これで月面着陸3つ目となったのでこの調子で他のルナもクリアしていきたいなあ
「……」
俺は今、Divi:Sionと表示されたモニターを見て苦虫を噛み潰したかのような顔をしているだろう。これが出たということは天童さんを助けるのに間に合わなかったことを意味する。
「浩介!これは何かわかる!?」
先生はただならぬ雰囲気を感じて俺に尋ねてきた。まあ、俺は黒服から聞いてるから先生よりかは確かに知ってはいる。
そもそも黒服が全容を把握できているのかは不明だというのは内緒。あいつそれっぽいこと言って外しそうだもん。
「言うなれば魔王誕生……バッドエンド直前だ」
「そんな……」
「アリスちゃん……!」
ゲーム開発部の面々がいるのもあって彼女達にわかりやすい表現として魔王、バッドエンドという言葉を使う。散々非難した調月会長と同じことしてるのは嫌なもんだ。
花岡さんとミドリさんは今にも泣き出しそうな顔をしている。いよいよ戻らないかもしれないと分かればそうもなる。だが1人だけ違う顔をしている人がいた。
「私は行くよ。先生や浩介が止めても絶対に行くからね!」
「モモイ!」
「お姉ちゃん……」
モモイさんだ。腕は震えている。どれほどの脅威なのかは彼女もわかっているらしい。それでも天童さんがいる方向へずっと視線を向ける。意地でもその視線を外すつもりはないらしい。
そうだ、まだ諦めるのは早い。まだ天童さんを見てすらいないじゃないか。
モモイさんの一言にハッとしたのか花岡さんとミドリさんは不安こそぬぐいきれてないが前向きな表情になった。
「先ほどの調月会長の降参通信はおかしくなってた。この状況だと彼女の身に危険が迫ったことは想像に難くない」
取り敢えず勇気を入れる動機をここで一つ。
「俺達は調月会長を救出に行く。天童さんの手は汚させない。友達だからな。ついてくるか?」
「「「勿論!」」」
ゲーム開発部の皆んなは俺の提案に乗ってくれた。一応さっきまで敵対してたというのに助けに行くのに忌避感はないらしい。天童さんの手を汚させない、が効いたのか彼女達の善性か。どっちであっても今の俺には心強い。
「なら、私も行くよ。いいよね?」
「先生は言わなくても強制連行だよ。頼むぜ」
先生も加わり、俺達はタワーへ向かう。今度は選択を間違えない。そう各々の心に誓って。
*****
「何としてでもここで……!」
「私を道連れにする、ですか?残念ですがそれは無理な話です」
エリドゥ中央タワー内部、ここには膝をついて今にも倒れそうな調月リオとリオを見下ろす黒髪の少女がいた。
「もうここの掌握は始まっています。あなたにこれを止める方法はない。寧ろこれだけのリソースがあれば私にとって最高の環境と言えます」
鍵はリオに対して諦めろと言わんばかりに言葉を紡ぐ。鍵からしてもリオのやることなどどうでもいい。もうここにいても何もできやしない。味方もおらず孤立しているリオに何かが出来るとは思えない。
敵対勢力になり得る存在もリオ達との戦いで消耗している。ここからひっくり返ることなどそうそうない。
ゾワリ……。
「これは……来ましたか」
鍵は背筋に何か悍ましいものを感じ、後ろに振り返る。靴音が段々と大きくなってきており、誰かが近づいてきているのがわかる。そして近づかれる度にその悍ましい何かはより大きくなっていく。
「……あらら。すっかり目覚めちゃって。世界を滅亡させるつもりか?」
悍ましい何か、もとい呪力を持った少年……火野浩介は鍵を睨む。あまり激しく呪力を消耗させずにここまで来たお陰かじっくり練り上げた状態で鍵と対峙する。
「アリス!迎えに来たよ!」
「お姉ちゃん、あれは……」
「う、うん……。今そこにいるのはアリスちゃんじゃない……よね?」
