呪いは廻り、神秘は透き通る   作:ソックス

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ゲヘナ編……こいつあ……やべえぞ
書きたい


103 忘れるな

「何の用かしら?暴れるなら……私が相手をしてあげる」

「おぉ、そんな物騒なもの向けられたら怖いなあ」

「どの口が言ってるのかしら」

 

 委員長と野鎌が睨み合う。相手は特級呪霊。先程の呪霊とは比べ物にならない強さをもっている。私では手も足も出ないだろう。

 

「いや、本当に俺はお前らとは本気でやり合うつもりは無かったのよ。ちょっくらそこの眼鏡っ娘人質に浩介と呪い合いがしたかっただけなんだ」

「滅茶苦茶やる気満々じゃないですか……」

 

 狙いは私?浩介相手の人質に使うつもりだったらしい。何が本気でやり合うつもりはないだ。いくらなんでも私達を下に見過ぎている。

 

「そう……どうやら蜂の巣になりたいようね」

「まあ……お前とやり合うのも楽しそうだ。でも俺の本命は彼一人なんだよね〜……。俺の領域をスカしたクソ術師はどこだよ」

「それを私が話すと思うのかしら?」

「それもそうだ。じゃあ……っ!!」

 

 一通り会話を終えると二人は互いの距離を押し付けるために走る。ヒナ委員長は距離を多めに取るのに対して、野鎌は接近戦を意識して突進。野鎌の術式は自身をあらゆる刃物に変える上それらを飛ばしてくる。ヒナ委員長のデストロイヤーなら撃ち落とすのも容易だ。だからヒナ委員長の選択は正しい。

 

「あはっ!意味ないよ!」

「っ!」

 

 野鎌は腕を鎌に変形させて大きく振り抜く。明らかに間合いが達していないのに、だ。不自然な動きをしているのを見てヒナ委員長は更に距離を取る。

 

「ちっ!」

「あ〜っ!惜しい!!」

「斬撃を……飛ばした!?」

 

 ヒナ委員長が更に距離を取ったのは正解だった。野鎌が振った鎌からカマイタチのようなものが飛んでいた。斬撃は委員長の髪を少し切って通り過ぎたら、ビルに綺麗な切り込みを入れる。鉄筋の建物すらスパッと切る斬撃を飛ばすなんて恐ろしいにも程がある。

 

「確かに前回も飛ぶ斬撃はしてきたわね。でも、避けれない速度じゃない」

「言うじゃないか!白モップ!」

「……」

 

 ヒナ委員長は避けれない速度じゃないと言ってはいるがそれを言えるのはあの人ぐらいだ。私は客観的な視点で居られるから何とか見えるだけで、対面してアレを避けろと言われたら無理だと即答する。イオリだって無理ではないだろうか。

 それにしても白モップって言われた委員長は明らかに不機嫌そうだ。ちょっと怖い。それに比例するかのように委員長の愛銃はリロードしながら妖しく光る。力を蓄えているかのように。

 

「あなたの戦い方は一度見た。前は色んなところから斬撃が飛んできて避けるので精一杯だったけど今なら……潰せる」

 

 ヒナ委員長は大抵の相手ならスペックの高さで上から抑えつけられる。だが近い実力の持ち主を相手にしているのを見るとあの人の強みというものが見えてくる。

 そもそもマシンガンはその連射速度と射程の長さ故に制圧力が高い。ヒナ委員長の強力な神秘がそれに乗せられたら?答えは地獄の出来上がりだ。

 

「ひひっ!いいねえ!ハラハラするっ!」

 

 野鎌はヒナ委員長の連射を走って躱す。建物の壁をまるで地面そのもののように走り抜ける姿は驚きを隠せない。物理的に可能なのか。

 ヒナ委員長はそれを追いかける。マシンガンはただでさえ取り回しが難しいというのにそれを感じさせない。少しでも野鎌が走る速度を緩めたら蜂の巣になるだろう。

 

 寧ろ危ないのは……私だ。

 

「くっ!」

「っ!チナツ!」

「構わないでください!ヒナ委員長!私はすぐにこの場を離れます!」

 

 ヒナ委員長の弾幕が通った後は建物が崩壊し始める。ヒナ委員長が全力で戦えばこうなるのは聞いていた。これは戦いが始まるのを予見できず見入ってしまった私のミスだ。

 

「委員長ちゃ〜ん!よそ見はいけないなあ!?」

 

 弾幕が一瞬止まったのを野鎌は見逃さない。ある程度建物の壁を走り抜けた後にジャンプしてこちらにクルリと姿勢を変える。そして……。

 

 

 

 空中を蹴ってヒナ委員長に迫る。

 

 

 

 

「なっ!?」

「っ!」

 

 明らかに奴の術式では説明出来ない挙動で接近される。野鎌の術式は刃物形成、切断関連のはずだ。空間に干渉出来るようなものではない。

 

「イィィィィィヤアァァァァァァッハアァァァァァァァッ!!!」

 

 完全に自分の間合いに入った野鎌は叫びながら腕を鎌にして振るう。その切れ味は恐ろしく刃が通った地面や建物は豆腐のようにスパンと切れる。だが恐ろしいといっても切れているのは地面や建物。

 

「……っ!」

 

 ヒナ委員長は全て躱している。それも長すぎる銃を手放すことも絡ませることもなくだ。

 

「マジか!?こいつリロードもしてやがる!凄え!まるで手足のように扱うじゃん!」

 

 野鎌はヒナ委員長が避けながらもリロードしていることに気づいて手放しで賞賛していた。その顔は本当に楽しそうにしており、それが却って恐ろしい。

 この戦いはあまりにも次元が違う。少しでも緩んだら負けに繋がりかねない刹那のやり取りをこの二人は難なくこなしている。

 

