呪いは廻り、神秘は透き通る   作:ソックス

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77 お揃いの羽⑤

「くそっ!どけ!鼠ども!!」

 

 浩介は焦っていた。目の前の惨劇はキヴォトスに来てからは久しぶりのもの。呪術師としては何度か見たことあるような光景も久々となれば緊張感はより大きく感じてしまう。

 

 浩介は反転術式での治療をしようとギンコの元へ走るが、それは鼠が許さない。自分の傷を塞ぐために初動が遅れてしまったのである。呪力で強化された鼠が狙いを浩介に集中し始めたのである。

 

(呪力で強化された本物の鼠……式神でなく実際の動物となると……やはりもう1匹呪霊がいるな。本体を叩きたいが今はギンコさんの治療が最優先!だというのにっ!!)

 

 浩介は鼠に行く手を阻まれ歯痒い思いをしていた。時間が掛かればかかるほど死のリスクは高まる。すぐにでも治療をしないと間に合わないほどの大怪我だ。下手するともう手遅れという可能性もある。

 

「浩介!今は鼠の駆除に集中してください!!時間は私が稼ぎます!!」

 

 浩介がやろうとしていることをわかっているチナツはすぐに手持ちの医療道具をフル動員して可能な限りの延命処置を施そうとする。

 

「そんなつまんないことさせるかよ!!ここで──」

 

 死ぬんだよ、と言おうとして呪霊は鎌になった腕を大きく振りかぶる。威力は2人を纏めて葬るには申し分ない。胴体を難なく貫通して勢いよく引き抜くだけの簡単な作業だ。

 

「死ぬのはあなたよ」

 

 鼠が浩介に集中したことでフリーになったヒナが呪霊に向けて弾幕を展開する。チナツ達には当たらぬようしつつも広く弾をばら撒いていた。神業とも言うべき攻撃だ。

 

「ちっ……」

 

 呪霊は舌打ちしながら後ろに下がりギンコ達への追撃を断念する。自分の趣味を邪魔されたのが腹立たしいのか顰めっ面でヒナを睨む。

 

「ヒロコさん!私が少しでも望みを繋げてみせます!あなたは引き続き各所への連絡と近くの病院から救急車の手配を!!」

「はいっ!」

 

 出来ることをする。それだけしか許されない。ならばそれを最大限やり切るとチナツとヒロコは必死になる。自分の友達を助けるために2人の意思が一致する。

 

「D.U.でこんなことしたくないけど……貴方のような呪霊相手に遠慮はいらないわね」

 

 ヒナは少しでもチナツ達に呪霊を近づけまいと弾幕を貼る。彼女の神秘が纏った紫色の弾幕はどれも殺意が篭っていた。許されない所業を犯した呪霊を逃すつもりなど毛頭ないというヒナの意思が表れているかのようだった。

 

 一方で呪霊の視界は紫色の弾幕で埋め尽くされる。扇状に広がり逃げ場の少なさに厄介だと思うが、不思議と嫌な感じを呪霊は感じていない。むしろ……。

 

 

「ヒヒッ」

 

 笑っていた。相手の強さを理解し、それに挑む楽しみを見出していた。その精神性は戦闘に遺憾無く発揮される。

 

「っ!!こいつ……!」

「ヒャハハハ!!」

 

 呪霊は笑いながらヒナの弾幕を潜り抜けていく。それどころか前進していき距離を確実に詰めていた。右腕は変わらず鎌のままであり、狙いはヒナの角と羽である。

 この呪霊は強い者に挑むこと、角や羽など特徴的な部位を持つ子の欠損させる……その両方に楽しみを見出していた。それを両方満たせるヒナは最高のご馳走そのものだ。

 

 その条件を満たす者はこの場にもう一人──。

 

 

 

 

「キヒヒヒヒっ……無駄だぁっ!!!」

 

