早く来ないかな〜
炎の噴射による高速移動で奴がいる場所に向かう。進めば進むほど前にも感じた濃い呪力が嫌でも俺を刺激する。
目標のポイントに辿り着けば、奴は仁王立ちで俺を待つかのように佇んでいた。向こうも俺を狙っているらしい。いやなモテ方だ。
「おー、いたいた。久しぶりって言えばいいのかな?楼閣」
着陸し確認も込めて言葉を投げかける。こいつは本当に俺が知る楼閣なのかどうか。複製といっても力まで完璧に再現できているのか。不完全であるなら嬉しいのだが。
「……」
「だんまりかよ。前は馬鹿みてえに饒舌だったろ。それとも一度負けてショックでも受けたか?」
楼閣はこちらを見るだけで何も言葉を発しない。力は確かに感じるというのに意志というものはまるで感じられない。試しに煽ってみるが……。
「……」
それでも無言を貫く。それどころか呪力の起こりを激しくする。それも指令を下され冷徹に従うロボットのように淡々とだ。
「来るっ!」
剣もなく銃だけなので射程距離ギリギリを保つ。先手を取られまいと焔を撃ち込むが、砂が割り込み威力は減衰される。
楼閣は両手を地面につけて呪力を込める。アスファルトだろうと砕き、砂になる。砂漠という環境では見せなかった芸当だ。しかし見せなかったということは必要なかったとも言える。態々砂にする工程が入っているのがその証拠だ。
「遅い!」
前と同様の規模の攻撃は恐らく可能。しかし今回はアビドスの砂漠のような一面が砂だらけのフィールドではない。ゲヘナの市街地だ。砂にする工程によって以前と同じ威力を出そうとすればどうしても時間がかかる。
大技の準備をしていた楼閣は俺の炎を避けることはできない。呆気なく燃やされ、暫くもがき苦しむ。
「てめえに容赦はいらねえ。……"威光"、"陽炎"、"護法と必勝の火箭"」
火で苦しんでいる隙に最大火力の準備を始める。摩利支天印を結び詠唱も唱える。現状の俺が出来る最大火力の技、極の番"祓除火箭"。領域に巻き込めればもっと上げられるが、ここは屋内ではないためそれは不可能。しかしこれでも屠るには充分だ。
「極の番……うぐっ!?」
陽炎の弓を出現させたところで何かが俺の手を貫く。神秘が込められた一撃で青白く光っている。明らかに銃弾によるもの。
まさかと思い、周りを見渡してみれば答え合わせと言わんばかりにワラワラとユスティナ聖徒会、神秘を纏いながら不気味な色をしたオートマタ兵が湧いて出てきた。
その数、ざっと30程。何ならアンブロジウスとバルバラまでいる始末だ。どう見ても過剰な戦力で嫌になる。
「おいおい……マジか」
「────っ!!!!」
「クソッ!消火されたか!!」
最悪なことに燃やし続けてダメージを与え続けていた楼閣も大量の砂で洗い流すかのように火を鎮火させる。砂が燃えているので移したという方が正しいだろう。
次の手を考えるためにも一時撤退の4文字が頭の中によぎる。しかしそうすれば俺が単身で楼閣に向かった意味はない。そうしてしまったら空崎委員長が俺に任せて出払ったというのにどの面さげて会えばいいんだ。
「それに俺の後ろはチナツ達が守ってる……なら俺がアイツらの背中守らねーでどうする!?」
少なくとも止まってはいけない。今は走り続けて少しずつ数を減らす以外に手は思いつかなかった。止まってはいけないということは銃のリロードも命取りとなる。刀があればやりようはあったが、今の獲物は拳銃一本だ。
「しゃあねえ、市街地が火の海になるが……終わったら消火活動だ!」
ならば足りない手は自分の術式使用で補う。炎を出して操る、そんなシンプルな術式だが迂闊に使用するのは危険だ。こんな市街地で全力で使用すれば周りが火の海になる。さっきの極の番もそういう意味では大概だが、術式フル活用となると寧ろ呪霊より被害を出してしまう。
しかし今はそんな事を言ってられない。銃はしまって手から炎を出し続ける。色彩の兵隊が潜むのであれば建物の中だろうとお構いなしだ。窓からモクモクと黒い煙が立ち昇るのを見ると後のことが怖くなるが……仕方ないね。
「27……23……うっ!?」
順調に数を減らしていくが向こうも黙ってない。激しい砲弾の嵐が襲ってくる。走りながらやっているとはいえ攻撃する時はどうしても速度が緩む。それを奴等は見逃してはくれないらしい。
「当たるも──なっ!?引っ張られ──」
逃げ続けるが突如として足元に引っ張られる力を感じる。ガシッと掴んでいるようだが、感触はザラザラと粉のようなものが当たっている感じだ。これは……。
「砂っ!?」
「にひっ」
俺を掴んでいたのは砂で出来た綱のようなもの。呪力で圧縮されているのかはっきりと形を保っている。犯人は言うまでもなく楼閣だ。会話は出来ないはずなのにこの時ばかりは奴がニヤニヤと笑っているかのように見える。
「このっ!」
振り解こうと燃やしてみるが砂のロープは健在。前とは違う戦い方を急に見せてくるとは思いもしなかった。前は圧倒的な砂の物量、蟻地獄、砂を押し固めた弾丸といったいかにもな戦法だったが今回は少し地味だ。ただ今はその地味さが何よりも厄介だ。
ズガガガガガッ!!!