「離れなさい!」

 

 リロードを終えたヒナ委員長は野鎌の大振りを避けて、その勢いで回転しながら銃身を奴の顔に叩きつける。確かに棒として使えそうではあるが実戦でそれをやるなんて初めて見る。

 打撃としてはあまりダメージになっていないようだが予想外の攻撃で面食らって少しだけ硬直する。その隙にヒナ委員長はバックステップで距離を取る。

 

 しかし、片手でお腹を抑えながら後退しており通った道に血痕が残る。

 

「血……!?……ヒナ委員長!?」

「大丈夫、深くはない。ここで仕留める!」

「カウンターのつもりで撃ったけど……逃げられたか」

 

 あの一連のやり取りの中で野鎌が攻撃を喰らった際に身体の一部を鋭く変形させて腹部に刺したようだ。バックステップが遅ければ串刺しになっていたかもしれない。

 

 今のやり取りで距離を詰められる危険を再認識したのかヒナ委員長は一定の距離を保ちながら弾幕を張り続ける。一方的に高い火力を押し付け続ける。普段何気なくしていることが今回ばかりは違って見える。その強みがより鮮明に。

 

「仕方……ないか♡」

 

 弾幕に捉われダメージを負い続けている野鎌はゆっくりと両手を胸の前に持っていく。印を結んでニタリと笑いながらこちらを見ている。委員長の攻撃でダメージを受けているというのにそれを意にも介さない。

 

 あれはどう見ても領域展開の掌印。ヒナ委員長の目付きはより険しく、それに比例して攻撃も激しくなる。まだ弾倉に弾は残っている。それら全てを今叩き込んで何としてもここで仕留めにかかる腹づもりだろう。

 

「あはっ!領ぉ域っ!てんか……」

 

 

 ズガン!!ズガン!!

 

 

 それでも野鎌は無理矢理領域展開しようとするが、直前で掌印が撃ち抜かれる。形が崩れたため展開できずに失敗に終わる。それに合わせるように委員長の弾幕も途切れる。

 

「ハァ……ハァ……」

「っ!今の内に!」

 

 恐ろしい事が起こらない事に安堵する自分がいた。きっとそれはヒナ委員長も同じだろうが、違うのは闘志の有無だろう。このひと時の間に私を支配していたのは恐怖のみだ。ヒナ委員長はちゃっかりリロードしている。

 

 

「なんだいるじゃないか。……それにしても……萎んだ?」

「そうか?最近身体を絞ってんだ。成果が出たなら嬉しいぜ」

 

 野鎌の手を撃ち抜いたのは浩介だった。廃墟の屋上に立っており、彼の銃はいまだに硝煙を漂わせている。目付きは悪く、どこか狂気すら感じるのは気のせいだろうか。

 

「うーん……」

 

 野鎌は私達を順番に見ながら何か考えに耽っていた。困り顔になっており、彼の思惑からズレていることだけはよくわかる。浩介とヒナ委員長を同時に相手取ることを渋っているようだ。

 

「やめだ。解散解散」

 

 あくまで目的は浩介との一騎打ちなのだろう。今は邪魔者が多過ぎると判断したと見るべきか。

 

「火野浩介、お前とはこのキヴォトスが終焉を迎えた後にやろう。最後に立つのは神秘でも人間でもない。呪いだってことを証明してやる」

「そいつは出来ない相談だ」

「あ?」

「何故ならキヴォトスは終焉を迎えることはない。お前はひと時の平和を脅かすだけだ。そしてその脅威も一過性でしかない」

 

 浩介、煽らないで。大人しくアイツを撤退させて。今凄くまずい状況だから黙って!

 浩介が危ない橋をタップダンスしながら渡ろうとしてるのを見て恐怖よりも怒りが湧いてきた。この天然煽りストが!

 

「ぷっ!あっはっはっはっ!まさか……アレに勝つつもりか?お前?」

 

 野鎌は浩介が言った台詞がよっぽど可笑しかったのか爆笑しており、指を上に差しながら何かしらの脅威を"アレ"と呼称して勝つつもりかと問いかける。一体何の話をしているのだろうか。

 

「勝つさ」

 

 浩介は野鎌が何を指しているのかわかっているらしい。今度はキリッとしており、狂気よりも何か覚悟しているのを感じ取れた。

 

「お前とは俺もサシでやりたいしな。シャーレの先生も友人も頼らずに正真正銘の真剣勝負を、な」

「いいねえ!なら俺と縛りを結んでもらおうか。"この場を引き上げる代わりに、次に俺達と勝負する時に火野浩介は誰にも助けを求めない"ってな」

「構わん。早くしろ」

 

 気付けば何やら交渉を始めていた。こんな口約束で場を納めるなんてどういうことだろうか。どう見ても浩介が簡単に破れるようにしか見えない。それともこのやり取り自体に何か意味があるのか。

 

「なら……おっ!いたいた!よいしょ……鉄鼠に伝えてくれるかな?皆んなを撤退させるってさ。わかった?じゃあ、行っておいで」

 

 浩介が了承したからか交渉はすぐに終わり、奴は近くを走っていた鼠を両手で拾い上げて話しかける。命令を終えたらそっと鼠を降ろしてどこかに立ち去るのを見守っていた。

 

「それじゃあ、また会おう。火野浩介。今度は荒野となったキヴォトスで呪い合おうじゃないか。そして忘れるな─────

 

 

 

 

 

 

 

 ────呪いは巡り廻ってくることを!!!」

 

 

 言いたい事を言い終えた野鎌は嫌な笑みを浮かべながら闇に消えていく。去った後も奴の不快な笑い声が響くのであった。




ぶっちゃけ生徒と呪霊を戦わせる方が書いてて楽しい

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