呪いは廻り、神秘は透き通る   作:ソックス

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早めに書けたのであげます


43 護法の火、澄んだ青

 

「浩介……?」

 

 先生はただ驚くしかなかった。ヒエロニムスがグロッキーとなり攻撃が止んだことにではない。それを達成するほどの拳を放ったことに驚いている。

 同時に黒い火花のようなものが散り、ただのパンチでないことは容易に想像がついた。いくらなんでもおかしい出来事に呆然とするほかない。

 

「へへっ……!」

 

 何より浩介はどこかハイになっている。何かをキメてしまったのかと疑いたくなるような表情だ。悦に浸っているのか、壊れたのか先生には判別はつかない。

 

「先生」

「どうしたの……?」

 

 浩介は少しして満足気に先生に話しかける。何を言おうとしているのか気になる先生は彼を見つめて話を聞くことにする。少しばかりの緊張、あるいは不安が走る。

 

 

「一撃だ」

 

 浩介はそれだけ言って両手を握り拳する。その後は腕を伸ばした状態で拳と拳を突き合わせる。

 

「一体何を?」

「一撃でアイツを倒す。今の俺が出せる最強の技でアイツを倒す」

「……」

 

 先生は具体的に何をするのか知りたいため軽く問い詰める。そして浩介の実に返答はシンプルだった。先生からすれば結局何がしたいのかはわからないが、彼の目はどこか狂気じみていて追及を許さなかった。

 

 ただ、時間が欲しいと思っていることに先生は気づく。

 

 

「皆んな」

 

 ならば先生の取る選択肢は一つだ。

 

「浩介を守りながら戦うよ」

 

 

 今はこの子の事を信じてあげる。ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 先生は俺の意図を察してくれたらしい。ありがたい。こんな言葉足らずの俺の意図を汲み取って動いてくれる先生を見ると、少し甘えてしまいそうだ。

 

「"陽炎"」

 

 やるべきことは決まっている。今の自分の最大火力である極の番をぶつける事だ。黒閃で何だか気分が高揚して仕方ない。今なら出すぐらいなんてことはない。

 

 呪詞を詠唱し始めて左手が燃える。まだ制御も効かず俺の拳を焼いてしまうのに変わりはないが幾分かマシだった。ミサイルの時は発動に掌印も使ってたことを考えれば大前進だ。また強くなれたことに喜びを感じる。

 

 

「"威光"」

 

 左手の炎からしっかりとした形をした陽炎の弓ができる。透明で触れるはずのないそれは俺の呪力で形を安定させ炎の矢を射ることの出来る完成形へと至る。

 後の課題は俺の腕が焦げるのを何とかするのと詠唱の省略だ。課題の余地があると思うとどこかワクワクしてしょうがない。いつもなら今の状況でワクワクなんてとても出来ないというのに。

 

「"護法と必勝の火矢"」

 

 右手で火の矢を引き、狙いを定める。後はどのタイミングで当てるかだ。巨人やハイレグ集団の攻撃だって掻い潜る必要がある。一人では厳しい戦いだ。

 

 

 でも、今は先生達がいる。

 

 

「コハル!1時の方向!隠れてるスナイパーを仕留めろ!」

「ユウカ!撃ち込尽くしたら椅子に隠れてリロード!ウミカはユウカと入れ替わりで撃つんだ。互いに入れ替わりで銃撃を絶やさず相手を休ませるな!」

「ヒナ!残りを薙ぎ払え!」

 

 矢継ぎ早に先生は生徒達に指示を飛ばす。シッテムの箱と現場を交互に見ながら生徒の名前を呼び、生徒達を動かしていく。情報量も多く処理することも多いだろうに問題なくこなしている姿は感嘆ものだ。空崎委員長だけはスペックの暴力でしかないような気もするが気のせいだろう。

 

 先生の指示に従い、徐々にハイレグ集団の数が減っていく。巨人へのダメージは俺に一任し、邪魔な雑兵を処理する方へ先生はスイッチしたらしい。気づけば一瞬だけ0になっていた。

 

「やっちまえ!!」

 

 先生は先程の俺と同じ台詞を言う。ニヤリと笑って俺を見ていた。お返しと言わんばかりだ。

 

 

「護法火操術、極の番──"祓除火箭(ばつじょのひや)"」

 

 

 矢を巨人に向けて放つ。左手からは炎が消え、焦げた左手が残る。痛みは感じているはずなのにそんなことよりもこれで巨人が倒せるかどうかの方が気になって仕方ない。

 巨人に矢が刺さり、一気に燃え上がる。今までのどの術よりも火力は高く、聖堂は高熱に包まれる。先生達は既に遠く離れており、被害は避けたようだ。

 

 

「ォ─────ァ─────……」

 

 巨人は悶え苦しみ、持っていた錫杖を放してしまう。まるで人のように苦しんでいる姿はどこか憐れみを感じる。ゲマトリアの誰かに造られたアレは果たして生命なのか。

 

