呪いは廻り、神秘は透き通る   作:ソックス

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今回はだいぶ端折ってしまってます
アレが好きなのに!ていうものが多々あるかなって思いますが申し訳ありません


38 火の呪術師は戦場に舞い降りる

 許せない。ただその気持ちが強かった。彼が倒され、敵に連れ去られたなど聞いた時には本気でどうにかなりそうだった。

 

「チナツ……」

 

 心配そうにしながらアコ行政官は私を見ていた。その目は申し訳なさと切なさが混じったかのようなものだ。本当に私の事を心配してくれているのだろう。

 

「……こんなことを言うのは気が引けますが今は……」

「わかっています。私は……風紀委員ですから……」

 

 アコ行政官の言葉は私を気遣う様子が見られた。ヒナ委員長が彼を警戒していることから目の敵のように見ていたのだが、だからって訃報を聞いてほくそ笑むような人ではない。本気で彼の死を悼んでいる。それがわかるからこそ余計に辛かった。

 この思いは何にぶつければよいのか。アリウスにだろうか。果たしてそれでいいのだろうか。そんな思いが私の中を駆け巡る。

 守るための戦いはともかく、個人の恨みで私刑を実行するのは理性が歯止めをかける。この時ばかりは自分の強い理性を恨みたくなるほどだ。

 

 ──ブー!ブー!

 

「チナツ、あなたに連絡が来ていますよ。取りなさい」

「はい。失礼します……」

 

 ここで誰かから連絡が入る。これからアリウスに対して反撃をするという時に誰だろうか。気は進まないが自分のスマホの画面に目を向ける。

 

「え……」

 

 そこに表示された名前はあり得ないものだった。タチの悪い悪戯だと即断定してしまいそうになるほどのものだ。

 

 だけど、縋りたくなる。もしかしたら、という思いが捨てきれない。

 

 そう思ってから私の手の動きは早く、着信相手『火野浩介』の電話を取る。

 

 

『お、出た出た。チナツさん。突然の電話で申し訳ないけど──』

「浩介君……本当に本当にあなたなの?」

『え?そうだけど……何があっ──』

 

「よかった……生きて……」

 

 電話先の相手は本当に彼で私は安堵する。少なくとも死んではいないことがわかった。ただそれだと彼はどこに居るのだろうか。

 

『今、連れ去った奴らのところから脱出して条約会場に向かってる。あと30分で戦場に到着予定だ。俺も戦うぞ』

 

 どうも連れ去られた事自体は本当らしい。そこから脱出して逃げているのだろう。すごい風の音がするので飛んできているのが想像できる。

 

「戦うって……あなた死んだと思うほどの怪我をしてるのですよね!?風切り音がするから飛んでいるのですか?私が迎えに行き──」

『チナツ。今はそれどころじゃないはずだ。アリウスの侵攻を止めなきゃ』

「それどころじゃない!?貴方の怪我は戦うどころじゃないでしょう!?」

『あー……それはだな……』

 

 戦うつもりでいる彼を止めなくてはいけない。聞いた話では銃弾を何発か貰い、ナイフでかなり刺されたという。本来なら傷の深さや失血多量で死に至るレベルだ。

 だが今の彼は恐らく全速力でこちらに飛んできている。風切り音からかなりの空気抵抗を受けている。それほどの衝撃を受けていればズタズタにされた身体を更に痛めつけるのは想像に難くない。

 だというのに彼は歯切れの悪い感じで返事をする。とても怪我人には思えない。

 

「チナツ……まさかとは思いますが……」

 

 私が声を荒げたからかアコ行政官は呆れた様子でこちらを見ていた。もう察しているらしい。先程の会話はなんだったのだろうか。

 

「はぁ……スピーカーをオンにしてください」

「……はい」

 

 何か言うつもりなのか今の通話のスピーカーをオンにするように指示があった。私はそれに従い、スピーカーをオンにしてスマホを行政官の前に持っていく。

 

