そういえば今日で丁度連載して1年です
……こんなに続くとはなあ
「ミカは何をすればいいのかな?浩介」
先生は俺がやろうとしてることを鬼気迫る表情で聞いてきた。生徒の命がかかってるかもしれない場面ゆえ仕方ないだろう。
「……まずは色々と試させて欲しい。話はそれからでも」
「わかった。皆、浩介の邪魔にならないようにね」
拘束を完全に破壊した事には誰もツッこまず、俺が桐藤さんの近くに立つのを全員が見守っていた。
「桐藤さん。少々痛むかもしれませんが我慢してください。……あとお召し物の賠償請求も受け付けますのでどうかご理解を」
「一体どういう……きゃっ!?いきなり何を……あ、あぁぁぁぁ……」
桐藤さんにお願い申し上げた後深く頭を下げる。これからすることは正直女の子にやるのは刺激的すぎる。恐らくとんでもない請求が来るだろうなあ。
桐藤さんの"お腹から出ている"呪霊を掴む。
「う、嘘……」
全員が腰を抜かしていた。俺が呪霊を掴んだ後に見た光景はあまりにもショッキングだったのは想像に難くない。
呪霊は桐藤さんのお腹の辺りから出てきており、手足から首に至るまで締め上げており彼女の顔の近くで呪詛を吐いていたのだ。
『トリニティィィィッ!』
呪霊はようやく直接、桐藤さんへ言葉を届けられるのを理解してか精一杯の呪いの言葉を吐く。トリニティ、つまり桐藤さん本人というより学園そのものに対する負の感情。
ゴルコンダの言葉を借りればトリニティの生徒会長というテクストが結果的に桐藤さんがターゲットになる理由だろう。百合園さんは既にボロボロで聖園さんは失脚がほぼ決まってるから優先度は低いのだろう。
これは……アリウスが長年溜め込んだトリニティへの恨みが具現化した呪霊だ。聖園さんを連れ戻すためにアリウスに来たというのであれば、取り憑くタイミングはいくらでもあるはずだ。あくまでも俺の推測が正しければ、ではあるが。
「お前は一旦消えろ」
まずは術式を使い、桐藤さんに触れない範囲で呪霊を燃やす。甲高い叫び声をあげながら呪霊はもがき苦しむ。
いきなりの光景に戦えるものは銃を取り出し、呪霊を撃とうとする。無理もないが今は大人しくして欲しい。
パチンッ!
指を鳴らし、呪霊を燃やしていた炎を一斉に消す。
『ァ……アァァァ……』
呪霊は呻き声をあげながら霧散していく。手足を締め上げていた触手も消え、桐藤さんは少しだけ圧迫感から解放される。
「……っ!少しですが……身体が楽になったような気がします!」
「ほんとっ!?ナギちゃ〜ん!!!よ゛か゛っ゛た゛あ゛ぁ゛ぁ゛!!」
「ミ、ミカさん!こんなところで……その……皆さんが見てます……」
「いいじゃないか。私も少しホッとしてるところだ」
ティーパーティーの2人は桐藤さんが少し回復したのを見て盛大に喜ぶ。聖園さんに至っては勢いよく抱きついており、桐藤さんが聖園さんの大胆さに押されて少し頬を赤くしている。百合園さんはその様子を見てケラケラ笑い、嬉しそうにしている。
「まだだ」
だが、これで終わったわけではない。まだ桐藤さんから呪いを感じる。未だ本体は桐藤さんの中に籠ったままだ。
「あの……今ので終わりではないのですか?」
俺の一言を聞いてから険しい顔で尋ねてきたのは、シスター服を着た生徒だ。確かエデン条約の時に伊落さんを庇っていたシスターフッドの長である歌住サクラコさんだ。
シスターフッドと聞くとつい最近よく戦っていたハイレグ共を思い出すが、流石にその服装はしていない。覚悟が要るであろうあんな服を華のJKが着るのは流石にないよな。
「私もサクラコさんと同じことを思っています。呪霊というものに詳しくないのでご教授いただけますか?」
俺を拉致した蒼森さんも気になっていたようで、呪霊について情報開示を求められる。
「まず呪霊とは人々から漏れ出た負の感情によって具現化し生まれる霊的現象、とでも言っておこう」
ここまで来たら隠す方が無理がある。開示できるところは開示しなくてはならない。そもそも先生は知っているからどうせ伝わる話だ。
「海の生物への畏怖が集まれば海の呪霊が、砂漠の恐ろしさが集まれば砂漠の呪霊が……といったようにある程度は感情の方向性が同じものが集まれば生まれやすい」
「今回はアリウスに行った後の事だろ?あそこは今キヴォトスで最も呪霊が湧いているスポットだ。……そんなところにはどういう負の感情が集まりやすいか」
俺の説明を聞きながら一同は概ね察したようでやりきれないといった表情を見せる。先程した推測も可能性の一つだがないとは言い切れない。元々いた世界なら流石にピンポイントすぎるが感情の元となるものがヘイローを持った生徒という普通の人間と比べれば規格外の力を持つ人種であればもしかしたら、という懸念が捨てれない。
「先生、聖園さん、百合園さんに話したいことがある。他の人は席を外して欲しい」
ひとまずは本命の手段を共有すべく3人にだけ呼びかける。先生は親身になってくれそうだし、百合園さんは思ったよりも桐藤さんを大事に思っているのが窺える。今回はこの3人がきっと鍵だ。