俺の動きはどうしても止まる。こうなると格好の的でしかない。かなりの弾幕が張られてしまう。これでも空崎委員長が張る弾幕より薄いが動かないとなれば話が変わる。
「ぅっゔ!こ゛の゛お゛お゛お゛お゛っ!!!」
仕方なく全身を呪力で強化しつつダメージを抑える。それでも肉を削り辺りは俺の血で赤く染まっていく。このままでは確実に死ぬ。
仕方なく俺は楼閣に向かって走る。楼閣から離れる方向では引っ張られて転かされてしまう。ならば向かう他ない。
「楼閣!!!」
今度は拳銃を抜いて走りながら発砲する。一発一発全てが焔。当たれば大ダメージは確かに与えられるが、そう簡単な相手ではない。砂がどうしても勢いを殺してしまう。
「つ……かま……ぇ……たっ!」
ダメージを受けながらも楼閣は砂で俺の足を掴むのをやめない。勢いを殺された焔では奴を仕留めきれなかった。
カチカチと音を立てて拳銃も弾切れ。リロードをすればそこが隙になる。今入ってるマガジンを捨てて、別のマガジンをロケット噴射で飛ばしノーハンドリロードを決めようとするが……。
カチンっ!!
「くそが!」
空中で飛ぶマガジンを兵隊が撃ち抜きノーハンドリロードは出来ない。じりじりと追い詰められており、気づけば周りを兵隊が囲っている。俺が術式を使って一網打尽にするのを警戒してか一人一人の距離が離れている。一角潰されても残りがトドメをさせるように段取りが組まれている。
そして、楼閣の隣にはバルバラとアンブロジウス。エデン条約やアリウスの時に見たミメシスの上位個体。アンブロジウスはヒエロニムスと同類らしいが今はそんな細かいことなどどうでも良かった。どう見たって絶体絶命。
「……そうか。初めから俺を仕留める為の段取りだな。楼閣を見せつければどうしても俺が行くしかなくなる。初めから俺はハメられたわけだ」
この状況に至って敵の狙いがわかった。初めから俺を狙い撃ちにしているのだ。楼閣というデカい餌は俺を簡単に寄せられる。ただ楼閣は本物に比べてどうしても弱い。だから伏兵を忍ばせて時がくれば畳み掛けるようになっている。現にこうして追い詰められている。
初めからこれがバレていれば俺は市街地に及ぶ被害を承知で遠くから極の番で塩試合をしていただろう。それをさせなかった時点で向こうが勝っていた。
俺が気づいてから少しして腹部に激痛が走る。ユスティナ聖徒会のスナイパーの弾が俺の腹部を貫通させていた。それも何発も。それと同時に俺の意識は遠くなっていく。
*******
『浩介はさ、絵を描くのが下手くそだよね』
『は?』
気づけば俺は今はもう見ることもできなくなった恩師、五条先生に指導を受けている場面を見ていた。思わず記憶の俺と言葉がシンクロする。
『僕に領域の修行をつけてほしいって言うから付き合ってみたけど全然ダメ。外殻を覆うことしか出来てない。中身がすっからかんじゃん』
この時は伏黒くんに領域習得を先越され焦ったことから始まったご指導。その伏黒くんも虎杖くんに抜かされそうで焦ったのか同じく五条先生にご指導を頼んでいた。
五条先生は喜んで受けてくれたが、俺はあまりいい結果を残せなかった。伏黒くんは閉じれないと言う未完成ながら領域の形を出していたが、俺は逆だった。
──外殻しか築けなかった。生得領域の具現化も術式を領域に付与することもできなかったのだ。
『絵ですか?確かにまるでダメですけどそれが一体……』
『じゃあ説明しようか。このままやったって何にも身につかないから座学のお時間だ』
『あんた座学教えられるの?』
『ぶっ飛ばすよ?』
『ってぇ!!??そのデコピン生半可な呪力ガード突き抜けるんだからやめろ!』
座学の時間と言って五条先生はキャンバスとマジックペンを取り出す。座学なんて教えられるのか、と白い目で見ていたがその後すぐに蒼デコピンでお仕置きされる。あれマジで痛かったなあ。
『誰だって絵を描く時はそれなりに構図を決めてキャンバスに画材を使って描くだろ?』
『まあ、そうですね。その行為が領域展開だっていうんです?』
五条先生は物の例えをしながら教えるのが好きらしい。虎杖くんには呪力と術式を電気と家電に例えて教えたらしい。結構わかりやすい例えだがこの時の俺はピンと来なかった。
『絵を描く時のテーマというか描きたい物が生得領域つまり領域の中身、画材は術式、キャンバスは外殻。といったところかな。呪力そのものはそれらを用意する為のお金、コストね』
