「あーあ、失敗しちゃったねえ。どうするの?アルちゃん?」
「ま、まだよ!次こそは勝つ!!」
便利屋68の面々と一緒にアビドス高等学校から去ってある程度経ったあと浅黄さんは今後のことを社長に聞いていた。一度敗北している以上早めにハッキリとさせたいのだろう。
社長の方はまだやる気十分なようで意気込みを見せつける。敗北こそしても心が折れたわけではないようである。
「でもどうするの?今日でよくわかったけどアビドスと先生は強いよ。半端な手じゃ逆転される。傭兵を雇おうにも資金がない」
「ぐ……」
だが、そんな意気込みも簡単にはいかないようである。相手の練度、資金不足と重い問題がのしかかっている。それを鬼方課長に指摘されて社長は悔しそうに歯噛みする。
「それに今晩の食事もどうしましょうか?」
「「「はぁ……」」」
「え?」
更に追撃と言わんばかりに伊草さんの食事事情も加わり、一同は大きくため息をつく。俺も思わず驚きを隠せない。
そんなに経営が火の車になっているとは思いもよらなかった。実力があり大量の傭兵だって雇えるからそれなりの資金力があると思っていたのだが、どうやら違うらしい。
自分と大きく歳の変わらない少女がこんなひもじい思いをするのはいたたまれない。ていうかそんなにひもじいなら陸八魔社長のデカいメロンは一体……。
「……、便利屋の皆さん。もしよろしければキッチンを使ってもよろしいですか?」
思わず口を滑らせてしまった。放ってはおけないと思って軽はずみに口を開いてしまった。
「へ?い、いきなり何を?」
素っ頓狂な声をあげて陸八魔社長は俺を見る。
「今日は皆さんの手伝いに来ておきながら、あまり戦果をたてられなかった。親睦も兼ねてせめてものお詫びに……
俺の奢りで鍋にしませんか?」
「へ?」
またもや陸八魔社長の素っ頓狂な声が出てきてしまうのであった。
-アビドス某所スーパー
そんなこんなで鍋の食材の用意をする事になった。提案した時はいくらなんでも突っかかりすぎたかもなんて思ったが便利屋側は二つ返事で承諾。
ただ俺の奢りという部分には陸八魔社長は猛反発する。いくらなんでも申し訳ない、そんなのアウトローではないなどと言っていたが今回だけだからと言って押し切った。
余談であるが流石に仮面は外して着替えていた。アビドスの生徒に見られるのも嫌だが、仮面に全身真っ黒の戦闘服なんて流石に恥ずかしい。
店内を歩いて品を一通り選んでカゴに入れていく。IH対応鍋とIHコンロがあるそうなので普通の作り方でいけそうなので、特に難しく考える事なく具材を選んでいく。
「白菜、人参、長葱、マ⚪︎ニーちゃん、水菜、肉団子10個入り、市販の寄せ鍋つゆ……。水菜は豆腐かえのきに変えるか?いや、なんか彼女達の栄養がやばそうだから他の野菜を……。いやいや、量が多すぎるかもしれん……」
具材を見てあーでもないこーでもないと思案するが、色々と浮かんでしまう。調味料を調合するわけでもなく、市販の鍋つゆをベースに白菜の水分でスープを増やしつつ煮込むだけなので具材にこだわってみたくなっていた。
あまり考えて待たせても申し訳ないので、きのこが無いことを考慮して水菜をえのきたけと交換して会計する。そこそこ値段はするが今回は目を瞑ることとした。
会計を済ませた後はスーパーから出て事前に紹介された場所に向かう。向かう先は当然彼女達のオフィス兼住居である。
しばらく歩いていると割と大きなビルが目につく。そのビルの付近が指定された住所に一致しており、他に事務所になりそうな建物は見当たらなかった。賃借のものと聞いているのでどこかの階にあるはずである。
取り敢えずフロントに入り辺りを見渡す。このタイプであれば大体は階層分のプレートが貼ってあってそれに事務所名が書いてあるはずである。
「6階ね」
下から6番目で便利屋68の文字を見つけ、エレベーターへと直行する。エレベーターの中に入り6の数字を押して静かに待つ。
やがてエレベーターは動き出し、ぐんぐん上へと上がっていく。6のパネルに明かりがつくと軽快な音が鳴りドアが開く。
突き当たりに事務所のドア、右手にお手洗いがあるのが見えた。ドアをノックして失礼しますと声をかける。
「クフフ〜♪いらっしゃ〜い。……ホムラくんの素顔は案外草食系な感じだね」
ガチャリとドアが開き出迎えて来たのは浅黄さんだった。俺の素顔をマジマジと見つめる。仮面で隠していたためか気になっていたのだろう。
どんなイメージを持っていたかはわからないが、少なくとも草食系とは遠そうな印象を持っていたのは発言から伺えた。肉食だと思ってたならよく提案を許したものである。
「いらっしゃい。素顔で来てくれたんだね」
「い、いらっしゃいませ」
続けて出迎えてくれたのは鬼方課長と伊草さんであった。2人とも素顔を見て少し驚いている。
「皆さんお出迎えありがとう。早速取り掛かるよ。お邪魔します」
お出迎えに礼を言いつつ、事務所に失礼する。内部に入りキッチンはどこかと探る。
探しているとキッチンの前に出迎えにいなかった陸八魔社長が目に映る。食器を洗っていたのか水道の流れる音がしていた。
「ふふ、いらっしゃい。有難く奢らせてもらう代わりに手伝うわよ」
こちらに気付いたのか洗い終えたものの洗剤をささっと流してこちらに歩み寄る。服装は先程までのカッターシャツの上にエプロンとなっていた。
エプロン姿を見てあるところをついガン見してしまう
なんの変哲もないエプロン姿だが彼女の双玉の大きさゆえ例の部分でくの字に曲がっているのだ。なんか美若奥様って感じである。
(えっっっっっろっっっっっ!!!!)
