呪いは廻り、神秘は透き通る   作:ソックス

70 / 100
またトリニティで話書いてるよ〜
なんでだろうね


第6章 ベアトリーチェの爪痕
66 奴を救護で拘束せよ!


「今週はこれで20体……嫌になるな」

 

 刀を振って返り血を落とす。納刀し霧散していく呪霊を見る。数も質も元の世界と比べれば大したことではない。それでもキヴォトスでは初の呪霊大量発生だ。

 

「ベアトリーチェめ……結局してやられたな」

 

 俺は原因であるベアトリーチェに対して悪態をつく。アリウスの呪霊は既に自治区に収まらないほどでカタコンベを通じてトリニティへ、トリニティから各自治区へといった具合に広がっていたのだ。

 なんでカタコンベで迷わねーの?呪いの塊には効かないのか?お陰で被害が広がる一方だ。これを避けたかったのに結局は色彩も呼ばれているし、よくよく振り返ると負けもいいところだ。

 

「また……助けていただきましたね」

 

 俺が萎えているところにシスターが礼を言いにきた。また、と言っていたので伊落さんかと思ったが違う。初顔だった。ここ数日助けた数も多いからか被りもあるのだろう。

 

「貴方は……」

「元アリウスです。今はシスターフッドに所属しています」

「お!?ということは俺をベアトリーチェの元に行かせてくれた子達の1人か!」

「はい、そうです。あなたが厄介な呪霊を倒してくれたので今ここにいられるんです」

 

 ところが思わぬ相手だった。まさかの元アリウスだったのだ。今はシスターフッドに所属してるということは少しはトリニティに馴染めているらしい。無事で何よりだ。

 俺がベアトリーチェの元に領域展開できるほど呪力を残せていけたのは、この子のように俺の逃げ道を確保してくれた子がいるからだ。理由としては言うまでもなくベアトリーチェの不満だ。チャンスと見て俺に討伐を託してくれた子達がいたのである。これこそ身から出た錆よ。

 

「そうか。……困ったら先生に相談してみな。仕事をサボって飛び出すだろうから」

「ふふっ、それは大変」

 

 もうこの子は大丈夫らしい。少しでも希望を持ってくれるならあの戦いをした意義があるというもの。

 

 少しして元アリウス……ではなく駆け出しシスターは今の仲間の元へ向かっていく。出来ればこのまま無事でいて欲しいものだ。手を振って見送りそう願う。

 

 

 

 

 

ドンッ!!

 

 

 

 

 

 

 見送っている最中にそれを遮るかのように何かが着地する。まるで黒閃を決められたかのような衝撃が走る。正直に言ってさっきの呪霊より怖い。

 

「救護です」

「え?」

 

 降りてきたのは青白い羽をした女性だった。青い髪でチナツと同じく長い耳が特徴的だ。服装からして医療関係者であることはわかる。いかついライオットシールドは謎だが。

 

「あの〜……」

「セイア様からお話は伺っております。要救護対象だと」

 

 違います。仕事で来てます。

 

「百合園さんからは来てくれって手紙があったから来たんだけど……」

 

 今日の俺はティーパーティーから直接呼ばれる形で来たのだ。俺個人に直接という羽沼議長が怒りそうなやり方なので最初は困惑した。あの人はそれも面倒くさいから仕方ないかもしれない。

 シスターを救ったのは通りすがりだ。正義実現委員会が来るまで待つわけにもいかないので実力行使に出たのだ。正直、そのことで怒られるのならばまだわかる。基本的に学生は他自治区で戦闘行為はしてはいけないルールなのだから仕方ない。

 

「はい。ゲヘナの病院脱走魔という異名を聞いてます」

「あの人何て事言ってんの……」

「事実では?」

「うぐっ」

 

 百合園さんはどうやら俺のことを好き勝手言っているようである。実際には夢での邂逅のみであり、直接会うのは今回が初めてになる。前回もそうだが色々と俺のことを嗅ぎ回っているらしい。ホムラの事を最初にカミングアウトしたのはこの人だ。正直に言うと警戒している。

 

「あのなあ……俺は今怪我してないよ。見てみるか?」

 

