呪いは廻り、神秘は透き通る   作:ソックス

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話が進まぬ


107 決戦前のコーヒーブレイク

 現在、上空75,000メートルの敵拠点に向けて宇宙戦艦で移動中。思ったより快適な旅だ。

 

 当然それほど上に行くとなれば長時間航行になるので割と暇になる。普通なら緊張でガチガチになるだろうが、逆に落ち着いていた。なんなら今は戦闘の準備すらしていない。じゃあ何をしているかって?

 

 

「ちわーす!ゲヘナ給食部です!!コーヒーと軽食をお届けに参りましたー」

 

 愛清先輩が丹精込めて作った食事を運ぶウェイターである。大量のコーヒーとサンドイッチを乗せたワゴンカートでパイロットの皆さんに配膳していく。

 

「あなた……もう少し緊張感というものがないのですか?」

「初めて会った時は落ち着いていて普通の子だと思ってたけど案外お調子者だね」

「天雨行政官、鬼方課長……そんなことないっすよ。今も内心バクバクです」

 

 パイロットの中でもゲヘナから選ばれたのは天雨行政官と鬼方課長だ。二人は緊張感のない感じを醸し出してる俺に呆れていた。

 しかし初めて見た時は驚いた。まさか鬼方課長が選ばれた上に実際に問題なくパイロットやれているのだ。対アビドスで一緒になった時は賢いなあ、なんて思っていたがそんなレベルではなかったらしい。

 パイロットは先生が交流した生徒の中から選定したベストメンバーらしい。先生は色々と生徒の情報を持っているだろうし、俺の印象以上に多くのことを把握しているようだ。

 

「あら、お久しぶりですね。火野浩介さん」

「ゲッ……浦和ハナコ!?」

「あはは……」

 

 ビックリしたメンバーはもう一人いる。トリニティの才媛と謳われた浦和ハナコである。

 まあ、能力的には納得がいく。それはそれとして数々の奇行がチラついて身構えてしまう。渇いた笑いを浮かべている奥空さんもきっと同じ気持ちだろう。多分俺よりも酷い気持ちのはずだ。彼女はよく頑張ってる。

 

「ありがとうございます。火野さん」

「お、私には明太チップスに差し替えてるし布巾もあるじゃん。気が利くね〜」

「ありがとうございます。いただきます」

 

 そして、パイロットには当然というべきか連邦生徒会の室長達も乗っていた。三者三様だがこんな緊急事態でも落ち着いている。実際の心境は知る由もないが少なくとも外部に漏らさず各々の仕事をこなしている。特に七神リン行政官は肝がすわっている。冥冥さんといい勝負の女傑かも。

 

「浩介くん、この後は戦闘班のところに回るの?」

「もしそうでしたら緊張してないか見てあげてください。少し心配なので」

「任された。ゲーム開発部の皆んなは良い先輩を持ってるようで幸せ者だな」

 

 ミレニアムからはセミナーの早瀬さん、特異現象捜査部の明星さんだ。どうやら後輩達の心配をしているらしい。まあ、死地に向かってるのだから無理はない。

 

『……』

 

 なんかふよふよ浮いているドローンがこっちを見ているが気にせずに戦闘班の元へ向かう。どうせあれは調月会長だろう。今回の件は司祭関連を嗅ぎ回っていた彼女が出張らない理由はない。直接来ないあたり地上での役割をこなしているのだろう。俺から彼女にかける言葉など何もない。

 

 

「さて……」

 

 パイロット達の次は当然決まっている。シャーレの先生だ。

 

「動くなよ、先生」

「え?何を……、これは……」

 

 先生の肩に手を置き、反転術式を流し込む。他の皆んなにバレないようにサラっとやることを意識する。多分バレたら大パニックだからだ。

 突然のことに驚いていたが俺が何をしているのかすぐに察したのか黙って治療を受け入れていた。

 

「先生、この船を動かすのにどんな縛りを設けたのかは知らないが……いざという時に動けるように体力を温存してくれよ」

「……気づいていたの?」

「事態が重いから俺からは何も言わない。貴女の覚悟を最低限汲もう。じゃあな」

 

