親父、お袋、姉ちゃん……俺は元気でやってます。呪術師として生きてきて酷い目にも遭ったけど何だかんだ楽しく生きています。まさかの異世界に飛ばされていますが元気で、楽しく――。
「食への冒涜ですわ!!」
「お、お待ちくだ……ほわあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「ほわあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
どこかの誰かさんの声が聞こえた後、店主の断末魔と共に店で大爆発が起こる。どこからどう見ても元気で楽しくなんて言えない光景だ。
俺はちょうど店内に座っており、ちょうど食べ終わったところだ。微妙な感じだからもう来るのはやめようか、なんて考えていたらこれである。俺も店主同様情けない断末魔を上げながら脱出するほかなかった。
「ふふっ、浩介さんあなたもいらしたんですね。ご機嫌よう良い美食日和ですね」
「どこがだよ。俺を殺す気か!?そもそもよくないから爆破してんだろ!?」
爆発に巻き込まれそうになったが運良く助かったところに今一番話をしたくない人に声をかけられる。飲食店を爆破しておいて良い美食日和なんてほざく可笑しい美人が俺のそばに立っていた。
いや、ホントに黙ってれば美人なのになぁ……。
「黒舘先輩。確かにこの店は……まずい!!どうしようもないほどに!!」
「結構ハッキリ言いますのね」
「ひーん……」
ごめんよ、店主。流石にまずいんだ。俺の頼んだステーキ、筋だらけで食えたもんじゃねえんだ。ちゃんとした材料を使ってくれ。
黒舘先輩は俺がハッキリと言うのに驚いて目を見開いている。大方いくらなんでもこんなことをするなんて酷いだろ、なんて言うと思っていたのだろう。
「いや、俺も料理は好きだからそこんとこはうるさいだけさ」
「ほう?……ふむ、でしたらどうです?私たち美食研究会と一緒に活動しませんか?」
「やだね。火宮さんになんて言われるかわかったもんじゃない。入るなら給食部だね」
俺と黒舘先輩は他愛のない会話をしながらお互いを見据えていた。わかりきっている誘い文句に付き合いつつもそっとホルスターへ手を伸ばしてハンドガンに手をかけ、セーフティを外す。
黒舘先輩は俺の意図に気づいていないのか暢気に自身の組織への勧誘を欠かさずしてきた。もし気づいていたとしても同じことをしてるかもしれないが。
「そこまでだ!!美食研究会!!!」
「あらあら、厄介なのが来ましたね」
俺の攻撃の準備を整えたところで大きな声が辺りに響く。声量が大きく気持ちの良いほど頭に響いてきた。これはゲヘナ学園でも治安維持を目的とした巨大組織、ゲヘナ風紀委員会のお出ましの合図だった。
その声を聞いてから黒舘先輩もようやく少しは緊張したのか冷や汗をかいていた。舐めやがって、俺は眼中にないってか。
しかし、こうなれば自分の出る幕はない。危ない目に遭わされたことへの細やかな仕返しは出来そうにない。
そう思って撤退しようと辺りを見渡すと自分の顔なじみがこちらに気づいたのか歩み寄ってくる。呆れた顔をしてこちらを見ており、黒舘先輩から守るように俺の前に立つ。
「はぁ……災難ですね。あなたはキヴォトスの外から来た人なんですから銃撃戦に参加しないでください。命を落としますよ。浩介君」
「いや~、助かったよ。火宮さん。ありがとう」
俺は顔馴染みの同級生、火宮チナツさんが割って入ったのを見てセーフティをかける。助けに入ってくれたことにお礼を言いつつその場からいそいそと離れる。
こうなると激しい銃撃戦が勃発するのは目に見えている。初めて来た時はたまげたが今となっては日常の光景だ。
離れている最中に何人かの風紀委員の子達が黒舘先輩の背後を取ろうと迂回しているのを見かける。いつも思うが大変だなあ。
やがて、風紀委員の子達も見なくなった頃に俺は辺りを見渡して高いところがないか探す。
「お!あそこがいいかな?靴を脱いで……よっ……とっ!!」
一回り大きな建物を見つけたのでジャンプする。目標は勿論屋上だ。普通なら届くわけがない。それでもやっているのは届かせることができるからだ。
靴を脱いでいたのは術式を使う為、自身の術式で炎を出してロケットみたいに飛ぶためだ。なんでって?靴が燃えるからだよ。
「ほい、屋上到達〜。高みの見物と洒落込みますかね〜」
――ズダダダダッ!
――ズガンッ!
俺が屋上に辿り着いて観戦を始めた頃には既に銃弾の雨霰が戦場に降り注いでいた。これが元の世界なら戦場に真っ赤な薔薇が咲いていたのだろう。
しかし、ここはキヴォトス。咲き誇る花は女の子達の悲鳴と戦いの匂いに駆られて高揚した声だ。
――ブー!ブー!