 だからあまり他の事に時間を取られるわけにはいかないのだ。傷がない事をアピールしてしのぎたい。案内してくれるなら嬉しいが。

 

「今回の件で先生からもお願いを聞いております」

「え?あの変態も絡んでるの?」

 

 先生の名前まで出てくるので途端に怪しさを感じる。あの人は生徒のために色々と手を尽くすが、俺は警戒なのか悪い意味で特別扱いしている節がある。ゲマトリアの事を考えれば無理はないし割と自業自得ではある。問題児はよく見ておくものだ。

 

「先生はこう仰っておりました。

 

 

 

 

 

 

 

 "奴を救護で拘束せよ"……と」

 

「帰っていい?」

 

 あの人何がしたいんだよ。五条先生とは違う意味で困った先生だな。これもしかしてこの為の罠なんじゃ……。ていうかどこぞのセキュリティかよ。

 

 

 

 

 ガシッ

 

 

 

 

 俺の両腕を誰かが捕まえていた。1人はナース服を着た紫髪のツインテール、もう1人は銀髪のナースだ。隙を伺っていたらしい。

 

「ナイスです!ギンコちゃん!」

「う、うん……そうだね……ハナエちゃん……。き、気まずい……」

「担架持ってきました!2人ともこれに縛……乗せてください」

 

 紫髪の方はハナエ、銀髪の方はギンコというらしい。担架を持ってきたのは鷲見さんだ。前にトリニティで瘴気を出す呪霊を祓った時に、毒ガスを吸ったと判定されて強制連行されたのも今となっては懐かしい。

 

 

 ていうか鷲見さんや。縛……ってなんや。どう考えても縛ってとか言いそうだったよね。

 

「救護騎士団団長、蒼森ミネ。先生のご希望に応える為……最高強度の救護を!」

「ねえ、これ誘拐だよね?」

「……キュ、キュウゴデスノ〜」

「俺……鷲見さんのことよく知らないけど多分キャラ崩壊してると思う」

 

 上司の暴走で担架に縛らせられるなんて普通なら反対の意見ぐらい出てもいいと思うんだ。まずいよな、なんて思いながら縛らないでくれ。あ、でもまずいと思わないのはもっとやめてくれ。

 俺の訴えも鷲見さんはカタコトで流してしまう。まずいと思ってくれるだけ良かったと思うべきか、止めないのを嘆くべきかはわからない。

 

 

 

 俺の訴えも虚しくどこぞへと運ばれることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

************

 

 

 

 

 

 救護騎士団、病室。今ここには名だたるメンバーが勢揃いである。

 

 まず、シスターフッドの長である歌住サクラコ。彼女は現在とある重鎮を毒殺しようとしているのでは?と陰ながら言われている。本人はその事を何も知らない。

 次に何食わぬ顔で浩介を病床に固定しているのが蒼森ミネ。救護騎士団の団長である。こちらは現在とある重鎮の弱みを握っているのでは?と陰ながら言われている。本人は愚直に救護しているだけである。

 3番目に百合園セイア。ミネの激しい剣幕に押されて念の為に療養しているだけである。ティーパーティーの3人のトップのうちの1人だがとある重鎮は彼女ではない。浩介には次に紹介する人をなんとかして欲しいと思っている。

 4番目に桐藤ナギサ。とある重鎮、とは彼女のことである。現在のティーパーティーホストであるため、トリニティ最高権力者。アリウスの遠征が終わってから徐々に身体が重くなる。それにつられてつい先日倒れてしまったのである。本当に危険な状態の人。

 5番目に聖園ミカ。友達をひたすら心配してるだけである。浩介の様子にドン引きしている。

 6番目にシャーレの先生。生徒のマジもんの危機に穏やかではいられない。浩介の有様は自業自得だと思っている。

 

 

 

 最後に火野浩介。桐藤ナギサを見て深刻そうな顔をしている。呪術師として何をすべきか必死に頭を回している。病床にミノムシのように固定されようともすべき仕事を見逃してはいない。

 

「桐藤さん……でしたね。最近は何か変なものを見たり、変な体験をしませんでしたか?」

 

 浩介は身体がベッドに固定されているので唯一動かせる首を上げてナギサの方を見る。頭をプルプル震わせながら質問する姿は中々シュールだ。

 

