呪いは廻り、神秘は透き通る   作:ソックス

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月曜日の朝からすごいナギサ様を見てしまった……


71 友に伝える思い②

 

「ハイ、これ。君の拳銃。触った時に滅茶苦茶ゾワっとしたんだけど……」

「ありがとうございます。それについては俺の呪力に浸されて呪具みたいになってるのかも……」

「えぇ……、これ他人が使ったらどうなるの……?……まあいいか。ティーパーティーの皆んなは避難済み。後は正義実現委員会が来るまで私と君で持たせるよ」

 

 ミカは浩介に拳銃を渡し、冗談混じりに拳銃が不気味だと揶揄する。浩介は素直にお礼を言いながら苦笑いし、冗談に対して真面目に答える。

 浩介の答えにドン引きしつつも、彼女は自身がやってきたことを説明して戦闘態勢に入る。傷だらけな浩介を守るように立っており、彼が反転術式で回復する時間を稼ごうとしていた。

 

「2対1か……めんどくさいなあ」

「その心配はありませんよ」

「ん?」

 

 やることは浩介が復帰するまで2匹の呪霊を足止めすること。ミメシスを足止めしてた事を思えばこのくらい大したことはない。バルバラクラスが2匹になった代わりに雑魚が減ったのだ。戦力で見れば寧ろ楽とも言える。

 とはいえ質が上がった分めんどくさく感じていた。やられるとは微塵も思ってないが、回復中の浩介を狙って抜かれる可能性は高い。立ち回りが難しいといったところだ。

 しかし、浩介は再生を始めず蛇の方に狙いを定めるかのように指を向けていた。明らかに術式を起動させる動きで回復など微塵も考えていない。

 

 

「"発・剣火繚乱"」

 

 浩介は術式を起動させる。指向性は蛇呪霊に呪力を込めて刺しているものに向けられていた。術式の起動と同時に刀から呪力が溢れ炎が現れる。

 炎は刀から蛇に流れていき、蛇を炎で包む。傷口からも炎が噴き出ており、内部にも行き渡っていることが一目でわかるほどだ。このせいで脱皮もほとんど意味をなさない。

 蛇呪霊はやがて力無く倒れ、霧散する。完全に祓われた後、刀がカラカラっと音を立てて地面に転がる。

 

「刀から炎が……、うわっ……内部燃やしてる……」

「これで1対1です。自分の傷を治したら阿慈谷さんを治すのでそれまでの間をおまかせしても?」

「いいよ。……私だけで終わらせちゃってもいいよね?」

「大歓迎」

 

 2人は言葉を交わした後にそれぞれの役割のために奔走する。ミカは呪霊の足止め。浩介は自身の回復後にヒフミの治療。

 ミカは自慢の愛銃を撃ちながら距離を詰めようと走る。理由は触手対策だ。鋭い刃物のような触手の先端はいかにミカと言えど無事では済まない威力を持っている。それが使いにくい至近距離まで詰める算段である。

 

「ナギちゃん!!起きて!!!」

 

 至近距離まで行くのはもう一つ理由がある。なるべく近い距離で宿主にされている自分の親友に声をかけるためだ。浩介の話の通りナギサに追い出してもらうしかないのであればこの状況を打破できるのは本人しかいないのだ。

 故に倒すためではなく、ナギサを助けるためにミカは全力で駆ける。

 

 

 

「っ!!」

 

 これまでの通り8本の触手が時間差で襲いかかる。ミカは前進しながら避けていく。あまりに近づけば複数の触手で壁を作るようにミカの前を塞いだりされ、中々近づききれない。

 

「なら──」

 

 ミカは片手を胸の前に置き、目を瞑る。戦闘中にやる行為としてはお粗末。危険な行為だ。特に呪霊とやり合うには適した行動ではない。

 

 

 しかし、その様はとても綺麗で呪霊、いやナギサが一瞬見惚れる。

 

 

 

「ミカ……」

 

 親友の神秘が強くなりだしたのに釣られてナギサは意識を取り戻す。乗っ取りがまだ不十分だったのか、ここに来て光明が差し込む。

 

『キサマッ……!』

「……っ!ミカさん!!逃げて!!」

 

 ナギサがあっさり意識を取り戻したのを見て呪霊は焦ったのか、一瞬ナギサを乗っ取り呪詛を吐きながら触手を伸ばす。その後に意識を取り戻したナギサはミカに逃げるように促す。

