呪いは廻り、神秘は透き通る   作:ソックス

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75 お揃いの羽③

 空崎ヒナと剣先ツルギの同盟により調査は桁違いのスピードで進行していく。ゲヘナとトリニティの情報のすり合わせが可能となったからか呪霊の行動パターンを推測するに至る。

 

「なるほど。ここはトリニティに近い上に最近出来たショッピングモールを目指そうとすれば近道……」

「ゲヘナの生徒が襲われてるのもショッピングモールに買い物に向かった子が多数だったわ。相手はこの付近にゲヘナとトリニティが通る可能性が高い事を把握してる可能性があるわね」

「現場に張り込むならこの地点だな」

「得物の射程を考えてその配置なのね。そうなると出来ることならスナイパーも欲しい」

「どちらもいいスナイパーがいる。1人ずつ出せそうか?」

「その辺はアコに聞いて空きが作れないか確認する。出せない場合はそちらのスナイパーだけお借りしてもいいかしら?」

「構わない」

 

 まずは被害者の傾向のすり合わせが特に有効性が高いものだった。両校ともふんわりとそうだろうなと思っていた傾向が集積されることで確信へと変わる。

 

「ゲヘナの風紀委員長……凄まじい情報の処理速度ですわ……」

「で、ですよね……。被害者の情報を地図にササッとまとめています。わかりやすい」

 

 ヒロコとギンコは委員長二人のやり取りに目を惹かれる。ヒナが情報を処理してツルギがすぐに自分なりの咀嚼をしてアウトプットする。このやりとりが凄まじい速度で行われているのだ。

 

(ツルギ委員長……奇声を出しながら暴れる印象が深いですが実際に対面してみると意外と冷静ですね。調査する能力はそこまでないのですが、飲み込みが早い……!)

 

 一方でチナツはツルギを見ていた。ヒナが纏めた情報をしっかりと吸収して意見を素早く出している姿が意外だったのだ。

 しかし、お陰で調査はスムーズに進んでいる。浩介がいなくとも充分な情報が集められるとわかったのは大きい。

 

 

 ぐぅ〜〜〜〜……

 ぐぅ〜〜〜〜……

 

 

 

 ここでお腹が鳴る音が二つ。誰かが空腹になったサイン。1年生達は知らんぷりしてはいるが誰だか気になってしまう。少なくとも自分ではないと思っている。

 

「「……」」

 

 顔を赤くして目を逸らしているのは先程まで真面目に話していた委員長2人。乙女の恥じらいを両者共に遺憾無く見せつける。先生がこの場にいれば眼福と心で念じていたであろう光景だ。

 ただ、後輩の前でやらかしたという事実はちょっとだけ2人を気落ちをせる。何とも言えない空気感が流れる。

 

(((委員長!?)))

 

 先程からシンクロしまくりなヒナとツルギを見て後輩達は困っていた。なんて言えばいいのか。この微妙な空気を吹き飛ばすものはないか頭の回転を早くする。

 

「お昼時ですし……私のおすすめのカフェに行きませんか?ゲヘナもトリニティも関係なく寛げる店ですわ。売れなくて人も少ないですし……」

 

 先に答えを出して助け舟を出したのはヒロコ。パテル派の割にゲヘナ嫌いが最近薄れてきた故か善性を遺憾無く発揮できていた。

 

「カフェ……!行ってみたい……」

 

 ギンコはカフェに興味を持ち、純粋に行きたそうにしていた。カフェの3文字で気まずさを紛らわす思考は遥か彼方へと吹き飛んでいく。だって仕方ないんだもの。焼きそばが配給の砂糖より美味しいという情報で目を輝かせる環境だ、面構えが違う。

 

「ヒナ委員長、折角ですのでどうでしょう?今日はどのみち呪霊退治まで漕ぎ着けられませんし、作戦の協力をする仲ですので一足先に交流としませんか?」

 

 チナツも畳み掛けヒナの思考を鈍らせる。我ながらよく言葉を紡げたと、後でチナツは思ったのであった。

 

「ありがとう。案内してくれる?」

「助かる」

 

 委員長2人もお礼だけ言って、お言葉に甘えることにする。今日は少しだけお喋りして、自分の業務に戻ろうと心に決めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

 カランカラン……

 

 

 一行がカフェのドアを開ければ、上部に付いていたベルが店内に鳴り響く。来客の知らせをカフェのマスターに伝える役目を果たし、マスターはドアを開ける客を気にかける。

 

「いらっしゃいませ。こちらのテーブルへどうぞ」

 

