「うおっ!?どこだここ!?」
砂狼さんに押されて亜空間を移動し、どこかに飛ばされたようだけど見覚えのない場所だ。とにかく広くてなんか赤っぽい場所だ。目がチカチカして仕方ない。
「ようこそ。ここがあなたの墓場だよ」
「死ねってか?残念だけど俺は女の子が嫌いな黒光りより生き汚いんだ」
「それは男でも嫌いでしょ」
砂狼さんは銃口を突きつけながら挑発してきた。直球にここで死ねってヘイロー持ちに言われるとは思いもしなかったよ。呪詛師相手なら山程あるんだが。
誘い込んだということは罠の類がある可能性が高い。そう思って周りを見渡してみるが驚く程何もない。ただのだだっ広い部屋でしかない。
唯一、何かあるとすれば砂狼さんの後ろで突っ立っているデカい人。それだけだ。ブリキの仮面のようなものを被り、物凄く仰々しいマントを羽織っている。あんなファッションアニメや漫画でしか見たことないんだけど。
「後ろのでけえのはなんなんだ?」
「……プレナパテス。色彩の嚮導者」
砂狼さんは素直にあの世紀末ファッションをしたデカい人がプレナパテスだと教えてくれた。まさか親玉のいる部屋にご招待とは随分思い切りがいいことだ。
「へへ、なら──」
──やるなら先手必勝だよなあ?
「"焔"!」
敵の親玉を先に叩くのは王道の戦略だろう。砂狼さんは敵によってこんなことをさせられているのであれば、それをさせている元凶を潰せば大団円だ。狙わない理由はない。
砂狼さんは特に手出しはしてこない。なんか不穏だな。
「……」
「あれ?無傷……?外したのか?」
焔は当たらなかったのかあのゴテゴテの世紀末ファッションすら無傷だ。プレナパテスは何事もなかったかのように棒立ちしている。あんなデカい的を外すほど銃の腕が下手っぴではないつもりなんだけどな。
更に撃ち込んでみるが、結果は変わらず。俺の弾だけが消費される。焔用の弾を用意するのすごくめんどくさいから外したのは正直ショックだ。
「直接攻撃ならどうだ?」
弾が当たらないのは流石におかしいので何かカラクリがある。確かめるためにも不安ではあるが直接攻撃で試してみよう。何かしらの術式によるものならわかりやすく結果を見れるはずだ。
まずはそのブリキの仮面を粉砕するべく顔面に呪力を込めた正拳突きをお見舞いしよう。頭蓋骨を砕いてやる。
「……あれ?」
俺の拳は空を切る。いくらなんでもおかしい。完璧に捉えたと思ったのに。
もう一度確かめるために連打してみるがどれも当たらない。俺の認識は当てるつもりでやっているのに、実際の結果はわざと外したみたいに空を切るのだ。
「なら!これはどうだ!」
銃弾も拳もダメなら呪術師らしく術式を使用する。これまでの流れからして直接狙っても当たりはしない。だから狙うのはプレナパテスの周囲だ。
「お前の周囲を炎で囲った。炎で直接焼くことは出来ないかもしれないが……熱の対策は出来てるのか?」
「……!ダ、ダメっ!!」
俺の目的は熱による熱中症狙いだ。並の人間であれば脱水症状、一酸化炭素中毒などであの世行きまっしぐら。あれが人間ならばこれで殺せるはずだ。
流石に砂狼さんもマズイと感じたのか静観をやめて妨害しようと攻撃してくる。その焦りようは今まで見た中でとびっきりで彼女の素が出てきたようだった。まるで深い関係の相手の危機に直面したかのようだ。
「その焦りようはなんだ?」
砂狼さんの必死の攻撃を避けることに重きを置きながら、彼女の表情に疑問を浮かべる。敵に弱みを握られているであろう人の行動ではない。大切な人を守ろうとする人のそれだ。
お陰で追い打ちの炎をプレナパテスに出すことは出来ない。しかし、十分な量の炎は出せている。
はずなのだが……。
「……」
「おいおい!なんだよそりゃあ!?」
プレナパテスは余裕綽々と炎から出てきた。その際にまるで降り注ぐ雨を傘で受け止めているかのように奴の周りだけ炎がない。バリアか何かか?
