いい加減呪霊と生徒を会わせたい
「美甘先輩っ!!」
あんな高所であれだけの攻撃を喰らったとなれば無事ではいない。そう思った俺は気がつけば飛んで美甘先輩の元へ向かっていた。
「美甘先輩!ご無事ですか!?」
「んっ、ぐっ……」
声をかけてみれば美甘先輩は苦しそうに悶えていた。校舎からの落下、主砲の直撃のダブルパンチであってもヘイローの灯は消えなかった。末恐ろしい人である。
「次はあなたです。火野浩介」
飛鳥馬さんがこちらに銃口を向けていた。絶対絶命、そういうしかない。
「モモイ!今!!」
「うん!てやっ!!」
そんな状況になっても救いの手は意外と差し伸べられるらしい。先生の指示に従ってモモイさんが何かを投げ込んでいた。
これは……閃光弾か!
「くっ!ここに来て……!」
モロに光を喰らった飛鳥馬さんは身動きが取れなくなる。俺も遅れて喰らったので攻撃は流石に出来ないがある程度道は見える。美甘先輩の怪我も考えるとここは……。
「浩介君!」
「逃げるよ!」
暗視スコープを装着した花岡さんとミドリさんが俺達を迎えに来てくれた。これなら少しは安心して撤退できる。まずは美甘先輩を治療しなくてはならない。
二人に連れられながら飛鳥馬さんから逃げるように離れる。だいぶこちらの戦力は消耗している。このまま戦っても勝ち目はないだろう。
「こっちだよ!」
「部長!浩介さん!ご無事ですか!?」
走っていけばモモイさんが手を振りながら待っていた。俺達が戦っている間に仮拠点を作ってくれたらしい。抜け目のない先生だ。
*****
合流したところには先生とボロボロなC&Cのメンバーもおり、絆創膏や包帯など何かしらの治療の跡が見られた。先生がやったのだろう。
「結果としてまともに戦えるのは俺だけか?」
振り返ってみれば残っているのはゲーム開発部と俺だけ。エンジニア部はリタイア、C&Cは戦うこと自体は無理ではなさそうだが見るからに勝ち目はない。
『そうだね……、ミレニアムでない生徒にお願いするのは申し訳ないんだけどここは浩介に全てを託して戦ってもらうしかないだろうね』
各務さんの通信は本当に悔しそうだった。俺は今回の件あくまで被害者側とも言える。俺が出しゃばるからこうなっているだけで本来ならミレニアムで解決すべき案件である。
「うっ……何勝手にあたしをのけてやがる……」
俺が戦う流れになったところでそれを遮るかのように美甘先輩が立ち上がる。立ち上がった瞬間、ふらっとなって倒れそうになるが根性で耐えてみせた。
「ネル先輩……」
「む、無茶です!」
「はぁ……チビども。あたしを誰だと思ってやがる」
「あなたの強さはよくわかる。うちの空崎委員長にも匹敵する強者なのは間違いない。だけどその怪我じゃ……」
「関係ねえよ。今ここにいるのはあいつに……アリスに消えて欲しくないやつらの集まりだ。それにあたしは……先輩なんでな。
後輩にはかっこいいとこ見せねえとな」
美甘先輩はそう言って武器の状態のチェックに入る。この人はやる気だ。それに……ちょっと五条先生が言いそうなことまで言われるとつい懐かしくなる。
ミレニアムの人は俺達が五条先生を最強と信じたように、この人を信じてきたのだろう。
「……治療します。飛鳥馬さんにガツンとかましてやってください。あの人も後輩なんでしょ?」
「おっ、サンキュー」
なら俺の出来ることは美甘先輩をなるべくベストな状態に持っていくことだ。反転術式のアウトプットはどれだけやっても本人の半分の効率。治すべき場所を絞る。
「ネル、本当にいけるの?」
先生は美甘先輩を本当に心配していた。いくら俺の反転術式で最悪は避けられると言っても無謀な戦いに挑ませるようなものだ。
俺が戦うか美甘先輩が戦うかのどちらかでいくしかない。出来れば変えたいのだろう。
「いけるかどうかじゃねえ。やるんだよ。……つっても正直、このまま無策で行っても勝てやしねえ。なんか策があればいいんだがな」
