きっと浩介にとっては大切な話
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これからもがんばります
「で?今度は脱走しないんでしょうね?」
「開口一番にそれ?まあ……俺が悪いけどさ」
またもやゲヘナ救急医学部で会うことになり火宮さんは不機嫌そうだ。脱走をやらかした患者が今度は身体中に切り傷を作ったのだから無理もない。
「幸いにも明日には退院できるそうです」
「救急医学部の方には足を向けて寝られませんわ、本当に……」
なんだかんだ言ってすぐに復帰は出来そうで助かる。反転術式が必要なほどの怪我ではないからではあるが、それでもこの速度は患者としては嬉しいものだ。
実際は空崎委員長が山のように不良を鎮圧するから病床が足りない故に傷が浅い俺が追い出されたからだろうが──、まあ……気にしたら負けだ。
「ところで浩介くん。明日は空いてますか?」
「ん?空いてるよ。バイトもない」
火宮さんは和かな表情をして問いかけてくる。予定は当然ない。黒服の頼み事や短期で申し込んだバイトや賞金首討伐も特に無いので、トレーニングかバイト探しでもしようかと思ってたレベルだ。
何をお願いされるだろうかと少し頭を捻り、思い出そうとする。火宮さんは意味もなくこんなお誘いはしないだろう。何か約束してることがあるはずだ。
「──あっ!駅前の喫茶店と哲学本!」
捻ったところで思い出してのは、先日の美食研究会の追跡の際に火宮さんと約束した内容だ。ある喫茶店でショートケーキ1つと欲しい本1冊奢ってくれ、と言われたやつだ。
「覚えてくれてたみたいですね。私はその……明日は空いていますので約束を果たしてくれたなぁ〜って」
「オッケー!何時に駅前がいい?」
「では、11時ごろで」
何気なく友人と約束をする。こういったことはいつぶりだろうか。こんなことをしてくれる火宮さんには感謝しかない。
前の世界では虎杖くん達とよくつるみ、色んな任務のついでに食事をしたり遊んだり楽しかった。あれが本来送れる俺の青春だろう。だが、それはもう二度と叶うまい。
しかし、よくよく考えてみればこれはただの友人とする約束とは訳が違う。同級生の女の子と喫茶店に行ったら買い物に行くのだ。意識してなかったとはいえこれではまるで──
「デートじゃん」
センチメンタルから一転、ドギマギし始める。
「俺から誘えよ……俺のヘタレ……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜当日、駅前にて。
「……待った?」
「いいえ、今来たばかりです。ふふっ」
互いにお決まりの台詞から始まった。色々と俺の内心はぐちゃぐちゃだ。
まず、火宮さんの服装は普段の赤色コーディネートから様変わりし、落ち着いた水色のワンピース、リボンとかなり外行きを意識したお洒落な格好だ。滅茶苦茶可愛い。普段見れない分破壊力は抜群だ。
──こんなの緊張が止まらんって!!
「じゃ、じゃあ先に喫茶店から行こうか……」
「ええ、ランチにしましょうか」
緊張が止まらないがそれで停止するわけにもいかない。取り敢えず約束してる分を果たさねば。
少し落ち着くためにも喫茶店の席につきたい。座って珈琲でも飲みながら気持ちをリセットしよう。
カランカラン♪
店に入り、まず入店を知らせる音が鳴り響く。ベルを打ち鳴らし、それが合図となったのか店員さんが1人こちらに向かってきた。
「いらっしゃいませ!2名様でしょうか?」
「はい」
「席にご案内します!こちらへどうぞ」
よくある店員とのやり取りをやって席に案内される。案内された席は小さなテーブルにイスが2つ向かい合うように配置されたものだった。
俺と火宮さんは案内されるがままに座る。座った先に火宮さんがいて、普段よりも彼女が近くにいるように見えた。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「ショートケーキと珈琲を」
「自分も同じものでお願いします」
注文を済ませ、お互い注文の品が来るまで暇な時間になる。友人と一緒ならスマホを弄ったり、お馬鹿な話に花を咲かせ時間を潰すタイミングだ。
しかし、普段仲良くしてもらってはいるが火宮さん相手は緊張する。釘崎さん相手だとそんなこと一切なかったのに。あれはもしかしたら基本、他の男も一緒にいるから友達としていられたのかもしれない。
「意外に緊張してるんですね?普段はおちゃらけているのに」
「おちゃらけてって……。流石にそんなこと……あるな……」
「ふふっ!意外と可愛い反応をするんですね」
