呪いは廻り、神秘は透き通る   作:ソックス

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そろそろ3.5周年
誰がフェス限かな?

この作品も後少しでUAが1万を超えそうですね
少しでも多くの人に見てもらえたら嬉しいな


12 大人の戦い

 現在俺はゲヘナの救急医学部のベッドのお世話になっていた。天井のシミを数える暇なんてないのにね。

 横には様子を見に来た火宮さんがいた。色々とメモを取っている。症状の様子を記録しているのだろうか。

 

「治療までしてくれちゃって……ありがとうございます」

「寧ろ礼を言うのはこちらです。幸いにも初等部の子達に怪我人はいませんし、貴方が守ってくれなかったら被害は拡大してたでしょうから」

 

 結局呪霊を倒した後に俺は急患として運ばれた。救急医学部の部長さんが目を丸くしてすぐに火宮さんと一緒に治療してくれなかったら治るのが遅かっただろう。

 困るのは入院することになったため、アビドスとの決戦に支障が入ることだ。抜け出せばいいのだがそれをしてしまうと治療してくれた2人に申し訳ない。

 

(まあ、やるけど……)

 

 

 我ながら最低な思考だ。

 

 

「火野さん。調子はどうですか?」

 

 そんな考えを巡らせていると、救急医学部の部長さんが様子を見に来た。かなり傷が大きかったので治療した身としては気になって当然だろう。

 

「あ、昨日はどうも……そう言えばお名前は──」

「氷室セナです。以後お見知り置きを」

 

 名前があやふやだったので聞こうとしたら、それを察してか名前を教えてくれた。キリッとした顔つきで中々の美人さんだ。

 

「セナ部長、浩介くんの怪我ですが……思ったよりも治りが早くて……」

「……見せてください」

「というわけで上着を脱いで背中を見せてください」

「うす……」

 

 どうも俺の傷の治りの早さが異常らしく困惑しているらしい。診察のためか上着を脱ぐように指示が出される。同級生に見られるのは少し恥ずかしい。とはいえ医療関係者の指示には従わないと後が怖いので大人しく上着を脱ぐ。

 

「ふむ……結構鍛えられてるんですね。背中の方も痕こそありますが……塞がってますね。無理をすれば開きかねないですが」

「セナ部長もそう思いますか?」

「ええ、素晴らしい肉体美です」

「そっちじゃありません」

「……これって真面目な診察だよね?」

 

 数を見られるのは仕方ないにしても何故か筋肉の方に目がいっている。傷が回復方向なのもあってか冗談が飛ばせるぐらいには余裕があるのだろう。

 自慢じゃないがそれなりに鍛えている。一部の可笑しい人達を除けばそこそこ格闘だって出来るつもりでいる。呪術師って結局肉体が強くないといけないし。

 

「いい感じっぽいみたいだし退院してもいいですか?」

「「駄目です」」

「さいですか……」

 

 今ならゴリ押せそうだなって思って退院したいと伝えてみるが、2人は揃って拒否。なんとかなると思ったのになあ。

 こうなるとこっそり抜けるしかない。後が怖いが縛りを結んだ以上、それを守れない方が危ない。最悪今ある傷がパックリ開いて突然失血死なんて光景もあり得なくはない。

 そうこう言ってる間に2人は触診したり、薬を塗ってくれたり色々としてくれた。大掛かりな治療にはならなさそうで正直ホッとしている。

 

「大人しくしておきますね」

 

 取り敢えず表面上でも取り繕うことにした。チャンスは二人が抜けた時だ。事が終わったら素直にお叱りを受けるしかない。

 

「ええ、今日一日は絶対安静です。私は次の患者のもとに向かいます」

「私の方は後で色々と聞きたいのでまた来ますね」

 

 軽い診察も終えて2人はそれぞれの仕事に戻ることになる。2人とも忙しいはずなので下手すると今日一日中来ない可能性もある。となれば今こそが絶好の機会。

 

 だが、その前にモモトークを開き黒服にメッセージを送る。今どうなっているかは聞いておきたい。

 

『例の件はどうなってる?』

 

 ひとまずメッセージを送っておく。もし時間がかかりそうなら今日一日はいっそ寝て回復するのもアリだ。どうせ脱走するけど。

 