美甘先輩は意気込みを見せるが、流石に無策は厳しいと吐露する。それもそのはずだ。まさかあんな重装備を背負って落下しながら美甘先輩を撃退するとは思わなかった。つけた傷も上から見れたが戦果で見れば飛鳥馬さんが圧勝していた。
「傷は確かにつけられたんだが流石にな……。何かないものか」
マジでどうするんだ?普通に一級術師の上位レベルだ。生半可な手だと勝てやしない。
「攻撃が当たってたのか!?」
「浩介さんは上から見てたから……?」
『そこ詳しく。もしかしたら勝ちの目が見えるかもしれない』
ただミレニアム生は僅かな違和感にも食いついた。頭の柔らかさが違えな。
「わ、私も見えた。本当に刹那の瞬間でしたけど確かにネル先輩の攻撃が当たってた」
「あの一瞬で見えたの!?ユズ!?」
おっとお?何で下から見えるの?それもあの一瞬で?下手すると動体視力では虎杖君を超えてるぞ、それ。
「違いとして大きいのは落下しながらの空中戦だったことだ。それ以外は基本地に足つけた状態だ」
「うん、落下速度を緩める為に装備を度々ビルに引っ掛けながら戦ってた。ネル先輩の攻撃に対応しきれてなかった……のかな?うぅ……自信がない」
そこまで見れたのか。俺は視点が良くて何とかだって言うのにな。才能の差を感じるよ。
『もしもなんだけどさ、あの武装の弱点って──』
これまでの話を聞いて各務さんは何かに気付いたのか推論を話し出す。こうやってすぐ粗方の回答を用意できるのは流石だ。
「な、ならこういうのはどうでしょうか?」
各務さんの推論を元に花岡さんは即席で策を立てる。確かに各務さんの推論通りならこれで倒せる目はある。ただ、かなり無茶苦茶だ。
「あはは!かなり無茶苦茶だね!」
「うぅ……この話は無かったことに……」
花岡さんもそれはわかっているのか指摘されてしょんぼりしていた。
「いや、それでいく。こいつのそういう勘は侮れないし何より時間もねえ。いいよな?先生?」
「うん、そうだね。ユズの作戦に賭けよう。そこに持っていくまでの指揮は私が取るよ」
ただ美甘先輩と先生は乗り気だった。2人とも花岡さんを見てニッコリ笑っていた。先生は花岡さんの頭を撫でながら、美甘先輩は信頼の眼差しを向けながら、である。
無茶苦茶であっても僅かな希望を捻り出せたのだから充分とも言える。俺から見れば花岡さんも良くやってくれた方だ。
「おめーら、もうひと踏ん張りだ。気張っていけ!」
「「「了解!」」」
そんな僅かな希望をもとに練られた作戦はC&Cに共有される。美甘先輩の号令に応え、戦場へと戻るのであった。
***
「やはりあなたが来ましたか。火野浩介」
「お宅の波動砲で美甘先輩はグロッキーだってさ」
『そう。このままやっても無駄だと思うけど……続けるのね』
「調月会長、呪術師はしつこいんだよ」
戦場に戻れば未だアビ・エシュフを装備したままの飛鳥馬さんがそこにはいた。口ぶりからして俺以外は特に警戒はしていない模様。ま、あんだけボロボロにしたらそりゃそう思うよな。
「本当は無視したいんだけどここまで散々やられたからさ……、まずはてめえを潰す」
まずは作戦を進めよう。なるべく俺に長い時間ヘイトを向けてもらう。本命は俺ではなく美甘先輩だ。
「はあっ!」
まずは炎で誘導する。当てる気がないと思われても面倒だからまずは軽く炙らせてもらう。
「つぅ……!本当にやる気ですか。それなら!」
少しだけ火が当たった。爆発でも全然耐えてるからこの程度で戦えなくなるわけではない。それでも呪いの火は爆炎とは訳が違う。使い方次第で邪気払いにもなるが、人に恐怖を焼き付けることもできる。
「そらそら!」
炎の弾を次々と投げつける。先程とは打って変わった呪術師の戦い。飛鳥馬さんはちゃんと装備の予測結果を元に避け続けている。今はそれでいい。
「行ったぞ!!」
ある程度離れたのを確認したら大声で合図する。ここからは先輩の意地を飛鳥馬さんに見せつけてやれ。
「あはは!トキちゃん!あーそぼ!」
「アスナ先輩!?まだ……このっ!」
「あはっ!危ないあぶなーい!」
俺の合図に合わせて飛び出たのは一之瀬さん。すばしっこく動き回り、飛鳥馬さんを翻弄する。時折攻撃するが飛鳥馬さんはしっかりと避けている。代わりに飛鳥馬さんの攻撃はまるで当たらないが。