「可愛いって……あー、もう……敵わないなあ……」
何を話そうか迷っていたら火宮さんに揶揄われる。彼女は俺の反応が意外だと思っているようだが、俺からすればこういう事をするのを意外に思っている。完全に手玉に取られてしまった。意外と小悪魔なのか。
「普段とのギャップが凄いよ」
「あら?浩介くんは普段の私をどう思ってるんです?」
「頼れる真面目ちゃん」
「ふむ……、真面目ちゃんはともかく頼れるって言ってくれるのは悪い気はしません。女の子を褒める言葉としては15点でしょうか♪」
「勘弁してくだせえ……」
もう完全に遊ばれてる。不機嫌にならないならそれでいいやとすら思えてくる。楽しそうでなにより。
「……浩介くんは普段、勉強もそれなりにして問題行動を起こす側ではないので助かっています。呪霊と戦っている時は凄く勇ましいですが」
「……呪霊と戦う時に何かまずいことした?」
「いえ、周りの被害も少ないです。凄く高い火柱を見た時はたまげましたけどね……。下手な花火よりも明るかったですよ、あれ」
「すいません」
やべ、あの火柱はやり過ぎたかもしれん。かなり周りを照らしたらしい。控えるのは恐らく出来ないが、だからって何も気にしないなんてわけにもいかない。
「あ、浩介くんが謝ることはないですよ!あの時に耳を噛まれた子も貴方がいなければ大変なことになってたでしょうからそのぐらい仕方ありません」
「あ!そういやあの子は無事に復帰できそうか!?」
「ええ、もう復帰の目処が立っています。お礼も言っていましたよ。お陰でまだまだ風紀委員でいられるって」
火宮さんはあの火柱を仕方ないで済ませてくれるらしい。結構全開でやったから高温や閃光がヤバかったはずだ。ゲヘナ故の反応だろうか。
あの時式神に噛まれた長耳の子も既に復帰の目処が立っているとのこと。流石ヘイロー持ちと言ったところか。中々頑丈だ。
「そうか、そうか……よかったぁ〜……」
とはいえ、危険だったのは間違いなかったので無事に過ごせそうなら何よりだ。安堵の息が漏れる。
「浩介くんはあの化け物を討伐するだけでなく、ちゃんと人の心配までしてくれるんですね」
「当たり前だ」
「……そこまで言い切るレベルなら風紀委員に入ればいいのに……」
「俺がか?高く買ってくれるのは嬉しいけど……いい人じゃないよ。俺は」
俺が安堵した様子を見て、火宮さんは微笑んだ。俺を高く買ってくれているようだ。嬉しいが、とても素直に頷けない。もうとっくにこの手は汚れている。人の焼けた匂いが鼻と脳にこびりついた今となってはその言葉は心がズキリとしてしまう。
俺はもう人を──、
「そんなことはありません」
脳裏にあの日の出来事が浮かび上がる前に否定の声が聞こえてくる。
「貴方は人を助けるために一生懸命やっているじゃないですか。初等部の子の時もあのカマキリを倒すよりも先に守ることを優先しました」
彼女の声がよく響く。
「私はまだ貴方のことをよく知りません。でも、誰かを助けたいっていう気持ちが強いことはわかっているつもりです」
涙を堪えるのも大変なほどに。
「そんな貴方がもし試練にぶつかった時、苦難に負けそうな時があれば──、風紀委員が……わ、私が一緒に立ち向かいます」
そして、火宮さんが言い終えた頃には自然と涙が溢れていた。
「あ!?こ、浩介くん!?ご、ごめんなさい!何かまずい事をして──」
「いや、いいんだ。チナツさん。少し嬉しくてついこうなったんだ。大丈夫だから」
「ならいいのですが……」
俺が泣いてしまったのを見てか、火宮さんは慌ててしまう。ちょっと申し訳ない。
「あ、初めて聞きましたよ。下の名前で呼んでくれたの」
「ええ……、そこ食いつく?涙引っ込んでしまったよ、もう……」
ただ、ここでまさかの所に火宮さんは食いつく。思わず下の名前で言ったのをちゃっかり拾い上げたのだ。俺の涙はあっさりと引っ込んでしまう。
「ふふっ♪折角ですし今後も下の名前の方で呼んでくれますか?」
「え!?……じゃ、じゃあよろしくチ、チナツさん」
どうしようか。俺はもうこの人には敵わないかもしれない。グイグイ来る。
俺が下の名前で呼んだのを聞いてニコッと微笑んで返してくれた。その顔はさっき浮かんでいた嫌な出来事を完全に吹き飛ばしてしまう。
「ええ♪よろしくお願いします」
この後のコーヒーとケーキは味わうどころではなかった──。
なお、この後の哲学本で財布がすっからかんになり冷静になりました
浩介「チナツさんが嬉しけりゃいっか……」
も や し せ い か つ
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