ピロンっ♪

 

 中々早く返信が帰ってきた。結構忙しいだろうに珍しいものだ。

 

 

 

『小鳥遊ホシノは確保しました。今日の夜に私の事務所に来てください』

 

 

 即脱走確定である。今すぐ荷物を纏めないと間に合いそうにない。すぐに行く、とだけ打ってすぐさま鞄にスマホを入れる。

 黒服の事務所はアビドスにある。目的を考えれば当然の事だが、ゲヘナからアビドスはまあまあ時間がかかる。

 

 荷物の整理を終えてベットから起き上がり、近くにあった窓をあける。周りを見渡し、風紀委員と救急医学部がいないことを確認する。

 

「氷室さん、火宮さん。すまない!」

 

 俺は一言誰もいない部屋で謝罪しながら窓から飛び出す。

 

 

 

 後に2人に大分怒られるのだが、それはまた別の話である──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜黒服の事務所(夜)〜〜〜

 

 

 黒服の事務所では2人の大人が顔を合わせていた。黒服は待ち侘びた人と対面できて嬉しそうだが、もう一方は警戒心を露わにしていた。

 俺はと言えば部屋の隅っこで大人しくしていた。暗い格好をしているため、暗い部屋に溶け込んでしまっている。あいつも黒くて俺も黒かったら正直言って馬鹿な服装と部屋の構成にしか思えないんだが。

 

「ようこそ、おいでくださいました。歓迎しますよ──先生」

「初めまして。貴方はなんて言うのかな?」

 

 来ていた大人はシャーレの先生。小鳥遊さんが黒服に連れて行かれたことをもう把握したらしい。

 

「黒服、とでも呼んでください。それと私の所属する組織はゲマトリアといいます」

「じゃあ、黒服。ここに呼び出した用件を聞かせて」

 

 どうも黒服が呼んだらしい。態々黒幕である自分を明かすのは何故だろうか。目的を考えれば小鳥遊さんを確保したら後は徹底的に隠せばいい。それを言えばそもそも俺は必要ないという話にもなってしまうが。

 用件をさっさと話せと言わんばかりに先生は黒服を睨む。それに応じて黒服は軽く咳払いしてから目的を話し始めた。

 

「結論から言えば貴女に仲間になって欲しいのです」

 

 早速正気を疑う言葉がいきなり飛び出してきたものである。先生は小鳥遊さんを連れ戻しに来たのに、いざ来てみれば連れ去った奴らの仲間になれと言われている。こんなもの答えはわかりきっている。

 

「断る。生徒達に対してやっていることを考えればあり得ないでしょ」

 

 当然断られてしまう。まだ詳細こそ話していないが何を話しても答えは変わらないだろう。

 こんな茶番を見せられるのはいい気はしない。先生が黒服を言い負かさないか期待してしまう。

 

「あのオーパーツ"シッテムの箱"の所有者であり、連邦生徒会長が呼んだ連邦捜査部"シャーレ"の顧問。我々は貴女を過小評価はしていませんし貴女とは敵対する意思はありません」

 

 だが、黒服は先生の拒絶も意に介さず話を進める。

 

「私達はあなたと同じキヴォトスの外部から来た者ですが……あなたとはまた違った領域の存在です」

 

(先生とゲマトリアはキヴォトスの外から来た?先生とゲマトリアは違う領域の存在?どういうこっちゃ……。この2人は結局何者なんだ?)

 

 黒服の言葉に気になることもあるが、黙って聞いていた。指示があるまで見てて欲しいなんて言われているので今はただひたすらこの会話を見聞きするしかない。

 

「ゲマトリアは観察者であり、探究者であり、研究者です。今回もその一環ですよ」

「研究……?ホシノに何をするつもり?」

 

 正直に言うと俺も気になっている。黒服は何を目的として小鳥遊さんを連れ去ったのか。人を連れ去って研究と言われるとどうしても嫌な予感しかしない。

 

「"ミメシス"で観測した神秘の裏側、つまりは恐怖を生きている生徒に適用できるのか────そんな実験を始めるつもりです」

 

