呪いは廻り、神秘は透き通る   作:ソックス

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47 砂漠の呪霊③

「ちっ!しっつこいなあ!!もう!!」

 

 小鳥遊ホシノは焦っていた。今は自分の後輩である砂狼シロコが狙われている。狙っているのは呪霊の出す巨大な砂の腕だがあれで何をやられるかは今のところ不明。わかっているのは碌なものではないという事ぐらいだ。

 迫る砂の弾丸を盾でガードしつつショットガンで攻撃するが、これまた砂の盾でガードされる。シロコに砂の腕と蟻地獄を操作するというリソースを割いているのにこの有り様だ。

 

 ボオッ!!

 

「っ!!今のは……炎?」

 

 突如として小鳥遊ホシノの後ろから勢いよく通るものが現れる。何かと思えば炎だ。ありえない動きで誰かに操作されているとしか思えないものだ。

 これが出来る人は1人しかいない。本来、ホシノとしてはそいつと組んで秘密裏に処理をする予定だったのだからよく知っている。なんなら一度共闘したことすらある。

 

「小鳥遊さん!弾丸を受け待ってくれるか!?」

「簡単に言うねえ。ま、やるけどさ」

 

 浩介だ。ゲヘナの一年生。アビドスにとっては覆面水着団のNo.6且つ黒服の手下というカオスな認識である。そんな彼が弾丸を捌くことをお願いしてきた。何かしら策はあるのだろう。ホシノとしては乗るほかない。

 そうと決まれば攻撃よりも防御に重きを置くべきと判断して銃をしまう。手は盾の扱いにのみ集中させる。

 

「ありがとう!」

 

 浩介は礼を言って忙しなく手を動かし始める。炎もそれに合わせて動きが複雑化していく。分裂したり、地面をバウンドするような動きになったり、突然カーブを描いたりとコースの予測が難しくなっていく。

 狙いはあの盾を掻い潜ることだろうことはホシノには容易に想像出来た。問題は威力だ。あのように分散させて果たして意識を削ぐ程の威力が出せるのかは疑問が残る。

 

「ふんっ!!」

 

 呪霊は弾丸をホシノに集中させつつ盾を展開する。盾を自身を覆うように展開しないのはシロコを見逃さないためか出来ないのかはわからない。それでも一方向しか塞げないのであれば、自由自在に動く炎からすれば都合の良いカモフラージュにしかならない。

 

「むっ!」

 

 案の定と言うべきか炎は呪霊に到達する。分散していた炎は全て盾を避けて呪霊に直撃する。全身に火が回る。呪いの火が呪霊を祓おうと駆け巡っていた。

 

「!!」

 

 それを機にシロコに発生していた蟻地獄は鳴りを潜める。新たな蟻地獄は発生せず動きの遅い巨大な腕だけがシロコを追っている。軽やかな身のこなしが出来るシロコにとってそれは存在しないに等しい。

 今なら攻勢に回れると判断して逃げから一転して、呪霊へと接近する。逃げるために大分呪霊から離れてしまったが今度はそうはいかない。

 

「この楼閣様を舐めるなあ!!!」

 

 呪霊もただ燃やされるわけではなかった。呪力を全身から放ち、炎を消し飛ばす。ダメージが軽いうちに対処されてしまったのだ。

 ただ、そのために術式の使用を一時中断するハメになった。4つのことを同時に併用していた代償は大きい。隙だらけである。

 

「行くよ」

 

 暁のホルスは隼のごとき眼光で呪霊を睨む。アビドスを害する悪鬼を滅さんと自身の神秘を身体中に無意識に張り巡らせる。

 

 

 愛用のショットガンから3発の弾丸を素早く発射する。全て命中し、ホルスの神秘が呪霊に燻る。これから何が起こるかを避けられない警告をするかのように。

 

 

「なっ!?」

 

 

 ──ドカンッ!!

 

 

 呪霊が認識するときにはもう遅かった。神秘は輝きを増し爆ぜる。弾丸3発同様3回の爆発だ。透き通った神秘は廻り行く呪いを許さない。

 

「ぬう!!小鳥遊ホシノめ!!やってく……れ……。なんだこの白い煙は!?」

 

 楼閣はすぐさま反撃しようとホシノを探すが気がつけば彼の周りは白い煙に覆われていることに気づく。スモークが焚かれているのである。ホシノの姿を追えない。

 

 ──タッタッタッ……。

 

 それでも音は楼閣に情報をもたらしてくれる。目が役に立たないなら耳で敵を捉えるまで、そう判断して砂の腕を形成する。捕まえて殺すために。

 

 

「そこだっ!!!」

 

 楼閣は音を聞き、敵の位置を割り出してから攻撃する。砂の腕は一直線に飛んでいき確実に何かを掴む。勢いよく放たれた腕は対象を掴んだまま近場の建物に激突する。拘束完了である。

 

 

「ハッハァ!!このまま締め上げ──」

 

 

 ドカン!!!

