呪いは廻り、神秘は透き通る   作:ソックス

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今回は少しだけ長いです


58 聖園ミカ

 俺と聖園さんはアリウス自治区を駆け回っていた。ただいま互いに自慢の得物で敵の意識を刈り取ろうと殺意の高い攻撃を繰り出しあっている最中だ。

 

「祈りを……」

 

 俺が銃撃を避け続けているのを見てキリがないと見たのか聖園さんは行動を変えてきた。手を胸に当てて目を瞑り深呼吸する。あまりにも隙だらけな行為だが、何かが違う。うまく聞き取れないが何か呟いている。詠唱の類だろう。

 

 彼女の神秘が集まっている。間違いなく何らかの術の行使だ。キヴォトスで俺以外の人がやるのを見るのは初めてだ。

 

「"焔"」

 

 ならば俺のやることは妨害だ。見た感じ集中力がいるのだろう。それを少しでも乱してやればいい。先程腕を抉ったお返しにお見舞いしてやろう。

 呪力を込めて弾丸を放つ。狙いは聖園さんのSMGだ。あそこに神秘が集まっている。いくら意図的に力を発揮するとは言えキヴォトスの人にとって十全に力を込められるのはやはり銃らしい。それを弾ければ止められるだろう。

 

「残念♪」

 

 だが、予想よりも聖園さんのチャージは早く俺が撃つのと同時に放たれていた。3発の神秘が込められた弾丸と焔は相殺され互いにダメージにならず。

 

「……わーお、あれ防がれたの初めてだなあ。でも……、あれだけだと思う?」

「は?何言って……うぇっ!?」

「あはは、面白い顔するじゃん。潰れちゃえ」

 

 相殺に終わったのを見て聖園さんは驚いた顔をしていた。そりゃあれを相殺するようなやつなんて空崎委員長とかそのぐらいだろうし。多分あの技は無敗だったんだろう。

 しかし、それでも聖園さんは余裕を見せる。隙のある大技が大した予備動作もない技に相殺されたとなれば焦ってもいいのにそれはない。何かと思い周りを見渡せば答えはすぐに見つかる。俺が驚いた顔をしていたのか聖園さんは嘲り笑う。

 

 

 

「落石……!?どこから!?」

 

 見つけたものは大きな岩だ。まず落下すれば俺の足元に小さなクレーターが出来るであろう規模。そのまま受けるわけにもいかない。

 

「このっ……!!」

 

 避けようにも聖園さんはそれを許さずに俺を攻撃するだろう。ならば優先して対処すべきは聖園さん自身だ。一時的でもいいから俺を見失わせるしかない。

 炎を放ち聖園さんを覆うように操作する。炎で視界を遮り、その隙に落石から身を隠す。

 

「うわっ!?あっつ!!もぉ〜乙女を焼くつもり!?……ってあれ?どこ?」

 

 炎が突如として向けられて聖園さんは慌てて躱わすように動く。実際は俺が檻を作るように動かしているとは知らずにだ。案の定炎に囲まれ俺を見逃していた。

 

「しかも、炎が私を取り囲んでる?……あぁ、これが噂の彼の能力?仕方ないなあ……」

 

 聖園さんは炎に囲まれてるのに気づいてやれやれと言わんばかりだ。スペースの限り後ろに下がり助走をつけて炎に突進する。多少焼かれるがそれは地面に転がることで消火する。

 

 カチャ……。

 

 炎から脱出したのを見て俺は離れた場所から銃を構える。今度は不意をつく。色々と彼女の動きを見てきたがかなり動けるようだ。あまり手の内を見せれば対応するだろう。そうなればいよいよ強い技で応戦しなくてはならない。

 

「……っ!!そこっ!!」

 

 そんな俺の目論見も虚しく聖園さんはすぐさま俺を見つけて発砲してきた。なんだよその反応速度は。UZQUEENかてめーは。

 

「なんだよもう!!」

 

 仕方なく俺はその場を離れて苦し紛れに焔を放つ。苦し紛れの攻撃など命中するわけもなく聖園さんは既に回避行動に入っていた。動いている俺を目で追い、虎視眈々と狙っていた。

 

 バァン!!

 ズガガガッ!!

 

「くそっ!当たんねえ!!」

「も〜当たんないなあ!!」

 

 結果としてお互いに弾を回避し合う回避合戦となってしまっていた。無駄に弾を消耗するだけでこちらとしては気が滅入る。その回避の過程でアリウスの街並みが蜂の巣になっているしなんだか申し訳ない。

 

「ほれ、これでも受け取れ」

 

 俺も聖園さんのように戦法を変えて打って出る必要がある。手始めに考える時間が欲しいので爆煙に期待して爆弾を放り投げる。勿論術式で後から火をつけるものだ。

 

「ん〜?導火線があるのに火のついてない爆弾?」

 

 これも知ってると思っていたが聖園さんは呑気に疑問符を浮かべている。先程アリウスの大軍を相手する時に使っていたのだがギリギリ見ていないらしい。

 

