パジャマユウカ、エッッッッッッッッッ!
パジャマコユキ、もふりたい
44 小鳥遊ホシノの隠し事、頼み事
「ここ病院なんすけど……」
「うるさい」
エデン条約、あの事件から少し経ち俺は救急医学部で火傷の治療をしていた。自身の呪力とはいえ直接手を焼いたのだからそれ相応に治療には手間取っている。
しかし、今俺にとって問題なのは別の事だった。俺に銃を突きつける生徒が一名、それを止めるのが3名、静観しているのが1名いるのだ。
「セリカちゃん、ここは病院です。しかもゲヘナの、です」
「だからその銃はしまいましょうね〜。めっ!ですよ〜」
「ん。やるだけ無駄」
答えはアビドス高等学校の皆さんだ。怒るのに無理はないがまさか病院で銃口を向けられるとは思わなかった。そこまでトチ狂った真似をする印象はない。
いや、そういや一緒に銀行強盗したな……。今更か?
「一応聞くけどそれって報復?」
「だったら何?」
「動機はわかるけどここだけはよしてくれ。エデン条約の件でパンパンだから余計なものを皆んなに気取らせたくない。休ませてあげたい」
俺は両手をあげて黒見さんを見つめる。彼女は今もなお怒りで燃えている。自分の先輩を危険な実験にぶち込んだ悪党の手下だった俺の事を憎むのは仕方のない事だ。そしてこれは彼女がそれだけ仲間の事を思っていることの証明だろう。
でも、今はいただけない。ここには毎日怪我人が通っている。入院の要らない人は通うだけだがそれでもかなりキャパを圧迫している。氷室部長やチナツの負担や患者達を思えばここでトラブルだけは避けたい。
「……セリカちゃん、銃をおろして」
「でも!こいつはホシノ先輩を──」
「それでも、だよ。いい子だから、ね?」
「うぅぅぅぅ〜〜……うん……」
「そうそう。それでいいんだよ〜」
埒があかないと判断したのかここまで沈黙を貫いていた小鳥遊さんが優しく諭すように語り掛ける。身長差の関係で若干見上げる形になるがそれでも尚彼女は先輩としての顔を見せる。黒見さんは涙目になりながら反論しようとするが気圧されて銃をおろす。
銃をおろした黒見さんを見て一安心したのかいつもの気の抜けた感じの雰囲気に戻る。ギリギリ届く後輩の頭を撫でて落ち着かせていた。
それにしても黒見さんってわかりやすく猫だな。うぅ〜とか猫の威嚇だし、先輩に撫でられて満更でもなさそうだ。本当の猫なら喉を鳴らしてそうである。
「広い場所にしないか?」
今なら場所の変更を受け入れてくれそうなのでここで提案する。彼女達に怒りを向けられること自体は仕方のないことだ。だからせめて周りに迷惑をかけないようにしたい。
対策委員会のメンバーも同じ事を思っていたのか無言で頷く。取り敢えずはよかったというべきか。
「場所は……学園から少し離れたところに整備されてない道がある。そこなら遠慮しなくていい」
「アヤネちゃん」
「は、はい!……仰る通りの場所は確かにあります。どうしますか?ホシノ先輩?」
「行こっか。皆んな銃での威嚇は無しだよ。今日はあくまで話をするだけだからさ」
俺が場所の指定をすると小鳥遊さんは奥空さんに声をかける。それは具体的な指示こそ含まれてなかったが、雰囲気からして俺の発言の整合性を調べさせるものらしい。奥空さんはすぐに俺の言う通りの場所がある事を調べ上げる。それを見て小鳥遊さんは行くことに決める。
「ん!じゃあ行こう」
「ええ!ハイキングに行きましょう〜」
2年生組はちょっとマイペースが過ぎないか?