 今のミカは自分の神秘を練るために棒立ちになっている。これをやめればナギサがまた沈むかもしれない。そう思っているのかナギサの忠告を聞かずに続行する。

 

「うっ……ぐっ……」

「ミカさん!それはやめて!!私のことはいいから……」

 

 案の定ミカは触手の攻撃の嵐に晒される。力を練っているお陰か深刻なダメージはない。しかし、多数の切り傷が出来ており出血していく。時間が経てばその量は比例して多くなっていく。

 そんな親友の姿を見てナギサは涙を流しながら叫ぶ。このままではミカが危ない。かつては他の友達を犠牲にしてでもミカを守ろうとしたナギサからすればこの光景は悪夢だ。

 

「やめない……!ナギちゃんを助けるまでやめない……っよっ!!」

 

 ミカは尚も神秘を練り上げるのをやめなかった。今度はミカがナギサを助けるために身を張っていた。かつてはナギサの行為を無碍にしてしまった自分に出来ることはこれだと言わんばかりに意固地になっていた。

 

 

「私は!!やめないよ!!ナギちゃんとはまだ色んなことしたいんだから!!」

「ミカさん……」

「だから待ってて。必ず助ける」

 

 ミカは何度でも言うつもりだ。やけになってナギサだけ助けて自分の事を度外視するつもりもない。3人で残りの青春を謳歌したいという気持ちは消えていない。

 

 

 

 

 そもそもミカは何もナギサを目覚めさせるために祈ったのではない。それはあくまで嬉しい誤算なのだ。本命は別にある。

 

 

「……行くよ!」

 

 ミカはチャージを終え自身の神秘を解き放つ。これは浩介の戦いの時にも見せた技である。上空からミカの神秘を纏ったものが降りてくる。

 

 

 

 

「コメット……!」

 

 ナギサはミカが隕石を召喚したのを見て後退りする。いきなり殺意の高い攻撃が来るので面食らっていた。呪霊も動揺しているのか動きが止まっている。

 

(ですが……、このまま私が受けてしまえば!!)

 

 悪い意味で覚悟を決めてナギサは隕石が降る地点に移動しようとする。友達を思うあまり自身を顧みない悪癖がここでも出てくる。

 

 

 

 

「そのままじっとしてるんだ!!ナギサ!!」

 

 ナギサがわざと隕石を受けようと動き出したら聞き覚えのある声がナギサを静止する。声の主は珍しく声を張り上げたのかこれだけで肩で息をしていた。

 

「ゼェ……ハァ……頼むよ」

「はい!セイア様!!撃てぇぇ!!」

 

 セイアが息を荒げながらも連れてきたのは正義実現委員会。5人のスナイパーが構えており、号令と共に呪霊の触手を撃ち抜く。

 

『っ!』

 

 呪霊は思わぬところから来た攻撃に怯むがすかさず残った3本で攻撃する。5本は再生中で、まだまだ余力は残している。これだけではまだ状況は呪霊に有利だ。

 

「……残念だったね」

 

 ミカは不敵に笑い、呪霊の攻撃を妨害しようともしなかった。問題ないことがわかっているかのようだ。

 

 

 その答えは簡単。ミカが降らせた隕石がその3本を撃ち抜くからだ。正義実現委員会の攻撃とは比較にならないダメージが呪霊を襲う。隕石が当たった箇所は砕け、欠損していたのだ。

 

「全く……君は無計画に降らすつもりだったのかい?」

「むっ、そんなつもりはないよ!1本だけ狙ってたんだよ!」

「それだけの傷を負って一本?やれやれ……身が持たないじゃないか。ナギサを助けても君が倒れたら元も子もないのをわかっているのかい?」

「セイアちゃん?私は必死にやってるからいつものは抑えて欲しいな〜」

 

 気づけばミカとセイアがいつものように言い合いを始めていた。こんな時だろうと変わらない。ただ今はナギサのために2人とも必死なのは同じだった。

 

「さて……」

 

 言い合いを終えた後、セイアはミカのそばに寄り添い、覚悟を決めたようにナギサと対峙する。

 

「ナギサ……、私はもう誰かが欠けそうになるなんて嫌だよ。もしそうなってしまうなら……私は寂しいよ、ナギサ」

 

 はっきりと自分の気持ちを伝える。彼女にしては珍しく真っ直ぐとした言葉選びでハッキリと口にする。

 その様子にトリニティの面々は驚きながらも、警戒は怠らない。セイアがミカの側に行ったのは正義実現委員会からすれば冷や冷やものだが、ナギサを揺さぶると言う点では効果的なためいつでも迎撃できるようにしていた。

