呪いは廻り、神秘は透き通る   作:ソックス

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今回はガチで閲覧注意


68 忍び寄る2つの呪い

 チャイムが鳴り響き、荷物を確認した後に校舎を出る。行き先はトリニティだ。ティーパーティーの桐藤さんの経過観察だ。もう1週間は続いている。

 

「浩介くん。最近、トリニティに行っているようですが……今日もですか?」

 

 校門前にチナツが待ち構えていた。彼女にはトリニティに行くことまでは話してるが、何をしてるかまでは言ってない。流石にトリニティトップが呪霊に取り憑かれていて、それの対処をゲヘナ生が行っているなんて言えたものではない。

 

「トリニティは最近呪霊が多くなってるからね。今日も多分退治三昧だよ」

 

 だが、呪霊が多く発生している事は伝えてある。これは万魔殿と風紀委員の両方が事実と確認している。実際に倒す場面も何人かが目撃しているため、嘘ではない。

 

「……事実でしょうがまだありますよね?……ティーパーティーに入り浸る理由は何です?」

 

 バレてんじゃん。

 

「あ〜……チナツは今日時間ある?人気のないところで事情を話すからさ」

「終日開けてあります。それと……今日やることを確認するためにも連れて行ってください。ヒナ委員長からの指令でもありますので」

 

 説明するためにどこか移動しようと提案するが、まさかの終日開けている様子。しかも同行するとまで言ってのけた。

 どうも空崎委員長が指令を出したようだ。あの人は過去に情報部に居たという話を聞いたことがある。あの人ってもしかして本領は諜報員なのだろうか。

 

「言っていいの?それ?」

「どうせティーパーティーに呪霊の被害にあっている人がいて〜……でしょ?」

 

 折角の情報を簡単に開示するのに疑問が出る。俺が怪しい動きをしてるなんて思ってるのであれば、そもそもこんな問い詰めしたりせずに尾行すればよい。

 ただ、チナツは俺のやることをよく理解しているようでティーパーティーに呪霊の影があることは察していたようだ。正直助かる。

 

「俺はあくまで許可をもらって入ってるからチナツは入れないし、ついていっても門前払いだぜ。それでも行くのか?」

「流石にティーパーティーの敷地内に入るのは無理ですが、事実の確認が出来れば問題ありません。空いている時間は救護騎士団の方に挨拶しようと思います。既にセナ部長から手回し済みです」

「流石。……一応混乱を避けるために誰がどんな被害をまでは言わないからな?」

「構いません。では、行きましょうか」

 

 ここまで来ればどんな言い訳も不可能。幸いにもチナツは別のところに行く予定もあるようなので一緒に行くことになった。

 

 

 

 でも、このままだと俺が言っていることを一方的に信じただけになる。それでもいいと言う事は風紀委員は既に桐藤さんが被害者だと把握してると言う事だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

「ではこれで」

「ああ、救護騎士団の方によろしく」

 

 チナツと俺は互いに目的の場所へと向かう。チナツはあくまでも俺の動向を探りたいのだろうが、今回は相手が悪い。ティーパーティーが必要とは言えゲヘナ生の俺を入れたのは特例中の特例だ。

 

 ならばなるべく近場にいておくほかない。救護騎士団という自分と近しい存在のもとにいることにしたのは正義実現委員会とは衝突が激しそうだからだろう。

 

 

「火野さんお待ちしておりました」

 

 ティーパーティーの子が俺のお出迎えをしてくれてる。淡々としているが表情はあまり良くない。ゲヘナに対する印象が悪いのはぶっちゃけ仕方ない。なんなら直接手を下そうとしないだけ全然いい方だ。

 

 軽く会釈してからお礼を言い、案内されて桐藤さんのもとへ向かう。書類と睨めっこしながらテキパキとこなす姿が印象的だ。

 

「あ……浩介じゃん。ご覧の通りナギちゃんは仕事をすると聞かなくてさ」

「全く、私がミネを説得して早期退院をしてきた意味が無いではないか」

 

 残る2人も同様に仕事をしていた。これ俺が見たらまずい光景では?普通に内部情報のすっぱ抜きじゃん。

 

 

「一度きりのいいところまで処理しますので別室でお待ちください」

 

 桐藤さんはそう言って書類を仕分けし始めた。優先順位を決めているのだろう。他の2人も同様に仕事を進めており、なんだかんだ言って生徒会長達だと思わされる。

 羽沼議長もアレだが優秀でやり手ではある。棗さんのようなデキる部下もいるし、割と万魔殿はしっかりしている。ティーパーティーはそれ以上だ。

 

 桐藤さんの見た目は健康優良そうに見える。仕事ぶりだけ見れば実際にそうだが、未だ呪力が桐藤さんの中を巡っていた。まだ終わってないのは明らかだ。

 ふとした拍子に呪霊が暴れ出し彼女とその周りを蝕むのに時間はかからないだろう。倒せばいいだけなら簡単だが今回はそうはいかない。

 