 新しい用語も出てきたが、それ以上にやろうとしてる内容も不可解だ。呪力と恐怖は似た性質を持っている。その反対である神秘に恐怖の適用なんて出来るものなのか。

 仮に出来たとしてもそれは恐ろしい結末を引き寄せるのではないか。やろうとしてることが呪物を喰わせて呪力を扱えるようになれるのか、と似たようなものではないか。そんな事をして助かるのは基本存在しない。殆どの場合は死か存在が変わるかだ。

 

「何を言い出すかと思えば……人体実験の説明とはね。私はホシノを返して貰いに来たのだけどね」

「おや、バッサリといくのですね。クックックッ……、ですがお気づきでしょうか?今の貴女に何の権利があってそんな要求をされているのでしょう?ホシノはもうアビドスの生徒ではない。届け出を確認されてないのですか?」

 

 先生は御高説垂れた黒服の言葉を切り捨てて、自身の要求をハッキリと示す。だが黒服も負けじと反撃する。それは悪質で、ルールの範疇という名の抜け穴をついたものだ。

 今現在小鳥遊さんは黒服と契約を交わしている。内容は自身の身を引き換えにアビドスの借金を負担するというものだ。そしてそれは正式なアビドス生徒会最後のメンバーである小鳥遊ホシノがアビドスを去るということだ。

 その結果、カイザーPMCの侵攻を許し大規模な戦闘がアビドスで起きたという。対策委員会と便利屋が組んでこれを撃破したが一時凌ぎにしかなっていない。

 

 呪術の縛りもそうだが、ビジネスや裏社会の契約も如何にデメリットを踏み倒してメリットのみを享受できるかというものになっている。今回のもそうだ。大人が子供を踏み躙り、自身の利益を得ようとしているだけだ。その結果どれだけ子供が苦しむかは度外視だ。

 

 反吐が出る、その一言に尽きる。

 

「……まだだよ」

 

 だが、先生はまっすぐ黒服を見据えている。

 

「──"顧問"である私がまだサインをしていない」

 

 それはある意味屁理屈で──、

 

「だからまだホシノはアビドスの生徒だし、"対策委員会"の一員であり、生徒会の副生徒会長であり、今でも私の生徒だよ」

 

 だけど何故か頼もしくこの場で強い言葉だった。

 

 

「なるほど……。あなたが先生である以上担任のサインが必要ということですか」

 

 黒服の方も馬鹿馬鹿しいと突っぱねるのは簡単なはずだ。だけどそれをしない。契約を重んじるが故だろうか。

 

「ですが、それで返すわけにはいきません。ホシノさえ諦めていただければあの学校のことはなんとしましょう。借金やカイザーPMCの事も。そうすれば残りの子達は何不自由なく学校に通えます」

 

 それでも黒服は簡単には引き下がらない。先生から手を引いて貰えないか交渉を始めた。多分断られるのをわかっていながら。

 

「断る。誰かの犠牲の上でそれを成し遂げるなんてあの子達にも私にも出来ないよ」

「どうあっても敵対すると。しかし、貴女には戦う力などないでしょうに!」

 

 先生も譲らない。分かりきった答えを再度黒服に叩きつける。

 

 

 そして、先生は懐から一枚のカードを取り出した。

 

 

(なんだ……あれは?何か力を感じる……。一見ただのクレジットカードだけど、何か変だ。呪具とかの類か?)

 

 

「……先生、それは確かにあなただけの武器です。ですが、そのリスクをご存知では?」

「構わないよ。それで生徒が救えるならね」

 

 これで話は完全に終わっただろう。謎のカード1枚で黒服が困っているあたり、それだけのパワーがあるのはわかる。

 

「──ホシノはカイザーPMCの基地の中央にある実験室にいます」

「!!」

 

 折れたのか黒服はアッサリと小鳥遊さんの居場所を吐く。

 

 

「そこで私の雇った刺客からキーを奪えば救えますよ」

「……じゃあ帰るね」

 

 一通り話し終えた後、先生が帰っていく。その足取りは重く表情は険しい。覚悟を決めた人の目をしていた。

 

 

(とうとう来てしまったか──恨むぞド腐れピータン)

 

 

 

 俺の方はこれからの事を考えて憂鬱になる他なかった。




だいぶ端折ったのに長いなあ……
次回からは主人公が明確に先生と敵対することになります

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