「……お願いします」
俺は必死に我慢しながら言葉を紡ぐ。でも表情はきっとすごい事になってそうである。
その証拠と言わんばかりに残りの3人の目線がどこか冷ややかなのを感じる。
「なんかすいません……」
「な、なんで謝るのよ〜〜っ!!!!???」
それからは非常に楽だった。便利屋の面々はテキパキと野菜を切りものの数分で準備は整う。
鍋に市販の出汁つゆを入れた後に切り分けた野菜を綺麗に詰め込み、IHコンロの電源をつける。
「後は蓋をして煮込むだけだな」
蓋をして、沸騰するまで待つまでになり肩の力を抜く。後は待つだけなので話をするだけだが何から話そうか迷う。
「取り敢えず今日はお疲れ様でした。俺は雇い主の関係で次は手伝えそうにないのでせめてこの鍋を食べて英気を養ってくれ」
「ええ、ありがたくいただくわ」
話題が上手く思い付かず取り敢えずお堅いことしか言えないが、それを陸八魔社長はさっと拾ってくれた。さっきエロい目で見てしまったことが物凄く申し訳なくなってくる。
「あ、あの…」
そんなこんなで話に困っていると伊草さんが申し訳なさそうな表情で話しかけてくる。すごく助かるのは気のせいではないだろう。
しかし、伊草さんがとあるものを見せてきてからは話が変わる。思わず叫んでしまいそうな事態になってしまっていた。
「じ、実は貴方の鞄からこれが落ちてて見てしまいました」
「ん?落とし物か?ありがとう。何を落として……い……イィっ!?」
見せてきたものは一枚のカードのようなもの。それもすごく大事な物である。なんせがっつりと『ゲヘナ学園 火野浩介』と書かれているのだから。
俺は思わず声をあげてしまう。一応正体を隠して接しているのでこれはあまりにも間抜けである。
「これ……学生証だね。しかもゲヘナ学園の」
「え?まさか同級生?」
「いや、この子は1年生だね。ハルカと同い年みたい」
「な、な、なんですってぇ〜!?」
「すいませんすいませんすいませんすいませんすいません……」
他の面々も俺の学生証をまじまじと見つめて書かれている情報を読み取っていた。まさかここでゲヘナ学園所属に出会えるとは思ってもいなかったのか全員驚いている。伊草さんに至ってはその様子を見て物凄い早口ですいませんと繰り返し口ずさんでいた。
まさかのところから話題が飛んできて嬉しいとは言えない。これではホムラなんてカッコつけた名前で活動して不注意で本名がバレた間抜けでしかない。
「あ〜、取り敢えず……今は……」
ガシッ!
「え?……陸八魔社長?」
もうこうなれば無理矢理にでも話を逸らすしかない。適当に鍋を食べようと提案するつもりで話を切り出そうと声を出す。
だがその瞬間に両手を陸八魔社長につかまれてしまう。いきなりだったので言おうとした事も中断してしまい、彼女を見るしかなくなってしまう。
「言わなくてもわかるわ……」
そして彼女は妖艶な表情で何かわかったかのような雰囲気を醸し出す。裏社会に浸って生きているからかこちらの事情を察したようである。
これなら何とか誤魔化せそうだ。なんて思って安心していると次の瞬間にはぺかーっと無邪気な笑顔を見せていた。なんだか流れが変わったような気がする。
「あなたも目指しているのね……。とびっきりのアウトローを!!」
「違います」
「あれぇ!?」
この瞬間、俺の中で陸八魔アルへの評価は少しばかり変わることとなる。
この後鍋は皆んなで美味しく食べました
更新時間はいつが良いでしょうか?
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22時〜0時ごろ
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7時ごろ
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19時ごろ