「発!」

「わーお⭐︎そんなことも出来るんだね。面白い曲芸じゃん」

 

 火をつけたところで聖園さんは感心したように佇む。爆弾ぐらい余裕だと言わんばかりだ。実際耐えるだろう。だが策を練る時間をくれれば充分だ。

 

 ドカンと音を立てて爆発したと同時に俺は全速力で走り出す。遮蔽に使えそうな場所に転がり込み、今ある装備を見直すことにした。

 

 

「爆弾は……後一個か。アリウス用に使いたかったんだけどな」

 

 俺が今持っている武装は拳銃、刀、爆弾1個と心許ない。弾丸の方は余裕がある。今のうちにリロードもしておこう。もう少し爆弾を計画的に使えれば、と自分を呪うしかない。

 戦闘を振り返れば彼女は空崎さんや小鳥遊さんほどの技量はない。ただひたすら身体能力が高い。虎杖君に近いタイプだろう。彼ほどの膂力は流石にない。

 とはいえ、銃撃戦だと俺の方が不利そうだ。俺の銃の腕はキヴォトスの上位者達と比べれば大したことはない。対呪詛師に向けて考えた戦法で正直プロ並みの腕が無くてもよかったりするからそこまで伸びてないのかもしれない。技量が高くないとは言え俺よりも腕前はよさそうだ。

 

「……腹括るか」

 

 一番勝ち筋のありそうな選択を絞り、聖園さんを見据える。これでも危険極まりないが、銃は向こうに一日の長なら別のやり方しかない。拳銃をしまって命運を預けることに決めた武器は……爆弾だ。

 

「ここで決める!」

 

 壁を壊して彼女の背後に回り込む。このまま距離を詰める。俺の取る戦法は呪術師お得意のアレだ。

 

「待ってたよ。私に時間を渡し過ぎたね」

「わかってたさ。だからこいつで……!」

 

 聖園さんは詠唱を終わらせていたのか既に落石を用意していた。俺を視認して慌てることなく振り下ろす。詠唱する時間があるためそうなることはとっくにわかっていたことだ。俺だってやっていることでもあるんだし。

 落石への解答は爆弾だ。相殺には至らないだろうが軌道ぐらいならずらせる。俺が全速力で駆ければなんてことは無い。

 

「もうっ!ほんっとゲヘナは!!!」

「荒っぽいってか?」

「キャッ!?」

 

 聖園さんは俺の意図を察したのか慌ててSMGを発砲するが、苦し紛れに撃ったものに当たるものか。と、言いたいがそんな呪力で身体を覆い最小限のダメージにして誤魔化してるのは内緒だ。超痛え。

 間合いを詰めてSMGを持つ腕に拳を叩き込み、ダメージを与える。それでもしっかりと握られており離さないのは流石と言わざるを得ない。

 

 

 呪術師は決して術式だけに頼るものでは無い。呪力操作、その他汎用技術も大事だが最後の決め手になるものがある。それは──、

 

 

 肉体の強さもとい体術の強さだ。

 

 

「この間合いなら……俺の方が強い!!」

 

 呪力を込めた拳で思い切り聖園さんの腹を殴る。そこらの不良生徒ならワンパン出来ると確信できる手応えを感じる。威力の高さを物語ってるのか聖園さんの手から銃が落ちていく。

 

「うっ……かっ……!?このっ!!!」

 

 だが相手は最上級に位置するであろう生徒だ。これだけでは終わらない。まだ続くのを感じて俺は急いで足元に転がる彼女の銃を蹴飛ばした。

 

「……死ねっ!!」

 

 聖園さんは渾身の右ストレートをお見舞いしてきた。思っていたよりも腰が入っていてセンスの違いを感じさせる。お嬢様と言っても素質はこっちよりかもしれない。

 

 バコッ!!

 

「……マジか」

 

 何とか聖園さんの拳を避けて、彼女から見て自身の銃の前に位置取っておく。その際に彼女の拳が建物に当たるのを目の当たりにした。勢いからして自爆したな、なんて思ってしたり顔でいたのだがその顔は1秒天下で終わった。

 

 ガラガラと建物の壁が崩れていたのだ。聖園さんの拳は砕けていない。あの華奢な身体で呪力を使ってない虎杖君並みのパワーが出るとは恐れ入った。

 

「いいねえ!ハジキも好きだが……」

 

 俺は怯まず聖園さんに突っ込んでいく。こんなもの呪術師のやる肉弾戦なら日常茶飯事だ。キヴォトスに来てやるとは思わなかった。それ故に昂揚している。

 

「殴り合いもやりたかったところだ!!!」

 

 構えを取って聖園さんに突撃していく。相手が強い一撃を放てるならこちらはコンパクトな攻めで翻弄するのみ。

 腕のリーチはこちらが長い。体格自体は俺の方が大きいのだから当然だ。力は向こうのほうが上でも近接戦闘でリーチの差は勝敗に直結する。

 

「この……さっきから……ゲヘナァァッ!!!」

 

 結果として一方的に殴られているのは聖園さんだ。気になるとすれば大声で激昂出来るほど余裕があることだろうか。そんな余裕も刈り取る必要性がありそうだ。

 呪力を右拳に込めて拳をアッパー気味に振り上げる。狙いはお腹。悪いがお腹の物を出してもらう。

 

 バゴッ!!

