お陰で石が大変なことになったよ
だが何よりもきついのは、クレジット……
ゲヘナ学園、救急医学部の部室前。ここで俺は近くのベンチに座ってスマホを取り出す。とある人に連絡をするためである。
「黒服。見てたか?」
『ええ、バッチリと』
相手は黒服。今回のアビドスの戦いを見ていたであろう彼の考察を聞いてある程度推測を立てるのが目的である。
「気になるところがあってな。黒服の見解を聞きたい」
『おや、私も気になるところがあります。奇遇ですねえ』
「なら、俺から言わせてもらう」
どうも黒服も気になるところがあるらしい。俺と同じかはたまた別視点かはこれからわかることだ。同じであれば色々と確認する必要があるかもしれない。
「砂狼さんのドローン、やけに呪霊に対して効果があったように見えた。お前の方は?」
『私も同じことが気になってました。この件で推測になるのですがいいでしょうか?』
「構わない」
気になる点は砂狼さんの使うドローンだ。気になって彼女に聞いてみたが、普段から愛用してるぐらいと返事されただけだ。何ともない普通のドローン兵器だという。
だが、俺にはあれが呪術で言う呪具のように感じたのだ。彼女達の使う銃のように神秘が色濃く込められて呪霊に対しても効力を発揮している。
『シロコさんもまたホシノさんと同様に強力な神秘の持ち主です』
「それは何となく俺も思ってた。小鳥遊さんの次点で強いのはどうみても砂狼さんだしな」
『呪力量や術式といった才能でほぼほぼ強さが決まるのが呪術師と言ってましたが、神秘を持つ生徒も似たような傾向ですね』
黒服が言うに砂狼さんは小鳥遊さんと同様に強力な神秘の持ち主ということ。それはわかり切っている。問題はそれがどう作用しているかだ。
『あのドローンですが、彼女は戦闘だけでなく普段からよく使っています』
「彼女も言ってたな。愛用の品だって」
『そう、まさしくその通り。そこが重要なのではないかと』
「愛用の品ということに意味がある?」
黒服が言うには愛用の品だからこそ意味があるのだと言う。何となくこの時点で黒服の言いたいことは理解できた。
『結論から申しますと愛用の銃や品などはそれそのものが対呪霊にとって大きな武器となると見ていいでしょう』
「愛着や思い出、永く過ごした相棒のようなものは自身の神秘に最適化されて呪霊に対してはより効力を増す?」
『そうですね。ここでは便宜上"愛用品"と名付けましょうか』
愛用品と名付けられたそれは中々有用なものだ。今はまだ仮説でしかないのだが、確度は高いと思っている。恐らくは銃も似たような理由だろう。
銃の方はキヴォトスで生きる以上手放せないものだ。下手な愛着のあるものよりも寝食を共にする期間が長い。自身の神秘などアホみたいに染み込んでいるはずだ。
呪術師が自身の呪力を武器に込めて術式の使用を続けていると呪具化する事例がある。さながら浴に浸かった器物のように呪いが浸透していく。この現象は神秘版のそれではないだろうか。
だから銃撃でもダメージをしっかり通せるのだ。無茶苦茶言っている自負はあるが今はこれで結論としようと思う。
『……どうしました?黙り込むとは珍しいですね』
「ん?……すまない。俺の方であらかた目星がついたもんだから考え込んでしまった」
『ほう!それは気になりますねえ。是非ともご教示いただけますか?』
「いいけど……それは直接にしよう。頼みたいこともあるんだ」
『頼みたいこと、ですか?』
俺が黙って考えるものだから黒服が気になっていたようだ。愛用品に関して目星がついたと言えば、少し興奮しながら答えを急かすように尋ねてくる。こいつ研究が進みそうだから楽しそうだな。
教えるのは別にいいが頼みたいことがあるのでそれを引き合いに出すことにする。知りたいならやってくれ、とまでは言わないが暗に要求を通しておきたい。
『ひとまず頼みたいことを話してください』
黒服もそれを理解してるのかまずは聞くことにしたようだ。ぶっちゃけシャークトレードもいいところなんだけどね。
「用意してもらいたいものが3つあるんだ。それは──」
まずは話して黒服に考えてもらう。3つあると言ったが恐らく2つは楽に通るはずだ。3つ目は通ればラッキー程度の認識である。
同時にそれでやることも話すことにした。ちょっとでも興味を持てば観察のために了承してくれるかもしれない。
『ほう!それは是非とも見たいですねえ!!わかりました。可能な限りご用意しましょう』
黒服は興奮気味に了承してくれた。怖いぐらいチョロい。もっと何かふっかけられるかと思ってたよ。
「悪いな。で、いつ頃になりそう?」
『ふむ、少々お時間をいただくかと。ああ、そうです。そういえば近いうちに光輪大祭がありますね。その後にしましょう』
「了解した。世話になる。じゃあ切るぞ」
期限は光輪大祭の後に決定する。キヴォトスの学園中が注目する裏で暗躍するつもりだろうか。依頼してるのは俺なんだけども。
『お疲れ様です。……珍しくボケませんでしたね?』
「お前、まさか俺をボケキャラだと思ってる?」
『違うのですか?黒板の音鳴らしますよ』
最後の最後に黒服がふざけてきた。こいつも割と愉快なところがあるな。やることはえげつないから警戒こそ緩めないけど。
後、その音で何度か自爆してるじゃん。頭のいいアホなんかこいつは?