続いて出てきたのはゲーム開発部。全員、今目の前にいるアリスはアリスでないことは理解している。
「浩介、わかってるとは思うけど……」
「わかってる。ただ……仕留めるわけじゃない……というか出来ないだろうな。力が強過ぎる」
先生はシッテムの箱を取り出して浩介の指揮に回る準備はいつでも出来る状態にしていた。浩介も右手は常に刀の近くに添えており、臨戦状態だ。
「もう遅いですよ。既にプロトコルATLAHASISは起動準備に入りました。誰にも止められませんよ」
一方で鍵の方はフフンと言いそうな表情で勝利宣言。戦う姿勢すら見せない。鍵から見れば全てが自分にとって都合がいい状況だ。
「このエリドゥで王女と私をまるごと消そうとしたようですが、それが出来るだけの潤沢なリソースが仇となりましたね。これなら私の役割は十分果たせる」
「ならお前を気絶させたらどうなる?そのまま動くのか?」
「試してみたらどうです?まあ……試すこともできないでしょうが」
「……」
「フン……」
睨み合う鍵と浩介。一触即発の状況に全員が背筋をヒヤリとさせる。
「ダメよ……逃げて……!」
リオは浩介と鍵が睨み合う間に何とか先生達の元へ逃げ出しており、掠れそうな声で必死に訴える。勝てるわけがないとわかっているが故に。
「リソース確保99%……」
「ちぃっ!」
もう既に限界を迎えているとわかった浩介は破れかぶれに刀を振るう。虚しくも空を切り、避けられてしまう。このまま時間一杯まで戦わず避けているだけで鍵の勝利は確定する。
リオは自身の端末を操作し、残っているAMASを招集する。慣れない手つきで拳銃も取り出し、今の彼女が出来る最大火力を展開する。それはあまりにも心許なく健気だった。
「誰かがトロッコのレバーを引かなくちゃいけないの。そしてそれは私の役割……彼にそれを背負わせるわけにはいかないわ」
リオの取れる手はたった一つ。玉砕覚悟の特攻。鍵を倒すのではなくシステムを止めるために。トロッコのレバーを引くために自身の命を焚べる。
だが、リオの身体は震えている。それは怪我によるものではない。
(怖い……でも……)
酒を知る事もない年齢の少女にのしかかる恐怖。それでも、と自身の心に鞭を打ち、重い足取りを無理矢理動かす。
ポンッ……。
そんな少女の肩に軽い力で手が置かれる。そんな場合ではないというのにリオは思わず振り返ってしまう。
「ダメだよ、リオ」
振り返った先にはシャーレの先生が悲しそうな表情で待ったをかけていた。生徒が追い込まれて黙っているような人ではない。例え先程まで敵対していたリオであろうと彼女にとっては生徒の1人なのだ。
「犠牲の少なくなるようにトロッコのレバーを自分で引く。例えそれで恨まれようと、自身の命が危機に晒されようと……皆んなのために率先してレバーを引きに行く。それは確かに君の優しさなんだろう。でもね──」
「──私は誰も犠牲にならないように"全員で"力を合わせて全てを救う選択肢を見つけたい。当然アリスに……リオ、君もね」
先生の望みはただ一つ。アリスもリオもまとめて救いたい。ただそれだけである。
「トロッコ問題の前提から否定されたら問題にならないわ、先生」
「それはそうだね。それと……なるべく自分1人で背負おうとしているけど問題を解くのは何も1人である必要はないんだよ」
「……周りを頼れ、と?」
「うん、その通り。リオは1人じゃないでしょ?」
「……いいえ、私にそんな人達は……いないわ」
先生との会話の後、リオはつい先日の事を思い出す。それは明星ヒマリとしたアリスに対するすり合わせのこと。自分はアリスを脅威の対象と言ったのに対してヒマリは可愛い後輩だと言ったあの日のことだ。
