呪いは廻り、神秘は透き通る   作:ソックス

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遅ればせながらメリークリスマス


86 嗚咽

 爆ぜたヴェリタスの部室。その衝撃で俺達は勢いよく外へと吹き飛ばされてしまう。何とか全員無事なようだ。

 

「先生、指揮を」

 

 こうなったからには先生との共闘で天童さんを鎮める他ない。明らかにおかしくなったからには先生だってやらざるを得ないだろう。優しい人ではあっても甘い人ではないはずだ。

 

「……それはいいけど、浩介は何か知ってるの?」

「黒服から聞いた。これで充分か?」

「質問の答えになってない。出所じゃなくて内容を聞いてるんだよ」

 

 先生は苦々しい表情をしながら、シッテムの箱を取り出す。嫌ではあってもちゃんとやってくれるらしい。ここでどうこう言わないのは本当にありがたい。

 とはいえ、俺が誰よりも早く天童さんを止めるために動いたのを見て事情を知っている事はバレた。先生にはこの情報を話していいものか判断がつかないので適当に黒服の名前を出して誤魔化すが、先生の深掘りは止まらない。

 

「お姉ちゃんっ!!しっかりして!!!」

「あ、あぁ……モモイ……!」

「モモッ!!!そんな……」

 

 先生の深掘りにどう答えようか迷っていたところにミドリさんの悲痛な叫びが響き渡る。雰囲気からして相当まずい。いくらヘイロー持ちとは言えただではすまない。

 振り返れば1年生がモモイさんを囲み、何とか呼びかけるが反応はない。音瀬さんと小鈎さんは後輩を守るためなのか愛銃を取り出して天童さんに銃口を向ける。

 

「っ……!!」

 

 これじゃまるで……。

 

 

「俺が応急処置に向かいます。詳細は天童さんを拘束した後にご説明しますので、……今は残った生徒達に指示を」

「浩介……? ……わかった。モモイを頼んだよ」

 

 今は先生と小競り合いしている場合ではない。モモイさんの治療が最優先だ。

 

 

 それに、ミドリさんの悲痛な叫びの奥に渦巻く気持ちは痛いほどわかる。出来れば俺と同じ思いをしてほしくない。

 

 

 

「ミドリさん!俺の回復能力は他者にも使える!俺に任せてくれないか!?何としても命は繋ぐ!!」

「浩介くん!?」

 

 さっきまで天童さんに苛烈な攻撃を加えていた俺がいきなり治療を提案してくるからかミドリさんには迷いが見られた。ただ一人の姉が瀬戸際に立っている今、彼女の中には恐怖が渦巻いている。

 

「……お願いします。私は……アリスちゃんを止めます」

「信じてくれてありがとう。必ず期待に応えてみせる」

 

 ミドリさんは背に腹はかえられないと判断したのか俺に託してくれた。目には溢れんばかりの涙が流れているが、やるべき事は見失っていない。とても強い目をしている。何が起こってるのかわからず、姉が大変な目にあってもなおそれが出来る強さが当時の自分を眩しさで焼くようだ。

 

「もう二度とあんなこと……起こさせねえ」

 

 

 

 思い出すのは姉ちゃんが死んだあの日。

 

 

 

 

 

 

『浩ちゃん……逃げて』

 

 

 

 

 

 任務先で助けるはずの一般人に包丁で貫かれ手遅れになった姉の姿は今も俺の脳裏から消えない。それを嘲笑う呪霊と激昂する夏油さん、冷たくなっていく姉、とんでもないことをしでかした自覚があり狂った一般人。どれも思い出したくないものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

「アリス……浩介……」

 

 アリスに起こった不可解な事象、浩介に渦巻く悲しみ。どちらも今の先生には何がなんだかわからない。

 

 

 アリスは出会いからそもそも衝撃的だった。明らかに人ではない何かであるのは先生もわかっていた。それでも生徒であると受け入れ、導くつもりでいた。

 浩介は今でも壁が高く分厚いと感じていた。味方でいてくれることの方が多いが、敵になる可能性が今でもチラつく。アホなことやる男子高校生の一面もあれば、振り払っても底から湧く闇が浩介の人物像を不明瞭にしていく。

 

「マキ!その位置で!」

 

 だが、今はアリスを止めるのが最優先。先生も知らない何かが生徒達に、アリスに牙を向けているのは間違いない。そしてその牙は誰よりもアリスを傷つける。そんなことはあってはならない。

 