「誰からの電話だ?……ハァ」
観戦中にポケットの中にある携帯が鳴り響く。マナーモードにして音楽が鳴らない時に聞こえるバイブ音は今の観戦には少々邪魔な存在だった。
仕方なしに携帯を取り出し、着信先を確認するとこれまた嫌な気分になる。かけてきた人はなるべく関わりたく無い。それでも無視するわけにはいかないので出る事にする。
『もしもし、浩介さん。例の件ですがーー』
「えー、おかけになった電話は只今風紀委員と美食研究会のドンパチの野次馬をしているためお話できません。俺の口笛の後に電源が切れるので30分後ぐらいにまたどうぞ」
『そんな悪戯をするのは感心しませんねえ。前に結んだ縛りの件でーー』
「とぅるるるるるるん!!!」
『いやそれ電話に出る前の……』
――Pi!ツーツー……
電話に出るや否や思いつく限りふざけ倒してその勢いで電話をぶっちぎる事にした。最低だがこの手に限る。
なんだかんだ言って楽しい生活だから奴の声はできるだけシャットアウトしていたい。こんなバカみたいな事からお勉強まで何から何まで青春を貪りたい。完全にワガママなのは考えないことにする。
――ブー!ブー
「またかかってきたよ。当然のことだけどさあ……。……もしもし黒服」
『ただいまお出になった電話は怒りの再コールです。5秒後に黒板を引っ掻くような音が響きます。ご注意ください』
――キキィ!!
「だあああああっ!?ごめんって!!!」
再度かかってきた電話に出て話を聞こうとすると電話をかけてきた主、黒服がちょっと怒ってそうな声で警告してきた。その直後に本当に黒板を引っ掻くような音が響いてきて面食らってしまう。滅茶苦茶怒ってるじゃん。
謝罪して取り敢えず本題に入って早く話を終わらせよう。どのみち悪戯をしかけた俺が悪い。
『クックックッ……、ようやく話に入れそうです。ふぅ〜……少し……気分が優れないですが』
「自爆してんじゃん。大丈夫か?ピータン?」
『もう貴方のボケには付き合いませんよ?』
「それは残念」
黒服は今の音に少し気分を悪くしたようだが、本題に入ろうとする。ガン無視して本題に入ればいいのにこんな仕返しをするあたりノリはいいのかもしれない。
俺は茶化すように一応大丈夫かどうか聞いておく。しかし、もう真面目モードに入ったからなのか淡々と返されてしまった。
「後少しで死ぬところだった俺の治療をして生活費まで支払ってもらってるからな。……どんなに嫌な依頼でも一度引き受けることと呪力の研究に協力すること。これが縛りだもんな」
『クックックッ……、ええそうですね。とっても危ないことをお願いします』
「……アビドス高等学校か?」
『ええそうです。わかっていますね?私の依頼がなんなのか』
俺は渋々電話先の黒服に向けて結んだ縛りの内容を復唱する。莫大な治療費の支払いとキヴォトスで生活するための支援を受ける代わりに汚れ仕事を一回引き受けることと黒服が満足いくまで呪力の研究に付き合うことが条件である。
嫌な仕事、これが特に問題であり出来る事なら縛りなんか結ばず跳ね除けたい。しかし、そうすれば治療費による借金が降り注ぐことになる。その額は一億になるとのことで、違う世界に来て右も左も分からず学も戸籍もない状態になってしまった自分には降りかかるだけで死を迎える。要求を飲むほかないのであった。
ーー結局のところ俺は自分の身が危なくなれば容易く他人を傷つける方を選ぶ人間だ。
『では、改めまして。貴方にお願いするのはキヴォトス最高の神秘を持つ小鳥遊ホシノを私が確保・保持するために発生するあらゆる戦闘行為への参加です』
「……チッ」
黒服が依頼内容を淡々と述べ、俺は沈黙する他なかった。電話先の黒服はいい顔してるだろうことは容易に想像がつく。出来ることは舌打ちぐらいであった。
・火野浩介
ゲヘナ学園1年生
銃撃戦に飽き飽きしているようで楽しんでいる
元が命のやり取りをする呪術師だからかキヴォトスの戦闘は滅茶苦茶危険なのに緩く構えている
黒服に対しては逆らえないとはいえ思うところがあるので嫌がらせのようにボケ倒す
・黒館ハルナ
言わずと知れた美食研究会会長
浩介のことはまぁまぁ気に入っている
浩介からの呼び方は黒館先輩
・銀鏡イオリ
大声出して警告しただけ
・火宮チナツ
浩介の同級生。呼び方は浩介くん
浩介からの呼び方は火宮さん
銃撃戦に巻き込まれて万が一があったら、なんて思うと怖いので守ろうと思っている
・黒服もといピータン
なんか変な力持っている少年が落ちてきたので取り敢えず保護した
その際に発生した高額な治療費で脅して浩介を従わせている
浩介からガキのような嫌がらせを受けるのにちょっとキレて、同レベルの仕返しをしちゃうぐらい毒されてきた
更新時間はいつが良いでしょうか?
-
22時〜0時ごろ
-
7時ごろ
-
19時ごろ