その時はヒマリを自身の目的の障害と見做して幽閉してしまった。あの時のヒマリの顔は今でもリオの脳裏に刻まれている。失望と怒りに滲んだあのヒマリの顔を忘れたことはない。
落ち込むリオの顔を見て先生は申し訳ない顔をしながら、そっとハンカチを差し出す。
「そんな事はないよ、リオ。だって君はミレニアムが誇るビッグシスターなんだから」
「先生……」
先生の言葉を聞いてリオは手元から拳銃を落とす。拳銃が落ちる音が響くと同時に彼女は自身の中から何かが溢れるのを感じ取る。
そして、それと同時に……。
『ノア!今よ!電源という電源を落としちゃって!!』
「はーい、ユウカちゃん。その言葉を待ってました♪……えいっ!」
突如として通信越しにリオがよく知る声が聞こえてきた。そして通信越しに爆発のような音が鳴り響く。
「ユウカ……? ノア……?」
『会長!ご無事ですか!?』
『状況からしてこの手は正解……みたいですね。ふふっ、完璧〜♪……ってね』
『ちょっ、ノア!?』
リオにとっては自身の後を任せられると思い、信頼を寄せる2人は何も言わずにリオを窮地から救う。漫才のようなやり取りこそしているが、リオが無事な様子を見て2人はホッと胸を撫でおろす。
「少なくとも頼れる後輩は2人いるみたいだけど?」
「……だからこそ巻き込みたくなかったわ」
先生はセミナーの微笑ましいやり取りを見た後、リオに声をかける。リオは少しばつが悪そうにしながら、巻き込みたくなかったと口にする。
『先生、私達に出来るのはどうやらここまでのようでして……』
『すみません。あっ、そうだ!……ユウカちゃん、リオ会長に言うことがあるんじゃないですか?』
だが微笑ましいやり取りもここまで。電源を物理的に落として止めたは良いものの最悪を先送りにしただけである。今のユウカとノアに出来ることは先生達が無事に戻ってこられることを祈るのみであった。
最後に伝えたいことがあるよね、とノアはユウカに話を振る。この時、ノアの顔が少し悪戯な笑みを浮かべているのに誰も気づくことはなかった。
『えっ!?いやまああるけど……じゃあお言葉に甘えて』
『会長!横領した金でこんな大都市を建てたことについては後でじ〜〜〜っくりお聞きましますからね。 それとついでに先生も領収書の事でお話がありますので悪しからず』
「「ハイ……」」
先生がリオに渡したハンカチは爆速で無用の長物へと成り果てる。ついでに先生まで刺される始末。2人はユウカの事で仲良くなれそうである。
「くそ!まさかあんな邪魔者がいるなんて……ちぃっ!」
「なんじゃありゃあ!?……って待てやゴラァ!!」
一方で電源を絶たれリソース確保に失敗した鍵は別手段でリソース確保を心見ようとするが、邪魔者が現れそれにも失敗する。映像を出してみれば戦車のキャタピラのようなもので移動する千手観音みたいなものがお出しされる。
正体は先生を苦しめたアヴァンギャルド君なるものなのだが、浩介はこれが初めての確認となるためあまりのビジュアルに絶句する。強いせいで余計に混乱するオマケつきだ。
浩介がびっくりしている隙に鍵は部屋から脱出する。浩介は慌ててそれを追跡する。慌ただしく2人の戦いは別の場所へと移された。
そしてそれと入れ替わるように車椅子になった少女が入ってくる。
「ミレニアムに咲き誇る高嶺の花もとい天才病弱美少女ハッカー、明星ヒマリです」
「ヒマリ……あなた逃げたんじゃ……?」
「あら、逃げるだなんて寂しい事を。この先の状況についてはある程度見当はついていましたから。待機してました」
現れたのは明星ヒマリ。ミレニアムで全知の学位を持つリオと並ぶ天才。鍵と浩介が高速で自分の目の前を通り過ぎていった時は心臓が止まりそうになる程びっくりしたのは内緒である。
「先生のお言葉もあったのですから少しは私の言いたいことがわかったんじゃないですか?」
