呪いは廻り、神秘は透き通る   作:ソックス

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トキ戦がだいぶ長くなってきました


92 アビ・エシュフ起動②

「リオ会長の元には行かせません!」

 

 俺たちを追って飛鳥馬さんが突入してきた。もう俺達は天童さんのいるビルに侵入している。当然ながら目的は天童さんの奪還。飛鳥馬トキを倒す事ではない。勝利条件が違うのだ。

 

「こいつでくたばれ」

 

 俺は飛鳥馬さんが入ってきたのを見て爆弾をばら撒く。いつもの導火線激短の呪力込めだ。術式を起動すれば即座に爆破される。爆発と共に俺の呪力が込められた塊が飛鳥馬さんを襲う。

 

「こんなもの!」

「な、なに!?」

 

 だが、飛鳥馬さんは一切速度を緩めず爆弾を潜り抜ける。いくら装備のおかげとは言えこれは飛鳥馬さん自身の判断力も優れていると言わざるを得ない。

 

「おめえの攻撃は単調すぎんだよ。本気でやれ」

 

 ただ、爆弾を避けるために少々無茶な動きをしたのか少しだけ硬直が生まれる。その隙を美甘先輩は見逃さなかった。このタイミングなら……入る!

 

「っと!?」

 

 またもや避けられる。流石にバランスがうまく取れず転倒だけは避ける為か壁に激突する。ガシャンと音を立ててアビ・エシュフと建物の壁がぶつかり、壁は大きく凹んでいた。

 

 マジか、アレも避けれるとは思わなかった。もっと前から予測出来てなければこんな動き出来やしない。呪霊や呪術師なら真っ先に予知の術式を疑うが相手はあくまでパワードスーツだ。

 

『これでわかったでしょう。今のトキに勝つのは不可能よ』

 

 ここで通信が響き渡る。声からして調月会長だ。

 

「なんだあ?全て避け切れるから勝てもしないとでも?」

「大層なモン作りやがって。その能力でやることがコレかよ」

『貴方達の動きは既に解析済みよ。火野浩介、あなたもね』

 

 解析済み、ねえ……。ゲヘナの俺が来て何も調べられないとは思わんが、まさか戦力分析されてそれと戦う事になるとは思わんよ。

 こうなるとアビ・エシュフとやらの能力はデータ収集を元に行動を予測するというものか?戦闘という判断の遅れが命取りになるシチュエーションでここまでやるとなると予測の弾き出しも相当早くないといけない。あくまで操縦者は飛鳥馬さんなのだから彼女の判断という最後のピースがどうしてもいる。

 

『ネル、それと……浩介だっけ?聞こえる?』

 

 突如、聞いた覚えのない人の声が聞こえてきた。先輩とかつかないあたり同級生だろうか。

 

「チヒロか。聞こえてる。インカムに通信してきてなんだ?」

「チヒロさんっていうのね。よろしく。ただ今忙しくて〜」

『取り敢えずあのアビ・エシュフのわかってる概要を伝えるだけの通信だけど……いる?』

「「いる」」

 

 概要だけでもわかるならありがたい。聞きながら戦う価値はある。

 

『エリドゥからあの装備へ通信が絶えず行われている。これだけなら普通かも知れないけれど、今はかなりの電力を消費しながら通信を送ってて、相当大喰らいなシステムを起動させているのは間違いない』

 

 大喰らいなシステム?この場合思いつきそうなのは戦闘補助の類ぐらいだ。どういった戦闘補助なんだろうか。火力や敏捷性の類ではない。あくまで情報を届けているだけなはずだ。

 

「情報……あんな馬鹿みたいな回避はまさかそういうこと?」

『何となく察しがついたみたいだね。恐らくは次に相手が何をするのかを高速演算、そしてトキの装備に結果を届けてトキはその通りに動かす。早過ぎるせいで実質的な未来予知になってるけど』

 

 それアリ?いくらコストが馬鹿みたいに高いとはいえ科学でそこまで出来るのか。仕組みからしてエリドゥの外だと使えない戦法ではあるのだろうが。

 

「うん、やっぱりこのまま天童さんの元へ向かったほうが早いな」

 

 術式を直接当てず、飛鳥馬さんの今後に悪影響を齎さずに事を納めるのはこれで不可能だとわかった。俺の射撃や剣術の腕でアレを倒せるわけもなし。

 というわけで……俺は逃げる!

