呪いは廻り、神秘は透き通る   作:ソックス

91 / 100
あけましておめでとうございます。
いきなりで申し訳ないのですが今月はこれだけしか出せなさそうです


87 無慈悲な事実

「消えない……、消えない……」

 

 天童アリスは何もついてない手を必死に洗う。どんな洗剤を使おうと落ちた気がしない。それどころかより意識して消えないように錯覚していた。

 脳裏に浮かぶのは友達のモモイと浩介が血を流す姿。その光景の記憶だけがアリスに焼き付き、苦しめる。

 

 ゲームをして1秒でも忘れようとしたがそんな事は出来なかった。

 ならばと普段とは違うことをしてみようとした。結果として上手くいかず、より意識してしまうだけだった。

 モモイと浩介の見舞いには……勇気を出せず行けなかった。

 

「アリスちゃん……」

 

 錯乱したアリスを見てユズは恐怖を感じていた。アリスの力ではなく、アリスが壊れていく様が何よりも怖かった。何をすればいいのかわからないまま2日が経った。

 

(先生なら……何か出来るのかな?)

 

 頼みの綱はシャーレの先生しか思い浮かばなかった。ミドリはモモイの件もあって頼るなんてとても出来ない。今すぐに解決する事はないにしてもきっかけがないと何も始まらない。このままではアリスは確実に崩壊する。それだけは避けたいという一心で部室から出て電話をかける。

 

 

「先生、今どこに居ますか?もしよろしければ──」

『ユズかい?実はもう数分でそっちに着くんだ。ミドリからアリスが部室から出てこないって連絡があってさ』

 

 先生はすぐに電話に出てくれた。来て欲しい、助けて欲しい、そう言おうとしたら既にこちらに向かっているという。それもモモイの事で大変なはずのミドリが既に連絡したと知り、ユズは驚く。

 先生が来てくれる。それだけでユズは少しだけ安心した。今回の件で死傷者は出ていない。勿論それだけで許される事はないが完全な手遅れには辛うじてなっていない。時間をかけて何とかするチャンスはまだあるはずだと少しだけ希望が湧いてきた。

 

 

 そう思っていたが現実は非情であった────。

 

 

 

 

 

 コンコン。

 

 

 部室をノックする音が響く。あと数分と言っていた先生がもう着いたのだろうかと期待したユズはドアを開ける。

 

 

 

 ドアを開けた先にいたのは黒いスーツに長い黒髪、全体的に黒を基調とした長身の生徒だった。ミレニアムの生徒であれば知らぬ人は居ない。

 

「リオ、会長……」

 

 まさかの人物が来たことにユズは面食らう。何故いきなり来たのか、それは考えるまでもない。問題は何をしに来たのか。ユズは嫌な予感を感じていた。

 

「入らせてもらうわ」

「は、はい……」

 

 リオは淡々としており、声色も起こっているような感じではない。ただ無機質で怒りとはまた違った圧を出していた。

 ユズは断ることも出来ず、リオの後をついていくだけだった。アリスの元へ向かう1秒1秒がとても長く怖く感じた。嫌な予感など外れて欲しいと願うしかない。

 そして、リオがアリスの元へ着いた時、アリスは来客に気づいて手洗いを中断する。虚な表情でユズとリオを見つめる。

 

「初めまして、天童アリス。私はセミナーの会長の調月リオよ」

「初めまして……」

「……」

 

 覇気のないアリスの言葉にリオは何も感じないわけではなかった。アリスをしっかりと見てきたからこそわかる。今のアリスは何かの拍子に壊れてしまう。

 普通ならば励ましたり、落ち着くための時間を取らせたりなど色んなメンタルケアをするものだが、リオの目的上そんなことはあり得ない。ユズとしてはまだギリギリ手遅れでないという認識だが、リオとしては手遅れという認識だ。もう目を瞑ってあげられない。これからする自分の狂気を実行する覚悟を決めて腹を括る。

 

「アリス、私がここにきた理由がわかるかしら?」

「先日の……モモイと浩介に大怪我をさせた件ですか?」

 