五条先生と同じく無下限呪術だろうか。いや、あれは六眼がないと無理なはずだ。何よりさっきの攻撃でそんな感覚はしなかった。無下限による無限なら到達しないだけで俺の攻撃のベクトルは変わらないはずだ。
「ならば絶対に当たる攻撃をするまで!領域展────」
ぬるっ
────なんだこれは?呪力なのか?
「……っ!あ、あぁ……っ!」
領域展開することも忘れ迸る呪力の元に振り向く。そこには十字架に人型の呪霊が磔にされているのを確認した。明らかに俺を凌ぐ呪力量、質。もしかしたら野鎌よりも危険なやつがどこからともなく出てきたのだ。
「本当はあなたもここに幽閉してからこいつを地上に送りたかったけど……この際あなたを仕留めるために使わせてもらう」
「……あなた"も"だと?」
「ん。そいつの名前は阿鼻。あなたはそいつに任せるとして……私は先生達の方に向かわせてもらうね」
「おい待て誤魔化すんじゃねえ!!」
あなた"も"なんて言うから気になってしまった。つまりもう既に1人以上こちら側の誰かが幽閉されているということ。この場合言うまでもなく砂狼シロコのはずだ。だが彼女は今こうして敵として立っている。洗脳はあるかもしれないが、幽閉ではない。他に誰かいるのだろうか。いやそれとも────
──今そこにいる砂狼シロコは俺達の知る砂狼シロコとは別人の可能性がある?
しかし、確かめようにも砂狼さんは先ほどのワームホールでどこかへと消えていった。宣言通り先生達の方だろう。これでは確かめようがない。
それに今はそんなことを確かめる余裕はない。プレナパテスの他に特級呪霊が一体いるのだ。
「あ──う──」
解き放たれた呪霊は呂律が回っていないのかまともな言葉を発することなくペタペタとプレナパテスの前に出る。まるで産まれたての赤ちゃんみたいな感じだ。
ただ見た目の方はそんな印象とは正反対だ。顔は真っ赤な炎で覆われて今も炎上している。服装もスーツできちっとした感じに見える。不思議と黒服と似ているような気がする。
「えあぁぁ……」
俺を敵だと認識することは出来ているようで手のひらをこちらに向けて呪力を活性化させる。わかりやすく手から何か攻撃を出しますよ、と予告するかのように。
顔の炎からして術式は炎系。奇しくも俺と同じ系統の術式だろう。ここはどれくらいのものか確かめるためにも乗ってやろう。
「いいぜ。火力勝負といこう」
俺も手のひらを呪霊に向けて呪力を集中させる。火傷防止の呪力の膜と炎に変換する用の呪力を用意して勝負の時を見計らう。
少しの間静寂が流れ、お互いが最高潮まで高まった瞬間、呪いの炎が戦場を包み込む。
「うおおぉぁぁぁぁぁ!!!」
「……」
激しい炎のぶつかり合い。勝った方が押し切って相手を一方的に焼き尽くすことになる。早くも片方が押され出す。
「そ、そんな!?俺の方が……押されてる!?」
押されているのは俺の方だった。呪霊の炎がじりじりとこちらに迫り来る。同系統の術式の勝負で負けているなんて初めてだ。
「こんなもの……!こんなものっ!!うぐぐぐっ!!こ、こうなれば……」
何とか粘りながら策を考えるが思い浮かぶのは碌でもないこと。しかし今はそれ以外に方法はない。
「火傷防止の膜を……捨てる!!……ふん!うっ……あつっ……うああぁぁぁぁぁあっ!!!」
火傷防止の膜も炎に変換させて攻撃に使用する。セーフティーを完全に外したフルパワーだ。代償として少しずつ俺の手が火傷していく諸刃の剣だ。反転術式があるので使えなくなるわけではないが、痕は残るし完全な修復には至らない。
そんなフルパワーも時間が経てば先程と変わらず押されだす。代償を払おうとダメなものは駄目だと無情にも突きつけられる。
「くそっ!あがっ……しまっ」
自身の火傷による痛みで怯んでしまい、その隙を待ってましたと言わんばかりに呪霊の炎が一気に押し寄せる。取り返しのつかない事態になり、俺は呪いの炎へ身を投じることとなる。
本作における色彩側当初のプラン。
シロコ誘拐
↓
ゲマトリア襲撃
↓
秘術鹵獲および浩介の殺害または誘拐
↓
サンクトゥム出しつつ、阿鼻で遊撃
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