「元からわかっているつもりだったけど……今は少し違う」
「ほうほう?その答えが気になりますが……後にしましょうか♪」
リオとヒマリのやり取りは互いに対等だと見做してる故か、先程の後輩達とはまた違うものだった。なんというか軽い。べったりとした友達とはまた違う距離の近さを先生は感じ取った。
先生はリオの顔が少し緩んだのを見てうんうんと頷き、嬉しそうにしていた。この2人をシャーレの当番に揃えて呼んでみたいものだと心の中で思い描くほどに。
「先程の少女が無名の司祭が残したオーパーツを起動させるトリガーAI"KEY"ですね。このまま時間をかけてしまうとアリスの人格は"KEY"に置き換えられてしまうでしょう……」
ただ状況は依然最悪のまま。理由はヒマリが言った通り、アリスの人格置換というタイムリミット。これが果たされると今度こそアリスを消さねばならなくなる。
「ヒマリ先輩それって!」
「どうすればいいんでしょう……?」
「肝心のアリスは浩介と一緒にどこか行っちゃった。おまけに外の映像だとあの時の手下のロボットまで居ますし追いかけようにも……」
問題は山積みだ。まずは純粋に戦力が足りない。C&Cはボロボロ、ゲーム開発部とアヴァンギャルド君(エンジニア部)はロボットを相手取るだけで精一杯。アリスを捕まえる余裕はない。ヒマリと一緒にきたまだ浩介と出会ってない生徒もいるが1人入っても状況は大きく変わらない。
「アリスについては彼に任せるしかないでしょう。私達は彼の仕事後の準備をしましょう」
「リオ先輩!アリスを連れ戻す方法があるの!?」
「ええ勿論。──リオ、ダイブ設備くらいはありますよね?」
「正気?かなり危険よ」
「ええ、ですが今の戦力で素直に戦っても勝ち目はないでしょう。何より全てを救うとなれば──」
やるしかないでしょう、という言葉は発せられることはなかったが全員は言われずとも察する。
「仕方ないわね。2人ほどこちらに来て頂戴。私の指示通りに機器を動かしてもらうわ」
「なら残る1人は私の車椅子を押して私の移動の補助をお願いします」
リオはあまり乗り気ではないが、渋々準備に取り掛かる。ゲーム開発部の面々も黙って見るだけではなく、1人がヒマリの車椅子を押して運び、2人はリオの指示に従って動き出す。
「なら先生は指揮に入らせてもらうね。準備は任せたよ」
やる事を決めた生徒を見て、先生は己に出来る事つまりは戦闘の指揮のためにシッテムの箱を起動させる。まずは一番肝心なアリスの近くにいるであろう浩介に通信を繋ぐ。
「浩介。そっちはどうなってる?」
『先生か?こっちは……あんまりよくねえな。レールガン回収されて広い屋内に入ったよ』
「浩介、無茶を承知で頼むけどアリスを拘束してこっちに連れて来て欲しいんだ。可能性が見えて来たんだけど肝心のアリスがいないと何も出来ないんだ」
『……そうか。何とか頑張ってみるよ。
領域展開……
……じゃあ切るぞ』
浩介と通信が繋がり情報共有を済ませる。希望が見えて来た。後は浩介が何とかアリスを連れ戻せれば希望の一手を打てる。だからこそ無茶を承知で先生は浩介に懇願する。今最も可能性があるのは彼だけなのだから。
通信が切れた後、まずはロボット達を相手にしている戦力から何とか空きを作って浩介の増援に送ろうと策を練り始める。領域展開した浩介ならしばらくは持ち堪えられるはずだと信じてのことである。
「ん?領域展開?……え!?」
先生は浩介の行動を振り返って慌てることとなるのであった。
トキ戦に時間をかけすぎだれすぎですね……
もっとすっぱり書きたいものです
更新時間はいつが良いでしょうか?
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