マシロ……?あの子は殿堂入りです
油断した。
「シロコ……」
「先生、来てしまったんだね。ここには死しかないのに」
皆んなを指揮して上手く撃破出来たと思ったらこれだ。目の前の敵にしか目がいってなかった。一番大事な相手は別にいたというのに。
ここはパイロット達がいるコントロールルームだ。主力となる戦闘員は軒並み出払っている。この状況は非常にまずい。
「シロコ、迎えに来たよ。一緒に帰ろう」
「……残念だけどそれは出来ない。ここに来た以上あなた達は倒す」
少しでも気を逸らせたら、なんて下心はなかったなんて言えない。迎えに行くのも目的の一つだ。だがそれはそれとして何故かシロコは敵対行動を取っている。無闇に傷つけるのを避けたいのも本音だ。ただ、今のシロコ相手にそれは出来ないだろう。
だから戦力としてホシノと浩介を連れて来ている。ホシノの方はもしかしたら説得によって終わらせることが出来るかもしれないし、浩介は強硬手段を取らざるを得ない時に怪我だけでも治せる見込みがある。今回の作戦において他の強豪生徒にはない強みがあるから連れて来たのだ。
「……」
どうする?ここにいる生徒だけで立ち向かうべきか?それとも……大人のカードを切るべきか?
「何を考えているかは想像がつく。でもどれを使おうと私を止めることはできない」
シロコはそう言って銃口を突きつける。対話の時間は終わりだと言わんばかりだ。
もう悩む時間はない。大人のカードを使うしか────。
「光よ!」
ポケットから最大の武器を取り出そうとしたら聞き馴染みのある声が聞こえて来た。その声と同時に光の弾がシロコがいた位置に着弾する。
「あなたは……王女」
「アリスはアリスです!」
先程まで眠っていたはずのアリスが駆けつけてくれたようだ。アリスの目と鼻は真っ赤に腫れている。一体アリスに何があったのだろうか。
「なんであなたが動けるの?この船に乗った状態で力を使えばあなたは……」
「……っ!そ、それは……」
「そうか……鍵か。鍵が貴女を守ったのね」
鍵……?ケイのことか!?ケイがアリスを守った……?
「まさか……」
わかってしまった。今のアリスに起こっていることが何なのか。アリスの流した涙が何なのか。
……私は生徒を1人守れなかったのか!?
「鍵を犠牲にして来たというのに残念だね。今の王女では私に敵うことはない」
「うぐっ!?」
シロコは待ってくれない。容赦なく愛銃から弾丸が放たれる。アリスはそれをレールガンを盾代わりに防ぐので精一杯だ。
射撃を終えたシロコは素早くアリスとの距離をつめにかかる。レールガンを盾にしているアリスでは初動で遅れてしまう。アリスが初めてネルと戦った時のような展開だ。
「右に薙ぎ払うんだ!」
「……!はい!!」
レールガンの発射は間に合わない。だがレールガンはそれそのものがかなりの質量を持っている。鈍器として使うことも十分可能だ。多少はインファイトに抗える。
「ん……」
だが苦し紛れの反撃も読まれていたのかシロコがジャンプしてアリスの渾身の一撃を躱してしまう。片手に手榴弾、傍には愛用のドローン……シロコ得意の戦法が垣間見える。
「退避──」
「遅い」
退避の指示を出すがそれよりも早くシロコの攻撃が放たれる。手榴弾とドローンからのミサイル爆撃。それがアリスに集中して襲いかかる。
ドオン、と音を立てて爆発し、避ける間も与えられずクリーンヒットしてしまう。これでは……。
「まだ……です!ここで倒れたらケイはなんの……ために……っ!」
倒れる。そう思ったがアリスは踏ん張った。しかし踏ん張ったところで現実は非常だ。先程の多次元解釈バリア突破だけでも相当消耗している。精神も身体も限界に近い。
「ここで倒してしまおうか。万が一でも王女の力を使えたら──」
バンッ!!
