単眼猫に丁寧に丁寧に曇らされた彼ですが、その一連の流れもある意味魅力的なキャラだなって思います
……ブルアカも大概丁寧に曇らされるよね
幕間 夏油傑と火野浩介
とある山奥、ここで火が立ち昇っていた。呪力による発火、それは1人の呪術師によって操作されていた。右に行けと念じれば右に行き、分裂させようと思えばその通りに動かせた。まだ高校生にもなってない少年の修行の光景だ。
「やあ、精が出るね。来年はいよいよ高専入学かい?」
そんな修行の最中に袈裟を着たい男が声をかける。まだ30にも行かない若い男だが既に貫禄のようなものを漂わせている。男は少年の修行の出来に満足そうだ。
「夏油さん。何度も言った筈だ。俺は貴方の下には着きません。姉ちゃんの事は感謝してますけどね」
「だからこそ私の意思に賛同してくれそうだと思ったのだけどね。浩ちゃん」
「まだ3歳児の頃のように思ってるんですか?貴方を兄のように思ってたのは昔の話です」
「およよ〜反抗期は辛いねえ〜グスッ」
「うわ……きも……」
少年は袈裟の男もとい夏油傑の思惑を知ってかまだ何も言ってないのに否定する。あまりにも強く否定するからか夏油傑は泣き真似までする始末だ。
「私は本気で言ってるんだけどね。例え君が同胞を焼き尽くしていたとしてもね」
「……俺としてはハッキリとそれでノーを突きつけたつもりだったんですよ。まだ敵討ちの方が理解できる」
2人は己の呪力を駆け巡らせる。今にも互いを叩かんと言わんばかりの一触即発。
ザッ!
2人は同時に駆け、己の拳を互いにぶつけ合う。その結果は──、
「がっ!?」
──少年の負け。大きく吹き飛ばされる。
後方に吹き飛ばされても自身の術式を使用して炎を足と手から噴出する。それにより勢いを減衰させ、木々に衝突するのを避ける。
「まだまだぁ!!」
その炎は未だに噴出を続け、今度は推進力となる。少年は勢いよく突っ込み、お洒落袈裟野郎を睨む。速度はとても人間が出せるようなものではない。
「随分と自分の術式を使いこなすじゃないか!」
夏油は歓喜しながらもしっかりと浩介を目で追っていた。速度は既に自分より早いが、まったく捉えられないほどではない。目をかけてた子が成長していることを喜ぶ余裕さえある。
そして、浩介は夏油の真正面に突っ込んで行った。
「はぁっ!!」
浩介は右手を広げて左から薙ぎ払う。それに沿うように炎が放たれ、夏油の視界を炎で埋め尽くす。炎は今にも夏油を焼こうと迫っている。
夏油は呪霊を出して盾にしようと構える。弱い呪霊でも盾には充分使える。浩介の炎ぐらいならそれでいいと考えていた。
しかし、それは却って危険だった。
チャキ……。
「!?」
夏油が見たのはいつの間にか後ろに回っていた浩介だった。炎はあくまで目隠しで本命は後ろからの銃撃だった。拳銃はしっかりと呪力が籠っているのを感じ取れる。
「"焔"」
浩介はとっておきの一撃を放つ。何人もの呪詛師をこれで葬ってきたのだ。完全に虚をついた今なら自分でも可能性はある、そういう"自惚れ"が浩介にはあった。
夏油の行動は早かった。呪霊による防御は弾丸の方に回し、迫り来る炎は敢えて飛び込み素早く炎を抜けることでダメージを最小限にした。少しばかり袈裟が燃えたが、転がり素早く消火する。
「残念だったね。ここからは少し本気で相手してあげよう」
「上から物言ってるんじゃねえ!!」
夏油は新たに呪霊を出し、その呪霊の口から赤い三節棍を取り出す。それは純度の高い呪力を持っており、ただの武器ではないことは明らかだった。夏油は勢いよく振り回す。
特級呪具、游雲。特級の名を関する呪具だが、特に術式を持っているようなものではない。あるのは──、
「がぁっ……!?」
力、それだけである。故にこの呪具は使う本人の技量や膂力に大きく左右される。夏油傑のそれらはトップクラスのそれだ。
浩介の左腕に直撃する。ミシリと音を立ててこの戦闘で左腕が使い物にならない状態へと追い込まれる。
「うぅぅぅぅっ!!」
恐ろしい程の激痛に襲われながらも浩介は怯まなかった。獣のような声を上げながら夏油を睨み、拳銃の照準を合わせる。呪いと殺意を込めて圧倒的格上に噛みついていた。
バン!バン!バン!