「取り敢えず……生きていたことは嬉しく思います。ですのでチナツを迎えに出しますから貴方は大人しくしてなさい」

『その声は……天雨行政官か?傷ならもう治したし迎えに来てもらうのも悪いかなって……』

「はぁ?」

『スイマセン……』

 

 アコ行政官は私の気持ちを察してか浩介くんに詰め寄る。私を迎えに出す提案をするが、浩介くんは治したし迎えに来なくてもいいと言ったのだ。治したなんて明らかな嘘を言うものだからアコ行政官も呆れる。

 彼も謝罪するがこの様子だとまたやるだろう。見張れる時は見張った方が良さそうである。今回は生きていたから良いものの手遅れだってあり得る。

 

『でも、お互いにやることがあるはずだから迎えは本当にいいよ。戦場で待っててくれ』

「浩介くん!!」

『じゃあまた』

 

 不利を察したのか逃げるように彼は通話を切る。結局打ち合わせも何もなしに戦場で出会う約束を一方的につけられただけだ。

 

 

 

 

 ──電話を切る時の『じゃあまた』は嘘じゃ許さないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「アズサ……!貴様は……!」

 

 戦場は雨が降り注いでいた。普段なら傘をさし急いで家に帰ったり、傘を持ってないものはどこかで雨宿りをするのだろう。それこそ友達と一緒にするのだろう。

 だが、ここはエデン条約の会場だった古聖堂跡地。つまり戦場である。この雨は戦うものに戦いの傷だけでなく体温まで奪う非常なムチだ。

 

 そんな中、身体をボロボロにし友達に支えられる者がいた。白洲アズサである。

 

「ヒフミ……」

 

 アズサは自分を支える友達を見る。その友達であるヒフミは今にも泣きそうな顔をしながらアズサを見ていた。

 

「アズサちゃん……私はすっごく怒っています。すっごくです」

「……」

 

 ヒフミは怒りを吐露するが、表情はそんなものは微塵も感じさせなかった。あるのは心配とアズサと出会えた喜び。

 

「ですが、無事で良かったです。すっごく怒ってましたがよく考えてみればアズサちゃんのせいじゃありません。ですから、私はもう怒っていません」

 

 本当に嬉しそうにアズサを見る。ヒフミは今すぐにでもアズサを抱きしめたいが今は状況が状況なのでそこは堪える。

 

「いや〜、仲良きは良きことかな」

「ホシノ先輩黙ってて。今は多分すっごくいいところ」

 

 そんな友達どうしのやり取りをアビドス廃校対策委員会の面々は黙ってみていた。カイザーとの決戦の際に助けてくれたヒフミに報いるためにここに馳せ参じている。覆面水着団としての絆も当然忘れていない。

 ただ、彼女達は一つアリウスに対して許せない物があった。同じく覆面水着団の一員であり、条約に絡むゲヘナ学園の火野浩介の殺害のことだ。何やら執拗に狙っていたらしい。

 そこまで深い関わりがなかったが、だからって聞いた時は良い気分はしなかった。せめて彼にも報いてあげなければ気が済まない。

 

 

「アズサちゃんが人殺しになるのは嫌です」

 

 アビドスの面々がそんなことを考えているうちにヒフミの言葉は進んでいく。

 

「そんな暗くて憂鬱な話、私は嫌なんです」

 

 補習授業部も、対策委員会もヒフミが綴る台詞一つ一つを噛み締めていく。

 

「それが真実だって、この世の本質だって言われても、私は好きじゃないんです!」

 

 そして、アリウスの面々ですらヒフミの一言一言に傾聴していた。

 

「私には、好きなものがあります!」

「平凡で、大した個性もない私ですが……自分が好きなものについては絶対に譲れません!」

 

 

「友情で苦難を乗り越え、努力がきちんと報われて、辛いことは慰めて、お友達と慰め合って……!」

 

 ヒフミの言う台詞にあるものは今は亡き先輩との思い出を思い起こし、あるものは虚しくても日々を生きてきた記憶を巡らせる。また、あるものは呪いに生きながらも友達と競い合った日々を思い出していた。

 

「苦しいことがあっても……誰もが最後は笑顔になれるような!そんなハッピーエンドが私は好きなんです!」

 

 もうヒフミを止めるものは誰もいない。まるで勝鬨を上げるかのように雨も晴れていく。これからの勝利を事前に祝うかのように。

 

「誰がなんと言おうと何度だって言い続けて見せます!私達が描くお話は、私達が決めるんです!終わりになんてさせません!まだまだ続けていくんです!私の物語……

 

 

 私達の、青春の物語(Blue Archive)を!!