 先生は俺が去るのを黙って見送っていた。あまり派手な反応をすると先生の状況が周りに伝わるので今は黙って過ごす。

 

 

 先生にはこの船から何かしらの力を向けられている。この船自体太古のオーパーツという。もしかしたら呪具に近いものかもしれない。

 この船も突然用意されていたので不思議に思っていた。こんなに都合のいいタイミングで見つかるとは不自然にも程がある。何かしら情報を突然掴んだ可能性が高い。

 

 

 ……黒服。あいつのせめてもの抵抗だろうか。

 

 

 

*************

 

 

 

 

 トントン。

 

「ゲヘナ給食部のお時間よ〜、宇宙食仕様で美味しいよ〜」

 

 などとおふざけしながらまずはミレニアムの問題児集団の元へ向かう。

 

「あ!浩介!久しぶり!」

「お姉ちゃん、軽いね……」

「お、お久しぶりです」

「魔法使い浩介!……美味しそうな匂いがします」

 

 まさか乗っているとは思わなかったメンバー、ゲーム開発部。俺、今回の最終決戦のメンバーの殆どを意外って言ってるな。

 全員に食事を配り、ひと時の安息を得ようとした時だった。とあることにゲーム開発部が気づく。

 

「?? アリスのだけ半分こになったサンドイッチとコーヒー?」

「なんで?」

「アリスちゃんって一口が特別小さいわけではないよね?」

「あ……!」

 

 アリスに配ったコーヒーとサンドイッチだけは半分こにしたものを二つ。つまり合わせて一個分を出している。謎の対応に才羽姉妹は疑問に思うが、花岡さんは気づいたようだ。

 

「身体は一人分だが……もう一人いるだろ?勇者はさ」

「……!なるほど!いただきます!……はぐ……おいしいでふ!かふぁります!」

 

 俺の台詞で意図に気づいたアリスさんはサンドイッチを早食いしてコーヒーを一気飲みする。そんなことしなくてもいいのに……。

 

「んぐっ!?いきなり変わらないでください!せめて飲み込んでから……!」

 

 ちょっと怒り気味にアリスさんの雰囲気が変わる。いや、変わったのは雰囲気ではなく人そのものというべきか。

 

「ケイさん、どうよ。ゲヘナ給食部部長のサンドイッチ、食ってみな。飛ぶぞ」

「怪しい言い方をしないでください!作ってくれた人に失礼でしょう!……いただきます」

 

 アリスさんの中にいるもう一人の人物、ケイさんにも味わってもらおう。そう思って愛清さんにお願いして用意したのだ。因みに事情を説明するのは憚られるので一口が一際小さい子がいるので半分こにしてくれと頼んだ。カップは不思議に思われたが何も言わずにやってくれた。ありがとう、愛清先輩。

 

「おいしい……!」

 

 ケイさんはわかりやすく表情を変えて喜んでいた。上品に食べていたが段々食べるペースが早くなりあっという間に平らげてしまった。

 

「ご馳走様でした。……はっ!」

 

 ちゃんとご馳走様と言えたケイさんはここでニコニコしているゲーム開発部の面々に気づく。決して揶揄ってるわけではなく本当に嬉しそうにしていて、人の良さというものが伝わる。

 

「「「おいしい!」」」

 

 ケイさんの笑顔を見て満足したのか残りのメンバーもペロリと平らげ味の感想を言ってくれた。この場面、愛清先輩が見たら喜ぶだろうな。連れてくればよかったかもしれん。

 

「じゃあ、俺は次行くからこのゴミ箱にまとめといてくれよ。……ん?どうした?ケイさん?」

 

 粗方終えたのを確認した俺は次に行こうとするが、ケイさんが俺の袖を引っ張り引き止めてきた。何かあるのだろうか。どこか勇気を振り絞っているように見える。

 

「……あの……これを作ってくれた人に言っておいてくれますか。……美味しかったです。また食べたい、って」

 

 ……これまた破壊力高えもんが飛び出してきたな。

 

「おう、必ず伝える。今度は直接言えよ」

 