「ハレ、ドローンの準備は出来た?」

「今動かせるものは全部用意出来たよ。あの深海生物みたいなロボットの相手をさせればいいんだね?」

「私も手を貸します。これだけのドローンを端末から操作するのは一人では難しいでしょう」

「コタマ先輩……、うんお願い」

 

 幸いにもハレが持っているドローンは使える状態で残っていた。武装もあるのでそれでアリスの取り巻きのロボットの相手をさせることになった。急拵えで用意したため、自動で戦闘はさせられない。数も多いので必然的にコタマは補助に回ることになった。

 

 

「アリスちゃん!もう……やめて!!」

「どうしちゃったの!?」

 

 ユズとミドリはアリスと戦いながら必死に呼びかける。明らかにいつものアリスでない事はわかっている。何とかいつものアリスに戻って欲しい、そんな切なる願いを乗せて呼びかけを続けている。

 

「武装をリロード」

 

 呼びかけはまだ届かない。それどころかより無機質になっていく。本当にロボットになってしまったかのような反応だ。レールガンのチャージを黙々と進めている。

 アレがもう一度フルチャージされ、放たれてしまえば壊滅状態に陥るだろう。全員、そういう嫌な確信はあった。

 

 だからこそロボットだけでも何とかしたいのだが、簡単にはいかない。

 

「うわっ!?」

 

 ロボットはハレが用意したドローンを相手取りながら正確にユズとミドリに攻撃をしてきた。性能が高いのは嫌というほど伝わってくる。

 

「ミド!ユズ!逃げて!!」

 

 同学年の友達の危機を何とかする為、マキは遠慮なく発砲する。ロボットは大したダメージを負ってはいないが、マキを危険と判断したのかミドリとユズへの攻撃は中断される。

 ゆっくりと振り返り、のそりのそりとマキへと詰め寄る。まずはこいつを片付けると言わんばかりだ。

 

「ちょっと!こっちに来んな!」

 

 マキは堪らず連射するが手応えは薄い。マキの必死の抵抗を嘲笑うかのように詰め寄るだけであった。

 

「「マキ!」」

 

 このままではマキが危ない。かわいい後輩の危機を目の前にしてコタマとハレは走り出す。が、ドローンも攻撃も間に合いそうにない。

 

 グサリ。

 

 マキに迫るロボットに何かが勢いよく刺さる。呪力を帯び、切れ味が増した浩介の刀が投げられたのである。

 

 

「"剣火繚乱"」

 

 浩介は術式を発動させ、刀が纏う呪力を炎に変換する。中から焼かれたロボットは機能を失い動きを停止させる。

 モモイの治療は可能な範囲を終わらせ、今はアリスを鎮めることを優先する。ヘイローを持った生徒の頑丈性のお陰か浩介が思ったよりも被害は薄かった。意識はまだ戻らないが命は確実に繋げられている。

 

「天童さん。不可抗力とはいえ……お痛が過ぎるよ」

 

 浩介は呪力を練り上げ、視線をアリスへと向ける。天童アリス、もとい名もなき神々の王女AL-1Sの性能を察知した浩介は出力を最大にしても壊れないことを確信していた。寧ろ火力が足りないという不安の方が勝る。

 

「っ!!」

 

 アリスは浩介の火力を危惧し現時点でチャージを止めて浩介へと放つ事にした。こちらは浩介を葬るには十分な火力を持っている。長いチャージは却って負け筋を作る。

 

「バカが」

 

 浩介はアリスが銃口を向けたのを見てすぐさま直進する。くらえばタダでは済まないとわかっているのに選んだのは馬鹿正直な特攻。彼の言葉はそのままそっくりと返されるのが普通だろう。

 

 だが、浩介はアリスと比較して勝る点が存在する。

 

「……!!」

 

 それは俊敏性と近接戦闘の練度。溜めてしまうと撃つのに時間がかかるレールガンは浩介を捉えきれない。かつて美甘ネルと戦った時に露呈した大きな弱点。それは現状も変わらない。

 

「捉えました」

 

 だが、今回戦っているのは鍵そのもの。慌てる事なく浩介の動きを予測して照準を合わせる。浩介が着地する瞬間を狙ったのだ。

 

 

 しかし、浩介はニヤリと笑う。戦闘中の刹那のやり取りを心から楽しんでいた。

 

「俺が飛べることを知らなかったか?」

 

 浩介は足から炎を噴出して着地ではなく高速タックルをアリスにお見舞いする。あっという間に浩介の拳が届く密着状態となる。

 