「え、えぇ……その……あまり言いづらいことなのですが……死んでしまえ、とか……あんたさえいなければ、とか……どこからか聞こえてくるんです」

 

 ナギサは浩介の質問に恐る恐る答える。どこまで答えていいものか判別できず、全てを話そうとはしなかった。

 

「"あはは、楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ"とか"黒幕登場!ってところかな"とかも今聞こえている?」

「カッ……アッ……ヒューヒューヒューヒューヒュー」

「ナギちゃん!ゆっくり呼吸して!」

「ハァッハァッハァ……ハァッ……ふぅ……」

 

 浩介は遠慮なしにナギサが言わなかった事を言い当ててしまう。その言葉を聞いたナギサは何かを思い出したのかパニックに陥り過呼吸。

 ミカが慌ててナギサに抱きつき、背中をさする。それに合わせてゆっくりと息を落ち着かせる。ナギサが落ち着いた後、ミカは仇でも見るように浩介を睨む。

 

「ナギサさん大丈夫ですか!?いくらなんでもこの状態でお仕事は危険です」

「ナギサさん、やはり政務に復帰は出来ないと言わざるを得ません。今からでも本格的な治療を……どうか……っ!」

「ナギサ……もう少しすれば私が復帰する。だからまずは療養して欲しい。ミネ団長の言う通りにするんだ」

 

 この場にいるものは皆、ナギサの身を案じていた。立場的にどうとか関係ない。同じトリニティの生徒としてナギサを説得しようとする。取り返しのつかない事になる前に早くなんとかしたい、その気持ちで満場一致だ。

 

 

「療養も大事だけど根本をなんとかしないと治らないぞ」

 

 そんな中、厳しい口調で釘を刺すものがいた。浩介である。ナギサから感じるものをよく知っているからこそ真剣だった。同時にかなり焦ってもいる。

 

「さっきから……悪気はないんだろうけど言葉を選んで欲しいな。これ以上変な事を言うようなら……」

 

 ミカは浩介の言動に苛立ち、今にも襲い掛かりそうになっていた。本人はそんなことしてる場合ではないとわかっているが、友達を思う心がそれを揺るがす。

 そんなミカを抑えるかのようにここまで沈黙を貫いた女性の手が彼女を遮った。穏やかな表情ではあるがどこか怖い雰囲気を放ちながら浩介を見る。

 

「まずは浩介の話を聞こうか。ミカ」

「先生……うん……」

 

 ミカを宥め、一触即発の雰囲気を止めたのはシャーレの先生だった。ミカが矛を収めたのを見て優しく頭を撫でて椅子に座らせる。本人は内心気が気でないが、誰よりも冷静だった。

 

「推測で構わない。君の意見を聞かせてくれる?」

 

 先生は浩介に問いかけ、返ってくる言葉がどんなものであろうと受け止める覚悟でいた。

 浩介は拘束しているものに過剰な呪力を流し込み引きちぎって、上体を起こしてナギサを見つめる。正確にはナギサの後ろにいる呪いではあるが。これを見ているのは浩介1人だけである。

 

 

「まず、桐藤さんは呪霊に取り憑かれている。思い当たる節もある。が……」

「が?その先は何かな?」

 

 浩介の言葉に一同は固唾を飲む。少なくとも彼に任せて終わりにはならないのがこの時点で決まったのだ。

 

 

「まずは俺が直接祓ってみるが、恐らくそれでは解決しない。もし解決しなかった時は本人の意思と……本人にとって大事な人達の力添えが必要だ」

 

 聞こえてくるのは希望のない話。だが浩介の話はまだ終わってない。彼が語り終わるまで誰もが沈黙を貫く。

 

 

 

 

 

「桐藤さんを救うのは……多分聖園さんだ」

「わ、私!?なんで!?」

 

 

 

 

 浩介が最後に言い放った言葉の後に全員の視線がミカに集まる。視線を向けられた本人は驚愕するしかないのであった──。




次の話は戦いといっても違う戦いではある
ツッコミどころ満載

更新時間はいつが良いでしょうか?

  • 22時〜0時ごろ
  • 7時ごろ
  • 19時ごろ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。