「……じゃあな。黒胡麻」
『黒服で──』
Pi!!
キリがないのでここで無理矢理通話を切る。最近下手な生徒よりもこいつの方が距離近いのに気付いて萎えてるのだ。俺だって可愛い子と距離近い方がいいわい。
ピッ、と音が鳴って黒服が訂正するのをキャンセルする。スマホの画面はピータンと表示されてる。我ながら酷いあだ名をつけたものだ。
ジャキっ!
電話を終えた後に突然銃口が向けられる。殺意は特に感じない。形式だけの威嚇と思われる。
「本当に今でも黒服とつるんでるんだね。おじさん感心しないなあ〜」
「あれ?何で相手が黒服だってわかるの?」
銃口を向けたのは小鳥遊さんだ。俺に対しては人一倍殺意を向けてもおかしくないのにそれがまるで感じられない。
彼女の傷は呪霊を倒した日から少しして俺が反転術式で治療している。他のアビドスのメンバーも呪力回復のために時間を置いたりしたが軒並み治療済みだ。病院で検査をしてもらう必要はあると念押ししている。今日ここにきたのは救急医学部に用があるのだろうか。
本音は治療を受けつつ俺の監視だろうか。それに何故電話の相手が黒服と断定出来るのか。
「先生が通話を盗聴しててね。マジで黒服の声が聞こえるからびっくりだよ」
「もしもしヴァルキューレ?」
「牢屋に押し込むなら先生だけにしてね」
「あたぼうよ。お主も悪よのう」
「うへへ〜浩介こそ〜」
小鳥遊さんの回答は衝撃的なものだ。あの女先生は女子高生にセクハラ・小学生のアルバム収集・頭皮嗅ぎ・SMプレイの噂などキリがないほどの罪状がある。守備範囲が広過ぎるだろ、ゲヘナの風紀委員だけでこれだから他も含めたらどうなってんだ。
スマホで110番を押すフリをして通報してるように動いて見せる。小鳥遊さんもそれに気付いているのか悪ノリする始末だ。どうも殺意は微塵もないらしい。
ズザザァァァッ!!
「申し訳ございませんでしたああああああっ!!」
突如として先生がものすごい勢いで滑りながら謝罪してきた。正直絵面が面白い。バラエティ番組でも見てる気分だ。
こんなことをする理由もひとえに黒服に対する警戒心由来なのはわかる。先生らしくない手段に思うが、それだけ黒服のことを許せないのだろう。そこにいる小鳥遊さんも危うく命を落としていたかもしれないのだから無理もない。
「顔をあげてください。先生。今のは先生を釣るための演技ですよ。あの腐れピータンに何かされてないか不安だったんですよね?」
「あはは……。そう!あのド腐れピータンが生徒に何かしてるか心配で……」
「まあ、相手が相手なんで許しますよ」
今回は許そう。黒服は正直それしても許されるんじゃないかと思えてしまうほど危険人物なのは間違いないのだ。場合によっては急をようすることだってあり得るのだ。
「……ところで黒服のところでやろうとしてるりょ──」
「シー……ですよ。先生。それ以上はダメです」
先生は気になることがあるようでそれについて聞こうとしたのに気付いて、俺は右手の人差し指を唇に当てて遮る。出来れば知っている人間は厳選したい情報だ。まだ習得できていないものを教えるつもりはない。
「取り敢えず……面白いぐらいのスライディング土下座で擦り傷が酷いでしょう。俺が治しますよ」
誤魔化しも兼ねて治療を提案する。先生の足は擦り傷が出来ており、土下座の勢いもあってかなりのものだ。謝るのはいいから危ないことしないで欲しい。
「あ、じゃあ私の腰痛も治して」
「もしもし氷室部長。ギックリ腰も治療出来ますか?」
ギックリ腰だと再発しそうだから然るべき機関で受けるのが適切だ。決して面倒臭いからではない。
それから氷室部長に連行されたのち、救急医学部内で先生の悲鳴が響き渡るのだった──。
ギックリ腰って普段の生活によって靭帯の柔軟性が失われてたりすることが原因らしいっすね
ということは反転術式で靭帯の損傷を治しても再発の危険があるのでは?と思って今回のネタです
愛用品のネタは今後活きるのでしょうか
実際にゲームのシロコの愛用品はドローンで、日常でも使ってる描写が愛用品ストーリーでもありますね
ヒナの腕章の重みの話なんかも好きです
アルの財布やホシノの枕とかは……どうしようかな、マジで
更新時間はいつが良いでしょうか?
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