 ケイさんは気づいているだろうか。人が丹精込めて作ってくれたものを口にし、味を感じ、その身の糧とし、感謝を述べるという行為が人そのものだということに。もうそこにいるのはキヴォトスを滅ぼすKeyではなく、心優しい少女、天童ケイがいるということに。

 

 俺はその事実に気づいてすごく嬉しく思う。願わくばこれが末長く続いて欲しいものだ。

 

 

 

*******

 

 

 

 

「アビドスの皆さん、入りますよ」

「はい!どうぞ〜」

 

 最後はアビドス高等学校の対策委員会だ。ノックして確認を取ると了承が得られたのでゆっくりとドアを開けて中に入る。

 

「精が出るな。武器の点検か。……ひと休みどうですか?」

「お?気が利くね〜。いただこうかな。ノノミちゃん、セリカちゃん。キリがいいなら切り上げてゆっくりしなよ〜」

 

 対策委員会の温度感は非常に高い。無理もないことだ。相手には砂狼シロコがいる。それも俺と同じ恐怖の力を宿し、まるで別人に変わっている。

 

「ホシノ先輩こそそれで切り上げてよ。なんか……怖いよ」

「そうですよ。あんまりやるとセリカちゃんがシャーっ!って吠えちゃいますよ」

「うぅ〜猫ちゃんじゃないんだから……」

 

 一番温度感が高いのは後輩に緩く接しているようで、武器のメンテナンスになればスッと目付きが変わる小鳥遊さんだ。後輩はしっかりとそれを感じ取っているようだ。

 

「ふぅ……そうだね。おじさんとこれで切り上げにするよ〜。今回はシロコちゃんを捕まえに来たんだから……」

 

 そう言っているが顔は以前険しい。小鳥遊さんは一番小柄で昼行灯な態度を取っているが、今は年長の雰囲気バリバリだ。乙骨先輩とはまた違う怖さを感じる。

 

「……かなり強いぞ。今の砂狼さんはもしかしたら小鳥遊さん、貴女よりも──」

「関係ないよ。あの子は自転車が好きで、銀行を襲うなんて物騒な事を口走っちゃうこともあるけど……大事な可愛い後輩だよ。必ず捕まえてメッて言わないと……ね?」

「そうか」

 

 小鳥遊さんは俺の言葉をバッサリ切り捨てる。そこからはさっきとは打って変わって穏やかな顔で後輩への思いを語る。その顔から砂狼さんを大切に思っていることはよく伝わってきた。

 きっと夏油さんにとっての灰原兄さんだろうか。この二人のような悲劇が起こりかねない状況ではあるが、この人ならきっとそうはさせないだろう。先生だっているんだ。俺はその為に盾となればいい。

 

「多少の怪我なら俺が治せる。遠慮なく"ケンカ"してこいよ」

「うへ〜、シロコちゃんなら勝負しよって言うんだろうなぁ……。そうだね、あくまでケンカかな」

「そうよ!シロコ先輩をギャフンと言わせて連れ戻すんだから!」

「シロコちゃんにメッてするのは私がやってもいいですか〜?その後にぎゅ〜っとしてあげたいです」

「うへ〜、シロコちゃんは幸せ者だあ〜」

 

 怖い雰囲気から一転していつもの対策委員会が顔を出す。確かに砂狼さんは呪術師と遜色ない状態かもしれないがまだ帰る場所がある。夏油さんのようなことにはさせてはならない。

 

「君は自分の仕事をやってね。シロコちゃんは私達がなんとかするからさ。だから他のことはよろしくね」

 

 小鳥遊さんはそう言って俺の胸をトンと拳で叩く。面食らった俺を見てニコッとした後に支給された軽食を冷める前に食べようと手に持つ。

 

 まさかあんなことをした俺にこんなことをするとは……。許されるわけないのに。

 

 

「……ありがとう」

 

 俺から出せる言葉はもうこれしかなかった。

 もう2度とこの人達に悲劇はあってはならない。もし、俺に出来ることがあるなら尽くそう。そう心に誓うには充分だった。




浩介「ミレニアムの1年生の子がさ、すごく美味しかった、また食べたいって言ってたよ」
フウカ「……私、ミレニアムに転校しようかしら」

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