 

 

「苦しませてすま────あら?」

 

 

 

 巨人は光となり、聖堂から出ていく。恐らくはゲマトリアの誰かに回収されたのだろう。もしかしたら今後も見ることがあるかもしれない。

 

「……逃げられたね」

「すまない、先生」

「いや、浩介はよくやったよ。偉い偉い」

 

 いつの間にか生徒達は消えており、先生が後ろから声をかけてきた。疲れた顔をしており、これでひとまずの終結が見えたのだろう。安堵していた。

 とはいえ逃げられてしまった。あれほどの兵器がゲマトリアにまだあると思うと苦々しい。黒服に問い詰めてもはぐらかされるだろう。まあ、勝利であることに違いはない。俺もホッとしている。

 

 ワシャワシャ……。

 

「……なんで撫でてるの?先生?」

「ふふっ、こうしてみるとまだまだ子供だね。1年ぐらい前は中学生だったもんね〜」

 

 先生は俺よりも背が高いから170後半ほどある俺の頭も余裕で撫でられる。俺の疑問には対して答えず優しい顔をして誤魔化している。手つきは優しく、正直悪くない。

 

「浩介、アイツらから逃げたくなったらいつでも私に言ってね」

「……もうなんだかんだ言ってアイツらとは深く関わり過ぎた。今となっては簡単に手を切れない」

「そういう話じゃないよ」

 

 あくまで先生は俺とゲマトリアを引き離したいらしい。優しさも当然あるだろうが、これが本音だろう。先生とゲマトリアは互いに不倶戴天の関係性だ。尤もベアトリーチェを除くメンバーは先生を好意的に見ているようだ。

 俺は黒服に呪霊の探索の手伝いをしてもらいつつ、生活費も貰っている。アビドスで負けた時に先生にはカッコつけて手を切ってみせると豪語したが実際は首根っこを掴まれている。医療費の借金は小鳥遊さんの件の手伝いと呪力の研究に協力という形で何とかなっているが、生活費はこの有様だ。本来なら自分はアリウスの側に立つのが筋と言われればその通りだ。

 

 でも、先生はそれを否定する。

 

 

「私はね……子供が責任を負う世界はあってはならないと思ってる。あくまで子供は成長していくのが主なお仕事。そのお仕事を終えたら次の子供に愛を注ぐべきだと思うんだ」

「一体何を?」

 

 先生の独白が始まるが、俺はその意図がつかめなかった。

 

「自分のやりたいこと。例えば夢や信念とかそういったものから自身の進む道を見つけて欲しいんだ。浩介にはあるのかい?」

「夢はともかく信念というか使命感のようなものならあるかな」

「それはゲマトリアじゃなきゃ出来ないこと?」

「……」

 

 急に進路相談が始まった。優しい語り口だけど少し説教臭く感じる。俺に何か気づいて欲しいのだろうか。

 俺のやるべき事、それは呪術師として生を受けたのだから決まっている。呪霊を祓うことだ。その為にゲマトリアの手を借りていた。

 

「出来ちゃうんだな。それが」

「そっか……。でも、これだけは覚えていてね」

 

 先生に対して期待通りの回答は出来ない。恐らくは俺のやりたい事を切り口に攻めたかったのだろうが、もう手遅れである。

 先生はどこか悲しそうな顔をしている。それを見ていると申し訳なく思うが、現実は甘くはない。それでも何か言いたいことがあるらしい。

 

「生徒の主なお仕事は成長すること。それは何も勉強だけじゃなくて、日々の中にあるんだ。バイトや趣味、友達と遊ぶことだってそうだ。きっと人はそれらを青春と言うんだろう」

 

 先生は自身の考えを語り始める。俺はそれを黙って聞いていた。何かに期待してるのだろうか。

 

 

 

「だから私は若人から青春を取り上げるようなことはあってはならないと思ってる。何人たりともね」

 

 先生の言葉に思わず俺は目を丸くする。似たような言葉を聞いたことがあらからだ。

 

 

『若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ。何人たりともね』

 

 

 思い出すのは幼い頃からよく見たバカ目隠し。かつては憧れていた夏油さんの親友の言葉。この言葉を言うようになった背景は何となく察しはついている。彼にとっては大切な澄んだ青だったはずだ。

 奇しくも同じく教職の人からこの言葉が聞けるなんて思いもしなかった。もう会えない恩師と友達の顔がチラつく。

 

 

「ハハッ……グスッ……先生ってのはみんなこうなのかな」

「……私は待ってるからね。だからいつか君の話を聞かせて」

 

 

 

 それからはしょっぱさを感じている俺が落ち着くまで先生はただ優しく見守ってくれた。




今回でエデン条約編終了となります
次回からは何をするかお楽しみに
次ではないけどパヴァーヌもカルバノグもやりたいと思ってます

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