 たらい回しにされながら客室と思われる場所へと案内される。始めからそうしないのはただの不備か嫌がらせか。心なしか周りの視線も陰気が混じっている。

 

「失礼します」

 

 客室前に立ち、ゆっくりとドアを開けて入室する。トリニティの所作は知らないのでひとまず無難なやり方で凌ぐことにする。

 部屋に入りまず目に入ったのは意外な人物だった。緊張してて縮こまっている。俺もよく知る人物だ。

 

「まさか阿慈谷さんがいらっしゃるとはね」

「はひ!?……え!?浩介さん!?なんでこちらに……?」

 

 その人物は阿慈谷さんだった。最初は俺と一緒にアビドスの銀行強盗に巻き込まれた被害者だと思っていたが、なんだかんだ言ってやべえ先輩だと今は思ってる。後から知ったことだが、補習授業部にドロップアウトで入ったのはまさかの彼女だったのだ。理由はペロロ様のLiveとのこと。

 

「今の桐藤さんが置かれてる状況をご存知ですか?」

「うぇ!?……なんのことだかわかりませんが……もしや、最近体調が優れないように見えてたのって……浩介さんがここにいる理由と関係が!?」

 

 そんなドロップアウトガールもここにいるということは、恐らくはティーパーティーの次点で桐藤さんの心を晴らせる存在だろう。前に呪霊が囁いていた言葉も阿慈谷さんと関係があるようだし、妥当な人選か。

 

 

 

「お待たせしました。ヒフミさん、浩介さん。お好きな席に着いてください」

「ヒフミちゃんかあ……大丈夫だよね?」

「私の勘がどうもうるさくてね……。信じてくれたことに礼を言うよ。ミカ」

 

 桐藤さんは笑顔で、聖園さんは不安そうな顔、百合園さんは意を決した顔つきといったように三者三様だ。阿慈谷さんのことは話からして百合園さんが一枚噛んで聖園さんが承諾したようだ。

 俺と阿慈谷さんは一礼して席に着く。その後に桐藤さんは俺達に紅茶をお出ししてくれた。その様はとても優雅で新鮮な光景だ。正座して茶をしばくことならままあったがこういったティータイムは初めてだ。

 

「いただきます」

 

 取手を摘むようにして紅茶の入ったティーカップを持ち、紅茶をゆっくり飲む。前にトリニティのスイーツを食べた時もそうだが紅茶が美味い。

 

「おや……」

「ほう……」

「意外……」

「わあ……」

 

 トリニティの子達は俺の所作を見て意外そうにしていた。流石に傷つくぞ。聖園さんは直接戦って荒々しい一面ばかりだから仕方ないけどさ。

 

「お気に召しましたか?」

「ええ、とっても」

「それはよかったです。ヒフミさんから聞いた通り、紅茶の良し悪しがわかるようです」

「んな、大袈裟な……」

 

 堅苦しい雰囲気の会話だが、振る舞う本人は楽しそうにしている。友達と一緒にティータイム出来るこの時間が何よりの癒しだろう。俺は邪魔でしかないような気もするが、今回の件が解決したら好きなだけして貰えばいい。そのために来ている。

 

「あはは……。あの店で出されているものは店長こだわりの茶葉を使った最高級なものですし、そうかと」

「いやー、流石に自分が知るものより極端にいいもの出されたらねえ」

「成程ね〜、帰りにいいものを買いなよ。ゲヘナにはないものだしさ」

 

 俺と桐藤さんの会話を聞いて阿慈谷は苦笑いしていた。何気に阿慈谷さんもかなり紅茶に詳しそうだ。俺は正直、あの紅茶は本当に美味いとしか思わなかったぞ。違いなんてわからんわからん。

 

「ケフっ!かはっ!……っ!」

「ナギサ様!?」

 

 そんな日常的で平和なくだらない会話をしている最中に桐藤さんが咳き込む。阿慈谷さんはすぐさま席を立ち、桐藤さんに寄り添う。なるほど、こう出来る子なら呼ぶに相応しい。

 

 

 

 そして、若干ながら呪力が蠢く。

 

 

 

 

「ふー……ふー……。落ち着きました。私も前を向かないといけませんからこれくらいっ!」

「ナギちゃん……急に慣らそうとしても厳しいよ」

 

 呼吸を落ち着かせ友達を心配させまいと空元気に桐藤さんは振る舞う。数日前の過呼吸に比べればだいぶ前進しているが、態々傷つけたくもない。どうするべきか……。

 

「……どうだい?何か変化は?」

「若干の蠢きがありましたが今は落ち着いています。ただ……これでは埒が明かないかと」

「そうか……」

 

 百合園さんは俺が呪力を察知したのを見越してか変化はあったかと聞いてきた。俺が感じ取ったものはわずかな蠢きで、いまだ桐藤さんの中に巣食っている。前のように極端に桐藤さんを蝕むことはなくなったが、しっかりと彼女にへばりついている。

 

 

 

 正直、嫌な予感しかしない。これだけ力のある奴にしては大人しすぎる。

 

 

 

 

 バァン!!