 ある意味呪霊よりも恐ろしい雄叫びを上げながら乱入したのはトリニティの戦略兵器、剣先ツルギ。彼女もまたヒナの弾幕に潜り抜けながら呪霊に接近する。

 その速度は凄まじくあっという間に自身の射程距離へと入っていく。すかさず2丁のショットガンを呪霊に突きつけ、自身の神秘が籠った弾丸を発射する。

 

「ぐはっ……」

 

 呪霊は血反吐を吐きながらふらつく。動きが完全に止まってしまっていた。流石にヒナの対処をしながらツルギまで撃退するといった芸当はできなかった。

 

「これで貴方は逃げることはできない」

 

 その隙をヒナは見逃さなかった。火力を呪霊が動きを止めた場所へと集中して一気に叩き込む。これで仕留めると言わんばかりの猛攻を開始する。

 呪霊は身体を穴だらけにしてはいるが、未だ祓える様子はない。それどころかヒナを見つめ、反撃の時を窺う。弾が尽きた時に一気に勝負に出ようと呪力を練り上げる。

 

 やがてヒナの愛銃の弾が尽き、呪霊への攻撃は止まる。呪霊は未だ健在である。

 

「ヒヒッ!これで──ぶげっ!!??」

「お前の相手は私だあぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 耐え切った呪霊はヒナに反撃しようとするが、それをツルギは許さなかった。ツルギの狙いはシンプルでヒナのリロードの時間を稼ぐことだ。考えなしに暴れているようでその実、クレバーな立ち回りを演じている。

 ヒナは特に何も言わずにリロードして次の攻撃の算段を立てていく。打ち合わせこそないが、何とか雰囲気だけで相手の意図を察している。初歩的だが交代しながら呪霊と戦う戦術である。

 

「……キヒッ」

 

 追い込まれてなお、呪霊は笑う。ツルギの攻撃から逃れる為に距離を取る。近づいて攻撃するタイプとしてはあまり嬉しい行動ではない。

 

 

 

 ズバッ!

 

 

 

「っ!?」

「なっ!?」

 

 だが、突如としてツルギとヒナは腹部に鋭いものを感じる。血が流れ嫌でもダメージの大きさを嫌でも意識してしまう。

 右腕の鎌は当たってない。だというのにツルギもヒナも切られている。呪霊は右腕を振るってこそいるが、当然ながら鎌が当たる距離にはいない。この事実から導き出される答えは一つである。

 

「……飛び道具か」

「この場合は呪力による飛ぶ斬撃……?」

「正っ解っ!!!」

 

 飛び道具もとい飛ぶ斬撃を呪霊が放った事に二人は気づく。近距離攻撃しかないと思っていたがこれで戦い方を大きく変えざるを得ない。

 

「さて、ここまでつよ〜いお二人にはご褒美に俺の術式を教えてあげる♡ありがたーく聞いてね」

 

 呪霊はダメージを回復させながら調子良く術式の開示を仄めかす。知らない人からすれば罠か愚行と判断する行為ではあるが、呪霊と呪術師にとっては大きな意味を持つ。その意味を二人はまだ知らない。

 

「俺の術式と身体は切るや突くという行為や概念そのもの。こんな風に身体を鋭利な状態に変化させたり、さっきみたいに斬撃を飛ばすことが出来る。まあ、俺自身は刃物に対する畏れや切られて亡くなった者の怨念の集合体さ。生まれた場所からしてシスターフッドやアリウスによるものかな?ほんっと愚かな子達だよね〜笑っちゃうよ」

 

 呪霊はそういってケラケラと笑う。本気の準備と趣味の両立のための語りはこの場にいるものにこの上ない不快感を与えるだけであった。

 

「態々能力を喋ってくれるなんて余裕ね」

「舐めてるのか?この程度で止まるとでも?」

「余裕?舐めてる?違うね、これは挑戦さ!もっともっと俺を高みに上げる為に!!」

 