 リオの問いかけにアリスは泣きそうな顔で答える。見るだけで居た堪れない気持ちになる。だが自分が掲げた大義のためにもそんなものは奥底に沈める。あくまで冷徹に振る舞う。

 

「アリスはあの日の事を正確には思い出せません。モモイと浩介が……酷い目にあったのがアリスのせい……それだけはわかり、ます……グスッ。アリスの手はまだ赤くていくら手を洗っても落ちないんです……」

 

 アリスは言葉を紡ぎながら涙を浮かべる。わかる範囲で一つ一つ言葉にしていくうちに罪の意識が彼女の心を支配する。その証拠と言わんばかりにとてもピカピカな掌をリオに見せつける。アリスの心とは裏腹にとっても綺麗な手を見てリオは心が締め付けられる。

 

「そうね。ミレニアムの生徒への傷害およびゲヘナからの使者への攻撃。特に後者の方はゲヘナとの争いの原因にもなりかねない」

 

 あくまでミレニアムの長として冷徹に。それが例え他者から恨みを買われることになろうと構わない。そんな使命感がリオを突き動かす。

 

「単刀直入に言うわ。アリス、あなたの──」

 

 

「リオ」

 

 リオは目的を早々に達成しようとするが、その直前に止められる。最悪の言葉が紡がれる前にリオを止めたのはリオよりも更に身長の高い女性だった。

 

「先生……っ!」

「先生。来てたのね」

「やぁ、リオ。呪霊の講義以来だね。ユズも待たせてごめんね」

 

 シャーレの先生がリオを遮る形で入ってきた。アリスの様子を見にきたらゲーム開発部の部室のドアが開き放しになっていたのを不審に見て入ってきたのだ。

 入ってみればリオがただならぬ雰囲気で話しているので遮るように声をかけたのである。

 

「か、会長……」

 

 一緒に入って来たミドリは会長を見て怯えていた。アリスのやってしまった事がリオの耳に入らないわけが無い。その結果何を告げられるのか、それがひたすら怖いと感じていた。

 

「アリスは私の大切な生徒だよ。君にとってはミレニアムの後輩、違うかな?」

 

 リオに何としてでも言わせまいと先生は牽制も兼ねて声をかける。先生はアリスの正体を知らない。だが、生まれが特別であることは充分に理解していた。浩介のように強い能力を持って生まれた子かもしれない、ぐらいには考えている。

 

「そうであればよかったでしょうね。でも、それは違う。アリスは名もなき神々の王女AL-1S。世界を──」

「違わないです!勝手に脳内の設定を押し付けようとしないで!!わ、私の……お姉ちゃんじゃ無いんだから……」

「今日はよく話を遮られるわね。だけどどれだけ喚こうと変わらないわ」

 

 リオはアリスの前に立ち複雑な表情で見つめる。目の前の少女は自分達と変わらない見た目をしている。大義のためとはいえ、リオも何も思わないわけではない。

 

「アリスは……何者なんですか」

「貴女達にもわかりやすく言えばこうなるかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリス、あなたは世界を滅ぼすために生まれた魔王なのよ」

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」

「アリスが……魔王?」

「勝手なことを言わないでください。会長、あなたは何を企んでいるんですか!?」

「アリスちゃんに何をするつもりですか……?」

 

 リオの言葉に対して、強いショックを受ける者、疑念を抱く者、怒る者、何かを察した者……様々な反応が返される。

 

「企んでなどいないわ。不可解な軍団(Divi:Sion)とあの子が接触したことで何が起こったのか……あなた達も目にしたはずよ」

「まさか……あのロボット?」

「そうよ、C&CとAMASを通じて全部追跡したと思っていたけど監視網を潜り抜ける個体がいたとはね。それに関しては私の完全な不手際。ここに謝罪するわ」

 

 リオは言い終えた後にこの場にいる先生とゲーム開発部に対して頭を下げる。これに面食らったミドリとユズは開いた口が塞がらなかった。

 

 

 

 

「──でも、このままアリスを放置することは出来ない」

 