 

 そして、ヒフミが最後の台詞を言い終えたのと同時に完全に空が晴れる。清々しいほどの快晴。これからの門出を祝うに相応しい。

 

「何これ、戒律が!?」

 

 アリウスはそんな台詞を吐くヒフミを潰そうとユスティナ聖徒会を顕現させようとするが、どこか様子がおかしいことに気づく。何か大きな力が邪魔をしているかのようだった。

 

 

「ここに宣言する」

「っ!?」

 

 トドメと言わんばかりにここまで沈黙を貫いていたシャーレの先生が口を紡ぐ。響く銃創の痛みを堪えながらも懸命に自身の力を行使する。

 

「私達が新しいエデン条約機構(ETO)

 

 まずはアリウスの一番の強みである無限兵力の無力化を試みる。アレが最も恐ろしく危険な戒律。だがシャーレの先生には連邦生徒会が自身の代理にと選んだ存在であるためこの戒律にはこの場所でなら干渉が可能だった。

 

「クソッ!」

 

 結果としてユスティナの統制は効きが悪くなる。というより困惑している。ETOが二つもありどちらを守護すべきかを認識できずにいた。これはアリウスにとっても痛手となる。

 

 だが、権力の傾きはまだアリウス側である。理由としては契約を交わすために出向いた自分達の姫、秤アツコの存在である。彼女の血筋は契約の優先権をまだアリウスに持たせていた。

 これならば再び先生を倒せば良い。アツコがアズサの使ったヘイロー破壊爆弾で重傷を負って統制に影響が出たようなことになるはずだ。

 

「ヒヨリ!!」

「は、はい!!」

 

 サオリの指示は早かった。今自分達の中で最も先生を仕留められる可能性の高いヒヨリに狙撃を命令する。ヒヨリは何をしろと言われたわけでもなくすぐさま撃とうとする。彼女も状況を察しているのだろう。

 

 

 

 

 

 ドオン!!

 

 

 

 

 

「かっ……がっ……」

「ヒヨリ!?」

「今度は何!?」

 

 が、すぐさま何かがヒヨリを襲う。その何かは物凄い力でヒヨリを攻撃して狙撃を邪魔する。突然の奇襲にアリウスは混乱する。次から次へと予想外のことが起こり、あれだけ有利だった戦局は嘘みたいに逆転されていた。

 凄い力で叩きつけられたためか彼女達の周辺は砂埃が舞う。視界もあまり良いとは言えず、まだヒヨリを襲ったのは何なのかわからずじまいだ。

 

「元々連邦生徒会長が条約を結ばせるからこそ介入出来たというわけか。やるねえ、先生」

「その声……貴様……!」

 

 襲った者の声がサオリの耳に届く。それはもう聞くことのないはずのものだ。サオリの心象としては驚きもあるが怒りが何よりも優っていた。

 

 

「よお、久しぶり」

「火野……浩介ぇぇ!!」

 

 居るはずのない人物、火野浩介を認識したサオリは怒り任せに銃を抜く──。




チナツに真っ先に連絡してるのは先生よりも先に顔が浮かんだからです。
彼は自分が無事であることを連絡したのはチナツだけです

アズサやアツコ達は概ね原作と同じルートを辿ってます
アズサがヘイロー破壊爆弾でサオリを狙うも結果的にアツコが重傷を負っている流れは変わりません
まだ原作でその一連の流れを見ていない方は視聴をおすすめします
個人的にあの辺りの話はアズサとアリスクの関係性の描写が細かくて好きです
早く本編でも再開しろ

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