「ぐっ!今度は視覚外から……カリン先輩まで」
一之瀬さんが飛び回る合間を縫うように角楯さんが狙撃する。そうなると装備の出す予測は当然……。
「距離を……!」
まずは逃げの一手だよな。それはこっちにとっては想定通り。次の攻撃はもう始まっている。
「室笠さん!」
「ええ、任されました」
最後は室笠さんの爆弾で指定ポイントまで押し込む。これで倒すのはリソースや向こうの慣れなんかで流石に無理だが、追い込みや誘い込みには充分。
「まだです!主砲で全て吹き飛ばす!」
『トキ!やりなさい!』
一発逆転の手段として先程美甘先輩を倒した主砲を展開する。態勢を崩した訳でもないのに大技とは余程焦ってると見える。
「発射っ!!」
飛鳥馬さんは狙いを角楯さん意外に定めて主砲を発射する。青白い極太ビームが俺達を襲う。
呪術師でもここまで強力な攻撃はそうそう出せやしない。確かに脅威だが、これで二度目だ。
「残念」
「よ、避けられ──ぐふっ!?」
二度目となれば避けるのは簡単だ。来るとわかれば当たりはしない。当たらなければどうということはない。あ、五条先生みたいな避けるのすら難しいのは別な。
「先輩からありがた〜いご指導があるってよ。喜んで飛んでけ」
拳を振り切り、飛鳥馬さんを目的の場所──貨物エレベーターの中へ吹き飛ばす。
貨物エレベーターは飛鳥馬さんを吹き飛ばすと同時に開き、美甘先輩がニヤニヤと笑いながら待っていた。うわ、悪い顔してるなあ。
『まさか……装備の弱点をこんな方法で!?』
『エレベーターハッキング完了!いくよ!』
ここで調月会長は狙いに気付いたみたいだがもう遅い。後は自力の勝負だ。エレベーターは無情にも恐ろしい速度で上昇を始める。
装備の弱点、演算と回避を同時に出来ないというもの(推定)。
この通りなら落下時は墜落に演算処理を使っていたから美甘先輩の攻撃への対処が甘くなったということになる。花岡さんも飛鳥馬さんが落下の対策をしているのを見ていたことから可能性は高い。
ビルは高く見積もって20階以上あるように見える。それがあり得ない速度で上昇すれば負荷は恐ろしいものになる。今頃、狙い通りなら自力で美甘先輩と戦っているはずだ。
不安要素としては治療が完全ではないこと。その点、飛鳥馬さんはまだ余力がある。普通に考えれば時既に遅しだ。
だが……。
「……」
後は天に祈るだけとなった俺は先生と一緒に端末から戦いを見させてもらう。そこには信じられない光景が広がっていた。
「これが……ミレニアムの勝利の象徴、コールサインダブルオーか!」
エレベーターが上がりきる頃には飛鳥馬さんを倒し、外へと蹴飛ばす美甘先輩の姿がそこにはあった。
『ケッ、大したことねえな』
装備を無力化した途端、圧倒的な力で捩じ伏せる。間違いなく怪物と言える存在がそこに立っていた。反転術式も無しにそこまで動けるのは何でだよ。
「さて、調月会長。これで飛鳥馬さんは無力化されたけどまだやる?」
『……降参よ。中央のタワーに私もアリスもいるわ。好きに──ザザー……ザー…………んで…………にげ……ザザー……』
こうなると調月会長側に残ってる戦力はない。確認も兼ねて聞いてみればあっさりと降参してくれた。流石に『私がトキより弱いと思って?』なんてバラン理論まで言わないらしい。
ただ気になるのは会話の後半は突如として入ったノイズに遮られてしまったことだ。何かが起こったのか?
「ん?通信が悪いな。一体どうしたって……」
気になって周りを見渡してみれば最悪の事態が起こってしまったと気付いた。
数多のモニターには"Divi:Sion"と表記されたピンク色の画面が映し出されていたのだ。これが意味するのはただ一つ。
「クソッタレ!」
──タイムリミットは過ぎてしまった。
ようやくあの子を出せる……
更新時間はいつが良いでしょうか?
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