 

 

 

 上手くいき気分上々な楼閣に突如として爆発が襲いかかる。正確には爆発する一発の弾丸である。

 

 飛んできた方向は先程までホシノがいた位置である。

 

 ホシノは一切動いていない。息を潜めて獲物が慢心した瞬間を逃さなかっただけである。

 

 楼閣は爆発が晴れた後も倒れてこそいるが消えずに残っていた。ただし満身創痍であり、もう戦闘続行は不可能に近いと見える。

 彼は疑問に思っていた。あの足音がホシノでないなら誰だというのか。

 

「なら……我が掴んだ奴は一体……?」

 

 楼閣は掴んだ人は誰なのか確認するためにその方向へ振り向く。そこに映ったのは──

 

 

 

 

「ん、残念」

 

 

 

 ──砂狼シロコである。

 

 

 

 

 

「きぃいいいいいいさまあああああああああっ!!!!」

 

 楼閣は激昂し、砂の弾丸を素早く作ってシロコに放とうとする。道連れにしてやると言わんばかりの負の気迫だ。

 

 

 

 ただ、その気迫も……、

 

 

 

「消えろ」

 

 

 

 暁のホルスの3発の攻撃によって無情にかき消されることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「先輩達と浩介だけで終わって私の出番がなかった……」

「ブラックマーケットの時とは逆だな」

「うるさい」

「いてっ!銃で叩くなよ……」

 

 私は結局殆ど役に立たなかった。浩介に一緒に行こうと言われて突撃したものの戦闘が早すぎて手が出せなかった。

 炎を自在に操り隙を作り出した浩介、盾で耐えつつ最後は果敢に攻めたホシノ先輩、攻撃こそ特にしなかったがホシノ先輩がトドメをさせるように即座に囮に入る判断をしたシロコ先輩。3人とも自分より遠いところにいるように感じた。

 浩介はブラックマーケットのことを引き合いに出す。あの時は不良相手にヒフミと一緒に追っ払った。浩介はその時全然手を出していなかった。私は最初彼が弱いのだと思っていた。何もしてないじゃない、なんて言った覚えがある。ちょっとムカついて軽く銃で叩く。

 

「セリカちゃん……」

 

 そんな私の様子を見てアヤネちゃんは歯痒そうにしていた。きっと彼女も私と同じ気持ちなのだろう。今回、3人以外は殆ど手が出せてない。

 

 思えば最初の蟻地獄で足切りされたと言っていい。あれが全てだった。勝てる可能性のあるもの、そうでないものに分かれたのだ。そう思うと胸の中にもやっとしたものが広がる。

 

「はぁ〜……ん〜……疲れた。皆んな無事で何よりだよ」

 

 そして今回最も呪霊に食いついていたと言っていいのはホシノ先輩だった。そのホシノ先輩ですら1人だとあの多種多様な砂の攻撃に対応できていたかわからない。

 ホシノ先輩は無事で何より、と軽く言っているが心から嬉しそうにしていた。何よりも本心なのだろう。それだけで私達が大事にされているのだとよくわかる。

 

「シロコちゃん大丈夫ですか?」

「ちょっと痛いかな……。ノノミは?」

「私は大丈夫です。ナイスファイトですよシロコちゃん!」

「ん」

 

 ノノミ先輩はシロコ先輩に駆け寄り、怪我の手当てをしていた。正反対な感じこそするが仲の良い2人である。ノノミ先輩は私のように落ち込むのではなく本気で友達を心配していた。

 ナイスファイトとノノミ先輩は讃え、手を出す。ハイタッチの形だ。シロコ先輩は微笑んで手を出してパチンと音が鳴る。

 

 

「さて、終わりにしとくか」

 

 浩介はいつの間にか私の近くから離れて呪霊の近くに歩んでいく。右手からは炎がゆらゆらと揺らめいていた。

 

 ゴォっ!!

