃げ切れる。
「がはっ……!」
反転術式で治す分の呪力は残さないといけないな、こりゃあ。
☆☆☆☆☆☆☆
「浩介さん、そちらはどうです?」
「あぁ〜……しんど」
「貴方はもう少し痛がったりした方がいいですよ。痛みを感じるのは生物の本能ですから」
「いや、マジで痛いんだって。滅茶苦茶歯を食いしばってるだけだよ」
何とか逃げ出した俺達は人気のない廃墟群で各々治療していた。俺の反転術式アウトプットはどうやらデカルコマニーとマエストロには必要ないらしい。おかげで俺は自分の治療と黒服への治療にだけ呪力を使える。
それにしてもマエストロの治療ってこれ……人形の組み立てじゃん。あの場から破損して飛び散ったパーツまで回収して飛ぶことはできなかったから少々不恰好な組み立てになっている。あいつは一体どういう生命なんだよ。
「あれ?そういえばデカルコマニーは不死身らしいが、ゴルコンダは無事なのか?」
ここでふと気になったのは絵画で後ろ向きになっているゴルコンダ。デカルコマニーは不死身と言ったが彼もそうなのだろうか。もしこれで彼だけいなくなったのなら少し寂しいものだ。
ムクリ。
「あ、起きた」
そんな心配はよそにデカルコマニーが立ち上がる。問題はゴルコンダだ。彼が無事なのかどうかだ。幸い、絵画に大きな傷はない。黒く塗りつぶされているのが不安ではあるが。……でもヘイロー破壊爆弾を作るような奴だしなあ。
起き上がったデカルコマニーは絵画をいつものように腹のあたりに据えるのではなく、人の顔がある部分に掲げる。まるでこれが自分の顔だと言わんばかりだ。
「はぁ……よりにもよって貴方ですか……」
それを見た黒服はげんなりとした表情を見せる。まるで嫌いな誰かに出会ったかのような様子だ。ゴルコンダにする表情ではない。別人に対してのものだ。
「貴様か……我々以上の異物は」
「お前……何者だ?」
明らかにゴルコンダじゃない。どこか威圧感すらある。絵画も後ろ向きではなく叫んでいるように見える。ここまで揃えば別人であることは明白だ。
「貴様のような異物は物語を破綻させ、つまらぬハッピーエンドを量産するに過ぎないというのに」
「なあ、こいつ喧嘩売ってる?燃やしていい?」
「デカルコマニーが可哀想なのでやめてください」
なんかわけわからんことを言ってくるな。喧嘩を売ってるのは確かだ。なんか絵画の顔も怖いし。
ただでさえ今は状況が悪いのに、身内に攻撃的な奴が出るのはごめん被りたい。下手するとベアトリーチェの方がマシだ。あいつは本当にまずいと思ったら手を貸してくれそう。いや、でも色彩にここを売ったのが発端だからねえか。
「己が臓腑に呪詛を撒き散らし、呪霊という排泄物の処理をする。結末は悲劇的だというのに何故そこまでする?いつまで続けつもりなのだ?」
「答えるのはいいが……まずは名前を教えてくれ。ゴルコンダじゃねえんだろ?」
「ゴルコンダはもう居ない。私はフランシスだ。デカルコマニーと共に新たにシャーレの先生を見守る者。答えろ、半端な先生の生徒よ」
なんか呪霊を狩るのをいつまで続けるつもりだ、なんて聞いてきてるけど答えは決まりきってるだろ。
「……俺は悔いのない死は許されず無惨な最期を迎えるだろう。ハッピーエンドの量産?馬鹿言うな。呪術師の最期はバッドエンドだ、この野郎。わかったらどっか行ってろ。何もする気がないなら邪魔だ。ゴルコンダに代われるならとっとと代われ」
俺は正直イラッと来たのでつい厳しい言葉を投げかける。どうせゲマトリアの連中は全員糞だ。ならばマシなやつに代わって欲しい。
「……ジャンルの変わった物語もここまで来ると醜悪なものだ。まもなく学園の物語は終わりを迎える。お前がどうするのか見させてもらう」
俺の回答を聞けたことに満足したのか捨て台詞を残して去っていく。ゲマトリアは今日だけでベアトリーチェとゴルコンダの2名を失う結果となった。
これはもう組織として成り立たないだろう。潰れて欲しい組織だったというのにいざそうなるのを見るとどこか寂しさを感じる。いい奴らだとは毛ほども思えないのにな。
少し哀愁を感じていたところに黒服がよろよろしながらこちらに近づいてきた。マエストロの組み立ては最低限終わらせたようである。
「浩介さん、ゲマトリアは今回の戦いで力にはなれません。もしかしたらこれが最期かもしれないのでこれを受け取ってください」
「これは……カプセル状のもの2つとUSB?カプセルはなんか外せるし中に針があるな。自分に刺すのか?」
「ええ、身体に後遺症が残るとかはありません。力は大きく消耗する可能性はありますがね。本当は先生から生徒に使わせたかったのですが……あなたでも動かせるでしょう」
なんかヤバそうなのを押し付けて来ているが、力は確かだろう。この場面で渡すのは役に立つかもしれないからか最期の時だと思ったからか。ここはありがたく受け取ることにした。
「……ゲマトリアは一時解散とします。いずれ再集結する時にゲマトリアに入らないか聞かせていただきましょう」
「フ……やだよ。次に会う時はお互いの喉元に刃を突きつけることになってるさ。だからさ……」
「それまで死ぬんじゃねえぞ」
「そっくりそのまま返させていただきます」
このやり取りを最後に俺はゲヘナの方向へと走る。今はチナツ達がどうなっているのか気がかりだ。だから暫く悪友とは別れを告げる。これが最後であることを心から願うばかりだ。
先生方の反応
『これ絶対黒服と浩介の対立くるだろ』
『黒服が渡したものってなんなんだ?』
『お中元』
『↑ピータン詰めお中元か。マニアックだな』
『ねえよwww』
更新時間はいつが良いでしょうか?
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