「ふんっ!」

 

 発射前に合わせて浩介はレールガンを蹴り上げる。角度をずらし、レールガンは浩介に当たることはなかった。それどころか狙ったかのように例のロボットにレールガンの攻撃が直撃する。

 

「くっ……!!」

「AIもそんな顔するんだな。この程度なら俺でもしのげそうだ」

「貴様……!」

「あらまあ怒っちゃって。可愛い顔が台無しじゃないか」

 

 鍵は初めて悔しそうな表情を浮かべる。黒服から鍵のことを王女を補佐するAIであると聞いていた浩介はケラケラと笑いながら煽る。

 浩介のなんて事ない挑発をあっさりと受け取った鍵は激昂する。その様子はAIというには感情が豊かで天童アリスと同様に人の子でしかない。機能を充分に活かせもしないこの環境では浩介に太刀打ちする術はない。

 

「このっ!! なっ!?」

 

 苦し紛れに重いレールガンを振り回して物理攻撃へと移行する。アリスの膂力あってこそ強力な一撃として成立する。が、虎杖悠仁を知る浩介にはそんなものは脅威にならない。ひょい、っとジャンプしてアリスの後ろへと回り込む。

 

「目覚めた場所をすぐに掌握せずに吹き飛ばしたのが仇になったな」

「うし、がっ……!?」

 

 鍵は浩介が後ろに回ったのを対処しようとするが、後ろを振り向いた時に見えたのは浩介の回し蹴りが被弾する瞬間だった。間に合うわけもなく強烈な蹴りで浩介の刀が突き刺さったままのロボットの方向へと飛んでいく。

 

「ア、アリスちゃん!」

「……」

 

 それを周りの人達は複雑な表情で見るしかなかった。いくらアリスが暴走したとはいえ、蹴り飛ばされて大ダメージを負っている場面を気持ちよく見れる人などここにはいない。かと言って浩介を責めてしまう人もいない。ただただショックでしかない。

 

 

 

 

 

 

 

「……武装を変更」

「へえ?」

 

 ここに来て鍵はレールガンを優しく置いて、別の獲物へと手を伸ばす。それは浩介がロボットに向かって投げて突き刺さった彼自身の刀。浩介の近接戦闘に対応しようとした結果である。

 

「お前……一体何を……んなっ!?」

 

 浩介は鍵の思わぬ行動に不審に思い、自身にどう向けられるか警戒していたが思わぬ行動に移ったのを見て面食らう。

 

「ちょっ!?それはいくらなんでも洒落にならないって!!」

 

 鍵が狙ったのは浩介ではない。ある意味では浩介狙いではあるが直接ではない。誰もが悲鳴をあげる。

 

「ダメえええええええええ!!!!!!」

 

 最も悲痛な叫びを上げたのはミドリ。理由は簡単。鍵が狙ったのは……。

 

 

 

 グサリッ!

 

 

 鍵が狙ったのは才羽モモイ。アリスの人格形成に最も影響を及ぼしたと言っても過言ではない人物。アリスを沈めるのに最も適した狙い。

 無情にも凶刃は突き刺さり、剣先が見えるほど貫通している。ポタリポタリと血が地面に落ちる。

 

「ぐふっ……」

 

 アリスの手にびちゃりと血が零れ落ちる。赤く赤く染まった手は嫌な鉄の匂いを充満させる。呪術師にとっては嗅ぎ慣れた匂い。

 

「そろそろ、ですか。まだ王女は……ですが次……こ……そ……」

 

 鍵は支配権を握りきれずここで意識をフェードアウトさせていく。タイミングとしては最悪というほかない。

 

 

 

 

 

 

「んぁ……、これは……ぇ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こう……すけ……?」

 

 

 アリスはこの時のことを生涯忘れる事はない。血に染まった自分の手、刀を握る自分の手、刀で貫かれた浩介の姿、パニックに陥ったいつもの友達。何もかもがアリスの記憶へと強烈に刻み込まれる。

 

「ぁ……ああっ……!うっ……ぉぇ……」

 

 アリスは刀の柄から手を離し、嗚咽する。

 

 

 

 

 

 それら全ての要素が否が応でも何が起こったのかを無情にもアリスに教えるのであった────。




これが今年最後かもしれないので取り敢えず……
良いお年を

更新時間はいつが良いでしょうか?

  • 22時〜0時ごろ
  • 7時ごろ
  • 19時ごろ
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