 

 突如として浩介は火を放ち呪霊を容赦なく焼き払う。死体に鞭打つように冷徹にやっていた。ここから彼の表情はわからないが怖い顔をしてることは想像に難くない。

 

「そこまでやるのね……」

 

 正直私は引いていた。ここまでしなくてもいいんじゃと思ってしまっていた。だが実際はそんなことでは生温いと言われるような相手なのだろう。

 

「優しいんだな。黒見さんは。それはそれでいいと思うよ」

 

 だが彼は振り向くことなく私が思っていた言葉とは違う言葉をかける。声色は優しく穏やかだ。それが却って恐怖心を煽る。

 

「もし今後、呪霊とやるなら情けは捨てて欲しいけど……その優しさは大事にしてね」

 

 彼は何を言っているのだろうか。言っていることにどこか矛盾を感じる。情けを捨てて欲しいけど優しさまでは捨てて欲しくない、なんて聞いたことない。彼は何を思っているのか。どうしてその言葉が出たのだろうか。

 

 

「きょ、今日はここで解散にしましょう。私、気を張り詰めすぎたのかヘトヘトで……」

「ですね⭐︎今日は帰って休みましょう!」

 

 アヤネちゃんが気を利かせてくれたのかお開きを提案する。正直私はそれに逃げたくして仕方ない。私達は学生だ。明日だって勉強にバイトに対策委員会の活動だってある。明日に備えたい。

 アヤネちゃんはタブレットを弄り、帰りのルートを探していた。いつものようにそれに従いお喋りしながら帰るのだろう。今回は浩介も加えて。

 

 

 

「じゃあ、帰りましょ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザバァ──っ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

「──え?」

 

 突如としてアヤネちゃんの周りに彼女を埋め尽くさんばかりの砂が現れる。何故こんな、などと考える間もなく誰がこれをやったのかはわかった。だが今は友達が危ない。

 

「きゃっ!?」

 

 彼女は何かに突き飛ばされ、砂が覆う場所の範囲から逃れる。人1人を突き飛ばすのでそれなりの衝撃が加わったようである。まるで誰かがタックルでもしたかのようだ。

 

「ぐぅう……逃げろ!!!」

 

 アヤネちゃんが喰らっていたであろう攻撃は浩介が肩代わりしていた。砂に覆われて頭だけ出ている状態である。締め付けが酷いのか苦しんでいる。

 彼は苦しいだろうに発する言葉は逃げろ、の一言。今一番苦しんでいるのは自分だというのに他人への心配が勝っている。

 

「貴様らは逃げられんよ!」

 

 浩介が警告してすぐに犯人もとい呪霊は姿を現す。その場所は既にホシノ先輩の左隣。顔はただれ、体もボロボロの満身創痍だ。

 呪霊は拳に青黒いエネルギーのようなものを纏って振りかぶっている。もう拳は放たれている。

 

 

「ホシノ先輩!!!!!左!!!」

 

 

 気づいた私にできることは叫ぶことだけだ。嫌な予感は一切拭えない。

 

 

「ハァアアアッ!!黒閃っ!!

 

 呪霊の拳は私の嫌な予感を的確に撃ち抜き、ホシノ先輩の左腕を襲う。拳の当たる瞬間に黒い稲妻のようなものが走り、その威力の高さを否が応でも私に教えてくれる。

 

 ホシノ先輩はあまりの衝撃に何度も床に叩きつけられながら壁へ叩きつけられる。壁に当たる瞬間の嫌な音は私の中に響き渡る。

 

 

「う……ああああああああっ!!!

 

 その後にホシノ先輩は聞いたことのない悲鳴をあげる。いつも私達の前で誰よりも傷を負うくせに、誰よりも余裕そうにしているのが嘘みたいだ。

 ホシノ先輩は左腕を押さえている。まさか……折れた?

 

 

「ひゃあああ!!!!」

 

 ホシノ先輩の悲鳴を聞いて喜んでいるのか興奮して今度は砂の弾丸を形成する。にんまりと笑いながらホシノ先輩を見ている。誰を狙おうとしてるなんて火を見るより明らかだ。

 

 

「や、やめろおおおおおおおおお!!!!!!!」

 

 必死だった。ひたすら弾を撃つことしか出来なかった。怖くて怖くて仕方がなくて。他のみんなも同じだったのかひたすら撃っている。絶対に止めてやるんだと必死だ。

 

 

 

 

「じゃあな、我が宿敵よ!!」

 

 

 

 

 

 だが無情にも弾丸は放たれる。そして殆どがホシノ先輩へ命中するのを私達は見ることしか出来なかった。




楼閣くんは正直クソだと思う

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