"焔"ではないただ呪力を込めた弾丸を発射する。人間であれば充分に殺せるだけの威力はある。綺麗に当たれば、という前提が必要ではあるが。
相手は特級術師。呪霊操術の使い手だ。圧倒的な手数を誇り、攻撃、防御に何でもござれのインチキを相手にしている。
「ぐえぇ……」
今回も呪霊を盾にされて防がれる。呪霊は耐えきれず消滅しているが、夏油本人に届いてはいない。夏油自体も銃弾は当たれば危ない事を示しているが、まず当たらない。
「術師を相手にするなら確かに銃火器の類は有効かもね。だが……」
夏油はゆっくりと浩介に近づく。盾用の呪霊をしっかりと出して警戒しながら、ゆっくりと。
拳に呪力を纏わせ、振りかぶる。眼前に敵の意識を刈り取るために。
「術師ならまずは自分の肉体と術式で私に並べ」
夏油の拳は浩介の鳩尾を捉え、深く突き刺さる。浩介は避けられないと見るや、しっかりと呪力でガードはしていた。
だがこの瞬間、無情にも黒い火花が散る。
「うっ!?かはっ!?」
「黒閃が出たか。……大人気ないなんて言うなよ?」
この一撃で浩介は口から血を吐き出し、完全に戦闘不能となる。膝をつき、力が抜けていく。
「やるじゃないか。浩介。私の黒閃を喰らっても生きているとはね。君のお姉さんよりは筋がいい」
「はぁ……はぁ……何言ってやがる!姉ちゃんを馬鹿にしてんのか?」
「そこまで氷夏を思ってるからこそ私の理解者足りえるだろうに……」
戦闘は終了し、2人は向き合う。お互いにとって共通の大切な人の事の話へとシフトしていく。
「姉ちゃんは……本気でお前の事をっ!非術師を守ろうと必死に頑張るお前のことが好きだったんだぞ!それなのにお前はっ!!うぶっ、ガッ!?」
浩介はズタボロになった身体を引き摺りながら大声で叫ぶ。無理に動かすからか口から大量に吐血してしまう。今にも死の間際といったところだ。
そんな浩介を見て、夏油は沈んだ表情をして目線を彼と合わせる。まるで子供と対話する時の大人のように。しかし雰囲気は何故かどす黒い。
「あぁ……知ってるさ。よく知っているとも。だからこそ私は猿どもが嫌いなんだ。よく思い出すんだ。氷夏を殺したのは──、
──どんな奴らだったかを!!!」
「そ、それは……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「それは……」
その先の言葉を言おうとしたら視界が切り替わる。部屋の温度は快適なのに何故か凄まじい程の汗を流し、とてもいい目覚めではなかった。
今のはかつてあった出来事だ。先日、チナツさんといい感じになれたのにこれとは幸先がいいとは言えない。
「早くしないと遅刻しちゃうな……」
気怠げながらも登校のために準備を整えていく。今日の講義用のテキスト、スマホ、財布など抜けがないか確認。抜けがないのを確認したら制服へと着替えていく。
着替える最中にさっきの夢で見た光景のことをどうしても考えてしまう。自分はどうすればよかったのか、と。考えても仕方のないことを延々と巡らせてしまう。
「俺はただ……」
ポツリ、と無意識に漏れる。俺のやりたい事。
「ただ、誰にも傷ついて欲しくなかっただけなのに……」
複雑に混ざり合った気持ちや考えから抽出された純粋な思い。それは簡単ではないしあっさりと踏み潰されるのを嫌でも思い知らされている。
「考えてても仕方ねえ。まずは目の前のことを何とかしよう」
でもだからってここで不貞腐れていられない。誰かに傷ついて欲しくないなら動かないといけない。やるべき事は呪霊退治、学業、ゲマトリアの情報収集など非常に多い。
「行ってきます」
誰もいない家に向かって呟く。いつかは誰かと一緒にいられたらいいな、なんて思いながら。
この時の俺はまだ知る由もない。これから厳しい事態が起こっていく事を──。
・火野 氷夏(ひの ひなつ)
浩介の姉。高専生1年の時に亡くなっている。
七海建人や灰原雄の同期。
夏油の事が本気で好き。あいらぶすぐるげとう!
・夏油傑
お馴染み特級呪術師もとい最悪の呪詛師
氷夏の気持ちには気づいている
返事をする前に喪ってしまった
・浩介
夏油とは高専離脱後も関わりがあった
百鬼夜行に誘われているが頑なに固辞
なんなら夏油一派の呪詛師を数人殺してる
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