 だが、リオは決して譲歩などしない。

 ここまで来て先生とゲーム開発部はリオとは衝突するほか無いと判断し構える。

 

 

「リオ会長、ごめんなさい」

「ア、アリスちゃんには手を出させません」

 

 ミドリとユズは銃口をリオに向ける。相手はC&Cのような戦闘が得意な人ではない。状況からして先生も二人に味方する。戦闘が不得手なリオ一人では到底かなわない。

 

「……そうなるでしょうね。出番よ、ネル」

 

 だがそんなことは百も承知。荒事に対応するための戦力はすでに用意している。

 リオに呼ばれて出てきたのはオレンジの髪でスカジャンの下にメイド服を着た女の子だった。この場に浩介がいれば彼女の神秘の強さに驚くだろう。空崎ヒナに匹敵するであろう、そう思うほどの人物。ミレニアムが誇るエージェントC&Cの部長であり、勝利の象徴。コールサイン00、美甘ネルが銃を抜いてゲーム開発部の部室に入る。

 

「……!」

 

 先生は彼女の姿を見て絶望する。一気に戦力が向こうに傾いてしまったのだ。先生は生徒の能力を100%引き出すことは出来ても、その100%で出来ないことを可能にするわけではない。あくまで生徒を信じ、導くことだけなのだ。

 ネルは先生達の前に立ち塞がる。こ起こる起こる戦闘を制し、アリスを回収する。エージェントとしては至極当然な行動。

 

「リオ、一つ聞くぞ。チビを回収して……どうするつもりだ?」

 

 ネルは自分のやるべきことをやる前に命令を下すリオに対して意図を尋ねる。付き合いが長い腐れ縁とも言える彼女から聞きたくない言葉が出ないでほしいと祈りを込めた質問。

 

 

「決まっているわ。爆弾は解体する。安全な場所でね」

「……そうかよ」

 

 

 

 

 

 カチャ……

 

 

 

 

 

「何のつもりかしら?ネル」

 

 ネルの銃口はリオに向けられていた。これが意味することはただ一つ。

 

 

 

「やってられっかよ」

 

 ネルは軽蔑の視線をリオに向ける。先生の前に立ち塞がるのではなく後ろを向いて、背中を見せていた。

 後輩を襲う理不尽から守ろうと彼女は腐れ縁に銃口を向けたのである。

 

 

 

「……わかっていたわ、こうなることは」

「あぁ?」

 

 だがそれすらもリオは想定していた。当然リオにとってもネルとの付き合いは長い。故に彼女がここで裏切る可能性に辿り着いている。それがわかっているなら何も用意しないなど、調月リオにはあり得ない。

 

 

「出番よ、トキ」

 

 リオは自身のとっておきを呼び寄せる。ネルに対するカウンター。彼女に対する勝算はあるのだ。

 

「イエス、マム」

 

 今度はネルとは違い、正統派なメイド服の着こなしをしている金髪の生徒が、リオの作ったロボットを引き連れてゲーム開発部の部室に侵入する。

 服装からしてC&Cだというのはわかる。だが、ネルは驚きの表情を見せる。まるで知らないものに直面したかのように。

 

「誰だてめぇ?」

「初めまして、先輩、それにシャーレの先生。C&C所属コールサン04、飛鳥馬トキです」

 

 ネルも知らないC&Cは飛鳥馬トキと名乗る。ご丁寧にスカートの裾をつまみ膝を軽く曲げて片足を後ろに引く。礼を終えた後にすぐさまリオの用意した装備を装着する。

 

 

 

 

「リオ様の邪魔をするなら私が排除します。ネル先輩、お覚悟を」

「ハッ!言うじゃねえか後輩!誰が誰を排除するって!?」

 

 トキの挑発に対して、ネルは怒りをあらわにしながら銃口をトキに向ける。ここにC&C同士の決闘が幕を開くのであった。




フェスは誰が来るかな?
大方の予想通りアリスでしょうか?
楽しみです

更新時間はいつが良いでしょうか?

  • 22時〜0時ごろ
  • 7時ごろ
  • 19時ごろ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。