 

『させるわけないでしょう。トキ』

「あたしを無視出来るとでも思ってんのか?」

「くっ!?」

 

 走り出しを狙って飛鳥馬さんが駆ける。それを美甘先輩が阻む。

 調月会長から見てもこの状況は面倒なはずだ。確かにアビ・エシュフは俺達を戦力的に何とか出来るが、片方が救出に専念されると途端に無理が生じる。

 いくら高速演算が出来ようと結局飛鳥馬さん1人が対処するならば、こちらは向こうに余計なノイズを入れて精神的にも負担を強いた方が強いはずだ。迷いを生じさせれば充分だし、無くても物理的に手が出せなくなればそれでいい。

 

 

『相手してるのがトキとエリドゥだけとは思わないことね』

「は?……ちっ、防火シャッターか。偶々なんだろうが俺へのピンポイントメタじゃねえか!」

 

 調月会長とて黙って見ているわけではない。侵入されているのだから防壁の展開ぐらいやって当たり前だ。

 

「へ、これならどうだ?"焔"」

 

 なら銃弾という実体を持った強力な一撃はどうか。結果として見事貫通させるが一つ問題があった。貫通して出来た穴は確かに銃弾の口径よりも大きく開いているが流石に俺が倒れる大きさではない。

 

「ちっ、もう四発」

 

 仕方なく最初に開けた穴が中心となるように4点に焔を撃ち込む。パンチだと流石に分厚いステンレス製は砕けない。黒閃を出せれば話は別だろうが。虎杖君や七海さん、乙骨先輩じゃないんだ。流石に馬力が足りない。

 

「ハァッ!」

 

 4点の中心を思い切り蹴る。穴からひびが広がり、二度目を浴びせれば人が通るには問題ない大きさになる。

 

『よく突破するわね。でも……それだと時間もコストもかかるのではないかしら?』

「時間、コスト……ねえ……。まさか貴女は殺人を犯すのも効率的に……なんて言わねえよな?」

 

 調月さんは俺が防火シャッターをすぐに突破したのを見て驚いている様子。ちょっと探ってみるか。

 

『貴方は何を言って……』

「AL-1Sだっけ?例のアレが起動させないためにも殺すという手段を取るのはまあ……わかるよ」

『!?あなた……正気でそんなこと言ってるの!?』

 

 ……そうだよな。いくら何でもそこまで堕ちてる訳ではないらしい。まだ調月会長は引き返せる段階だ。

 

「どうした?一部とはいえ賛同したやつがここにいるんだぜ。喜ばないの?」

『馬鹿なこと……言わないで!確かにこの事を他者に理解して欲しいと思った事は……あるわ。でも、今の貴方のようにあっさりといくものではない。そもそも────』

 

 

 

 

『あってはいけないでしょう……』

 

 

 顔こそ見れないがどうなってるか察する事は容易だ。ちゃんと人の子じゃねえか。鉄仮面よりよほど綺麗な化粧だ。

 

 

「それを聞いて安心したよ。今なら引き返せる」

『結局は……あなたは理解を示しつつも友人を守る事を選ぶのね』

 

 移動しながら調月会長に今回の件をやめるように、出来る限りやんわりと告げる。それがまるで意味をなさない事はわかっている。大事なのは調月会長を揺さぶる事だ。その動揺が飛鳥馬さんを焦らせることを願って。

 

「それに……あなたは天童アリスという少女をよくわかってる」

 

 一度看破した防火シャッターの破り方をもう一度実行しながら更に言葉をかける。心苦しいが彼女の決意にはここでヒビを入れさせてもらう。

 

「聞いたところによれば廃墟でゲーム開発部が見つけて保護したのが天童さんらしいな?なんですぐに殺さなかった?合理的にいくなら他のミレニアム生と交流が深まる前に捕まえて秘匿死刑するべきじゃないか?」

『それは……下手な刺激をして目覚める危険を無くすためよ。まだエリドゥだって完全ではなかった。その状態で事を起こせばなす術もなくやられるのはこちらよ。……っ』

 

 俺の問いに動揺しつつも最もらしい反論を返してきた。嘘ではないのだろうが言い切った後にも動揺が見られる。

 

「ならその間は観察してたんだろ?その過程で嫌でも理解したはずだ。天童アリスという人となりをさ」

 

 

「聞いたぜ、天童さんを連れ出す時にわかりやすく伝える為に"魔王"なんて言葉を選んだんだって?これは最低限は理解してないと出来ない」

 

 

「さっきの理解を得てもらうのくだりにしても俺みたいにあっさりといっていいものではないなんて言ったよな?トロッコの進路を変えることで1人の少女を見捨ててしまうという事実をわかってるわけだ」

 

 

『あなたはさっきから……何が言いたいの。どう話が着陸するかまるで見当もつかない……』

 