 

「……!」

 

 狙い通り拳は聖園さんの腹に当たっている。手応えも間違いない。問題なのは右腕にある感触。がっしりと握られた感触だ。引き抜こうとするがその感触が許してくれない。

 

「あはは、つーかまーえ……たっ!!!!」

 

 聖園さんは吐血しながらも素敵な笑みを浮かべ、右手で俺の右腕を掴んでいた。そのまま今までのストレスを解放させると言わんばかりに左拳で右腕を攻撃する。

 メキッと音を立てて俺の右腕は悲鳴を上げる。間違いなく折れた音だ。呪力を可能な限り集中させなかったらもぎ取られていたかもしれない。

 

「がああああああああっ!!!っらあっ!!!!」

「うっ!?か……ぁ……」

 

 だが今はお互いに密着した状態だ。つまり俺の左腕も届く。まずは右腕の拘束をしている右手を何とかするために左拳でリバーブローをお見舞いする。一回でダメなら二回、二回でダメなら離すまで。

 

「っ〜!!!離さないよ……、右腕を貰うじゃんね」

 

 意地でも離すつもりはないのか聖園さんはギラついた瞳で俺を見ていた。もう最初の綺麗なお嬢様の雰囲気はなく、強者の覇気だけが肌を撫でる。

 俺が執拗にリバーを叩くので強烈な痛みが彼女を襲っているのだろう。彼女の左腕は動いていない。耐えに徹している。俺はこのリバー連打に呪力を使ってないと言うのによほど効いたらしい。

 

「……ならこれはどうだ?」

 

 "右腕"を動かして炎を出す。放出はしない。

 

「は?」

 

 聖園さんは驚きながらも固まることはなく渋々俺の右腕を離して距離を取る。

 変わらず炎を出しながら牽制し、彼女の愛銃からジリジリと距離を離していく。可能な限り彼女の勝ち筋を潰すように動くことを意識していった。

 リバーブロー連打は反転で腕を動かせるようになるまでの時間稼ぎだ。執拗に腹を狙った甲斐あって呪力を込めないパンチでも響いてくれたので出来た事だ。

 

「降参してトリニティに帰れ。聖園さんの敗因は俺よりも格闘で劣り、かつ俺に回復があること。ジリ貧で詰みだよ」

「敗因?何言ってるの。勝負はここからでしょ。その頭ゲヘナな脳天をかち割ってやるんだから」

 

 出来ればこれで終わって欲しいので、降参するように促す。頷いた後に色々と条件をふっかけて縛りを結ばせる算段だが、彼女は頷かない。それどころかやる気満々だ。

 

「一撃の重みは私が勝ってるんだからここから逆転──」

 

 聖園さんは己の強みを活かそうと近づいてくる。確かに俺が回復出来るからって無限では無い。彼女は掴めば俺を捉え切れるのは先程のやり取りで証明済みだ。

 迎え撃つために俺も呪力を拳に込めながら走る。殴り合いなら臨むところだ。

 

 

 

 

 

 

「キシャアァッ!!!!」

 

 

 しかし、水を差すように呪霊が聖園さんの背後から襲いかかる。目の前の敵に全力で臨む姿はさぞ隙だらけだったのだろう。待ってましたと言わんばかりだ。

 

「邪魔」

 

 俺は走ってきていた聖園さんをスルーして呪霊に殴りかかる。それが無駄な行為とわかっていようとやらずにはいられない。

 

「え……?」

 

 聖園さんは俺の行動に驚いたのかキョトンとした顔で見ていた。さっきまでゴリゴリの殴り合いをしていたというのに急に別の敵へ攻撃したのだから無理もない。

 

 

 

 

ゾワッ

 

 

 突如として濃い呪いが背筋を撫でる。一体が払われたのを皮切りに静観してた者達が一斉にこちらを狙っている。

 

 

「一時休戦しましょう。銃を早く拾ってください」

「……後悔しないでね」

 

 かなりの数がいるのは間違いない。纏めて倒してもいいが後のことを考えると温存したい。仕方がないので聖園さんに武器を拾うように促す。

 聖園さんは俺を警戒しながらも銃を拾い、銃口を呪霊に向ける。ちゃんと俺の話を聞いてくれるらしい。顔は怖いけど俺に向かないならヨシ!

 

 

「誤射したらごめんね?」

「こりゃすげえな。欠片も思ってなさそうな感じがするわ」

 

 前言撤回、やっぱりヨシじゃない!!




ミカが今のところ天真爛漫な感じがまるでしねえ!!

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