自分の構成の悪さが顕著に出てる
ミレニアムにある病院、その屋上でスマホを取り出す。かける相手はキヴォトスに来て何かとお世話になっている黒服。
「黒服、お前の危惧した通りになったな」
『でしょうね。どうするのです?私達は手を貸せませんよ』
「安心しろ。お前の手なんて借りるつもりはない」
黒服と電話して話すことは決まっている。天童さんの事だ。彼女の中にある名もなき神々の王女としての力が目覚めてしまった。鍵は恐らくモモイさんのゲーム機の中にあったのだろう。
あの時破壊が間に合えばこうはならなかったか。躊躇なく天童さんを殺せばよかったのか。
そんな思考が俺の中でぐるぐる廻っている。だが過ぎてしまった時間は巻き戻らない。誰も命は落としていないがこの件に関わった人は少なからず心を痛めている。
「お前の言う通り殺すのが正解なんだろうな」
思わずそう口にしてしまう。虎杖君や乙骨先輩に秘匿死刑を言い渡す呪術総監部と何ら変わらない思考。多くの人を救うために一つの命を消すという非常な判断。倫理的な面を除けば合理的だろう。
『では、どうします?今すぐ始末するのですか?』
黒服は俺の零した言葉の真意を探ろうと問いかける。電話先のこいつは笑っているのだろうか。この質問は正直腹が立つ。
以前この話をした時、こいつは俺の事をいざとなれば選択肢に入れる人間だと言っていた。悔しいがその通りである。俺の手はとっくに汚れている。
それでも俺は……。
「ざけんな」
今更それを選ぼうとは思わない。
「俺は足掻くぞ。限界が来るまで模索する」
『何をです?』
「天童さんが元の生活を送れるようになる方法を、だ」
俺の心は決まっている。例え合理的で安全であろうとその手は最後まで取るつもりはない。
虎杖君は結末まで見届けられなかった。俺の方が先にお別れしてしまった悔しさが今でも渦巻いている。
両面宿儺?名もなき神々の王女?
どっちも俺の友達を苦しめやがって。
『正気ですか?』
「正気だよ。じゃあ聞くけどよ──」
「友達を守るのに必要か?それ?」
黒服に対してより明確に意思を表示するために言葉にする。現実問題、天童さんの意思も殆どなく暴れるようなら断腸の思いで刃を振るうだろう。だがらこそそうならないように足掻きたい。
『ハァ……言っても聞かないようなのでお好きにどうぞ。……言ったからには成功させてください』
「ありがとう」
黒服も折れてくれたようだ。大きなため息をついて俺のやりたい事を見逃してくれた。どうしようもない時は俺が自分で判断を下せるとわかってのことだろうが、最低でも黒服の介入はないだけでもありがたい。
お礼を言った後に通話を切り、辺りを見渡す。快晴で見晴らしもいい。見張りもいないだろう。
「さて、脱走しようかな」
最近は病院を抜け出すことに何の抵抗感も無くなって来た。チナツ達が聞いたらきっと激怒するだろうがそれは終わってから受ければいい。今は天童さん最優先で動こう。
病室に戻り、自分の荷物を確認。焔の残弾数はそこそこ残っている。スマホ、財布、身分証明書等、忘れ物はない。出発の準備は充分だ。
「……待って」
いざ抜け出そうとした時に知り合いの声がした。振り返れば頭にまだ包帯は巻かれてこそいるがいつもの服を着てすぐにでも出れそうになっていた。
「脱走とはいただけないなあ?モモイさん?」
居たのはモモイさん。悪い笑みを浮かべてこっちを見ていた。もう何をしたいのかは丸わかりだ。俺と同じで悪童らしい。
********
ミレニアム某所、ここにシャーレの先生とC&C、ゲーム開発部、ヴェリタス……アリスと縁が深いメンバーが集まっていた。
「あたしは……見ていることしかできなかった」
傷だらけのネルが拳を握りしめながらそう呟く。彼女は怒っていた。ヘイローを破壊するなんて平気で言ったリオに、なにより──
──トキに負けてしまった自分に。
「あの動き……あれはまるで」
「うん。チートプレイヤー……だよね」
あの時のトキの動きは異様だった。ネルの攻撃を避けたかと思えばすぐさま背後を取り、ネルを制圧。残ったユズとミドリは大量のAMASで制圧して、アリス誘拐完了。文字通り何も出来ずに負けたのだ。
「部長……」
「もう!リーダーもアリスちゃんも虐めるなんて酷いよ!会長は!」