 そろそろ話を締める時だろうか。これは虎杖君ですら危ういデリケートな内容だ。願わくはこれで止まって欲しいものだ。

 

「天童さんを殺すのは当然良くない。それに……一度殺人を経験してしまうとあることが起こっちまうんだよ」

『何かしら?』

「今後の人生の中で"殺人"って選択肢が入ってしまう事だ」

 

 呪術師として生きる以上、あり得てしまうこと。強い呪詛師の捕縛が出来ず仕方なく、呪いにより手遅れになった者を被害の拡大を防ぐために手を下すことなど。日常生活で出るまで深刻化する事はなくてもこれらを相手した時にどうしても選択肢として上がってしまう。

 

「俺は調月会長にそうなって欲しくないよ。そんな汚れは被ってはいけない」

 

 揺さぶりも本音も込めて言わせてもらう。これで止まってくれ。

 

『なら私はその選択肢を行使しようがないように汚れで自分を動けなくするわ』

「……」

 

 そうかよ。随分自罰的なこって。なんか余計決意固まってしまった感じか?

 

 

 ドカァン!!

 

 

 ある程度、調月会長との会話を終えた後に爆発音が響く。犯人は言うまでもなくC&Cの2人。

 

 

「ハァ……ハァ……ちっ!こりゃあ本格的に攻略法を掴まないとな……」

「ここまで抗えるなんて……流石はネル先輩。ですが、ここまでです。リオ会長……許可を」

『ええ、そうね。許可するわ。思う存分奮いなさい』

 

 許可?なんのだ?まだ奥の手があるっていうのか?勘弁してくれ……。

 

 飛鳥馬さんの方を見れば何やら砲塔のような者を展開して何かをチャージしている。許可って超火力の主砲のことかよ。

 見た感じシャッターを破壊して階段を登るほどの時間的余裕はない。避けるしかないのだが問題がある。主砲の威力次第で爆風などから逃げようがない事だ。

 

「だったらよお……」

 

 撃たせないことが大事なのだが、何を思ったのか美甘先輩は飛鳥馬さんに近づく。よくあの状態に近づけるな。

 

 何をするのか気になって見ていたら、射撃しながら近づき飛鳥馬さんのチャージを一時中断させる。矢継ぎ早に攻撃してチャージさせないつもりだろうか。あの回避システムがある以上あまり意味があるとは思えないが。

 

 ジャララ……。

 

 どうやら狙いは違うらしい。鎖が飛鳥馬さんの腕にくくりつけられていた。

 

「へへ……後輩。バンジーは好きか?」

「!!」

「なるほどそういうことかよ!なら……ダメ押しだ!」

 

 美甘先輩は飛鳥馬さんを引き摺り、窓へ向かう。あくまで美甘先輩は飛鳥馬さんを引き受けて俺には救出に専念してもらいたいらしい。チャージの隙を見て鎖をつけられたのは僥倖。

 飛鳥馬さんが鎖を破壊する前に俺は後ろに回り込んでローキックで転ばせる。

 

 もうこうなれば飛鳥馬さんは抵抗できない。パリンと音を立てて窓から2人は飛び降りる。

 

「まさか壁を走りながらあたしの攻撃を防げたりしないよな?試してやるよ!!」

 

 飛鳥馬さんは装備の重さもあって早く落下している。既に鎖は解かれ2人の戦いはビルの壁へと舞台を移す。2人は先に仕留めんと攻撃していた。

 

「流石にアビ・エシュフといえどあの状況で一級相当の攻撃を凌ぎきるなんてことは……こ、と……は……」

 

 流石に地に足つかない状況であんな重い装備が上手く扱える訳ないと踏んでいたのだが、思わぬ光景を目にしてしまう。

 

「マジか!?くそっ!本当にチートじゃねえか!」

 

 なんと落下しながらでも美甘先輩の攻撃を最小限の被害で抑えてしまっているのだ。美甘先輩の攻撃はほぼクリーンヒットしていない。僅かに装甲にダメージを与えたのはわかったが、それも上から見ているからこそわかったようなもの。殆ど気づけない些細なものだ。あれでは……。

 

「これで……終わりです!」

 

 そして無慈悲にもチャージは完了する。砲塔は美甘先輩を捉えた。美甘先輩の俊敏な動きも今の状況では活かしようもない。

 

 

 

 

 

 

 

「発射!!」

 

 

 

 

 トドメと言わんばかりに無慈悲なビームが美甘先輩を飲み込むのはそれから少ししてからであった──。




原作だと主砲を喰らうのは落下時にではなくその後になります
これだと殺意高過ぎるな……

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