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先生はかなり参っていた。まさかあれだけ強力な呪霊が取り憑いていたなんて思いもしなかった。通常の医療では原因が特定できず、セイアの勘が働かなかったら浩介を頼るという考えすらなく後手になってしまっているのを歯痒く感じている。
「今回の呪霊だが……俺が呪霊が言ってた言葉を言った時に桐藤さんはかなり苦しそうにしていた。明らかに精神を攻撃されている。心当たりは?」
セイアは別の病室に移し、指定のメンバーが揃ったところで浩介から出た言葉がそれだった。先生も気になっていたことではある。どちらもナギサにとってトラウマものの台詞であり、何故呪霊がそれを把握しているのか。
「セイアちゃん……」
「全て話そう……」
浩介の言葉を聞いてミカとセイアは意を決して、話し始める。どちらの台詞もエデン条約のことであり、今もナギサのトラウマになっていること。補習授業部への仕打ちに怒ったヒフミを騙った浦和ハナコのやり返し、ミカの裏切りの詳細に至るまで全てだ。
「なるほどね……。今でこそ友達の形を取り戻してはいるが心の傷の回復が間に合ってないんだな」
浩介はナギサの状態を把握して悔しそうに拳を握る。事の重さに歯痒い思いをしているのは言うまでもない。そしてこの事実は残酷な現実を突きつけることとなる。
「そんな……もしかしてナギちゃんが苦しんでいるのは……私の……せい……?」
ミカが事態を把握して動揺していた。涙が溢れて罪悪感に押しつぶされそうになっている。
「聖園さん。何もあなたが思い詰めることはない。今本当に考えるべきことはそうじゃないはずです。今は救う方法をみんなで考えましょう」
「……うん」
浩介はミカの様子を見て優しく諭すように語りかける。実際に結果的に裏切られたとはいえ今でも友情は確かにあるのだ。ならばミカのやるべき事は悔やみ泣くことではない、と誘導する。
「……俺の推測でしかないがあの呪霊を追い出せるのは他でもない桐藤さんだけだ」
ひとしきり思考に耽った後に浩介が考える解決策を口にする。とはいっても具体的な対処といったものでなく、言うなれば精神論に近い。
「具体的には何をすればいいんだい?」
「トラウマを乗り越えさせないといけない。特に大きいであろう2つのトラウマはなんとしてでもだ」
浩介から飛び出すのは今すぐにやるのはとても難しいものだ。トラウマとは本来ゆっくりと時間をかけて克服していくものである。一朝一夕でやるには厳しいものだ。なんなら今がその克服の途中のはずだ。
「そういえば浩介の他人の傷を治すアレはダメなの?実は呪霊にすごく効いたりするんじゃ?」
先生は確認のためか浩介に尋ねる。反転術式のアウトプットによる呪霊の滅殺は出来ないのかというものだ。
「それなら呪霊は倒せるけど……かなりの量を注がないといけない。傷を治すから良いイメージを持ってるんだろうけどアレも元は呪力だ。大きな傷もないのに流したら呪霊を攻撃出来ても力の奔流が彼女を襲うかもしれない。そもそも呪霊も彼女の中で暴れるだろうからな」
浩介は先生の提案をバッサリと拒否する。理由は却ってナギサが危険かもしれないからというもの。
「取り敢えず……ナギちゃんには暫く政務やらせちゃダメだよね。リフレッシュさせないと」
「同感だ。私の退院を早めてもらうようにミネ団長に交渉する。心落ち着く時間を作らねば始まらないだろう」
浩介の話を聞いた上でミカとセイアは真剣な顔つきで議論する。まずは休みを与えることから始めるつもりでいるようだ。
「俺も経過観察のために放課後にトリニティに行く。呪霊がまた大きくなれば今日みたいに時間稼ぎも兼ねて弱らせておく」
「ミカ、セイア。浩介がある程度は自由にティーパーティーの敷地内に出入り出来るように便宜を取り計らってもらえる?」
「勿論だ。私から通達を出す」
各々が自分のやるべきことを定め、話を進めていく。今ここにいる者達はこの時点で桐藤ナギサを救おうとする同士となった。モモトークを交換し合い、桐藤ナギサ救出グループがここに結成されるのであった──。
反転うんぬんのくだりは実際どうなんでしょうね
秤が大当たり中に無限に溢れる呪力で身体が壊れないようにするために無意識の反転を使ってる、というなら正の呪力も溢れたらダメなのかな?って発想です
作中では家入の解説の中で輸血と例えられており、輸血も過剰な血の投入は副作用をもたらすことから何の傷もない受け手に反転過剰はキャパオーバーになるとしました
更新時間はいつが良いでしょうか?
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22時〜0時ごろ
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7時ごろ
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19時ごろ