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……!皆様!!!お食事中のところ失礼します!!」

 

 呪霊が大人しすぎると思っていたところにティーパーティーの子の1人が少し息を荒げながら入室してきた。トリニティの雰囲気には合ってない荒々しさだが、その分彼女の必死さが窺える。

 

「どうした?そんなに慌てて……」

「今すぐこの部屋からお逃げください!!正体不明の化け物の群れが迫っています!!」

 

 必死な理由は化け物が迫ってきているから逃げてほしいと伝えるためのようである。化け物、どう考えても呪霊だ。こんな時に来るなんて最悪すぎる。

 

「……っ!!全員、銃を取れ!!もう来てるぞ!!」

 

 それももう既に近くまで来ている。俺の呪力感知の範囲に入ってきたのを感じる。もう戦闘は避けられないであろう距離感だ。ならば銃を抜いてもらうしかない。

 

「た、戦うのですか!?あんな化け物と!?無茶なのでは……」

 

 知らせに来たティーパーティーの子は俺の指示を聞いて恐怖で顔が引き攣っていた。呪霊を目の当たりにして襲われれば無理はないが、自分の身は守ってもらわなくてはならない。

 

 

 バリーンッ!!!

 

 

 突如として窓ガラスが破られ、蛇のような呪霊が牙を剥き出しにしながら襲い来る。大きく口を開けて向かう先は桐藤さんと阿慈谷さんの方向だ。

 

「"焔"」

 

 俺の攻撃の中で最速を誇る"焔"で蛇呪霊の迎撃を狙う。狙いは頭部。胴体では然程意味をなさないと判断したからこそだ。

 狙い通り頭部へと命中し、呪霊は血を吐き出しながら減速する。桐藤さんの目の前あたりで力尽きるように止まり、虚な顔で目標をずっと見ていた。

 

「ヒッ……」

 

 それが怖かったのか桐藤さんは足がすくみ、その場で尻餅をつく。下手をすればそのまま丸呑みされていたかもしれないと思えば無理はない。

 

「……正義実現委員会の部室はどこだ?桐藤さんをまずはそこに連れ出そう」

 

 状況からして俺だけで守り切るのは難しい。正義実現委員会に桐藤さんを預けて呪霊退治に打って出るしかないだろう。

 

「そうするしかないだろう。君はシャーレに連絡を。ミカは万が一の時のためにナギサの護衛をお願いしてもいいかな?……、……っ」

「は、はい!!すぐに先生を連れてきます!!」

「うん。絶対にナギちゃんを守るよ。……勿論セイアちゃん達もね」

 

 百合園さんは俺の話を聞いて冷静に部下と親友に指示を出していた。腕が震えているのか、片方の手でがっちりと抑えて強張る。

 聖園さんは百合園さんも恐怖に釣られたのを察したのか険しい顔つきながらも勇ましい。自分の友達を絶対に守るという意思がひしひしと感じられる。

 

「よし、行くぞ!」

 

 方針が定まったのを見て、早くここから離れるように促す。ここはもう危険地帯だ。さっきのような大型の呪霊が押し寄せてきたら手がつけられなくなる。

 

 

 

 

 ピシッ

 

 

 

 

 ドアに手をかけて今まさに出ようとした瞬間に何かがひび割れる音がする。それと同時にこの部屋の中に呪力が充満する。それはさっきの蛇と全く同じものだった。

 

「っ!?ほむ────」

 

 パシンっ!!

 

 もう一度焔を放とうとするがすんでのところで何かが俺の手を叩く。見覚えのある触手が俺の手元にあったのだ。銃が割れた窓ガラスのところへ飛んでいき外へと放り出される。

 

「え……?な、なんで……?」

 

 犯人は桐藤さんに憑いていた呪霊だ。一番嫌なタイミングで俺の妨害を仕掛けてきたのだ。落ち着いていたと思っていたが違う。仕掛けられる瞬間を待っていたのだ。

 

「ナギサ様っ!!」

 

 桐藤さんがショックを受けている間を呪霊は待たない。だが、あと少しで飲み込まれるといったところで阿慈谷さんが突き飛ばすことで事なきを得る。

 

 

 

 桐藤さんは、であるが。

 

 

「〜〜〜っ!!!!」

 

 阿慈谷さんは足だけ残して蛇呪霊に咥えられていた。足をジタバタとさせているがまるで効果はない。

 ジタバタする足も段々口の中に入っていき、それに釣られて足の動きも小さくなっていく。それに合わせて顔を上に上げて力と重力の合わせ技で呪霊は自分の身体の中に無情にも阿慈谷さんを丸呑みする。

 

 

 

 ゴクンッ!!

 

 

 

「ぁ……あぁっ……ヒ、ヒフミさ……」

 

 最悪の光景を目の当たりにした桐藤さんは限界に達する。完全に恐怖に支配されてしまったのだ。

 

 

 

 

 それと同時に桐藤さんから8本の触手を持った異形がブワッと勢いよく出てくるのであった──。




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