「ぐっ!?」
シロコがアリスにトドメを刺そうとしたタイミングで一発の銃弾がシロコに直撃する。あまりの衝撃に転倒し傷口を手で押さえる。これだけで相当なダメージを負ったのがわかる。こんな弾を撃てるのは1人しかいない。
「……シロコちゃんを傷つけたね?」
「すまんが今の砂狼さんは多少本気でやらなきゃダメージにならんよ。……本当に申し訳ない」
「はぁ……──全て終わったら覚悟しろ」
ここで救援に来たのはホシノと浩介。他のメンバーよりいち早く異変に気づいて来てくれたようだ。
浩介はいくらアリスを守るためとは言え本気の焔をシロコに撃ち込んだらしい。ホシノは今までに見たことないほど怒っている。なんかまたアビドスと浩介の溝が深まったようだ。
「ホシノ!浩介……はあとで先生と一緒にアビドスに謝ろうか」
「はい……ただ今は……」
「っ!体力が回復してます!」
浩介はアリスを回復させていた。アリスにも有効なのかそれ。本当に連れてきてよかったよ。
「さて、どうする?砂狼さんや。単体なら兎も角この3人が先生の指揮ありで相手になる……なんて嫌なんじゃない?」
浩介はある程度アリスを回復させたら挑発するようにシロコに語りかける。確かにこの3人を1人で相手に出来る生徒はいないだろう。ヒナやツルギだって無理だ。それはシロコも同じ。
浩介に至っては他者の回復まで備えているので極端な話、ホシノとアリスがゾンビ戦法で挑めてしまう。……字に起こしてみたら凄いだろうな、これ。
「そうだね。確かに私1人で相手にするのは無理。だから────」
シロコは顔色一つ変えない。それどころか全速力で浩介に向かって走っていた。銃もしまっており、格闘戦を望んでいるらしい。いくらなんでも無謀ではないか。
「うらぁ!!」
「うぐっ!?」
案の定、浩介の拳がシロコの顔面を捉える。浩介相手に格闘戦なんて不可能なはずだ。彼はそこいらの格闘家とは違い、本当に殺意のある拳を撃ってくる。そんな相手に丸腰で勝てる道理などない。
「────んっ……まずは浩介から始末する」
「俺の腕を捕まえたからなんだ?へし折るつもりか?……っ!?な、なにを?」
「だからこうするの!」
顔面に拳がクリーンヒットしようとシロコは諦めずに浩介の腕をがっしりと両手で掴む。浩介は特に気にせず振り解こうとするが、自分が後ろに下がっているのに気づいて驚愕する。
「俺を押してなにするつもりだ?」
浩介の言う通りシロコは押しているのだ。何の攻撃にもならないであろうこの行動に何の意味があるのか。浩介は単純な力だとシロコより弱いのか若干押されている。
「─────」
中々押しきれない浩介を緩ませるためか顔を浩介の耳元まで近づけて、ひそひそと何か呟いていた。何だ、何を言ってるんだシロコは?
「てめえ……一体それはどういう──うぉっ!?」
浩介は怒りを露わにしながらシロコを問い詰めようとするが、その行動は力の緩みを産む。一気に押されてしまう。
ふわりと浩介の身体が後ろに倒れ黒い穴に吸い込まれていく。
「浩介っ!!!!」
あれは……シロコが逃げる時に使ったワームホール!?浩介を別の場所に軟禁するつもりか!?
なんとか助けようと手を差し伸べるが無情にも浩介とシロコはワームホールの中に消えていく。私の手がワームホールの入り口近くになったところでバタンと穴は閉じられ、誰にも手出しできない状態になってしまう。
結果的にこの戦いは船の損傷で帰還が困難になり、生徒1人がまた連れ去られるという最悪の結果となった。開始早々してやられたのである。
現在の状況
浩介……シロコテラーが使うワームホールでどこかへ。
シロコ……ん、まずは浩介を始末する。
先生……生徒や船への被害などで焦り。何としてもシロコと浩介を奪取したい。
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