 

 呪霊はこの流れを見て面白くない、そう思っていた。理由は簡単で、ナギサが徐々に支配から抜けつつあるのだ。

 

『ダマレエエエエエエエエ!!!!』

 

 だからなのか焦った呪霊は触手を伸ばしてミカとセイアを串刺しにしようとする。2人がナギサを引き戻すほど心の繋がりが強いのであればそれを壊して仕舞えばいい、そう思っての行動であった。

 触手は2人に近づき、今にも刺し貫かんばかりだ。正義実現委員会が迎撃しようとするが、1本も止められない。何もしなければそのままミカ達を貫くだろう。

 

 

 バァン!バァン!!

 

 

『っ!?』

 

 

 

 だが、それはもう叶う事はない。

 

 

 

「3人は今、桐藤さんに話しかけてるんだ。お前じゃねえよ。お友達同士でがイチャついてるところに手を出すなんて無粋だぜ」

 

 浩介が全ての触手を"焔"で撃ち抜き、呪霊の攻撃が届く事はない。彼は今持っている"焔"が撃てる弾丸を惜しみなく使う覚悟で望んでいた。足りなくなれば刀で、刀が無ければ拳で止めるつもりだ。

 もう、親友が袂を分つことになったり永遠の別れをする場面など見たくないのだ。

 

 

「ナギサ様っ!!」

 

 ここで響くは3人目の大きな声。ナギサにとっては親友2人についで目をかけている後輩、阿慈谷ヒフミの声が響く。浩介の治療が完了し、ナギサを引き戻す戦いに参戦したのである。

 

「私はっ!!今でもあなたのことを尊敬しています!!」

 

 ヒフミは自分の燃え上がる気持ちに嘘をつかない。尊敬する先輩のことが大好きなのは本当なのだから。

 

「いつも優雅でっ!!私の憧れでっ!!ティーパーティーとしての気風を感じさせたと思えば本当の優しさも感じられて、時にはお姉ちゃんみたいに感じたことだってありますっ!!」

「ヒフミさん……」

 

 ここまでの流れでナギサは完全に呪霊の支配から抜け出そうになっていた。ヒフミの言葉が響く隙に、ミカとセイアはナギサに近づく。

 手が触れる位置に来たら2人は手を差し伸べる。友達を遊びに引っ張って連れていくように自然に。

 

「でもそんなナギサ様も友達を想う1人の生徒です!!私達となんら変わりません!!」

 

 

 ヒフミの言葉はまだ続く。一区切りついたところでミカとナギサを指差す。ビシッと指差しされたおかげでヒフミを見ていたナギサは手を差し伸べているミカとセイアに視線を向ける。

 

 

「今、あなたの目の前にいる人はどんな人ですか?私にとって補習授業部の皆さんのような存在ではありませんか?」

 

 ヒフミが念押しもこめた言葉で締めくくる。大きく響く声から一転して優しい声色で語りかける。あくまでナギサ自身に答えを出させるために。ヒフミは浩介からのアドバイスもなく最適解の言葉を投げ続ける。

 

「おいで、ナギちゃん」

「行こう、ナギサ」

「……ありがとう」

 

 2人の最後の声かけにナギサは応える。2人に連れられる度に呪霊はナギサの身体から離れていく。

 エデン条約の一件以降修復傾向ではあってもチグハグになった親友と本当の意味で歩みを始め、妹のように気にかけていた後輩からこれ以上ない言葉を貰った桐藤ナギサに呪霊が取り憑く島などないのである。

 呪霊は黒いモヤに大きな目玉があって、周りから見覚えのある先程まで浩介達を苦しめた触手が生えている形態を見せた。特に形が定まっておらず不安定な様子だった。

 

『ソンナ……』

 

 もう呪霊に力は残されていない。消されるのを座して待つばかりである。そして、座して待つ事すら許されない。

 

「じゃあ、君はもう消えよっか」

 

 ミカは自身の神秘を込めて呪霊へと放つ。紫と青みのかかった神秘は呪霊の元で大きくなっていく。臨界点に達したところでミカが祈りを捧げるようなポーズを取る。

 

 

 

 それと同時に大きくなった神秘がドカンと爆ぜる。凄まじい爆風を撒き散らし、収まる頃には呪霊は祓われこの場から存在を消すのであった。




原作ヒフミはここまでナギサを思ってなさそう
仲のいい先輩ではあるんだろうけど

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