 強者3名。いずれも相手から目を離さずにいた。一瞬でも気を抜けばそれが敗北に直結する。その危機感が3名の集中力を極限まで高める。

 

「んんんんんんっ!!んはぁっ!!!!!」

 

 最初に動いたのは呪霊だった。鎌になった腕を大きく振って斬撃を飛ばす。速さも威力も先程よりも大幅に強くなっている。

 

「ちぃっ!」

「チナツ!伏せなさい!!」

 

 ツルギとヒナは後続にいる自分の後輩達を守る為に飛び込む。呪霊の斬撃は頭ぐらいの高さにあったため、伏せさせることで難を逃れる。自力で避けれたのはヒナ、ツルギ、浩介の3名のみ。

 

 斬撃は向かい側のビルに直撃して貫通する。流石に貫通したことで威力は大きく減衰し、消滅するが豆腐のように簡単に切られた光景は全員の度肝を抜く。

 平行に飛ばされたおかげかビルは不安定ながらも辛うじて倒れない。しかし、上の重みで崩れるのは時間の問題である。切れ味が良すぎるが故に直接崩す原因は上からの重みとなる。

 

「さっきのとはまるで違う」

「タメがあるからとは言え……あまりにも威力が上がりすぎね」

「術式の開示をさせてしまったか……!くそっ!!」

 

 術式の開示により威力を向上させた事実を二人は知らない。それを理解している浩介は自身の説明不足による大事故に悩まされる。手遅れではあるがどうにか事実を伝えねばならない。仕組みを理解するだけで警戒するものが違うかもしれないのだから。

 しかし未だ浩介は鼠の対処に追われている。近くのマンホールから夥しい数の鼠が全て浩介に向かっているのである。炎で纏めて処理するのも間に合わないほどの物量に苦しめられていた。

 

 

「キヒッ!」

「このっ……!」

 

 反撃の隙を与えまいと呪霊はすぐさまツルギに襲いかかる。伏せから立ち上がる途中を狙い、今度は腕を槍に変化させる。顔を刺し貫こうとする。

 ツルギは何とか紙一重でそれを避ける。当たれば顔がとんでもない事になる前にヘイローが壊れていただろう。既に腹の傷を再生させているが、限度は当然ながらある。

 

「うらあ!!」

 

 呪霊はそのまま腕を薙ぎ払いツルギの顔に裏拳を打ち込む。その威力の高さはツルギが吹っ飛ばされることで周りのものに視覚的に教え込ませる。

 

「さて……あのアリウスの子をもっといじめちゃおっ!!!ヒヒッ!」

「待てっ!!」

 

 呪霊が自分の性癖を満たせそうだと確信したのかターゲットをアリウスの子、ギンコへと変更する。彼女の背中には呪霊による切創跡と過去にあった羽があったという痛々しい事実が確かにある。よからぬ事を思いついたのである。

 ヒナがそれを止めようと発砲するが、被弾もお構いなしに斬撃を飛ばす。無情にも真っ直ぐギンコの元へと向かっている。

 

 

「私のお友達に手出しはさせません!!!」

 

 辛うじてヒロコがギンコを斬撃から救い出す。友達を救おうという気持ちは凶刃からギンコを守ってくれた。

 

 

「おっ?……キヒッ♪」

 

 

 ただし、代償は高くつくこととなる。予想通りの収穫に呪霊は上機嫌だ。

 

 

 

「うっ……がっ、ああああああっ!!!!!!」

 

 ヒロコは痛々しい叫びをあげながらその場で蹲る。彼女の背後には彼女の羽だったものが転がり落ちていた。彼女を襲うのは激痛と喪失感。

 

 

「よかったなあ!これでお友達とお揃いの羽だよ!あっ、もう二人ともないんだったな。ふひひっ……

 

 

 

 

 あははははははっ!!

 

 

 

 

 それに対してただ呪霊はゲラゲラと不快な笑い声を響かせるだけであった。




ちょっと今回長すぎんよ〜

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