────ゲヘナ、整備されていない獣道
「それで今日はどんなご用件で?」
俺は適当に座ってアビドス高等学校の面々を見る。敵対の意思はないと示すように拳銃は奥空さんに渡している。いざとなれば銃はなくても戦えるが、武器を渡すという行為はキヴォトスではこれ以上ない停戦を示すものらしい。
対して向こうは小鳥遊さんが近くに立っており、残りのメンバーは少し離れたところで見ている。小鳥遊さんは自慢の愛銃を持っており、もし戦闘になっても向こうが有利になる。
「いくつか聞きたいことがあってさ。……黒服とはどういう契約を結んだの?」
小鳥遊さんは俺の質問に対していくつか聞きたいことがあると返す。いくつか、ということは複数あるだろうことが窺える。
そして最初の質問は黒服とのやり取りについてだ。向こうは迂遠なやり取りなどなしに行きたいようである。
「俺はいくつか理由があって黒服の言うことに従っている」
「どんな理由?」
「一つはキヴォトスに来た時に追った大怪我の治療で発生した治療費の返済代わり、二つは奴が俺の欲しい技術を持ってるから。大きくはこの二つだな」
黒服から特に口止めの要求はない。ならある程度要点を抑えて教えることにする。黒服とは呪力もとい恐怖の研究を満足いくまで協力する縛りを設けているがその事は黙っておこう。
「じゃあ、その二つの詳細を説明して」
「一つ目は文字通りだ。キヴォトスに来る前にあるやつと戦って負けてね。血もたくさん流してて死にそうになってたんだ。そこを黒服に拾われて治療を受けた。その時の治療費は小鳥遊さんの時に戦力になることと研究の協力で返済している」
「じゃあ、君もあの時は借金があったんだ」
「そうなるな。二つ目は小鳥遊さんは想像がつくんじゃないか?前に一緒に戦っただろう?俺がホムラと名乗ってた時にさ」
俺の説明を聞いてアビドスの面々はなんとも言えない表情だ。同情してると言うならお優しいことで。俺のやった事は君達からすれば関係ないだろうに。借金という要素が余計なバイアスになっている。
「あぁ〜……あのことはちょっと……」
「ん?あの時のあいつらの事を聞きたいんじゃないのか?」
ただここで小鳥遊さんは気まずそうな顔をしていた。何かまずい事を言われたような感じだ。今の説明で何かまずいことになるとしたら俺の方で小鳥遊さんの方ではないと思うが。
目線は逸らし、焦りからか頭をポリポリ掻いている。図星を突かれた人がよくするような行動だ。
「ホシノ先輩?まさか彼の攻撃を知っていたのって……」
「私達の知らないところで会ってたの!?」
なんか雲行きが怪しい。一年達が呆れ半分怒り半分で小鳥遊さんを見つめる。
「ん。前にも変な炎を出す浩介に出会ってるなんて私達は知らない」
「説明を要求します。対策委員会に隠し事は無しですよ〜。しかもそんな重要な事を」
どうも俺に会ったことは隠していたらしい。まさかの展開だ。俺を糾弾しに来たのであればあるだけの情報は共有されているものだと思っていた。
「……俺から説明してもいい?」
「うぐぐ……いいよ」
一応小鳥遊さんに確認をとって俺から説明することにする。小鳥遊さんは渋々と言った感じで了承してくれた。この感じだと小鳥遊さんは俺と出会った事は隠蔽するつもりだったらしい。
「前に便利屋と一緒にアビドスを襲撃した日の夜にアビドスの人の居ない地域でとある連中と戦っていてね。その場に小鳥遊さんが居て一時的に手を組んだんだ」
「人の居ない地域で?」
「手を組んで戦った?」
「うへ〜……」
俺の説明にアビドスは食いつくように聞いている。いつの間にか俺の近くに来ていて聞き漏らすまいとしている。一方で小鳥遊さんは参っている。
「人も襲うような化け物でな。エデン条約の時に生徒のようなやつじゃなくいかにものな化け物を見ただろ?」
「確かに居たわね。まあまあ強かったやつらよね」
「はい……異形の怪物が少なからず居ました。まさかアビドスにも?」
「出たよ。その時にエデン条約の時にやった火柱で纏めて倒したんだ。技を知ってたのもそれが理由だね」
俺の説明を聞いて大体察したらしい。要はアビドスで化け物もとい呪霊が発生してその場に居合わせた小鳥遊さんと一緒に倒したということ。ただこれ自体は別に隠す事でもない。
いや……、そういえばなんで小鳥遊さんはあの場にいたんだ?
俺ですら黒服が気づいたから辿り着いたのだ。あの時に初めてこの世界でも呪霊が出る事を認識し、ずるずると黒服とつるむハメになっている。偶々居合わせたにしても臨戦態勢まで整っているのは不思議だ。
「ホシノ先輩……最近疲れていませんか?」
「や、やだなあアヤネちゃん……おじさんはいつも気怠げだよ〜」
「とぼけないで先輩。夜のパトロールが最近多い事は皆んな知ってる」
「シロコちゃんの言う通りです。何を隠してるんですか?」
夜のパトロールをしてる。呪霊の事を考えたら危ない話なことこの上ない。当然夜に必ず呪霊が居て毎回襲ってくるわけではないが、あまり感心出来ない。しかもこの感じだと夜のパトロールでやっていることは後輩達に黙っているのだろう。
「……出たんだな?アビドスで強い呪霊が?」
俺の結論はこれだ。そもそも小鳥遊さんは俺に対して落とし前ではなく情報を要求したかったのだろう。後で効率よく呪霊を処理するために。
「先輩、浩介に1人で会おうとしてたのにも理由があるのよね?答えてよ」
「セ、セリカちゃん……。わかった話すよ。だから下がってくれる?」
「……わかった」
気がつけばぼろぼろと情報が流れてくる。俺にも1人で会おうとしてたらしい。つまり後輩には聞かせたくなかったのだろう。何かしらの理由で俺と会うことがバレて、危険だからと皆んなで行こうということになってしまったというところか。
後輩にも詰められてんてこ舞いになったのか、小鳥遊さんは全てを諦めたようだ。覚悟を決めた顔つきになり何かを話すようである。黒見さんは取り敢えず聞くことにしたのか大人しく引き下がる。
「仕方ない、か……。浩介、君に頼みたいことがあって来たんだ。本当はモモトークを交換して後でこっそり伝えたかったんだけどさ……。
アビドスに現れた呪霊を"私と"一緒に倒して欲しい」
出てきた話は思ったよりも深刻らしい。
2024年の投稿はこれで最後です
皆様、良いお年を
更新時間はいつが良いでしょうか?
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22時〜0時ごろ
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