要素を分解して教えてくれるがこれが合っているのかどうかすらピンと来なかったのだ。当時は。ただ今はなんとなく言いたいニュアンスがわかる気がする。
『浩介は高いお金払って最高のキャンバスは用意できてる。なのに折角のテーマの用意が出来ず、画材も無駄にしてる。結界術の分野では上手く行ってるのに自分を客観視出来ずにいるから中身が伴わない』
『はぁ……』
『まずは自分の生得領域のイメージをハッキリさせること。もっと自分と向き合え。小手先に頼るだけで終わるな。もっと冒険しろ。そこに答えを見つけたら教えてね。楽しみにしてるからさ』
このアドバイスがあるから俺はまず外殻を整えることを後回しにして生得領域の具現化に優先して取り組んでいた。結果として伏黒くんと同じタイプの未完成領域となっている。
伏黒くんと俺の違いはテーマ、つまり生得領域の具現化のレベル。伏黒くんはまだ本人曰く不細工だが明確なビジョンが出せているのだ。対して俺は炉と真夏のような気温だけ。領域の完成度は伏黒くんに劣っているのだ。
俺の生得領域は────。
********
「ゔっ!?」
さっきのは一瞬の出来事だったと言わんばかりに痛みで現実に引き戻される。今のは走馬灯だったのだろうか。だとしたら死が迫っていると突きつけられているようで嫌な気分だ。実際のところそうなのだけど。
俺がまだ倒れないのを見て次弾装填を始める。次撃たれれば命の保証はない。この数秒が俺の生死を分ける。俺は何をすればいいんだ。
『まずは自分の生得領域のイメージをハッキリさせること。もっと自分と向き合え。小手先に頼るだけで終わるな。もっと冒険しろ。そこに答えを見つけたら教えてね。楽しみにしてるからさ』
ふと思い出したのは先ほどの走馬灯にあった五条先生の台詞。あのバカ目隠しも俺にとってはかけがえの無い恩師だ。
真夏のような気温、俺の術式の炎を発する炉……ここから俺が思い浮かぶものは────。
「ハハっ!これまた懐かしいものを……」
浮かんだものは一つだけあった。今思うと俺のオリジンに近いそれがある。意識したことはなかったがこれなら生得領域に相応しいかもしれない。
「いいぜ!冒険してやろうじゃねえか!!!」
どのみち俺がやれることは限られる。だったらここで決めてやるのが五条先生に対して出来るせめてもの生徒孝行だろう。
摩利支天印を結び、呪力を練り上げる。今ここにいる全てを飲み込む為の呪力を腹の底からどっぷりと。
「領ォ域展開ッ!……烽摩降伏」
キャンバスに描いたイメージを広げこの場にいる敵全員を飲み込む。突然の変化に戸惑うのをよそに今度は黒い外殻で覆っていく。驚くほどすんなりとそれは進んでいき、ガッチリと蓋をする。
外殻で覆った後に広がるのは真夏のような気温、横に広い屋敷、境内を思わせる庭、火野家の家紋が刻まれた炉で着火された篝火、暑くて陽炎が立っている。姉がまだ存命だったころの"俺の家"。今はもう俺の思い出の中にしか無いものだ。
「ふふっ、あははははっ!!」
出来上がったものを見て笑うしかなかった。まさかこんな過去に答えがあったとは思いもしなかったのだから。
俺が笑うのを不気味に思ってかリロードを終えた連中は一斉に発砲する。神秘を纏った弾丸は凄まじい速さで──
──燃え尽きる。俺に届く前に消え失せていた。
「無駄だ。もうお前らは燃えている」
領域展開の極意は必中必殺。対策を持たない者は全て必中効果で灰燼と化す。ここでは悪鬼の類は燃やされ降伏させられる。楼閣、バルバラ、アンブロジウス、ユスティナ聖徒会、色彩兵だろうと区別なくだ。
全員が業火に焼かれ断末魔を上げる。もう俺が手を下すまでもなくボロボロに燃えて砕けていく。
「ありがとう。お陰で俺はまた強くなれた。礼を言う」
奴らの最後を悟った俺は座り込んで感謝を述べる。それと同時に俺の敵は文字通り灰となって消えていった。
今回の領域展開の解釈は自分の勝手なものです。
個人的に伏黒の初領域展開シーンは大盛り上がりしちゃいまして今でも好きです。
彼がそれまでしなさそうな顔を見せてくれたのが本当にいい
更新時間はいつが良いでしょうか?
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22時〜0時ごろ
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7時ごろ
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19時ごろ