 犬の獣人がヒナ達を案内する。制服をしっかりと着こなしており、マスターであると一目でわかる装いをしている。

 ヒロコはありがとうと上機嫌になりながら指定の先へと座る。それに釣られるようにヒナ達も席につき、メニュー表に目を通す。

 

「わぁ〜、どれもおいしそうです。えへへ……」

「ギンコさん凄く嬉しそうですね。なんだか見てて楽しいですわ」

「たまごサンドとコーヒーにするわ」

「私も委員長と同じで」

「私もだ」

 

 ギンコはアリウスの頃を思えばどれも豪勢な食事であり、刺激が強すぎたのか迷っていた。ヒロコはそんなギンコの様子を可愛いな、と思いながらメニュー表を見つめる。残り3人はヒナがササッとメニューを決めたのを見て同じ物に決める。

 

「悩んじゃうので……同じにします」

「あらあら……では私も……。マスター!たまごサンドとコーヒー5つずつ!」

「かしこまりました。すぐにお持ちします」

 

 結局全員が同じメニューを頼むこととなる。マスターは注文を受けて厨房へと向かう。カウンター席の向かい側に厨房があり、カウンター席に座れば調理光景が見えるようになっている。

 保管していた食パンを切り、レタスとたまごを乗せて食パンで挟む。サンドイッチを爆速で作った後は既に保温されていたコーヒーを5つ注ぐ。

 

「おっと、浩介くん。出番ですよ」

「配膳ですね。了解しました」

 

 トレーには全て乗り切らないため、サンドイッチを積んだトレーをパソコン作業していた男に配膳を任せる。マスターはコーヒーを運んでいる。

 

「お待たせしました。こちら当店オリジナルブレンドコーヒー5つです」

 

 マスターはコーヒーを全員に配り、それを終えたらごゆっくりと言って厨房へと戻る。

 

「お待たせしました。たまごサンド5つです。失礼します」

 

 それに続いて男がたまごサンドを持ってくる。さり気なくやっているがどう考えてもここにいるはずのない男がそこにいた。

 チナツは男から見て眼鏡を光らせ、恐ろしい雰囲気を纏う。怒りのボルテージを急速に上げていた。

 

「……へぇ?」

「……ゴ、ゴユックリー」

 

 配膳していたのは火野浩介。今日は40度の熱を出して休んでいるはずの男である。

 

「おかしいですね。今朝6時ごろに私があなたの部屋で測った時は40度ほどあったと記憶してますが?何か弁明は?」

「ありません……」

 

 チナツは顔こそ笑っているが雰囲気は鬼そのものである。浩介はまさかピンポイントでチナツに会うとは思ってなかったのかタジタジである。

 

「これはこれは……申し訳ありません。浩介さんは私がツテを通して呼んだのです」

「ピータンが贔屓してる店と聞いた時はたまげたぞ」

 

 助け舟を出したのはマスターだった。犬耳をピロピロ動かしながらチナツに対して詫びていた。因みにマスターの言うツテは黒服である。ここに先生がいたらつい口が滑った浩介の言葉で察してしまうのは言うまでもない。ピータンは隠語。

 

「……動かないでください」

「うん……」

 

 チナツは浩介の額に手を当てて体感で温度を測る。浩介は借りてきた猫のように大人しくそれを受け入れていた。確かに熱がないのを確認したらホッとして席につく。

 終わったら一緒に帰るように、と強く念押しして食事に戻る。浩介の逃走という選択肢はこの時点で消え失せる。

 

(これでまだ付き合ってないのね)

(というかさり気なく殿方の家に上がって看病までしてますね)

(こ、これは……所謂アレ!?少女漫画で見るようなアレ!?どどどどどどどうなってるの!?どこまで!?き、気になる……!)

「キヒヒ……」

 

 イチャつく様子を見せられてヒナとヒロコは2人の関係をそれぞれの目線で推しはかり、ツルギは内心燃え上がっていた。

 因みにツルギはいつものように叫ぶのはお店に迷惑をかけるので必死にこらえている。先生とディナーに行った時は物凄くテンパったことを思えば大きな成長である。

 

「はむっ……モグモグ……んんぅ〜〜っ!!おいひいですう!!もう一個注文します!!」

「ホホっ、元気いっぱいですねえ。はいどうぞ」

 

 なお、ギンコは気にせずサンドイッチを頬張るのであった。彼女はもう目の前のサンドイッチに夢中である。なお、ギンコの財布はこれで少しばかり寂しくなるのであった。




浩介の熱

黒服「ここに行ってください」
浩介「熱があるからやだ〜」
黒服「お薬」
浩介「イヤッッホォォォオオォオウ!」(回復)

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