「コールサイン04……存在は知っていましたがここまでとは……」
現状、打つ手はない。最大戦力であるネルの無力化、アリスの監禁先など全てが不明。
「先生……私達はどうすればいいのかな……」
何よりも問題なのは喪失感だった。アリスが来てからミレニアムでは色んなことがあった。ゲーム開発部が廃墟で見つけ、ともにミレニアムプライスに向けて頑張り、ともに楽しい学園生活を過ごした。他の部活の面々もアリスのことが大好きだった。
だが今はどうだ。みんなが大好きなアリスは自分達の会長に世界を滅ぼす魔王だと断じられ、ヘイローを破壊されようとしている。
モモイと浩介は重傷を負い、病院で寝たきり。幸せな時間は一気に崩れ去った。重苦しい空気が流れる。
「モモイ〜」
「浩介〜」
「「降臨っ!!」」
なお、その重苦しい空気はおバカ二人にぶち壊される。
「モモイ!?浩介!?怪我は大丈夫なの!?」
現れたのは重傷を負ったはずの二人。先生は心配そうに駆け寄る。特に浩介は死んでもおかしくないほどの大怪我だ。
「怪我?ぐっすり眠れたからもう大丈夫だよ!今の私はポーションを手に入れ、次のステージの推奨レベル以上にレベルを上げられた戦士……!」
「怪我?刀で刺されたぐらいなら治せるよ。失った血も何とかしてある」
二人はそれぞれ心配ないと言わんばかりだ。モモイはヘイロー持ち故の頑丈さによるもののため、皆んなはホッとする。因みに浩介の話は生物としておかしいのでドン引きが勝っている。お前だけなんかおかしいぞ、と皆んなが心の中で呟く。
「お姉ちゃん!!」
ミドリはいつものように快活な姉の姿を見て、それまで抑えていた涙を溢れさせながらモモイに抱きつく。
モモイはぎょっとびっくりしたが、ミドリを抱きしめ返す。何も言わずに妹の体温を感じ、生還した喜びを噛み締める。
「もう〜中々見せてくれない甘えん坊モードになっちゃって」
「お姉ちゃん……アリスちゃんが……」
「アリス?アリスがどうかしたの?」
泣きじゃくるミドリを姉として受け止めながら、彼女の言いたい事をうんうんと頷き、頭を優しく撫でながら聞いていた。内容が深刻なためモモイの顔つきも真剣になっていった。
(なんだかんだ言ってもモモイってお姉ちゃんなんだなあ……)
ミドリの話を聞いている様子を見て他の面々は意外そうにしていた。いつもはトラブルばかりを起こす破天荒な双子の姉が見せる包容力にドキッとしていた。
そして、一通り事情をミドリから聞いたモモイは何か言いたいことがあるのか一回深呼吸してキリッとした目つきになる。
「このお馬鹿さんが!」
モモイは一連の流れをそう吐き捨てる。
「私も何が何だかよくわからないよ。皆んなの話を聞いてると胸がぎゅっとするし言葉はまとまらないけどさ……」
ただ彼女は理屈抜きの思いを吐露し始める。理解できるできないの問題ではない。
「一つだけ確かなことがある」
「確かなこと?」
「私達がこの事態に納得できてないってこと!」
「正直、アリスが魔王だろうがなんだろうが、そんな事はどうでもいいの!私はこのままアリスとお別れなんて嫌だよ」
「アリスの最後の言葉なんて別れの挨拶でもないじゃない!まともなエンディングですらない!最悪だよ!」
「だから私はアリスを連れ戻しにいくよ!みんな、そうじゃないの!?」
モモイの熱のこもったスピーチに口を挟むものは一人としていなかった。あまりにも自分が本当にやりたい事と一致してるモモイの言葉はこの場にいた者の心を溶かす。
((こいつ……いい!!))
特に痺れていたのは浩介とネル。言葉がまとまらない、なんて言ってはいたがちゃんと芯を通している。そして尚且つわかりやすい。熱量も充分。呪術師から見ても、エージェントから見ても今のはハートに響く名演説だ。
「うん、そうだね……」
「助けよう!」
心を溶かされたものはモモイに同調し、アリスを助ける……つまりはリオと対峙する事を選択する。友達を守る、ただそれだけのために。
(虎杖君、君ならきっと違う言い方はしても同じような事を言うんだろうな。そうだよな!バッドエンドなんて──)
(跳ね除けないとな!!)
ケイのトークが楽しみすぎる
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